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61日目 そんな事がっ!?!?

「あんた、しばらく外出るんじゃないわよ」


 桐屋蘭子外出禁止令。


 3月2日木曜日…快晴。学校は休み。

 こんな日に15歳、食べ盛り遊び盛りの中学生が家に軟禁されるなんて事が許されるの?



『昨日首相官邸前にて発生した少女による警察官暴行事件ですが、警察の調べによりますと少女は千葉県在住の15歳の中学生で、内閣官房長官への接触が目的で今回の騒動を起こしたとの事です。少女を取り抑えようとしたSP四名が軽傷を負い、少女本人も避難する官房長官の乗った車にしがみつき一キロ程進んだ後に車から転落し全治二週間の軽傷を負ったとの事です。調べによりますと少女の目的は「地球滅亡を予知したからそれを伝えに来た」との事で--』


 理由はこれである。


 母、志乃は怒り狂ってた。その怒りは月明かりが空を照らし、その後太陽が昇り地面を暖めはじめて尚治まらず…


「あんた今回のは今までの悪ふざけとは違うんだからね?犯罪よ?犯罪!なんで注意で済まされたのかお母さん分からないくらいだもん」

「私が逮捕されたら残りのストーリー全部監獄編になっちゃうからだよ」

「ストーリーってなんの話よ(怒)」

「おねえちゃん、はんせいしなさい」

「こーちゃん……はい、すみませんでした」


 こーちゃんにこう言われたらもう仕方ない。私は大人しく軟禁生活……


「お母さん仕事行くけどあんた家から出るんじゃないわよ?陽菜ちゃんと陽菜ママに見張っててもらうからね」


 なわけないっ!!


 最強の看守が外出したのを確認した蘭子、隣で目が死んでる陽菜に話しかける。


「私諦めないから」

「……蘭子、お願いだから目を覚まして。いつまでもそんなんじゃ社会に出て通用しないわ」

「私考えたんだけどさ…超巨大隕石が地球に落ちる確率って、陽菜がアラブの石油王と結婚できる確率より低いんだよ」

「……そんなに低い確率じゃないってこと?」

「有り得ねぇってこと。自惚れんな鏡見て絶望してこい……で、なんでそんなことになるのか、私思い当たる節があったんだ。ずっと考えてた事なんだけど……」

「……蘭子、もういいから、寝よう?」

「まだ朝」

「……蘭子」

「白浜だよ」


 白浜玲美--

 それは生ける災害。そこに居るだけで混沌という名の悲劇を量産する、ナイアルさんとかいう神の力を授かった同類。


 地球滅亡は白浜の混沌のせいなのではないのか…

 白浜の混沌のせいでバナナ事故に巻き込まれたりウ〇コしてたら建物ごとぶっ壊されかけたり…

 白浜被害者の会会長の私は確信に近いものを感じてる。


 間違いねぇ。


「白浜を殺せば地球は救われるんじゃないかなって…」

「……蘭子っ」


 セミナーの講師が言ってた。

 諦めるなって。そうすれば未来は思い通りになるって。

 蘭子諦めない。


 一度は叩き折られた令和のノアとしての使命感が今、可能性を前に噴き上がっていた。


「……私、殺《や》るよ」

「……蘭子っ」

「いってきます」


 白浜は自分の混沌で死にかけて入院中。私はあの因縁のある病院に向かおうと玄関に足を向けた。

 そこに立ち塞がったのは陽菜のママ。


「蘭子ちゃん、部屋に戻りなさい」

「…あなたには関係ない。そこを退け」

「いいえ退けないわ…あなたをこの部屋から出すわけにはいかないの」

「…………死にたいの?」


 陽菜ママが取り出したのはなんと…包丁!

 怪しく煌めく白刃が私に向けられていた。

 陽菜ドン引き。


「あなたを簡単に止められるとは思ってないわ…私には覚悟があるっ!!」

「どうしてそこまで……」

「……ほんとだよお母さん。蘭子の狂気に当てられたの?」

「蘭子ちゃん……部屋に戻りなさぁいっ!!」

「…………」


 ならば仕方ない。


 ********************


 蘭子外出。


 陽菜ママとついでに陽菜は玄関先で簀巻きにしてきた。陽菜ママは敵ではなかった。

 あと包丁《エモノ》も拝借した。


 私はもう覚悟を決めた。一度はあっさり諦めた地球滅亡阻止だけど、こーちゃんの未来を守る為…桐屋蘭子は鬼になる!







