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2話「銀髪の騎士」

誤字脱字有れば知らせてください

 町を回っていると美味しそうな屋台を見つけた。

 ここまで匂いが漂ってくる。


「あれ、美味しそうだな……」

「二つ買って来ましょうか?」

「サンキューな、ニーナ」

「いえいえ。ここは人が沢山おりますので、あちらの木陰で待っていてくださいませ」

「りょーかい」


 買ってきてくれるというので、ニーナに言われた通り、木陰に行って座って来るのを待った。

 多分、大行列だったから三十分は掛かるだろうなと思う。

 手持ちぶさたになった俺は、親父に貰った銀の腕輪を観察して時間を潰す。


「特に問題なさそうだよな……」


 上から見ても下から見ても、ただのシンプルな銀の腕輪に見える。

 前回、親父に貰った懐中時計は太陽に翳しておけば、外部のエネルギーを使わなくても動くという永久機関を搭載したものだった。

 確かに驚いたが、全く危険といった物ではなかったので今回もそういう類いのものだと思う。

 外そうと思えば直ぐに外れるし、きっとそうに違いない。


「ぐっ!! カッ……ハッ……」


 突然、後ろから紐のようなもので首を絞められた。

 魔術を使おうとするが、息が苦しくて集中出来ない。

 振り解こうと身を捩りもがくが、締め付ける力は強さを増すばかり。

 次第に俺の意識はブラックアウトしていった。


「んー!」


 起きるとそこは狭い馬車の中だった。

 室内は揺れ、外からは車輪が地面を削る音と下品な笑いをする男達の話し声が聞こえる。

 猿轡を噛まされているせいで声が出せない。これ、もしかしなくても誘拐か。


 現在では使用禁止の魔力封じのチョーカーが首に付いているせいで、さっきから魔術を使おうとするが使えない。

 これはどうしようもない。

 逃げ出そうとしても、手足が縛られているせいで立つこともままならない。

 せめて現在地。現在地くらいは分からないものか。

 男達の会話に何か情報が眠ってないかと思い、耳を澄ます。


「上手く行ったな、今回の作戦」

「本当だよな! ボスの右腕として将来は活用されたりして」


 盛大に笑い合う男達。

 こちらは笑うどころの騒ぎしゃないんですがね。


「あの小僧はどうする? 殺すか? それとも奴隷商に売り飛ばすか?」

「万一あの場にいた俺たちを見られていて、騒ぎになっても困るから拉致って来ただけだ。別に殺しても構わないが、あの小僧の身なりを見たか? すげー金持ちに違いねぇ」


 それは違うと思います、誘拐犯さん。

 お家にはメイドくらいしかありません。


「マジか!? おほぉー、俺達、億万長者になれるな!」

「一生遊んで暮らせるな!」


 大きな誤解をしている誘拐犯達。


「ちょっと俺、小僧起こして住所吐かせてくるわ」


 暗い室内に光が差した。布を捲り、泥だらけで山賊のような身なりの男が入って来た。


「起きていたのか。なら話は早いな。小僧、死にたくなかったら家の住所を吐け」


 男は屈んで猿轡を外し、芋虫のように這いつくばっている俺に視線を合わせた。


「嫌なこった」

「吐けよ、おらぁ!」


 拳が飛んできた。

 顔面が熱い。

 だけどこいつらが勘違いしている間は俺は確実に生きることが出来るので、絶対に喋らない。

 喋ることは出来ない。


「ほらほらほらほらほら!」


 一方的なリンチが始まった。

 何度も何度も、理不尽な暴力が俺を襲う。

 顔の感覚が遂に消えた。


「何やってるかと思えば……アジトに戻って拷問でも何でもすればいいだろ」

「それもそうだな。おい小僧、着いたらたっぷりと可愛がってやるからな」


 もう一人の馬車に入ってきた男に窘められると、立ち上がった男の蹴りが頬を捉えた。

 その最後の一発を貰い、意識は完全に落ちた。


----


 意識が戻ると、地下牢のような場所で壁から伸びた鎖が俺の足の自由を奪っていた。

 動ける範囲はせいぜい壁から五十センチ。それ以上動こうとすると鎖に引っ張られて進めない。

 

