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92日目 現れた現実

 どうしてみんな私にY○utubeやめさせようとするんですか?


 4月2日日曜日。

 高校の入学式を控えた陽菜、そして幼稚園の年長への昇進を控えたこーちゃんのテンションは朝から天元突破グレンラガンだった。


「……見て見て。これが高校の制服だよ。こーちゃんくん、かわいい?」

「きゃわきゃわ」


 まるで本物の姉弟のような光景を朝から見せつけてくる陽菜…いや死んで腐って溶解した魚の目とこーちゃんでしたが、私の気分は暗い。


 地球滅亡まで今日入れてあと9日…分かってはいるけど…気持ちを切り替えなきゃいけないけど、やっぱり心に暗い影は落ちていた。とても明日袖を通す制服を今着る気にはなれない。


 それだけじゃない。


 地球滅亡まで秒読みという今日、なんでこんな事を…


 なんて思いながら美堂夫妻をリビングで眺め…


 陽菜パパ…今日も朝帰りだったけど、シャンプーの香りがした…ということは昨夜はどこかに泊まった。この匂い…


 親友の父親の女性遍歴に眉根を寄せながら仲睦まじい夫妻を眺めていたら、インターホンが鳴った。


「蘭子…」


 奥の部屋から出てくる我が母、志乃は何故かスーツ姿だ。

 インターホンが鳴ってる。


「お母さん今日仕事?」

「今日は大事な話をするから正装してるの」

「そんな気合い入れんでも…」

「あなたの将来に関わるかもしれないことよ?」


 インターホンが鳴ってる。


「…何度も言わせないで。あと9日で地球は終わる」

「地球は終わってもあなたの人生は続いていくの。いい?蘭子…人ってのはそんなに簡単に死なない」

「母なる地球の偉大さを知らないの?何千年も生きる木ですら、根を下ろす土がなければ育たない」

「バカ言ってんじゃないわよ」


 インターホンが連打される。


「今日、お母さんがあなたの人生を軌道修正してあげるから」


 完全なる毒親だ…


 インターホンがぶち壊れるレベルで連打されてる。

 そろそろ出るか。



 我が桐屋家と比べるとないに等しい狭い玄関に立つと、ドアの向こうに2つの人影が…


 カンパルノ妹と孫。

 私の輝かしきY○utubeチャンネル『キリヤランコの炎上飯』のメンバーだった。

 カンパルノ妹から話は聞いてるらしい。孫の表情も深刻だ。


「…ようこそ」

「マイプリンセス」

「桐屋蘭子…これは何事なんですか?」

「とりあえず入れよ」


 ********************


 我が母志乃は『娘がY○utuberアレルギー』らしい。

 私のY○utube活動を知った母は活火山の如く噴火。今すぐやめろと溶岩攻撃。友達の意見聞かないと無理って言ったらじゃあ連れてこいと…


 そして今に至る。


 借金返済の為の休日出勤を返上して今宵開かれた会談に美堂一家もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、コ○トコへ避難。

 コ○トコは会員制だって話を聞いたけど、あれはなんですか?オシャレなBARとかなんですか?


