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40日目 委員長とトモダチになったよ

 桐屋蘭子15歳。私はその日校門の前で土下座してた。

 対面するは我がクラスの委員長。名前は…知らないんだ。ごめん。それも含めての渾身の土下座。

 2月9日木曜日。魂の土下座!!


「昨日は……めんごっ!!」

「そ、そんな……やめてください……」


 ざわざわ。


「なんだ?」「あいつ、3年の桐屋先輩だっ」

「あの狂ってると評判の!?」「2年の体育祭の時に優勝の結果を分ける土壇場のブロック対抗リレーのアンカーに逆立ちで挑んで大敗したっていうあの!?」「桐屋先輩…スカートがめくれてパンツがモロ見えだぞ!!」「黒、か…結構際どいの履いてるな」「なっちゃない……チラリズムにこそ正義はある」


 朝から校門前を賑わわせる日常の一幕。私が土下座する理由は昨日、委員長の外見をディスったから。


「…落ち着いてください…私、怒ってませんよ?」

「…昨日、委員長は私の為に泣いてくれた」

「泣いたのはあなたにディスられたからですよ……?」

「私の身の上話を聞いて同情してくれたのはあなたが初めてだ…っ」

「…そうなんですか?」

「親友の陽菜ですら、私の家族の過酷な経歴を聞いたら鼻で笑ったよ」

「……そんな事実はないよ」


 親友こと腐った魚の目、美堂陽菜の登場だ。

 私のスカートを直しながら蔑んだ腐った視線を向けてくる陽菜。ここを通りたそうだが、今は忙しいので。


「許して。いや、許してくれとは言わない。でも願わくばいいんだよって言ってほしい」

「どっち……?(困惑)」

「どうしたら許してくれる?委員長。私、予算300円以内ならなんでもするからっ!」

「えっ?……じゃあ…焼きそばパン買ってきてくれます?」

「……いやそれは…タクシー代で300円超えるし……」

「購買で売ってますけど?」


 うちの購買の焼きそばパンはパサついてるんだよ。ソースが少ないんだなこれが。そんな物で満足するこの桐屋じゃないので…


「冗談です。あと、通行の邪魔になってるのでそろそろ退いた方がいいのでは……」

「委員長っ!!この桐屋!このまま引き下がる事などできませんっ!!」

「……じゃあ合唱練習してくれます?」

「しますっ!!陽菜も!!」

「……え?」




 愛してるぜ委員長。


 朝のホームルーム前、私達は屋上に居た。屋上には鍵がかかってるけど通学カバンにレンチ常備な私にかかれば扉を破壊するのなんて訳ない。


「……ホームルーム始まっちゃうよ」

「蘭子……なんのつもり?」


 遅刻を気にする優等生と死んだ魚の目ですが、桐屋蘭子、約束を果たさせて頂きやす。


「合唱練習」

「今……?」

「委員長、この人おかしいんだよ…軽はずみな事言っちゃだめ」


 これで許してくれるんですよね?


 合唱練習とは--

 私ら3年は3月くらいに卒業なんだけど、その前に予餞会なるイベントがあるらしい。予餞会って旅立つ私達を見送るイベントなはずなんだけどそこで合唱しろって無茶ぶりが恒例らしいんだ。

 その練習。


「桐屋蘭子、歌います……『旅立ちの日に』」

「……(汗)」

「……(汗)」

「白い光のなぁ〜かに〜山並みは萌えてぇ〜♪」

「(え?上手い……っ)」

「(流石蘭子…カラオケで平均90点超の女)」

「遥かな空の果てまでも〜君は飛び〜立つ〜♪」

「……桐屋さん、意外でした。桐屋さんにこんな特技が…」

「……蘭子、今日もビブラートが効いてるわね」

「限り無く青い空にぃ〜心ふる〜わせ〜……あのさ、合唱練習だよね?私のソロになってんだけど?」


 真面目にやって(怒)


「桐屋さん、感動しました」

「まだ歌い出しだよ?」

「この歌声を聴いたらみんな驚くと思いますっ!まるで森の湖畔で唄う妖精さんですっ」

「委員長……そんな……ティンカーベルの1億倍可憐だなんて…///」

「蘭子……相変わらず都合のいい耳してるね」

「今日の放課後から是非練習に入ってくださいっ!桐屋さんが本気出せばきっと素敵な合唱になりますよっ!!」

「プルンッフフフフッ……まぁ…いいけど?」

「蘭子のこの笑い声……久しぶりにバイブスがハイテンションだ……おや?」


 なぜか陽菜が屋上から身を乗り出して下を見てる。とうとう自殺を企てたか。まぁ止めやしませんよ?あなたの命だから…


「ふぁ〜〜〜♪」

「陽菜さん!?危ないですよ落ちますよ!?」

「……あれは…小林蓮司?」


 なに?


