45日目 地球最後のバレンタインデー
2月14日火曜日、今日も雨。やたらと冷える今日この頃……
こんな寒い日といえば……そう。チョコレートが溶けにくよね?
バレンタインだっ!!
死ねっ!!
「おはよう陽菜、パパになにか渡すもの、ある?」
「……」
美堂家の朝。それは娘からシカトされる父親という悲しい構図から始まる。
華のJC。咲き誇る女子中学生、地球滅亡を4月10日に控えた人生最後のバレンタイン。
チョコレートのひとつも用意しとかなきゃ嘘ってもんだ。
「こうちゃぁぁぁん(悲)」
「むにゃ?」
「うぎゃあああああああああっ!!」
私とこーちゃんは陽菜の寝室でルームシェア中。部屋の占有率はこーちゃんが4、蘭子が4、陽菜が2。ベッドは月、水、金、土、日がこーちゃん。私は火、木。だけど私はこーちゃんを抱きしめないと寝れないのでこの2人はいつも一緒。どっちかがベッドを使う時はもう片方もベッドで眠る。
陽菜にはお情けで月曜日午前3時から6時までだけ使用を許可してる。まぁ、ぐっすり寝てるからそれも忘れちゃうんだけどね☆
美堂家への居候生活にも慣れてきたけど…マンションの一室に二世帯……やっぱり狭い。
でもそんなわがままも言ってられないんだ。
なぜなら……
「びょぇぇえええんっ!!ごめんよぉぉ!!借金があるせいでこーちゃんにチョコレートも買ってあげられないんだぁぁっ!!」
「……おねえちゃん、なかないで」
「……蘭子」
「陽菜からカツアゲするからもう少し待っててぇ!!」
「……蘭子(怒)」
バレンタインデーとはローマの聖ヴァレンティヌスとかいう人がぶち殺された日らしい。彼がなぜぶち殺されたのかは知らんけど当時のローマ帝国は兵士に結婚を禁止していたとされてるんだって。それが関係してるんじゃないのかって蘭子は読んでる。
チョコレートがどっから出てきたのかは知らん。
バレンタインデーはキリスト教では祝日扱い。にも関わらずこの日本、クリスマスを祝うくせにバレンタインは学校があるんだ。
「がじがじ」
「痛い……(悲)」
桐屋蘭子、怒り狂いながら死んだ魚の目と登校。チョコがなければ陽菜をかじればいいじゃない。
「陽菜。私はお金が必要なんだよね」
「……うん知ってる。早く稼いで出て行ってね?」
「そこで私、インターネットで一旗あげようと思ってるんだ。陽菜も一緒にどう?」
「え?……巻き込まないでくれる?」
「いやさ……やっぱり私は何をするにも、陽菜が隣に居ないと始まんないんだよね」
我ながらなんて爽やかな一言。それに対する腐乱臭の答えがこちら。
「……受験前に蘭子と遊んでる時間ないの。死んで?」
登校。しかし陽菜の目は血涙を流していた。
「きゃーっ!?」「美堂さん!?目がっ!とうとう壊死したんですね!?」「おいやべぇぞっ!?」
「……違うの。蘭子に噛まれた」
「……ぺっ!」
私が登校してきた理由は他でもない。教壇の上に置かれた貯金……間違えた、募金箱です。
哀れなる少女蘭子ちゃんの為に我こそはと財布になる事を志願した勇士達のお気持ちを頂戴……
じゃらじゃらじゃらっ!!ちりんっ
「……っ!!??」
ひっくり返した募金箱から大量の500円玉が…っ!!
うそ……まさか本当にお金入ってるとは……っ!!え?うそ。
「こっ……ここここ、これはっ!?」
「感謝しなさいよ?」
「おかん!?」
おかんの仕業ですか?