 お母さんと隣に座るこーちゃんを対面に、キリヤランコの炎上飯がリビングに揃い踏み。ファンなら発狂死する光景だ。


「こーちゃん…そっち側に座るんだね?」

「?こーちゃん、おねえちゃんのとこすわる」

「こーちゃんはこっちに座ってなさい」


 母が早速精神攻撃を仕掛けてくる。


「はじめまして。桐屋蘭子の母です」

「以前会いましたよ?路端響です」

「孫です」


 孫の本名はトップシークレット。私達ですらその正体は知らない。

 そしてお母さんはテーブルに置かれた三脚とスマホを一瞥。


「…これなに?」

「撮影させていただきます」


 孫が答える。これは聞いてない。


「今日は遊びじゃないのよ?」

「だからです…もしここでキリヤランコの炎上飯が解散になったら、それも動画で視聴者に報告しないといけませんから。大丈夫です。お母さんの顔にはモザイクをかけます」

「……モザイク?まるで人を汚物みたいに…」

「顔出しOKですか?」

「盛れるんでしょうね?」

「3割増で盛っておきます」


 孫には染み付いてる。Y○utuber魂が。


 さて、本題だ。


「いつも娘と仲良くしてくれてありがとう。今日の話なんだけど…あなた達が蘭子とY○utubeやってるお友達よね?」

「孫です」

「カンパルノ妹です」

「単刀直入に言います。娘にY○utubeやめさせたいんです」


 2人の表情は固い…


「娘はあなた達に誘われてY○utube始めたと聞いてます」

「僕が誘いました」


 我が母の恐ろしさは熊にも引けを取らない。しかしこのカンパルノ妹という女はそれを前にしても一切怖気付く事なくそう言った。こいつなら山奥で1人、ヒグマに遭遇しても鷹村守のようにノックアウトして帰って来るに違いないという確信にも似た心強さを感じた。


「僕が…蘭子さんとどーしても一緒にやりたくて…すみません」

「私は聞いてないわ」

「言ってないので」

「こういうのって、未成年だけで出来るものなの?」

「一応…僕の姉がこの3人の保護者って事になってます」

「蘭子の保護者は私です」

「……はい」

「とりあえず…面倒を見てくれる大人はいるのね?それを知れて少し安心しました」

「ありがとうございます。これからもキリヤランコの炎上飯をよろしくお願いします」

「じゃなくて。だとしても、実の親に内密に勝手にやられては困るのよ」


 蘭子のターン。


「言ったじゃん」

「反対したわよ?」

「でも言ったじゃん」

「親がダメって言った事を勝手にやるの?あんたは」

「うん」


 事実やってる。


「蘭子っ」

「おかあさん、おちつくんだ」


 こーちゃんが居なければこの会談は混沌を極めてただろう…


「…私達は桐屋蘭子の意志を確認した上で一緒にやってます」


 孫のターンだ。こーちゃんが孫をじっと見つめてる。どうした?こーちゃん…


「あなた…随分若いように見えるけど、あなたの親はこの事知ってるの?」

「私の…親……」

「うん。もしかしてあなた…孫?だっけ?孫ちゃんも親御さんに無断でやってるんじゃないの?良くないわよ?そういうの」


 お母さんの追求に孫が返した返答は…無言の涙。


「どどど、どうしたの?(汗)」

「…私の親は……」

「えっ…あっ……ゴメンナサイ」

「おかあさんがなかせた!」


 孫の両親はどこにいるんだろう…?

