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83日目 スマホ寄越しなさい

「地雷亜チャンネルをご覧の皆さんこんにちは、地雷亜です…そして〜」

「……皆さんこんにちは。『キリヤランコの炎上飯』の桐屋蘭子です」

「みんなのプリンス、カンパルノ妹です☆」

「えっと、孫です…」


 3月24日金曜日……

 チャラチャラした中年男性の横で華のJK(予定)とJK(現在進行形)とJS(現役)が固い顔で挨拶してる。決して笑うなと私からの事前の指示を守った2人は、まるで深刻なニュースを伝えるキャスターのような堅苦しさだった。



「…じゃ、一旦切ります」


 簡単な挨拶が終わってすぐに地雷亜と名乗るおっさんはカメラを切って、私らと向かい合う。革張りのソファの生地を鳴らしながらこっちを向いたおっさんは「いやぁ〜」って驚いたような顔をする。


「まさか昨日の今日で連絡くれるなんて…コラボ、ありがとう。キリヤランコさん」


 粘着質な笑みを湛え薄っぺらな感謝を伝える地雷亜に私はいえいえと返す。


「当日のコラボ、受けていただいてどうもありがとう」


 こちらもお行儀よく返す。私の横顔には午後の日差しがブラインドの隙間から差し込んでた。



 --暴露系Y〇utuber地雷亜からコラボの話が来たのは昨日、雅の家に向かった時だった。

 この男は今まで様々な業界……主に政界と芸能界の様々なスキャンダルを暴き立てて飯の種を稼いできた男。情報の真偽は正直よく分からないけど、真実よりおもしろいネタを求める世間からの評判は上々で、それなりの登録者数を持つ暴露系界隈の大物でもある。

 元俳優の東東一あずまとういちの不倫騒動とそれに伴う引退とか、有名な四股俳優よんまたはいゆう雨宮小春あまみやこはるの四股騒動なんかも、一番に取り上げたのはこの男だそうで……


 そんな男だからこそ、此度のオキサンフーズの不祥事を放ってはおかなかった。でも、今回は先を越された。

 その先を越したのが、私達。


 Y〇utuberとしてネタ被りは避けたいところ……しかしここ最近ではトップのニュース。取り上げないわけにはいかない。


 ……そこでコラボってわけ。多分。


 当日に呼び出されたカンパルノ妹と孫はまだ困惑してる様子だったけど…


「いやぁ……本当は配信したかったんだけど」

「孫が小学生だから」


 Y〇utubeの配信は色々規約があるんだって。


「それにしても……」と大久保公園辺りで物色するおっさんみたいな嫌らしい眼差しを私らに向けてくる地雷亜。私ら3人に興味津々って顔だ。


「このグループはどういうグループなのかな…?バナナ事故の生き残りとあの路端カンパルノの妹と……孫。いや興味深いけど……孫って何?」

「子供の子供の事です」


 孫が孫の説明をする。


「それは知ってるけど……孫は本名なんて言うの?」

「……孫です」

「いや、名前を知っておき--」

「孫です」


 代わろう。


「おい孫。そろそろ話してもいいんじゃないか…?お前の本名…私もカンパルノ妹も知りたがっ--」

「孫、です……」


 断固とした決意を感じた……


「……もしかして……」


 カンパルノ妹なにかに気づく。


「……名前が……ない、のかい?」


 重たい沈黙。撮影中なら放送事故レベルの鉛のような空気が…当人は目を伏せて唇を真一文字に結んでいる。膝に置かれた手は握り拳を作って、ズボンの裾に皺を作ってた。


「……私は孫です」


 この話はこれ以上踏み込んではいけない気が…


「……さ、再会しようか……(汗)」




 気を取り直して……


 動画はゲストの私達がなんか色々答える質問コーナーみたいな感じになった。

 デビューしたての超新星の事みんな気になってるだろうからと前置きして、地雷亜は乙女のプライベートなことにもズケズケと踏み込んでくる。


「キリヤさんはどうしてY〇utubeを?」

「この2人がやりたいって言うから……」

「そうなんだ。じゃあ、みんなの記憶にも新しいあのバナナ事故……あの時のこと教えてくれる?」

「私あの時死んだんだよね」

「え?死んだ?今生きてるけど……」

「生き返ったんだ。私『Agの鍵』だから」

「……えー…じーのかぎ?」

「この世界には無数の並行世界が存在してて、その全てに私達は存在してる…並行世界の中の私達の数は常に保たれてて、それを利用する事である世界の蘭子が死んでも、別の世界の蘭子を殺す事で復活する事ができるんだよね」

