1-4-E:ラノベって大体巻末エピローグの〆として『冒頭のコールドオープン』を引用しがち
「……なにしてんの?」
「んー? 飼育準備?」
翌朝。
覚醒直後、ふにっふにのウォーターベッドで思わずぐうたらしていたら、先に起きていたエミに魔法を消され床に叩き付けられる等した。
ぼーっとする頭で起き上がれば……何やらエミが異次元バッグからデカイものを取り出して、ラックの上に設置している。
……飼育? 何の?
「あ、それこの前見た水槽?」
「転移の直前に用意したものだから、頑丈性と大きさだけ考えて買ったやつ」
「ふむ。で、何を飼うの?」
「え? いつもの」
未遥さん来訪時にバッグを漁った時、何故か出てきた大きめな水槽。
ガラス張りのそれに彼女は魔法で水を入れ、そこに楕円形の琥珀のような、黄金色の宝石を投入する。
……ねぇ待って? 俺それすっごい見覚えあるんですけど?
「水質管理や酸素は……」
「はいねっぽ」
「お前それも持ってきてんの!?」
「ついでに最高純度のマナタイトもあるわよ」
──大精霊アルラウネ。
命と自然のエネルギーを凝縮した、信仰すらされる精霊。
その尻尾にも根っこにも近い、力の源とされる器官を俺達はねっぽと呼び、日本帰還のために死ぬ程使い倒したのだが……
それが今、当然のように水槽の中に沈められている!?
「結局、環境改善にこれ以上のアイテムは無いわ。掃除も水換えも要らないもの」
「イクスは?」
「寧ろ持たされたわ。……だってあんた、かっこよくなりたいんでしょ?」
そう言ってエミは琥珀を──精霊の繭を、軽くつつく。
ついでのようにばら撒かれたマナタイトが、水槽内を莫大な魔力で満たして…………
数秒もしない内に、それらが全て食い尽くされる。
"パキリッ"と琥珀にヒビが入って、割れた欠けの中から、白色の──
──羽の生えたウーパールーパーが、顔を出す。
「はい、生命力満点水の収穫装置の完成よ」
「……別にこれ、帰還初日にも設置出来たよな?」
「だって、必要無かったでしょ?」
"よいしょ、よいしょ"と、繭から這い出て来た精霊王直下の眷属。
"こんにちは!"と片手を上げる、テレビのリモコン台サイズのウーパールーパーと、指で握手するエミ。
「──別にこれ単品で何がどうなる訳じゃないけれど、あなたの目的達成を時短することは出来るわ」
「……これ使うのはズルじゃね?」
「ウパ水があることと、アランが頑張ることは別じゃない」
努力による変化の加速にはなっても、努力そのものにはならないと、指で精霊と戯れる相棒は語る。
ねっぽと精霊によって、爆速で変質していく水質。
最早回復薬の方が表現として近い、ミネラルウォーターの中で、ふよふよとウーパールーパーが泳いでいる。
──異世界と同じように、水槽を精霊が泳いでいる。
「さぁ、今日のランニングに行きましょう?」
「…………うん」
取り出した魔法瓶に、水槽内の水を入れるエミ。
彼女の有無を言わせない提案に、俺は少しだけ時間を掛けて返事した。
……ああ、今日からきっつい毎日の始まりだなぁ。
****
「辛く苦しい」
「災難ね」
「主に腹が」
「栄養は無理矢理にでも取りなさい」
「鬼畜ゥ……」
小さな胃にご飯を叩き込み、その場で倒れ伏してるのが俺である。
適度な運動、栄養バランスの取れた食事、まともな睡眠時間etc……普通の人になるための努力というのは、ここまで難しい物なのか……
「女の子より体力も胃も無いの、可愛いわねーア♡ラ♡ン♡」
「お前を普通の女の子だと思ったことは無い」
「ちょっと表出なさいお前」
「何故なら普通じゃないくらい可愛いから」
「だる。だるこいつ。マジでだるい」
くだらないいつもの雑談。もう日常と化した日本での共同生活。
スマホに映る日付は5/3、ゴールデンウィークは残り3日にまで迫っている。
……こんな日常を過ごせるのも、あと3日しか無いんだ。