「ッ……」


 痛覚が戻ってきていた。

 顔全体が火が出るほど熱い。

 なぜ、俺がこんな状況に巻き込まれなければならなかったのか。

 俺が何かしたというのか。

 ……いや、この世界は理不尽だ。

 理不尽で出来ている。

 つい先日まで家族と幸せそうに暮らしていた子供が突然、親から借金返済のために奴隷商に売られて暗い生活を送るなんて理不尽は日常茶飯事で起こっている。

 当たり前のことなのだ。

 今回は自分に理不尽それが降りかかってきたに過ぎない。


「……」


 無理矢理自分を納得させようとするが、どうしても受け入れられない。

 こんなのは間違っている。


「そろそろお楽しみタイムと行きましょうかね?」


 ギイっと鉄の擦れる音がして顔を上げた。

 馬車で俺に拷問をした男がニタニタと笑いながら、牢を開けて入ってくる。

 やめろ、やめてくれ。こっちに入ってくるな。

 お願いだからもう、やめてくれ……。


 叫ぼうとするが、口を聞くこともままならないほどの痛みが襲ってきた。


「おい、早く家の場所を吐け」


 髪を掴まれ、拳が頬にめり込む。

 痛みが上書きされた。

 そのあとも口を開かない俺を容赦のない暴力が幾度も襲った。

 助けてくれ、誰か……。


 既に目は霞んでよく見えない。

 ズキズキと脇腹が痛む。

 多分何本か肋骨が折れている。

 意識が飛ぶと頭から冷水を掛けられ、寝ることも許されない。 

 誰でもいい、助けてくれ……。


「はぁ……もう飽きた。やっぱり殺そう」


 全然喋らない俺に興が削がれたのか、つまらなさそうに男が腰から剣を抜く。


 その時、部屋の隅に置いてあった刃が錆びれた剣らしきものからフラフラと幻が抜け出した。

 その人魂の輝きは今まで見た中で一番綺麗だった。

 目の前まで幻がやって来る。

 どこかそわそわしているように目の前を忙しなく動いている人魂。


「じゃあな。恨むなよ」


 剣が振り上げられることも目に入らず、その人魂の輝きに魅せられた俺は、僅かに動く手を光に向かって伸ばす。

 人魂に触れたその瞬間、辺りを光の奔流が白く染め上げた。


 光の奔流が止んで、真っ先に飛び込んで来たのは棚引く銀の髪。

 目の前の華奢な身体の少女が持つ、圧倒的なまでの魔力が暴風のように男を剣ごと吹き飛ばした。

 彼女がこちらを振り返り、その青い双眸に俺を写した。


「大丈夫ですか?」


 凛とした声が響いた。

 聞いたことも無いような凛と澄んだ声。

 幻想的な光景だった。

 銀の光に包まれ、俺に手を差し伸べる騎士の少女。


「っ……」


 返事をしようとするが、声が出せない。

 彼女は俺が痛みで声が出せない事に気がついたのか、


「Ανάκτηση」


 彼女は俺の聞き取れない言語で魔術を使った。

 俺の体が白光して、光が消えたと同時に痛みが引いていく。


「これで痛みは無くなったでしょう?」

「あ、ありがとう。ところで君は一体……?」

「私はアリス。アリス・レイラムです」


 目の前の騎士の格好をした少女は勇者アリスのフルネームを口にした。

 だけどありえない。

 勇者アリスは死んだ。

 三百年前に魔王と相討ちになって死んだはずだ。

 生きているわけがない。


「アリス・レイラムがこの世にいるはずがない」

「そうです、かつて勇者だった私は死にました。

 今の私は幽霊であり、あなたが身に付けているそれの力によって現界しているに過ぎません」


 アリスが俺の右腕の腕輪を指差す。


「これの力……?」

「そうです。私も何故かは分かりませんが、その事だけは理解できました」


 これが分からなかった腕輪の使い方なのか。

 とりあえず、このアリスが本物であろうと偽物であろうと、今のところはどっちでも良い。

 早くここから脱出しないと……。


「えーっと……なんと呼べばいいのですか?」


 困った顔をして尋ねてくるアリス。

 何を呼ぶのか……ああ、そうか。

 そういえば自分の名前を名乗ってなかった。


「すまない、名乗って無かったな。俺はシレン、シレン・クラウディアだ」

「フルネームは言いにくいのでシレンと呼びますね」

「りょーかい。ところでアリス、お願いがあるんだけどチョーカーとこの鎖を外してくれないか?」

「分かりました。その前に少し待っていてください」


 アリスが部屋の隅に置いてあった刃が古びた剣を握ると、剣は刀身が新しく再構築され、眩いばかりの閃光を放った。

 その光景を見て、勇者アリスの逸話を思い出した。

 勇者アリスの聖剣が神々しい光を放ち、魔を祓ったという。

 もしかしたらこの少女は本当にそうなのかもしれない。


「斬ります」

「うん、ちょと待とうか。それで斬られたら俺、流石に死んじゃう」

「そんなヘマはしません」


 有無を言わさず、アリスが俺の首目掛けて剣を振り抜いた。


「しん……でない」

「だから言ったでしょう。問題ないと」


 驚きを隠せない俺を尻目に、アリスは足の鎖も断ち切った。


「ありがとう、アリス」

「礼には及びません。それより早く逃げ出した方が良いのでは?

 ここの騒ぎが完全に伝わってしまう前に」

「そうだな。そうしよう」


 格子に衝突して伸びている男の横を抜け、牢屋の外に出た。

 壁は岩で作られていて、右の方は壁があって進めない。

 ここからは一本道か。

 俺たちは出口へ向かって走り出す。

 俺達の姿を目撃した先ほどの男の仲間たちが、剣を構えて襲いかかって来た。

 

「殺せぇ!」

「ハアッ!」

「助かった、アリス」

「先を急ぎましょう」


 次々降りかかる凶刃を、俺の先を走るアリスが打ち払い道を切り開く。

 その後に続くようにアリスの後ろを必死に着いていく。

 普段のランニングしておいて良かった。

 着いて行けないところだった。

 

