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33日目 もう住民票移します

 2月2日、木曜日。

 桐屋蘭子、退院早々学校にぶち込まれる。鬼畜。

 地球滅亡まであと68日。元気になった脚で残り少ない人生を浪費すべく学校にやって来たなら…


「おはよう蘭子、みんなあなたの噂してるわよ」

「黙れ裏切り者のおかん」

「!?」


 教室でいつぶりかの再会を果たすおかんこと阿部波圭。このデブが……この女は私と同じ志望校を目指しながら、私に抜け駆けして私立入試をちゃっかり受けやがった裏切り者なのだ。


「……来たんだ、蘭子…」

「陽菜……いや、死んだ魚の目……」


 そして美堂陽菜。私の真の親友とも。私が私立入試を受けられないと聞いて入試を蹴った、真の友だ。私は生涯、お前を愛そう。

 熱いハグをおかんに見せつける。疎外感と共に死ね!おかん!!


「陽菜!!」

「蘭子……なんか臭いっ」


 今朝餃子食べたからかな?餃子の上からにんにくチューブぶっかけた。


 ……さて、なんだか教室が騒がしい。

 伝説的脱線事故から奇跡の生還を果たした私の実物を前に浮かれるのは分かる。

 やれやれ……

 私はそっと机の上にサイン色紙と油性ペンを並べるのだ……


「……何してるの?」

「裏切りおかんには書かないけどね…みんな、私のサインが欲しいんでしょ?」

「……」「……」


 教室の扉が開く。私は目を見開く。

 そこには舎弟、御嶽原の姿が……

 あいつ!校長先生の前で未成年に乱暴したのにクビになってない!?


「みんな席に着けー…」

「御嶽原……っ」

「来たな、桐屋……後で話があるから校長室まで来なさい」


 ********************


 貴重なJCの昼休み……世界一忙しい生命体である女子中学生の休憩時間を潰すとはいい度胸が過ぎる。

 しかし何故に校長室……?


 鏡の前でしっかりセーラー服を整えて私は校長室の扉を……


「おらぁ!」


 蹴破った!


「桐屋さん!?」


 待ち構えていたのは推しの校長、そしてやり手の教頭先生、地元最強卍との呼び声高い二年の室伏君をゲンコツ一発で沈めたと噂の生徒指導の田町先生、あと御嶽原。

 私は最推しの校長に自慢の健脚を見せつけつつ、座る。


 何事?


「ふぉっふぉっ、桐屋さん、退院おめでとう。お見舞いにあげたリンフォンは完成しましたか?」

「校長先生…///最後の魚の形が難しくて…」

「ふぉっふぉっ」

「それで……ご要件は?」


 校長と話してるのに田町先生が「これを見ろ」とスマホを机の上に……

 そこではY〇uTubeの動画が再生されてる。


 見てみよう。


『占いの館『万華鏡』公式Y〇uTubeチャンネルじゃ!今日から毎日投稿していくからよろしくなのじゃ!なぁ孫』

『皆さん、おばあちゃんの老後の暇つぶしにどうぞお付き合いください…』


「……え、易者のババアだ…」


 あいつ調子に乗って動画配信まで始めた…


「やはり知り合いなんだな…続きを見てみろ」


 高圧的な田町先生に促され続きを再生。


『今日は『万華鏡』のメンバー紹介じゃ!まずはワシ、この占いの館を率いる頼れるリーダー、三十年前ヒマラヤの地で修行し世界に十人も居ない超越者として認定された、ワシじゃ』

『すみませんまだ名前は決まってないんです』

『そしてワシの血を引く、孫じゃ』

『孫です』

『そして最後に…ワシの一番弟子を紹介するぞい』


 でかでかと表示されたのは私の顔だった。しかも、おでこにニキビができてる!!

 慌てておでこの現状を確認してる場合じゃない。


『ワシの一番弟子……未来予知の蘭子じゃ。今は例のバナナ事故で入院中じゃが、退院したら動画でまた紹介するからの!』

『彼女の未来予知は百発百中、皆様、是非『万華鏡』にて奇跡の未来予知少女蘭子ちゃんの占いを受けに来てください。100%当たります』

『そういう事じゃ!これから毎日動画で占いしていくからみんなチャンネル登録よろしくなのじゃ!』


 …………


 桐屋蘭子、震えが止まらない。

 時空のおじさんがこれを見たらなんて言うだろう……

 早く……何とかしないと……


「桐屋…」

「うぎゃあーーっ!!」


 バキャッ!!