 目が腐ってるはずの陽菜が屋上から何かを見つけられるはずはないんだけど…私は陽菜に釣られて……まぁ別に?蓮司に反応した訳じゃないんだけどね!?

 私は陽菜に習って屋上から身を乗り出す。


「ふんっ!……あ、あれは!?」

「桐屋さん!?乗り出しすぎです!!」


 屋上の柵から体9割乗り出してコウモリみたいに足だけで逆さにぶら下がって見てみたら……


 体育館裏に蓮司が…っ!!


「あれは……まっ!まさか!?」


 蓮司だけじゃ…ない!

 体育館裏、日陰になったその場所に2つの影。

 1つは蓮司、元カレ。

 蓮司と向かい合うもう1人の人物…それは否が応でも目立つ立ち姿。


「蓮司と……風花さんが…体育館裏で密会してるっ!?!?」


 ********************


「覚えるかい?委員長……昨日の蓮司を…あれは完全に私への未練を断ち切れてない男のそれだった」

「情けない姿でした」

「それだけじゃない…蓮司は私の入院中にも言い寄って来て……ようするに、蓮司は私に惚れている。これは確信だ」

「凄い自信ですね」


 昼休み、私と委員長は腐った魚の目を仲間に入れつつ給食に舌鼓を打つ。しかし私の目は完全に殺意に満ちていた。


「ホームルームをすっぽかしてまで体育館裏で密会しなきゃいけない理由…それはなにか?」

「……蘭子の方が小林君に未練タラタラなんじゃ…」

「おい、口の利き方に気をつけなよ腐った魚の目。私は私を舐める奴を誰であろうと許さない。それだけなんだから」

「美堂さん……なんか凄いですよね…よく桐屋さんと友達で居続けられると感心してます」

「…委員長、私と蘭子は複雑な関係なの。一言では言い表せない」

「そうなんですか?」

「ある時は友で…ある時は敵…そんな関係」

「じゃあ今は?」

「……他人かな」

「薄情ですね」

「見なよあの目…蘭子がああいう目をしてる時、関わらない方がいい」

「何を2人でブツブツ言ってんのよ。密会の理由はなんだと思う?いや、答えは決まってる」


 そう……告白だ。


「あいつ…次から次に目移りしやがって…予定変更だ。白浜の退院を待とうかと思ってたけど、今殺す」

「えっ…殺……(汗)」

「蘭子、落ち着きなよ……」

「これが落ち着いていられるか?あいつ昨日真剣な眼差しで「蘭子、俺…」とか吐かしてたんだぞ?その男が舌の根も乾かぬうちに他の女と会うなんて…」


 何が裏切られて反省しましただ。やはり人間の性根はそう簡単に変わらない。浮気野郎は殺す。しかし殺気立つ私にいつだって冷静な委員長が恐れながらと進言します。


「でも、そうと決まった訳じゃないですよ?まだ桐屋さんがフラれたと決まったわけでは…」

「待って?フラれたってなに?フッたのは私。それに私はもう蓮司とは終わってんの(怒)」

「なら別にいいのでは…?」

「あいつが私にした仕打ちへの復讐が終わってないから」

「…復讐で家まで言ったじゃない、蘭子」

「あんなんで終われるかッ!!」

「落ち着きましょう?桐屋さん…確認してからでも遅くないですよ」


 …そうだな。


「まぁあいつが風花さんにメロリンだろうがなかろうが殺すけどね?」

「……ならさっさと終わらそう」


 フォークを逆手に握る陽菜、プロの貫禄だ。流石苦楽を共にした友時々敵。多分これ以上長引かせて面倒に付き合いたくないんだと思う。

 陽菜に付き合えとか一言も言ってないけど着いてくるこの義理堅さ。例えるならルパンと次元。


「気になるんだったら訊いてみたらどうですか?小林君に…」

「……小林君に直接訊くと襲撃に勘づかれるリスクがあるよ」

「美堂さん…殺る前提は覆らないんですね(汗)」

「ドナルド…」

「となると、ね。蘭子」

「風花さんに訊くしかねぇな」


 私と陽菜の視線がシンクロし委員長を見る。

「えっ?」と冷や汗を垂らしてる場合じゃない。彼女は計画を聞いてしまったんだ…このまま他人のまま引き下がる事は許されない。




 ……というわけで。


「ガタガタガタガタ」