「行かせねぇ。アジトの場所を知ってそのまま生かして返すわけにはいかないからな」


 突き進む俺たちの行く手に、左目に黒の眼帯をした隻眼の男が立ちはだかった。


「下がってください、シレン。あの男から何か嫌な気を感じます」


 アリスの言葉に頷き、後ろに下がった。

 隻眼の男は訝しげにアリスを見る。


「おんやぁ、お前は何者だ? そこの小僧はアジトに監禁していたが、お前さんみたいなのは入れた覚えがないぞ」

「あなた達のような賊に名乗る名前などありません」

「生意気な女だな。女、お前は四肢をぶった切った後で助けてと叫ばせながら犯してやる。

 そこの小僧はそうだな……お前はいらねぇや。死んでくれ」


 男は淡々と俺に向かって死刑宣告を突きつけた。

 俺なんか気にかけている様子がまるでなかった。

 完全にアリスのことしか頭に入っていない。

 あいつにとって、俺は逃げ出した昆虫並みなのだろう。

 すごく腹立たしいが。


「下郎がっ……!」

「いいねぇ、お前みたいな強気な女が恥辱に歪む顔がすっげぇ見たくなった。

 来い、眷属たちよ」


 男は懐から俺の知らない文字が書いてある札を地面に叩きつけた。

 男の周りに地面から紫の穴が幾つも現れ、その中から真っ黒に塗りつぶされた黒の騎士が出現する。


「なぜ、あなたがその技を使える? それは魔王オリジナルの魔法のはずだ」

「知ったことか。今回の依頼人がくれたんだよ、この札をな」


 ひらひらと札を見せる男。


「この時代にはあんな物が普及しているのですか、シレン?」

「いや、そんなことはない。書いてあった文字も知らないものだった」


 もしかしたら親父たちのような学者に近い人なら何か知っている可能性があるが、親の仕事にあまり興味がない俺は知らない。


「お喋りはここまでにしようぜ」

「来ます! シレン、備えてください」


 一斉に動き出した黒騎士は、俺を後ろに庇うアリスに殺到する。

 黒騎士達の剣技はさっきの連中とは大違いで、緻密なフェイントを入れたコンビネーションでアリスを攻める。

 アリスはそれをものともせず、撥ね除ける。

 剣劇が速すぎて目が追いつかない。

 いつ斬ったのか分からなかったが、仰け反った黒騎士たちの体は肩から斜めに裂かれていた。

 やったと思ったが、次の瞬間には切断面が結合し始めた。

 数秒もしないうちに元の状態に戻ってしまった。

 これじゃ、ジリ貧だ。

 いくら幽霊でもアリスの体力は無限というわけではないはずだ。

 現に呼吸が乱れつつある。


「やはり、再生するのですか。厄介な……」


 俺が足手纏いだからその分、アリスの負担が重くなっている。

 あの男さえ倒してしまえば黒騎士達の行動は止められるはずだが、そこまでたどり着くことが出来ない。

 アリスは黒騎士達をどうにか食い止めてくれている。

 ここは俺が……俺があいつを倒さなくては。