「……キリヤさんは不思議ちゃんなんだね…えっと……じゃあ次、カンパルノ妹さん。やっぱりY〇utuber始めたのはお姉さんの芸能活動とか影響してるのかな?」

「……そうですね。影響がないといえば嘘になりますけど…でも、今は違います。今はこのスペシャルサンクスな仲間達との活動を心から楽しんでるんです。でも僕なんか全然姉には及ばなくて……姉さんは昔から人見知りで、家も結構厳しくて僕ら姉妹はいつも息の詰まるような生活をしてたんですけどそんな中で姉が大好きだったのがお笑いなんですよ。両親は姉には大学に行って就職してっていう普通の人生を望んでたと思うんですけどある時突然お笑い芸人になるって言い出して家を出ましてそれからは大変だったらしくて下積み時代は毎晩のように泣きながら電話してきましたね。姉は1人じゃ電車にも乗れないような人なんですけどそんな人が一人暮らしってのはやはり妹の身からしてもとても心配でしたけど、でもどこかで姉なら大丈夫って気持ちもありました。姉は昔から引っ込み思案で寂しがり屋だったけどここぞという時には芯の強い一面があってあれでなかなか頑固で、自分の決めた事をめげずに貫き通すその姿勢は僕も尊敬してるんです。でもやっぱり抜けてるから心配で、でもそこが可愛いところでもあるんですけど、まぁ何が言いたいかと言うと姉はとても魅力溢れる人だからもっと姉の魅力をみんなが知ってくれればいいなって…そうだ。それで言うと昔こんな事があって--」

「ちょっとごめん。お姉さんの事大好きなのは分かったんだけど……今はカンパルノ妹さんの事が聞きたいかな?」

「昔姉とカブトムシを採りに行ったんですよ。夏休みの時に。姉は昔から虫が大の苦手だったんですけど僕が一緒に行こうと駄々をこねまして。優しい姉は嫌々付き合ってくれたんですけどいざカブトムシを捕まえる時になって木の上からカブトムシが姉の顔に落ちてきまして。姉の慌てっぷりと言ったらもうすごくて。一日中顔を洗ってました。そこで僕は責任感じちゃってこう言ったんです。「大丈夫だよ。カブトムシなんてゴキブリと一緒だから」って。今にして思えば何言ってるのかよく分からないんですけど僕の実家って結構ゴキブリ出るんですよね。僕虫平気な方でゴキブリ触れるんですけどその感覚で平気だよって言いたかったんだと思うんですけど姉からしてみればトラウマになったらしくてそれからは実家でゴキブリ出る度に今まで以上にビビり散らかすように--」


 ……カンパルノ妹の話は1時間にも及んだ。

 あんなに屈折した感情を抱いてる姉のことを熱弁し、こちらが口を挟む事すら許さない勢いには私も地雷亜も閉口せざるを得なかった。

 もちろん、全カットである。




 ……まぁ、てな感じで適当に雑談を終えて、本題だ。


「……やっぱりキリヤランコの炎上飯が一気にバズったきっかけと言えば……あのオキサンフーズ事件の動画だと思うんだけど……僕としてその話を今日詳しく聞きたいと思ってるんですよ」


 地雷亜がねっとりとした顔で本題を切り出す。好奇心という光が目の奥で光って、さながら獲物を捉えたハンターのような顔になった。


 そして私が今日コラボってるのもこれが目的。

 無言で次の言葉を待ってると地雷亜は早速蛇のような顔つきで質問を投げつけてきた。


「…キリヤさんは動画内でオキサンフーズの和牛100%ハンバーグは実は和牛を使ってないっていう噂があるって言ってたけど…それはどこからの情報なんですか?」

「そんな噂はない」


 投げつけられた爆弾を正面から切って落とした私の発言に地雷亜は一瞬虚を突かれた顔をした。

 私は淡々と、地雷亜ではなくカメラに--その向こうにいる視聴者に向かって言葉を紡いでいく。


「ただ動画のネタにする為にでっちあげました。あと、オキサンフーズと私には個人的な付き合いがあります」


 カンパルノ妹も孫も言葉を発していいのかどうかと、ただ固まってそれを見守る…


「世間ではオキサンフーズの…特に社長の事をとやかく言ってるみたいですけど、実際に社長と話した際に私が聞いたのは、まず社長は今回の騒動について一切指示してないという事と--」