「行け!行くんだっ!!委員長っ!!」

「委員長…可哀想……」


 教室の隅っこで1人給食のパンを食らう風花さんが委員長にロックオンされた。

 孤高の美少女風花さん。誰もが一目置く存在でありながらそのオーラ故に誰も近寄ることができない。


 そんな風花さんと唯一対等に渡り合える可能性があるとすればそれは……委員長をおいて他にはいないのだ!


「か、風花さんっ!」


 いった!

 しかし委員長をもってしても緊張は隠せないか。


「…なに?藤本ふじもとさん」


「…陽菜、藤本さんって誰?」

「もしかして委員長の名前…?」


 え?委員長って名前じゃないの?


「…初めて…名前で呼ばれた…(涙)」

「……私に何か用かな?」

「はっ!……あっ!あのね!ごめんなさいです…あのですねっ!実はですね…ちょっと訊きたいことがありしまて…」

「……うん」


 こんなに距離を取ってるのになんて緊張感…これが風花さん。凍てつくような眼差しはこちらの心臓をわし掴みにしてるみたいだ……

 ちょっと怖いんだよな…


 それでも委員長は行く!


「あの…実は見てしまったんですね……」

「なにを?」

「…今朝……あなたが…こ、小林君と体育館裏で……」


 突然風花さんが立ち上がった!

 風花さんが立ち上がる。そのアクションに教室内に異様な緊張が走った。風花さんの一挙手一投足は決して無視できないのである。

 見ろ、隣の陽菜なんて緊張で息ができてない。


「……ʚ( ˘꒳˘ )ɞ」

「陽菜!?死ぬなっ!!息しろ!!」


「……ふーん…………で?」

「ガタガタガタガタ(涙)」

「訊きたいことって…?」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタ(涙)」

「…………」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ(涙)」

「…………なるほど」


 何がなるほどだ……?(汗)


「トイレで話そうか?」


 ********************


 委員長がトイレに連れて行かれたっ!!

 この事実はクラス中を騒然とさせる。


「委員長…」「一体何事なんだ…」「なにか…とんでもないことが起ころうとしてるのか?」「あの風花さんが自分から動き出すなんて…」「委員長…まさか…殺されないよね?」


 行こう!


 あと、陽菜は死んだ。呼吸不全で。


「君はここに置いていく…もう誰も決して…君をこれ以上傷つけないように……」

「ʚ( ˘꒳˘ )ɞ」


「あとまた桐屋さんがなんかしてるよ」「目を合わせるなっ!」「え?美堂さん息してないんじゃない?もしかして……死んだ?」「元から目が死んでるから…分かんないよ」



 遅れてトイレに駆けつけた。コソッと様子を伺うと中で風花さんが委員長を壁際に追い詰めていた。

 昼の日差しだけが差し込む薄暗い女子トイレ。独特の緊張感の中、委員長は半べそかいてた。


「藤本さん」

「ガタガタガタガタ…」

「…………本題の前に、そんなに私って怖い?」

「タスケテ……」

「……別に獲って食ったりしないよ」


 え?しないの…?


「藤本さんが訊きたいのって…あそこで私と小林君が何をしてたのか、だよね?」

「ガタガタガタガタ…コクコク」

「それが気になるのってさ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタ…」

「……藤本さん、小林君の事、好きなの?」


 え?


「そうなの!?」


 思わず飛び出しちゃった。

 いきなり出ていったもんだから委員長の心臓が機能停止寸前だったけど、風花さんは私を一瞥しても特段反応がなかった。

 なんか…強者感……


「…………」


 あと、風花さんの前に立ってしまった…

 全身にのしかかるプレッシャーは覗き見してる時の比ではなく……


 なんだこれ……冷や汗が……っ!こ、呼吸が…っ!!