 だけどどうやって?

 近づく事は不可能だ。

 じゃあ諦めるのか?

 いつもと同じように。

 それこそ不可能だ。

 諦めたところで待っているのは死だけだ。


「死ねねえからな」


 生きて戻り、ニーナの手料理を食べるのだ。

 死ぬわけにはいかない。

 一か八かに賭けてみるか……。

 いつもの魔力コントロールの練習を思い出す。

 目を閉じ、この空間の魔力の流れを感じ取る。

 目の前の膨大な魔力の塊、これはアリスか。

 その先、札を持っている男の所まで感じ取るんだ。

 次第に知覚できる空間が広がり、ついに隻眼の男まで到達した。

 認識できた流れは不自然なものだった。

 隻眼の男から魔力を札に送っているのかと思っていたが違う。

 黒騎士達と繋がっているのは札の魔力のみだった。

 隻眼の男の魔力は札との間に一切繋がっていない。

 札自体が魔力源となっているのか。

 だったら男の持っている札を破壊すれば、黒騎士達は止まるはずだ。

 頭の中で札を破壊するまでの過程(プロセス)を組み立てる。

 あとはこれを魔術まで昇華させるのだ。

 地面に手を置き、小さく呟く。


「──魔力回路エイドス形成」


 ここから地面を介して男の足下まで魔力回路を繋ぐ。

 気づかれないように、慎重に慎重に……。

 俺の事が眼中に入っていないおかげで男の足下までの道が作れた。

 これで魔術を使う準備は整った。

 行けっ!


 男の持っている札に向かって地面から閃光が生えた。札は貫かれ、燃えて塵になった。


「うわっ!? 今、何しやがった!」

「シレン、あなたがやったのですか……?」

「あぁ。賭けだったけど成功したみたいだ」


 札からの魔力供給がなくなった黒騎士達は、粘土のように崩れ、地面に戻っていく。

 障害の無くなったアリスは残った男を始末しようと剣を携えて前へ進む。


「お……おい待て、落ち着けお前ら。き、きっと話し合えば俺達分かり合えるはずだ。そうだろ兄弟!?」

「己の身が危うくなると、媚を売って掌返しですか。みっともないですね。魔王でもそんなことはしませんでしたよ」

「や、やめ……! 助けてくれ、頼む……!」


 手を合わせ、俺をすがるように見つめてくる男。

 その光景を見て心が締め付けられた。


「アリス、やめてくれ」

「…………分かりました」


 アリスは数秒の沈黙の後、男の首にあてがった剣を引いた。


「油断したな、死ね!!」


 隻眼の男が懐から隠し持っていた短刀を投げつけ、背を向けたアリスのうなじに迫る。

 危ないと叫ぼうとするが、間に合わない。

 そのまま、アリスの首に直撃すると思った。

 だが、違った。

 首元で短刀が自分から逸れたようにように不自然な軌道を描いて、そのまま天井に突き刺さった。

 アリスは溜息を吐き、体を反転させ、隻眼の男の首を落とした。


「助かった命を自ら投げ出しましたか……」

 