 まぁ多分墓の下だと仮定して、続けよう。


「孫の保護者は承知してるよ。なんなら元Y○utuberだし……今は私の話でしょ?」

「そう……」

「お義母さん!」


 なんか変な響きを感じる響の声がリビングに響く。苺をかじってたこーちゃんがびっくりして苺を落とした。

 拾って埃をフーフーして飛ばして、こーちゃんに返却。自分の小さい歯型の付いた苺をこーちゃんは小さな両手で受け取って観察してからハムハムしてる。


「きゃわ♡」

「おねえちゃんも、いちごたべよ?」

「食べる♡」


 こーちゃんとの苺デート。さてその間に行われていたカンパルノ妹とお母さんの攻防とは…


「僕は本気で娘さんとY○utube活動してます!認めてくれませんか!」

「認められません」

「必ず幸せにします!」

「悪いけど、あなたみたいなどこの馬の骨とも知れない人に娘は任せられないの」

「僕と蘭子さんは真剣です!」

「ダメです」

「お願いします!!何でもします!!僕…今すごく幸せなんです!それは……蘭子さんのおかげです!!娘さんを不幸にはしませんっ!!」

「…あなた達が幸せでも、他の人に迷惑をかけるんじゃないの?」

「そんな事は…っ」

「私が反対してるのはね…」


 お母さんが私のチャンネルを表示する。地味にチャンネル登録してた。

 映し出されるのは例の大バズ動画、オキサンフーズのやつだ。


「こういう事にうちの娘が首を突っ込んで大変な事になるんじゃないかと心配だからなの」

「……それは…」

「現に今、大変な事になってるんでしょ?」

「誤解です。その動画の内容に嘘はありません。僕ら別に悪い事をしてるわけじゃないんです」

「……そのようね。でも、それは関係ないの」

「お義母さん…」


 そのお義母さんってやめろ。


「知ってると思うけどうちの娘は頭がおかしいの」

「存じ上げてます」

「あ?(怒)」

「うちの娘がこんな…ネットに顔を晒してなにかするなんて事をしてたら、きっといつか取り返しのつかない事になるわ」

「私たちがついてます」


 勇ましい孫。しかし母の意思は変わらない。


「あなた達には無理よ」

「そんな事は…」

「実の親ですらこの子は制御できないの」

「使いこなしてみせます」

「あなたには分からない。この子はブレーキが搭載されてない機関車のようなものよ。しかも、レールを無視して走る…オマケにぶっ壊れたAI搭載。もはや人類の敵と呼んでも差し支えないわ」


 さっきから私をなんだと思ってんの?


「人様に迷惑をかける前にやめさせるのが親の務めなの。分かってちょうだい?」

「迷惑にはなりません」

「です」


 カンパルノ妹と孫がこうして私を庇ってくれてる事実に私はこっそり涙を呑んでた。2人とも……そんなに私の事を…


「この子が居なくてもY○utubeはできるでしょ?」

「いや…もうチャンネル名をキリヤランコの炎上飯にしてしまったので……まだ始めたばかりなのにメンバー卒業はちょっと…」

「うちのチャンネルの登録者の5割はマイプリンセス…じゃなくて蘭子さんのファンなんです!蘭子さんが抜けたらチャンネル登録者数が…」


 打算だった。


 と、ここでインターホンが鳴る。

 どうやら最後の参加者が来たようだ。

 奥から陽菜ママが出ていこうとするのを「行くなっ!!」って静止する。陽菜ママびっくりしてひっくり返ってキッチンの角で腰打ってた。


 …あれ?コ○トコ行ったんじゃなかったの?


「こーちゃんがでるよ」


 こーちゃんがちょこちょこ歩いていく。まるでペンギンだった。


「こんな時に誰…?」


 お母さんが不快感を顕にする。その疑問に私が答える。なぜなら、最後の客を呼んだのは私だから。


「この会合の最後の参加者だよ」

「誰を呼んだの?マイプリンセス」

「さぁ、ここで新たな参加者です。一体何者でしょうか?」


 孫がカメラに向かって熱く語ってる。Y○utubeやめろって言ってる人の前で動画撮るその熱量に私はこいつの将来は大物に違いないと確信を得た。


 …ま、その将来が来ることはないが。


 そして小さな案内人に連れられて最後の参加者が到着だ。


「おねえちゃん!みやびねえちゃんがきたよ!」

「…きょんちゃ」


 意味不明な挨拶と崩壊した滑舌と共に最後の参加者、沖雅がリビングに降臨した。


 舞台は第二幕へ…


 ********************


 沖雅--

 オキサンフーズ社長の娘にして私達の最大の被害者の1人だ…

 そんな彼女が今、キリヤランコの炎上飯会談に参加した。


 対立するかの如くお母さんの隣に座った雅が状況が読めないといった顔でキョロキョロしてる。


「…この子は?」


 お母さんが問いかける。


「雅だよ。オキサンフーズ社長の娘にして…昨日和解したばかりの私のATM」

「りゃんでゃちょ?(怒)」

「「「なんて?」」」


 昨日のやり取りを全員に説明し今日来させた理由を説明する。


「……まぁつまり、雅も私の引退賛成派ということで…目下我がチャンネル最大の問題であるオキサンフーズ問題を無視してこの話を終わらせるわけにもいかないだろうから…呼んだ」

