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5話「誘い」

 アリスが家にやって来て一ヶ月が経った。

 アリスは我が家に馴染んできているように感じる。

 あれからアリスとの修行の傍ら、俺なりに腕輪のことについて調べてみた。アリスにお願いして実験をさせてもらった。

 確認したかったのは二つ。

 俺が腕輪を外すとどうなるのかということと、腕輪とアリスの距離が離れるとどうなるかだ。

 一つ目のほうの実験は、俺が腕輪を外してもすぐには消えず、一時間ほどすると体が薄れていって人魂の状態になるという結果になった。

 また、二つ目のほうの実験は、俺からアリスが一キロ以上離れるとこれまた消えて人魂に戻るという結果になった。

 さらに、ここで浮かんだ疑問についても実験を行った。

 俺以外の人物が腕輪を付けるとどうなるかということだ。

 試しにニーナに付けてもらうと、一時間後にアリスは人魂に戻った。

 これらのことから腕輪の力には制限が掛かっていることが分かった。


 肝心の修行の方はというと、体力と精神力はついたが、剣技はあまり上達しなかった。

 全然上達しなかったわけではないのだが、凡人レベルに到達したあとは伸びなかった。

 修行の途中から参加してきたニーナに、一週間で追い越された。

 ニーナに打ち負かされた夜のことは覚えている。ベッドの中で泣きながら息子を慰めていたからだ。


 閑話休題


 腕輪のことがある程度分かってきた俺は、親父達に手紙を送った。

 無論、アリスのことと腕輪の使い方についてだ。

 アリスのことを説明するには、人魂が見えるという秘密を打ち明ける必要があったので打ち明けた。

 親父たちはバルト帝国内にある遺跡に行って来ると言っていた。

 今度は呪いのミイラでも持ってきそうで少し怖い。

 


----


 春休みが終わり、このように修行出来るのは休日と学校が終わってからだけになった。

 ニーナの方も学校に通っているため、俺と同じサイクルで修行をしている。

 ただ今日は、ニーナが熱を出して寝込んでいるので、俺とアリスで稽古をしている。

 それにしても連絡一つ寄越さないな親父たちは。

 手紙はちゃんと届いているのだろうか。


「シレン、手に力が入ってません!」

「ははは、はい! 気をつけますアリス先生」

「ニーナ嬢に負けて悔しくないのですか!?」


 痛いところを突くなアリスは。

 俺だって一応一生懸命努力はしたんですぞ。

 アリスのしごきを受けて、何千回と素振りをしている。

 アリス曰く、基本が大事だからさせているんだと。


「やっと、終わった……」


 アリス式地獄メニューを終えると、その場に尻から倒れ込んだ。

 庭の芝生に仰向けになり、空を見上げる。

 雲一つない快晴だ。

 くそ、こっちは疲れているのに更にジワジワ体力を削っていくなよ。

 犯すぞ太陽さん。

 太陽を睨みつけていると、上からアリスが俺の顔を覗き込んだ。


「シレン、このあと買い物に行きませんか?」


 唐突に何だろうか。

 俺と同じ引きこもり気質のアリスらしくない。

 いや、違うか。俺が引きこもっているから、アリスが外に出られないのか。

 

「いいよ。あと少し休憩したら買い物に行くか」


 アリスの事を知るチャンスかもしれない。というのも、アリスが来て一ヶ月になるが、未だにアリスという人物像が分からないからだ。

 それに、俺はアリスが笑った顔を見たことがない。

 本当に、アリスはこの家に馴染んでいるのか。

 もしかしたら、俺が勝手に馴染んでいると思い込んでいるだけなのかもしれない。

 

「分かりました。シレンの休憩が終わるまで、シャワーを浴びて汗を流しておきますね」

「りょーかい」


 屋敷の中へ戻っていくアリスに、手をヒラヒラと振った。


 しばらく休憩すると、少しは体力が戻ってきた。

 さて、部屋に戻って着替えるか。

 汗臭いのは嫌だし。

 屋敷の中に入る。居間を抜け更に奥に突き進むと、自分の部屋に着いた。

 箪笥の前まで行き、しばらく立ち尽くす。

 何を着て行ったほうがいいのだろうか。

 これまで出かける相手は家族以外で言うと、ニーナくらいしかいなかった。

 それ以外の女の子と外出するなど前代未聞だ。

 ニーナは三年も一緒にいたおかげで、さほど気にしたことはなかった。

 だが、今回はアリス。アリスとお出かけなのだ。

 下手なものを着て行くと、その場でアリスに斬られる気がする。

 なんと言っても、相手は王様と同じくらい偉いこの国の勇者様なのだから。


「ニーナ……あ」


 ニーナに頼ろうとしたが、今日は熱を出して休んでいたことを思い出した。

 病人に無理をさせるわけにはいかない。

 熱が出ても働こうとするニーナを無理矢理ベッドに寝かせ、休ませたのだから。

 自分で決めなくてはいけないのか。

 正直、服のセンスには自信がない。

 前、ニーナと出かけた時にはあまりにもセンスが人とズレていたのか、「今度から私が服を選んでおきますね」と言われた。

 自分では完璧と思った服装にだ。

 めちゃくちゃショックだった。

 それ以来、ニーナに服を選んでもらっていたのでセンスを気にすることはなかった。

 基本的に出かけないしな。

 今回は俺のセンスが問われるぞ。

 ニーナと出かけた時の服装だったら大丈夫だろうか。

 ニーナと出かけた時の服装を思い浮かべながら、箪笥から目的の服を漁る。


「この組み合わせだったはず……」


 服を手に取り、試着する。

 普段は着ない薄手の青のローブ。

 肘から先は出しやすいように胸の中央をクロスしている。

 その中には体の線がくっきりと出る白の布地が見えている。

 ズボンは紺のタイトジーンズ。

 これだったはずだ。

 鏡の前で服装をチェックしていると、ドアの向こうからアリスの声が聞こえた。

 あっちも準備できたみたいだ。


「お待たせ、アリス」


 ドアを開けると、白のローブで頭と全身を隠しているアリスがいた。

 なんで隠しているのか。


「では行きますかシレン」


 服装に関して、特に褒められることも怒られることもなかった。

 問題なかったんだよな、きっと。


 一緒に屋敷を出た。

 

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