 剣を振り、付いた血糊を払う。アリスは俺を横目で睨みつけた。


「シレン、あなたは甘すぎる。その甘さが周囲の人を危険に晒してしまうことを自覚したほうがいい」

「……ああ」


 反論出来なかった。

 現に短刀の軌道が変わらなかったら、アリスは死んでいたからだ。

 俯く俺の肩にアリスは手を置き、顔を上げさせた。


「先を急ぎましょう。追っ手が迫っています」

 その言葉で状況を思い出し、死から逃げるため、出口を目指して必死に走った。



 外に出ると一面の緑が広がっていた。

 前方には麓に俺の町のある、雲を突き抜ける霊峰──デスマウンテンがそびえ立っているのが見えた。


「逃がすな! お頭の仇を討て!」


 追っ手の声が聞こえ、アリスが目の前の崖を飛び降りた。

 下を見る。

 七メートル程の高さがあった。

 アリスが顔で早く飛び降りろと言っている。

 怖くない怖くない怖くない。

 目を閉じないように気合を入れ、飛び降りた。

 怖かったがどこか痛めることもなく、アリスと一緒に茂みに身を隠していると、


「ここにはいねぇ! 他を探せ!」


 崖の上から声が聞こえた。

 その声を最後に、追っ手の声が遠ざかって行った。


 助かったという安心感と同時に膝が折れた。

 立ち上がろうとするが足に力が入らない。


「シレン、どこか痛めたのですか?」

「いやぁ、安心したらちょっと……な」


 俺より一足先に飛び降りたアリスが、立ち上がれない俺を見て心配する。

 多分、これは肉体的な疲労より精神的な疲労が激しいせいだな。

 無理もないか、今まで極度のストレスに晒されていたんだから。


「私がシレンを担ぎます。どこに向かえばいいでしょうか?」

「いやいいよ」

「立ち上がれないのに何を言っているのですか」

 抱えられる。

「あの山の麓にあるスイアハンという町だ。本当にいいのか?」

「問題ありません。では行きます」


 あまりのGで体が後ろに引っ張られた。

 目まぐるしく次々と変化していく景色。

 これはずっと見てると酔うな。

 俺は目を閉じ、必死にアリスの背中にしがみついた。


 一時間か五分なのか、どのくらいの間、アリスにしがみついていたのか分からないがアリスのスピードが緩まった。


「着きました」


 どうやら着いたようだ。

 目を開けると、石畳の道路に、近くにそびえ立つ雲に覆われて頂上の見えない山。

 いつもの景色だ。

 俺の目に見慣れた町の景色が映った。


「サンキュー。助かった、アリス。

 お前はこれからどうするんだ?」

「そうですね……。考えていませんでした」

「行く宛がないなら俺の家に来てくれないか?

 助けてもらったお礼をしたい」

「シレンが良いのなら是非お願いしたいです」

「決まりだな」


 アリスを屋敷まで案内した。

 屋敷のベルを鳴らすと、中からいつものメイド服姿で目元を赤く腫らしたニーナが現れた。


「シレン様!?」

「ただいま、ニーナ」

「良かったです、本当に……!」


 ニーナが服が破れてボロボロの俺を見て、口を押さえ涙を流した。

 こんな時に俺は何とニーナに声を掛けていいのか分からず、慌てふためいた。


「シレン、彼女は一体誰なのですか?」

「シレン様、この女は誰ですか?」


 後ろを振り向いた。

 屋敷の外で待機していたはずのアリスが知らぬ間に後ろにいた。

 前を振り返る。

 それを見て俺に笑顔で聞いてくるニーナ。

 目が全く笑っていない。


「俺、待ってて言ったよねアリス!?」

「事情を聞きましょうか。良いですよねシレン様?」

「お、おう……」


 僕、何も悪いことやってないですよニーナたん。

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