「俺のスマホを投げるな!!」


 やり手の教頭が発狂する蘭子に話しかける。その顔は険しい。


「桐屋さん……うちの学校はバイト禁止です。というか、中学生がバイトなんてしていいと思ってるんですか?」

「ちょっ……ちゃいますねん!」

「高校入試も控えてる大事なタイミングで…しかも動画投稿なんて……」

「だからちゃいますねん!」

「桐屋」

「黙れ御嶽原、このロリコン野郎」

「お前っ!!」

「ふぉっふぉっ」


 校長先生が一触即発の空気感を四散させてくれた。この笑顔……やっぱり素敵だ。

 他の誰に勘違いされても構わないけど…校長先生に誤解されたまま卒業するのは嫌だ!


「校長先生、聞いてくだちい」

「桐屋さん……卒業間近なあなたに言うか迷いましたが……こういう事をしてると高校受験にも響いてしまうかもしれませんよ?ふぉっふぉっ」

「誤解なんですっ!!」

「じゃあこの動画はなんなんだ?」

「うるさいロリコン!校長!聞いてください!この先生、生徒と恋あ--」

「あーーっ!あーーっ!!校長!まぁ今回はこの辺にしませんか!?本人も反省してますし!?」


 これは早急に何とかしなければならない……

 やはりあの女を……混沌の母をぶつけるしかない……っ!!


 ********************


 ゴギュルルルルッゴキュッ


 おかんのお腹が鳴っていた。

 地鳴りかと勘違いする爆音と共に放課のチャイム。血に飢えた中学生達が校舎という名の監獄から解き放たれる。

 しかしおかんこと阿部波圭が飢えていたのは腹だった。そしてそれはこの桐屋蘭子も同じこと……


「くふっ……エネルギーが……」

「…おかん……昼休みにパン十五個も食べてたのに…燃費悪すぎない?」

「腐った魚の目。私もお腹空いたよ。ラーメン食べたいな」


 昼休みを指導という名の虐待で潰された私の胃酸は胃の内壁を焼き始めている…


「蘭子、陽菜……私オススメのラーメン屋あるんだけど、奢るから行かない?」

「ふん、おかんよ。私立入試の裏切りをラーメン一杯でチャラにしようという魂胆が見え見えだぜ…乗った」

「だからなんなのよ裏切りって…」




 というわけで!


 やって参りました!こちらの店舗!なんでも先週オープンしたばっかりなんだって!


「…私この店知ってる。東京で人気の激辛ラーメンの店だ」


 陽菜が震えてた。


「この激辛チャレンジ、三十分以内に完食出来たらラーメン無料、無料で餃子が付いてくるんだって。二人とも、やってみない?」

「どうせそんな事だろうと思ったけどさ…おかん、奢るとか行っといて激辛チャレンジでタダにするつもりか?どこまでこすいんだよおかん」

「蘭子……おかん、やめよう」


 とはいえ腹が減った。

 人の金で食うラーメンが一番美味いんだけどこの空腹だ。この際タダなのかどうかは考慮しないでおこう。どの道私の出費はゼロだ。


 入店。


「へいらっしゃい!激辛チャレンジのお客様3名様!」

「…まだ何も言ってないのに……」


 陽菜の目から腐った汚水が流れ出てる。


「あと餃子ね」

「蘭子やめて」

「お客さん、チャレンジ成功したら餃子タダでついてくるよ?」

「だからその餃子を一緒にください」

「蘭子っ!」

「三十分以内にラーメン完食しないとタダにならないよ?お客さん」

「するから。三十分でラーメン1杯とか余裕だし。蘭子舐めんなし。餃子とラーメンは一緒に食べたいでしょうが」

「蘭子っ!!」


「いい度胸だ」店主はそう言い残して厨房に入った……


「お腹空いた♪」

「この店気になってたのよねー!見て蘭子、陽菜。芸能人のサインとメッセージが沢山!」


 とても食えた辛さじゃありません(涙)


 食べないでください、死にます


 これは食べ物ではありません


 私の妹はこのラーメンのせいで入院しました。今も退院出来ていません。妹の世話の為芸能界の引退を決意しました。皆様もこのお店のラーメンは食べないでください。お願いします。


 このメッセージを読んでいる君へ。ちょっと待って。まだ間に合う。引き返せ。



 ……だそうです。


「帰ろう、二人とも」

「ヨダレが止まらねぇぜ……」

「蘭子ったらばっちい。でも蘭子の気持ちも分かるわ…私、辛いの得意だから楽しみ♪」

「……食べきれなかったら三人分のラーメンと餃子代払うんだよ?ねぇみんな、今いくら持ってる?お約束展開にならないように確認しておきたいんだけど…」

「くどいわよ陽菜。この阿部波圭、食べ物を粗末にした事は一度もないわ!あなた達が食べきれなかったら私が三人分食べる!」

「おかんかっこいい」

「…………嗚呼、神よ…」


 そして挑戦の時が来た。


「へいお待ち!激辛チャレンジラーメン3丁!餃子三人前!!」


 ドンッ!!