 そっから小1時間、私は永遠と語った。

 普段ふざけたことしか言わない私の口から出てくるとは思えないくらい真面目な内容を。雅パパから聞かされた話の内容を淡々と…


 雅パパは謝罪会見で自分は関与しなかったとは一言も言わなかったらしい。全ては自分の責任だと、頑固な程何度も口にしたとか…


 これは雅への罪滅ぼし…

 これで何がどうなるというわけじゃないだろうけど、せめて真実を発信する。


 カメラの無機質な眼を正面に見据えたまま口を動かしながら……


 雅とは仲直りできないかもしれないな……


 なんて、他人事みたいに思ってた。


 *********************


「ただいまー」

「( ・᷄ὢ・᷅ )」


 美堂家のマンションに帰ったら玄関先でお母さんの般若みたいな顔面がお出迎えだ。

 確実に嵐が来る……その予感を感じ取ってか陽菜はこーちゃんを連れて自室に引きこもり「立ち入り禁止」の張り紙までしてた。


 シリアスな気持ちを切り替えて、道化の仮面を装着だ。


「なに?その顔は……?娘が帰ってきたってのに……退きなさいよ」

「( ・᷄ὢ・᷅ )」

「退きなさいよっ!!」

「蘭子…お母さん言ったわよね?Y〇utubeだけは許しませんって…」


 母の手にはスマホ…そこには盛れてる私の顔が映ったサムネが……


「らぁぁんこぉっ!!!!」


 母吼える。野生のベンガルトラも裸足で逃げ出す咆哮。いや、ベンガルトラは靴履かねーだろ。


「なぁにさっ!!」


 私も負けじと応戦。しかし、母の迫力には届かず。


「どおしてお母さんの言うことが聞けないのっ!!??」

「どうしてお母さんの言いなりにならなきゃいけないのっ!!!!」

「お母さん言ったわよね!?蘭子には普通の人生を歩んでほしいのよっ!!!!」

「これは普通じゃないっての!?普通って何!?それはお母さんの主観でしょ!?」

「主観じゃないっ!!!!」

「コンギョを言えっ!!!!」

「その顔よっ!!早速悪い連中に染められたおバカな顔をしてるじゃないっ!!!!」

「おバカな顔って言うなっ!!」


 まぁまぁ奥さん…と、陽菜パパがお母さんの背後から現れる。


「蘭子ちゃんも歳頃ですから…色々経験したいんですよ」

「歳頃だから心配なんでしょ!?!?」

「子供のやりたいは応援してやるべきですよ…」

「あなたは黙ってて頂戴っ!!」


 奥から「うちで喧嘩しないでください」って陽菜ママが言ってる。台所から立ち込める匂い…今夜はスープカレーか…

 美堂家のスープカレーといえばスパイスから作る本格派だ。


「寄越しなさい」


 そんな事考えてたらお母さんが手を出してきた。


「なにさ?」

「スマホを寄越しなさい」


 美堂パパが「奥さん」と宥める。しかし顔が般若なお母さんには届かない。


「やだ…」

「渡すのよっ!!」

「いやだっ!!」

「蘭子っ!!」

「もうすぐ地球終わるんだから最後くらい好きなことさせてよっ!!」

「なにバカなこと言ってんの!!動画見たんだからねっ!?あんな…人様の秘密を暴いて迷惑をかけるような真似を…っ!!だからお母さんは反対したの!!あんたがネットなんかやったらろくな事にならないでしょ!?」

「やだっ!!」

「お母さんの言うことが聞けないのっ!?」

「いーーやーーだっ!!」

「らぁんこっ!!ぶつわよ!?本気のやつ、いくわよ!?」

「ぶたれてもやだ!!」

「このっ…!!バカ娘っ!!」

「奥さんそれはダメですよっ!!」

「離してっ!!」

「いやぁーーーっ!!助けてーーーっ!!」

「蘭子ぉぉぉっ!!!!(怒)」



 …夜間に玄関先から響く悲鳴と怒声はさぞかし近所迷惑だったみたいで、桐屋家が居候し始めて早くも2回目の通報を受けたパトカーがマンション前に停まった時には、私のスマホは没収された後でした…


 地球滅亡まであと17日…

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