第22話「初の出店!場所は…………え?」
「ガンちゃん! ワシ、またすごいこと思いついたぞい!」
まだ夜が明けきらぬ灰色の空の下、公園の隅のベンチに、魔王アマリエ・ヴァル=グリムの元気な声が響いた。
元魔王とは思えぬ格好――古着屋のハギレで繕ったボロいワンピースに、公園で拾ったスニーカー。
隣には、黒猫の姿でじっと彼女を見上げるヴォルフガングがちょこんと座っていた。
『……今度は何ですニャ?』
「出店場所のことじゃ! なんかこう……“懐かしい”場所にしたいのうって思っておってな」
『懐かしい……って、まさかオリンポス山の噴火口とか言い出すんじゃ……』
「いや、墓地じゃ!」
『……墓地!?』
ヴォルフガングのしっぽがぴくりと動いた。沈黙。だが、アマリエはまるで名案を放った英雄のように、胸を張って笑っている。
「この前ふと歩いとったら、墓地の近くでな……思い出したんじゃ。昔、リビングデッドたちを率いて戦ったあの“亡霊の丘”になんだか風景が似ておってのう……。
なんというか、“戦場の気配”がして、ここから始めたらいい気がしたんじゃ!」
『……』
ヴォルフガングはしばし考え込み、バッグからおもむろに拾い物のペンを取り出し、口にくわえた。
キュ、キュッ……
段ボールの裏に、彼女は丁寧に文字を描いていく。口で書いているせいで、ペンが斜めになり、ところどころ歪むが、読める字にはなっている。
『(マーケティング的考察)――墓地前は高齢者が定期的に訪れる“回遊拠点”。静かな立地ゆえ、思索や哀悼の情により“内省的消費”が生まれやすい。加えて……』
「が、ガンちゃん、なんかすごい専門用語ばっかり書いてるが……。ワシ、分からんぞ……?」
『あ、すみませんニャ。解説するニャ。』
『あの墓地は早朝に多くの墓参りに来る人がいるニャ。墓参りに来る人は、心が疲れてたり、体が冷えてたりするニャ。そういう人には、あたたかいポーションジュースが染みるニャ』
「ほへー……つまり、“お腹じゃなくて心が空いとる人向け”じゃな?」
『そうニャ。それがまさにブルーオーシャン……つまり競合がいない市場ニャ』
「おおお……さすがガンちゃん! ワシ、墓地に店を出すって決めたぞ!」
『いや、だからそれ最初に言ったのはアマリエ社長ニャ。私はただ、後から正当化してるだけニャ』
「ほほう! じゃあワシ、さっそく“墓地商圏開発”ってやつを始めるのじゃっ!」
アマリエは拳を高く突き上げた。
その勢いでワンピースの袖が……破れた。