「……なぁエミ」
「何ー?」
「お前、俺が学校始まったらどうすんの?」
「えー? …………一人で、配信とかするのかしら?」
「配信?」
「そー。チャンネル出来たし、何より私は餌代をご主人様の代わりに稼げる、自己完結型のペットなので」
「稼げる額、たかが知れてそー」
「夢が無いわね、お前みたいに」
いやでも実際問題、すぐさまバズる訳無いだろうし、収益化までそもそもクッソ時間がかかりそうなんだよな。
「俺がいなくて寂しくないの?」
「え? 普通に寂しいけど?」
「こういうとこ可愛いよなお前」
「あんたのそういうとこがだるいのよ」
照れもなく『寂しい』と言い切る彼女。こいつマジでヒロインとして最強だよな。仮に俺が正常な男子高校生だったら、何十回も恋してそう。
……さて。
「なーエミー」
「うんー?」
「……学校、行きたい?」
「………………え?」
──言葉を聞き取ると同時、どたどたと音を鳴らして俺の元に駆け寄ってくるエミの表情は、心底からの驚愕と興奮に染まっていて。
「魔法学園への編入届、俺とお前分、出しといたから」
「は」
「登校は4日後ね。編入試験そのものは、明日魔道管理局で一緒にやろう」
「なん」
「高校行かせないのは絶対に無いけど、日本の学校だとエミのスペック、魔法抜きでもヤバいじゃん。なら異世界人の受け入れ可能な魔法学園に行かせるべきで……お前、俺がいないと寂しいんだろ?」
「ちょっ」
「……俺と一緒に、学校行こう?」
未遥さんには相談した。
それも、かなり早い段階……未遥さんが帰ってから、即日でLINEを飛ばした。
学費や転入費の諸々は、彼女を頼ることで何とかなった。
ざくろちゃんにも相談した。
イベントの帰りの電車の中で、魔法学園について色々と話を聞いた。
異世界人そのものは、エミ以外にも普通に魔法学園に通っていると確認は取れた。
(ついでに俺、こっちの友達、ほぼ居なかったしなぁ)
遠方の高校進学に際し、地元から離れた地区で一人暮らしをすることになった俺は、日本時間で入学から約一ヶ月しか経っていない。
世はまだゴールデンウィークの真っ最中。ここまでの期間に関係を構築した友人は、時間と性格の二重苦によって、俺には居ない。
だからきっと悲しむ人も居ないだろうし、転入するにはまだ気が楽だ。
「……ねぇアラン」
「うん?」
「新」
「……う、うん!?」
恥ずかしさを隠すように、早口で捲し立てたサプライズ。
床に倒れたまま、淡々と話してた俺に、後ろから影が差して……
「──大好き♡」
……吹き飛ばされる程の勢いで、相棒に抱き着かれた!?
「おぐぅっ!?」
身体の貧弱さによって、思わず情けないダメージボイスを吐く俺に、容赦無くすりすりと頭を擦り付けてくる銀髪美少女。
筋肉痛+満腹でクソ辛い時に、お前のバカフィジカルで抱き潰してくんの止めてくれませんかね……!? いや嬉しいのは分かったからさぁ……!?
「ね、ね、新」
「あぁん!? 今度は何だよ……!」
「──もし将来恋人が出来なかったら、最悪結婚してあげてもいいわよ?」
「は? お前に俺以上に良い奴探してくっ付かせるから、そんな未来は存在しません」
「あらそれは残念ね? あんたより良い奴とかこの世にはごまんと居るわよ?」
「どうせお前は死ぬ程モテるんだから、その未来でどっちも恋人居ないケースなんて無いだろ」
「あははっ」
──前略、異世界転送から現地の相棒を連れて帰還した。
鍛えた力で何かと戦うでも、魔法で荒稼ぎするでもなく。
一人はかっこよくなりたいという、しょうもない目的のために頑張り出して。
一人はそんな相棒を弄りながら、日本のコンテンツを貰うがままに楽しんで。
帰還してからそれなりに時間が経った今でも、俺と異世界人はいつも通り仲良しです。
1-4特殊ED:グリーンライツ・セレナーデ(歌唱:蒼音エミ)