「なんだかんだ言って、家が無くなったあんたにみんな同情してんのよ」
「おっ……おかんっ(震)」
潤む瞳でみんなの顔を見回せば……
「仕方ねぇからな」「桐屋さん、元気だして?」「今回だけは助けてやるよ」「もうすぐ卒業だし…桐屋さんとも離れ離れになっちゃうから…最後くらいね?」「少ないけどこれ、俺らの気持ちってやつだ」「僕っ!桐屋さんの為ならいくらでも投げ銭するよっ!!」
みんな……っ。
「私からも声をかけたんです。そしてら他のクラスの方も何名かお金を入れてくれたんですよ」
委員長……そこまで……っ。
「よかったわね、蘭子」
おかんの声を聞きながら、私の心は暖かな気持ちで満たされていく……貰ったのはお金じゃない。お金より大切なもの…それは形のないものだけど暖かくて、優しくって……
私このクラスでよかった!!
「ありがとうみんなっ!これでチョコレート買えるよっ!!」
『は?(一同)』
これでこーちゃんにチョコレートプレゼント出来るよ!うわーーいっ!!
「こうしちゃいられねーぜ!陽菜!桐屋は早退したって御嶽原に行っといて!そんじゃ!!」
「……まだ始業前だから欠席よ、蘭子」
*******************
他人から貰った金=タダ。つまりタダでチョコレート。
そう、高級チョコレートである。
ここら辺のNOWなJCの遊び場こと忘ヶ崎に足を運んだ私はるんるんのまま突き進む。
蘭子は知っている……忘ヶ崎にとってもいいお菓子やらスイーツやらを取り揃えてるバレンタインフェアやってる店があるって事を…
待っててねこーちゃんっ!!
本日おじゃまするのはこちら、マルイウィーク3階『スイート・パフューム』忘ヶ崎店さん。こちらで本日世界中から厳選された至高のチョコレートやらお菓子やらが叩き売られてるんだって。
「イラッシャイマセヨ〜」
「ここで高級チョコの叩き売りしてるって聞いたんだけど……」
「タタキウッテナイヨ〜」
話が違うけどバレンタインフェアなるポップなポップ広告を発見。
……あとなんでか知らんけど入館してから警備員にマークされてる。
「失礼な……まだ何も盗んでないってのに…さて、桐屋蘭子、いや狩人。ハンティングの時間です」
「おや?桐屋さんじゃないか」
「誰だ?私のハントを邪魔するのは…言っておくけどこの桐屋、動くものを本能で襲う習性がある。近寄らない方がいいぜ」
「何をハントしに来たの?」
「は!?」
振り返った先に立っていたのは陽の光を浴びて輝くライ麦畑のような美しい金髪の美少女。この御方の名前は風花さん。我がクラスの不可侵領域。
「風花さんじゃあありませんか!?その節はお世話になりました!!」
「うん。楽しかったね」
その節はってのは蓮司の頭が爆ぜた事件の事。
「あの……本日学校は…?」
「そういう桐屋さんこそ、学校は?」
「あ、わたくし本日バレンタインという事でございまして……弟にチョコレートでも買ってやろうかと思いまして…はい」
「うん、学校は?」
「風花さんは…………もしかして体調不良ですか?」
「だったら家で寝てるかな…そうだな…多分君と同じだね」
「同じと申しますと……風花さんもバレンタインチョコを…………?」
「ただのサボりって事さ」
流石風花さん…風花さんクラスになれば受験シーズンなんて関係なしに学校をボイコットするんだ…眩しい。これが風花灯。
「桐屋さん、家が吹き飛んでお金が大変だって言ってたけど……」
風花さんはバレンタインフェアに並ぶチョコレート達をちらりと見て…
「お金は大丈夫なの?募金を募るほど困窮してるんでしょ?」
「あっ……それに関しましてはあの、募金がだいぶ集まりましたのでそのお金で…へへ」
「……私も気持ちだけ入れたんだけど、まさかチョコレートに使われるとは思わなかったな」
桐屋蘭子不覚。とんでもない墓穴を掘ってしまった。風花さんまで募金してくれてたなんて…怒りを買ってしまったか!?