「はぁはぁはぁっ!!……かはっ」

「……私はなんかさ…人体に有害な毒素でも出してるのかな?流石に傷つくよ?」

「はっ!?委員長って蓮司の事好きなの!?」

「どうしてそうなるんですか!?」

「だって風花さんが言ってるじゃん!?」

「私は訊いただけだよ?」

「桐屋さんが何してたのか訊いて来いって言ったんですよね!?鳥頭ですか!?」


 違うらしい。


 風花さん「ふーん」と私を見つめる。薄らと浮かべる微笑。なんて…蠱惑的なんだ。なんか、こういう些細な表情ひとつから女としての格の差をみたいのを見せつけられてる気がする…


「そっか…気になってたのは桐屋さんの方か」

「べっ…別に気になってねーしっ!!」

「そうなの?」

「そうだしっ!!ちょっと何してんのか興味があっただけだし!!」

「それを気になってるって言うんだよ?」

「へっ?…アッ、ナマイキイッテスミマセン」

「だからさ、そんなにビビんないでほしいんだけど…」


 ダメだ…いつもの調子が出ない。


「…で、訊きたい?何してたか」

「……ヨ、ヨロシインデショウカ?」

「うん。別に隠すことじゃないし…」


 ついに語られる真実!話そのものはただのJCの暇つぶし程度の会話だけど風花さんの口から語られるだけで国家秘密レベルの重大事項のような気が……


「告白されたんだ。好きですって……」


 ………………(゜д゜)

 ……………………( #・᷄ὢ・᷅ )


「やっぱりじゃないか!?!?ありえなく無い!?昨日の今日でどーして他の女に告れるんだ!?え!?イミワカンナイ!!どうして!?昨日私を庇ったのってどういう心境!?ねぇどうして!?委員長ぉっ!!」

「おおお落ち着いてください桐屋さんっ」

「やはりあいつを殺して私は生きるっ!!」

「桐屋さんっ!!はわわわ」

「頭に乾燥チーズ叩きつけてくれるわっ!!」

「……落ち着きなよ桐屋さん」


 風花さんに落ち着けと言われたら落ち着かなければならない。私はスンッてなった。


「なんかごめんね?」

「えっ?いえ別に?…てか、なんか勘違いしてらっしゃるようですが……別に蓮司が誰に告ろうと私には関係ないんです」

「まだ好きなんじゃないの?」

「あいつが生きてる事が許せないんです」

「桐屋さんってヤバい人なんだね」


 あっ…でもぶち殺す前に……


「……あの風花さん、それで返事は……(汗)」

「……」

「……(汗)」

「まだしてないんだ」


 ……(汗)


 これは……どーしたものでしょうか?もし、もしだよ?風花さんが蓮司ラブだとしたら私、風花さんを敵に回すって事?

 それって大丈夫?私、殺されない?


 今桐屋蘭子にミサイル直撃直前より死の予感が走っていた。


「……えっ…と……風花さん的には…蓮司は……その……(汗)」

「……どーしよっかなぁ…………」

「(震)」「ガタガタガタガタ」


 極限の緊張感。私は風花さんとの戦闘を考慮しあらゆるパターンを想定するけど、勝てるビジョンが思い浮かばない。白浜をぶつけても3秒で首へし折られそうだ。

 どうしよう……(汗)


 でもその緊張も風花さんが唇を綻ばせ、弛緩する。


「断ろうと思ってるよ。別に小林君の事好きじゃないからね」


 蘭子の胸の重りがストンって落ちる。


「じゃあ、あの…ぶち殺させて頂いてもよろしいんでしょうか?」

「いいよ」

「え?…いいんですか?ダメじゃないですか?…人として…(震)」


 風花さんの許可が出たので堂々と殺ろうと思います。


「ひゃほぅっ!!蓮司、コロス!!ランコ、レンジ、コロスッ!!」

「--ただし」


 狂喜乱舞の蘭子にただしを突きつけた風花さん。この感じ…なにか厄介な条件を突きつけられる前振り…

 バカな…っ!風花さんにとって蓮司なんてオキアミ以下の存在。何を要求しようってんだい!?


 …どうしよう。こーちゃんを差し出せとか言い出したら……その時はこの場で…風花さんと戦わないといけないっ!!


 ドキドキ…



「……ただし、私も付き合っていい?」

「………………え?(汗)」

「小林君、ぶち殺すんでしょ?」

「……………………え?(汗)」

「なんか面白そうだ」



 ……この人、やべぇ奴なのかもしれない。


 蓮司はもうすぐ死ぬけど地球滅亡まではあと60日…

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