「そうだったの…」


 お母さんが隣の滑舌モンスターに悲しみを込めた目を向ける。こーちゃんは4つ目の苺に手にかけた。


「雅ちゃん。娘が迷惑かけてごめんなさいね」

びぇちゅにゃ…りゃんこぎゃ、Y○utubeやめぇりゅにゃりゃ、りゃちゃちぇりゃ…」

「ごめんなんて?」


 目の前に被害者が現れてカンパルノ妹と孫も流石に旗色が悪くなった。とりあえず…


「こら、お前らも頭下げろ」


 私に言われて2人が立ち上がって雅に向かって頭を下げた。


「雅さん、この度は本当に申し訳ありませんでした」

「事前の許可もなく撮影と動画の公開を行った事に関して、申し訳なく思っております。お父様の会社にご迷惑をおかけして、なんとお詫びしていいか…分からないので話を先に進めます」


 孫…それが謝罪する態度か?

 しかし金持ち故のプライドなのか器のデカさか、雅は2人の謝罪に首を横に振る。


「ピャピャぎゃやっちゃこちゃりゃわりゃこちゃびゃきゃりゃ…あにゃちゃちゃちりょしぇめりゅ気持きゅもみゃりゃりゃい」

「「なんて?」」

「…(怒)わちゃりゃぎゃおきょっちゃりょは、りゃんこぎゃ友人りゅうじゅんりゃきゃりゃ」

「「なんて?(汗)」」

「……きょいちゅりゃ、ありゃみゃりゅきゅありゅ?」

「お前の滑舌が謝れ」


 いちいち通訳が必要だし、字面で何言ってんのか分かんねーし、こいつ…小説の登場人物としては致命的なのでは?

 呼ばなければ良かったって後悔が私の胸中を支配してる。


「……さて、で?どーする?」


 議長たる私が全員の顔を見回す。


「やめなさい」

仲直にゃきゃにゃおりゃにょ条件びょうけぇんりゃしょりぇでゃけぇりゃ」


 お母さんと雅は主張を譲らない。


「……」

「……」


 一方、カンパルノ妹と孫は俯いてる。

 これはキリヤランコの炎上飯、解散の危機か…?