……もしかして殺される?
「すすすすすすすみません今すぐ返金いたしますすすすすすはいっ!!」
「別にいいよ。あげたお金だからね。好きに使って…」
「ちちちちちなみにおおおおおいくら程このみっともない乞食にお恵み頂いたんでしょうかかかかかかか」
震えが止まらない……
「……10円だよ」
「あの、最低500円からなんですけど?」
*******************
風花さんも「せっかくなら私も買おうかな」との事です。はい。
「風花さん、誰にあげるの?」
「小林君」
「は?」
「嘘だよ。桐屋さんは小林君にあげなくていいの?」
「え?蓮司ならもう死んだ」
「まだ生きてるよ?入院中だけど……」
「いや、私の中では死んだ」
「……」
「死んだ」
「そっか」との事です。
さて問題のバレンタインフェアだけど、確かに噂に違わぬ品揃え。そして価格設定。
「桐屋さん弟さん居るんだね。いくつ?」
「4歳」
「凄い歳離れてるね。可愛いでしょ?」
「よくぞ訊いてくれた。名前こーちゃんって言うんだけどねこれがもう奇跡のような存在な訳ですよ。まず信じられないくらい頬っぺが柔らかい。指が呑み込まれるほどぷにぷにしてるんだ。そんでお目目がね、もうキラキラ輝いてるんだよ。あれは天然物の黒水晶にも劣らないね。短い手足でひょこひょこ歩くんだけどこれがまたたまらないんだよね!しかもね!いっつも「おねーちゃん」って私の所に来て膝の上に座ってくるんだなこれが。こーちゃんたら甘えんぼさんだからお風呂も寝るものも一緒なんだけど特に一緒に寝る時がさ、ぎゅって抱きついてきてもう離れないんだから!私の体に顔を押し付けてきて頬っぺがぷにゅんってなってんのがもうたまらんのですよ。もちろん見た目だけじゃないんだよ?とってもいい子。お利口さん。こーちゃんなんてもう、自分の名前漢字で書けるんだからすごいよね!まぁこれも桐屋家の英才教育の賜物なわけですけど?お片付けはちょっと苦手でよくおもちゃ散らかしてるんだけど「お片付けしようね」って言ったら「んだ」って言ってちゃーんとやるんだから。この返事する時の「んだ」とか「にゃ」とか言うほにゃほにゃ言葉が可愛いんだこりゃ!しかも野菜!ピーマン食べれるんだよ?風花さんピーマン食える?蘭子食えない。でもこーちゃんは…?食べれるんだよねーっ!ほんと好き嫌いしないんだから!よく食べるんだよね!偉いよね!!姉の私が言うのも変だけど歳の割にしっかりしてるしこりゃ将来が楽しみだよあたしゃ!」
「……そうなんだ」
「風花さんは兄弟居る?」
「居るよ」
「へー……何人くらい?」
「…………私入れて10人くらいかな?」
「10人!?なんの冗談!?」
この不景気な昨今、子供は贅沢品などと言われるご時世に10人兄弟!?