 問題の病院に到着したらなんか前に来た時より荒れてた。

 まるで遊園地のお化け屋敷みたいにどんより暗い病院の中に侵入。心做しか患者も医療スタッフも覇気がない。

 壁は汚れ、ひび割れ、天井は電気が所々切れてて、床には赤いシミが……

 あと何故か窓にお〇め納豆の顔のシールが貼られてる。


 白浜の病室に向かう道中……


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……」

「あっ、黛」


 死んだ顔でシーツを運んでるこの女は黛。この病院の看護師で、私の舎弟だ。

 抜き身の包丁片手に私は黛に近寄った。


「おーい黛、元気?」

「死ね死ね死ね死……桐屋蘭子っ!?じょっ!冗談じゃないわっ!何しに来たって言うの!?」

「ご挨拶だな……ちょっと患者殺しに来ただけだよ」

「いやとんでもねぇ奴でワロタ」


 なんか様子がおかしい……


「黛、なんか病院中がインキンタムシだしお前の顔色もよくないしさては今朝も顔を洗わなかったな?何があった?」

「……あの女よ…分かるでしょ?」

「あの女?私の事か?」

「白浜玲美よ!あの女がずっと入院してるせいで!うちの病院はめちゃくちゃなのよ!!トラックは突っ込んでくるし!男の外科部長が何故か想像妊娠するし!小児病棟の子供達は片足けんけんで暴れ回るで〇じろう風の幽霊を見るし!全部!!全部あの女が居るからよっ!!」


 なるほど……

 封じ込められた混沌の力がこの閉所で爆発している……と。


 ならばちょうどいいや。


「黛、私白浜殺しに来たんだよね…」


 私がそう告白すると彼奴は「なぁ〜んだ、それならそうと言ってくれれば良かったのにぃ」ってヘラヘラしながら返してた。もはや狂気を宿してる。


「殺る?殺る?行く?行く?部屋行く?」

「うん」


 こうして旅のお供に白浜(舎弟)を手に入れた蘭子ちゃん一行は混沌の母、白浜玲美の病室へ…




 白浜の部屋の前はまさに呪われた病室だった。


 壁の一部は破壊され、雑に補修された形跡が見られるし、ドアノブはひしゃげ、赤いシミがこびりついて、異臭がした。部屋の真ん前の天井の明かりは消えてた。


「……一際すごいな」

「お願い……桐屋さん…私達を解放してっ!!」


 …行きますか。


「おーい白浜ー、入るぞーー」


 会うのは鉄パイプ頭にぶっ刺さった時以来か…なんて考えながら入室--


「ふたぐんっ!!」


 したら相変わらず耳障りな金切り声。

 そして室内に充満していたドス黒いオーラが部屋の外にまで溢れ出す。


「うっ!?うぷっ!!」


 黛は吐いてた。


 ドス黒いオーラの中で燦然と輝く狂人。

 荒れ放題の、監獄より酷い有様な病室の中で完全に目がイッてるし物理的に発光しながら叫ぶこのハゲこそが…白浜玲美です。


「くとぅるふ!ふたぐん!にゃるらとてっぷ

 !つがー!」


「黛っ!!なんでハゲてんだ!?」

「頭の手術したからでしょ!」


 眩しいっ!!

 混沌の力で物理的に常に輝いてる白浜の、丸刈りStyleにされた頭がまるで昇りゆく朝日のように輝いてる!


「あっ!桐屋さんじゃないですか!!お久しぶりですっ!!」


 …この人懐っこい笑顔を向けてくる白浜に私は一旦包丁を背中越しに隠す。


「…やぁ、お見舞いに来たよ?部屋…汚いね」


 この赤いシミはなんスか?


「お恥ずかしい…儀式に失敗しまして…」


 まるで手作りバレンタインチョコ失敗しちゃった☆くらいのテンションで言う白浜の足下には解体されたカラスさんが…

 この病院の敷地内に生息する=死なのだろう。

 このドス黒いオーラも室内の腐臭+陰惨な光景の賜物か…


「いや白浜…無事でよかった。私も凄く心配してたんだよ。うん」


 110番案件な女にまるで百年の知己と再会したかのように微笑みかける私…


 パリンッ!!



 そんな私に襲いかかって来たのは割れた窓ガラスの破片と…部屋に飛び込んできたカラスだった。


 グサッ!!


「あぎゃあ!?頭にカラスが刺さったぁ!?」

「ア“ーーーア“ーーー」

「ぎゃあ!?桐屋さんっ!?」


 黛は悲鳴上げて逃げ出した。目の前で頭にカラス刺さってんのに…看護師なのに…


 そして白浜…この女っ!!再会して一分でこのザマだ!!やはり地球滅亡はお前の仕業に違いない!!