「ぐはっ!?」「げほっ!?げほっ!?」「びぇぇぇぇぇんっ!!!!(涙)」


 湯気から襲い来るカプサイシンが凄まじかった。目が痛い。鼻が辛い。穴という穴から汁が噴き出してきて呼吸ができない。


 ヤバい死んだ。


「じゃあ今から三十分、スープまで飲み干して完食です!」

「ぢょ…ぢょっど待っで……げほっ!」

「わだじ用事思いだじだ!」

「おかんが言い出したんでしょ!うえっへっ!!」

「よーいスタート!」


 激辛で人気のはずの店なのに激辛ラーメンが出てきたら客がみんな逃げ出した店内で、私達三人の辛く険しい道のりが幕を開ける。


 たかがラーメン!


 ズルルッ


「ぶほっ!?」

「げほっ!?」

「ぶぇっ!?」


 されどラーメン。


「当店自慢の激辛ラーメンは世界最強の辛さを誇るペッパーX、キャロライナリーパー、ブート・ジョロキア、ドラゴンズ・ブレス、トリニダード・モルガ・スコーピオン等総量12.5キロ分使用してます」

「今のところ、食べきれた奴は存在しねぇ」


 らしいです。


「あばばばばばっ!!!!」


 陽菜が壊れた。


「はぁーっひぃーっ……め、麺の一本すら啜れない……おかん、私もう無理、ギブ(涙)」

「おえっふっうぅぅんっ!!げほっげほっほげっ!!」


 おかんも壊れた。


「お客さん、ギブアップしますかい?」

「な、舐めてんじゃないわよっ!!この桐屋蘭子!!今までただの一度だって敗北したことはないっ!!そしてそれは……っ!!」


 ラーメン屋ごときに舐められてたまるか!


「これからも同じだぁぁぁっ!!(涙)」

「やめて……蘭子ぉぉっ!!(汗)」

「死んじゃうって!!(鼻水)」


 ちまちま食ってるから辛いんだ!一気にいくぜ!


「店長っ!あいつっ!まさかっ!!」

「一気に流し込む気か!?」


「帝王」はこの桐屋蘭子だッ!!依然変わりなくッ!


 …しかし、帝王の誇りをかけて持ち上げた器が顔の前で止まった。

 強烈な刺激臭。もはや兵器と呼んでも過言では無い。これを口に流し込むなんて事が果たして可能なのか?

 死ぬんじゃない?これ。

 死ぬよね?

 え?蘭子また死ぬの?

 てかそれ以前に湯気で痛いんですけど。目が。


「…止まった」

「ふん、恐れをなしたか」

「蘭子もういい…ギブアップしよう(涙)おかんが払ってくれるっ!」

「あの……S〇icaでもいいですが?(涙)」

「うちは現金オンリーですので…」


 やめるか。うん。そうだね。こんなところで死ぬのも馬鹿らしい。私は冷静な女。いつも大局を見て判断できるオンナ。

 蘭子、失敗しませんので?


「…しかし嬢ちゃん。威勢よく餃子まで頼んでおいて情けねぇなぁ。折角作ったってのに全部残しやがって…アフリカの子供達に申し訳ないとは思わないのかい?」

「(出た!店長得意の煽りスキルだ!こうやって諦めかけた客を煽って病院送りにするのが店長の十八番なんだ!)」


 舐めんなし!


「言ってろ!まだ諦めるなんて…」

「「蘭子ぉぉぉぉっ!!(涙)」」

「言ってねーしっ!!!!うぉぉぉぉ!アフリカのキャンディちゃん達見てろぉぉっ!!」



















「空きっ腹に刺激物食べるからこんな事になるんですよ。桐屋さん。まぁ今日明日入院して、お腹を休めましょう。いいですね?」

「はい。またよろしくお願いします、先生。あと黛」

「どぉして戻ってきたのぉぉぉぉぉぉぉおっ!?!?」


 宇宙から激辛が消滅するまであと67日…

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