「もしかして風花さんの家って凄いお金持ち…?」
「そんな事はないけど……」
なんて言いながらGODIVAのチョコを手に取る姿からは金額なんて気にしないという王者の風格が滲み出てらっしゃる。
ただ、風花さんは孤高なる不可侵領域。これ以上プライベートに踏み込むのはいけないことな気がする。
「…ウイスキーボンボンってウイスキーの息子って事なのかな?」
「違うね。ただお酒入ってるからこーちゃんには止めておいたら?」
「…これってマシュマロ入ってんのかな?」
「かもね」
「なんかこれ…もにゅもにゅしてるね」もぐもぐ
「会計前に食べちゃった…」
あれも気になるしこれも気になる…見たことないチョコレートばっかりだ…
「これ…なんだ?なんで白いんだ?チョコレートなのに」
「桐屋さんもしかしてチョコレート食べた事ないの?」
「どれも気になるなぁ…目移りしちゃって選べないや。こーちゃんに相応しい最高級チョコはどれなんだ?」
「…なら全部買っちゃえばいいんじゃないかな?」
風花さんはやはり金持ちに違いない。その発想がもうブルジョワ。多分コンビニ行ったら棚単位で買い物する人だ。リフトで棚ごと持って帰るタイプの人だ。
「でもこーちゃんこんなに沢山食べたら鼻血出ちゃう…舐めたい」
「余った分はおすそ分けすればいいんじゃないかな?」
「誰に?」
「……桐屋さんにお金を恵んでくれた、みんなにだよ」
私の両ポケットを膨らませるジャラジャラした小銭(500円玉)達。その重みが忘れた頃にのしかかる。
「桐屋さん、私は桐屋さん好きだよ。面白いし」
「ぴきゃ!?」
風花さんに告白された!?
「…でも、あんまり奇行を重ねすぎたら嫌われるかもしれないよ」
指摘された!?
「そのお金はみんなが桐屋さんを心配して募金してくれたお金だよね?…チョコレートに使うならせめてみんなのチョコレートの為に使ったら?」
「……ぐっ」
諭すようなくそ正論が胸に突き刺さる。これが私の生き様、ライフスタイルだと言い聞かせてきた。その思考回路に唐突に襲い来る「お前常識ねぇのかよ」の一言。
クラスメイト達の顔が頭を過ぎる…パッと思い出せたのは6人くらいだったけど……
「〜〜〜〜ッ!!!!」
「そんな葛藤するほどいや?」
…………仕方ない……か。
*******************
「……つーわけでお前らにもチョコ、やるよ」
「蘭子あなた……今日は欠席じゃなかったの?」
学校にとんぼ返りした私はクラスメイト達にチョコレートをばら撒く。
「ほら拾え!ギブミーチョコレートって言え!」
「こいつ俺らの金で買ったくせに偉そうだぞ!」「でも見ろ!GODIVAだぞ!」「えー?桐屋さん、あーしらにもくれんの?」「バイブス上がる〜」
なんだかんだと文句を言いつつもチョコレートに群がるクラスメイト達を見て、蘭子ほっこり。
「チョコ……チョコレートだっ!」「今年ももう……ダメかと……っ!ううっ」「うわぁぁぁぁっ!!桐屋さんからチョコレート貰ったぞぉぉぉっ!!」
凄くほっこり。
そんな私の隣で何故か着いてきた風花さんが笑ってた。あの風花さんが笑うなんて…っ!
「ね?良かったでしょ?これで嫌われないね。桐屋さん面白いんだから、嫌われたらもったいないよ」
「……あ、はい」
「……ね、桐屋さん。訊いていいかな?」
「あ、なんでしょう?」
「どうして桐屋さんはいつも変な事するの?」
変な事……?
「私は私の生きたいように生きてるだけだけど……それを変だと言うのならそれはみんなの勝手。他人がどう捉えようとも自由だけど、私は私を変だと思った事はない」
「……なるほど、変だ」
「失礼な……」
「じゃあ桐屋さんは元カレの頭を消火器でぶん殴ったり、クラスメイトからの募金でチョコレート買ったり、校庭で猫の生き血を啜ったりするのが、やりたい事なんだね」
「生き血を啜った事はないね!?」
「やっぱり面白いな…」
風花さんは懐から1枚の板チョコを差し出した。何の変哲もないミルクチョコ。
「桐屋さん、好きだよ」
……!?!?!?
「あっ……はわっ!?わわわわわわ…ぅ!?あぅああああ!?///」
「卒業まであと少しだけど、仲良くしてくれると嬉しい」
「あああああああああありがとうございす!?!?!?」
蘭子に春が……来た!?
バレンタインデーも終わったので地球最後の日まであと55日…