「おねえちゃんのきもちが、だいじ」


 そこで本質を突くような結論を出したのはこーちゃんだった。

 苺汁で口の周りがベタベタなこーちゃんが私の事を真剣な眼差しで見てる。

 私はハッとした。

 私の気持ち…あんまり考えてなかった。


 桐屋蘭子、お前はどっちなんだよ?と私の中で誰かが問いかけてくるようだった…


「…お母さんの言い分には、正当性があるように思えます」


 口を開いたのはカンパルノ妹だ。


「雅さんに迷惑をかけたのは事実だし…」

「しょりぇりゃ、しょっちぎゃありゃみゃりゅきょちょびゃにゃいっちぇ、言っちぇりゅりょ?」

「ごめんなんて?」

「…みょうひゃびぇりゃにゃいひょうぎゃいいりゃ?(怒)」

「…お義母さんに無断で活動してた事に関しても、事実ですし…」

「ごめんなさい…あなた達が悪いって言いたいんじゃないのよ」


 拳を握り俯くカンパルノ妹にお母さんが優しさを見せる。普段の優しさが帰ってきた。多分火山活動が休眠期に入った。それは殊勝なカンパルノ妹の態度を見たからだろう。


 でも…とカンパルノ妹は続ける。


「僕の気持ちを言わせてもらえば…蘭子さんともっと動画を撮りたいです…」


 訴えるような眼差しだった。


「皆さんにも、世間様にもご迷惑をかけないように努めます。なので…もう少し…僕は…蘭子さんも、孫も大好きだから…」


 …短い付き合いだ。

 カンパルノ妹も孫も、会ったばかり。地球滅亡を知ってから出会った2人。それぞれの事を深く知ってる訳じゃない。それは向こうも同じ事だ。

 なのにここまで想ってくれる…


 時空を遡って見たカンパルノ妹の姿が蘇ってた。


 全員が私を見た。


 お母さんが問いかける。


「…蘭子、あなたはどうしてY○utuberをやろうと思ったの?いいえ…どうしてこの子達と一緒にやろうと思ったの?」


 お母さんの問いかけが私のデリケートな部分に侵入してくるような気がした。

 やはり親…道化の下に隠してる本当の部分の扉をあっさり開いてくる。普段はあえて見えないふりをしてくれてるのかなと、親の凄さを思い知らされた気がした…


 ……私は…


「……それは…」


 カンパルノ妹と孫を見る。


「…………この2人だっから、かな?」


 言葉の意味が自分でも分からなかった。どうしてこの2人だったからやろうと思ったのか?質問の意味になってない気がしたけど、一瞬剥げかけた道化の仮面を慌ててはめ直す。


「ほら、こいつらだけでやっても失敗するだろうから?」


 沈黙…いたたまれない蘭子。


「…りゃんこにょ、しゅきゅにゅしゅれびゃいいりょ」


 雅が呆れたように言った。


「…好きなようにした結果、Y○uTube続けたらやっぱり絶交なの?」

「元々《もちょちょ》友達ちょみょびゃちゃびゃにゃきゃっちゃ…ちょおみょりゅきょちょにゃすりゅ」

「……」

「にゃにみょきゃわりゃにゃいんびゃにゃい?」


 雅の言ってる意味はよく分からなかったけど、怒ってる感じではないな。

 お母さんを見る。


「…お母さんは反対」

「……」

「別にY○utubeじゃなくても、この子達とは友達で居られるはずよ?…ただとりあえず、あなたの意見を聞かせなさい?気持ちは変わらない?」


 結論は私に委ねられた…

 お母さんの意固地な気持ちも柔くなってる気がする。2人に実際に話したからなのかな?分からないけど…


 最近真剣な場になると道化の仮面があっさり剥がれそうになる。それに恐怖にも似た焦りを感じつつ、私はこんな時なのにテレビのリモコンを手に取ってた。


「…BGMがほしいな」

「いらないよ」

「桐屋蘭子、あなたの意見を」


 カンパルノ妹と孫の非難を浴びつつ無視して私は気持ちを落ち着けるように、縋るようにテレビをつけた。



 --その行為が余計に気持ちをかき乱すとも知らずに。


『次のニュースです。本日日本時間午前3時15分、アメリカ、NASAが地球に向かって進行中の巨大な天体を観測したと発表しました』


 どきりとした。


 ニュースキャスターが淡々と喋る内容に今まで話してた内容が全て吹き飛び、画面に釘付けになる。

 NASAの偉い人が記者にペラペラ喋ってる映像が流れてて、そこまで深刻そうな様子じゃないけど、字幕に流れる「超巨大」とか「直径10キロクラス」とかいう文字に冷や汗が流れ出る。


「……?マイプリンセス?」


 カンパルノ妹の呼び掛けも聞こえないくらい…


『NASAの発表では巨大天体は不規則な軌道を描きながら現在地球から約--…』


 地球滅亡……

 その単語が頭の中をぐるぐる回る。


「……蘭子、聞いてるの?」


 お母さんがテレビを消してようやく現実に戻ってくる。

 私と目が合ったその場の全員が驚いたような顔をした。


「……りゃんこ、大丈夫でゃいりょーびゅ?」


 多分、それくらい酷い顔してたんだ。


 毎日見上げる青空に滅亡の気配はなくて……

 本当に地球終わるのかと思い続けた日々。平和を絵に描けと言われたら多分こんな空を描くんだろうっていう青空を見上げ続けた私に、知ってたはずなのに唐突な現実が突きつけられたような気分だ。

 私の中にしか無かった未来予知が今、確定されたものとして現実世界に現れた。

 それはあまりにも唐突で…


 私は全く覚悟も準備もできてなかったんだってのを知らされた--


「蘭子……」


 お母さんが不安そうな顔を向けてくる。

 いつもの調子でそれに返す余裕はなくて…


「……あの……ごめん…ちょっと…待って……」


 絞り出すような曖昧な返事しか出来なかった私を、もう1人の私が脳内で嘲ってた。


 地球滅亡まであと…8日。

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