 殺意を新たに包丁を強く握る私に「あらあら大変」と微笑みながら悪魔が歩み寄った。


「ふんっ!!」


 そのまま金槌でカラスの頭を叩き潰しつつ私の頭から叩き落とす。至近距離から生暖かい液体が頬を湿らせる。はっきり言って恐怖でしかなかった。


「ちょうど良かった。桐屋さん。今からナイアル様への生贄の儀式のお時間です。桐屋さんもご一緒にどうですか?」

「あー…たまにはいいかも…ね……」


 隙を伺うんだ…


「ちょうどカラスが居ることですし…そういえば、桐屋さんの信仰仲間さんはいつ紹介してくれるのでしょう…私ずっと待ってるんですけど…」

「あー…それね?易者のババアね?あの…もういいんだ」

「もういいとは?」

「だからいいんだって。アイツ、辞めたから」

「…それは神を信じ、奉るのをという事ですか?」

「うん」


 今かな?


「白は--」

「なんて事でしょうっ!!」


 既に頭の潰れたカラスをゴリラ的握力で握り潰す白浜さん。汚いトマトみたいに弾け飛んだ血飛沫と肉片に蘭子、戦慄!


「嗚呼…それはいけませんね…なんて不信心者…誅罰、行っときますか?」

「……(汗)いや…いい、んじゃない?うん…(震)」


 こいつこんなサイコだったっけ?ヤバい。震えが止まらない。


「…?桐屋さん?その包丁は……」

「はっ!?しまった!!」


 隠し持っていた包丁《エモノ》に気づかれた!と思って焦ったまさに次の瞬間だった!





 ドガガガガガガガガッ!!ズドンッ!!



 ……的な爆音と共に病室が謎の塊に侵食される。

 何が起きたのか全く分からないけど、私と白浜は突然部屋の中に現れた巨大な塊に危うく押し潰されるところだった。


 部屋は完全崩壊☆


「なっ…今度はなんだぁ!?」

「混沌ですっ!!混沌の波を感じますっ!!にゃる!しゅたんっ!!」


 至近距離で確認した謎の物体の正体…それは…


「…せっ……戦車!?」


 戦車だった。

 なぜ?


 状況を整理する必要がある。

 突然戦車が出現するわけない。つまり外から突っ込んで来たんだ!

 見ると病室の壁、天井が消し飛んでる。開けてしまった天井から覗く青空の下、やかましいプロペラ音と共に大きな影が上を泳いでた。


 あれは…大型輸送ヘリコプターCH-47…通称チヌーク!?


 多分自衛隊だろうけど…恐らく、何故か空輸中だった戦車が何故か病室の真上で何らかのトラブルから落下、私達目掛けて落ちてきたんだと思う。


 白浜玲美……


「にゃる!!」


 やはりこの女危険すぎるっ!!


「しゅたんっ!!」

「白浜ァァっ!!地球の為にっ!!往生せぇやぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 桐屋蘭子、魂の叫び。さよなら白浜、お前の事は忘れない。

 包丁振りかざした私が白浜に襲いかかった…


 その時--



 ボンッ!!



 落ちてきた戦車の砲身がなんと火を吹いた。

 流石にこれ以上何も無いだろうと完全に油断した私のド肝を抜いた暴発は、車体が傾き砲身が下を向いていた事もあって私達に直撃はしなかった…


 が、見事に床を撃ち抜いて風穴を開けた。



 …だけでは終わらなかった!!


「嗚呼っっ!!感じますっっ!!混沌をっっ!!世界に悲鳴と無秩序をっっ!!」


 なぜなら白浜が一層輝いていたからっ!!


 穿たれた風穴から閃光が昇ってくる!!


「なにっ!?まさかァっ!?」



 ドゴォォォォォオッッ!!!!


 *********************


『次のニュースです。千葉県大津野市檜野町、夜分総合病院《やぶそうごうびょういん》にて、自衛隊が空輸中だった戦車が事故により落下し病棟に直撃する事故が発生しました。さらに、落下後戦車の砲身から発砲があり、落下地点の地下十メートルの位置に埋まっていた第二次大戦時の不発弾に着弾し、病院を巻き込む大爆発が起こりました。この事故での死者は奇跡的に出なかったようですが患者、病院関係者含め数百人が負傷する事態となり、警察の方ではなぜ落下したのか、なぜ砲弾が装填されていたのか等、事故が起こった経緯について詳しく調べると共に--』




「…おねえちゃん、まっくろこげだ」

「…蘭子、あなた…」


 夕方、心を完全に折られた桐屋蘭子、抜け殻のように帰宅。


 あの後爆発の衝撃で天高く吹き飛ばされた私はあろうことか戦車を落とした輸送ヘリの機体に引っかかってしまいそのまま横須賀まで運ばれちまった…

 ヒッチハイクで帰ってきました。


 白浜玲美…奴はどうなったのだろうか?

 ニュースによると死者は出なかったらしいので…まぁ多分生きてる…多分てか生きてる。


 私は完全に心折られた。


 白浜殺すの無理。ていうかもう…近寄りたくなかった。


「蘭子っ!!!!」


 玄関で簀巻きにされた美堂親子を背後に怒号をあげるお母さんを抜け殻のように見つめながら…

 私の一日は終わった……


 地球滅亡まであと39日…



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