第21話「元魔王、信用を得る(ちょっと)」
創業支援金の審査には数日かかる。
アパートを追い出された挙げ句食費も底を尽きたので、スターシスの店に一時的にお世話になっていた。
その間、アマリエは毎日、ヴォルフガングと事業計画の修正と練り直しを続けた。
難しい言葉が並ぶ書類に、アマリエの目はぐるぐると回る。
「“資本調達”……? 資本って、なんかの魔法アイテムじゃったかの?」
『資本ってのは、簡単に言うと“お店を始めるための最初のお金”ニャ。調達ってのは、それをどうやって集めるか、ってことニャ』
「なるほど! じゃあ“資本調達”ってのは、“ワシのスタート魔力”を探す旅ってことじゃな!」
『だいたい合ってるけど、“魔力”じゃなくて“現金”ニャ』
アマリエは笑いながら、ボールペンを握り直す。
ボロボロのノートに、子どものような字で「ポーションでみんなをいやす!」「みんなのえがおがみたい」と繰り返し書き綴った。
そんな中で、ある日突然、電話が鳴った。
「アスヒラクフーズ株式会社の……アマリエ・ヴァル=グリムさんはおみえでしょうか?」
「わ、ワシじゃが!?」
「地域信用金庫の中野です。先日ご相談いただいた創業支援金の件……承認されました」
その瞬間、アマリエは言葉を失い、受話器を持つ手が震えた。
「ワシ、ほんとうに……認められたんかの……? こんなワシでも……?」
電話口の中野が、はっきりと言った。
「理念と行動が一致していました。それが、信用です。
アマリエさん。ご活躍を信じています。あなたなら、きっと」
電話を切ったアマリエは、まっすぐ空を見上げた。
ヴォルフガングが静かに語りかける。
『やったニャ、社長。これが、アマリエ社長の“はじまりの資本”ニャ』
アマリエの瞳から、大粒の涙があふれた。
「ガンちゃん……! ありがとう、ありがとう……! ワシ、今すっごくうれしい!」
その様子を見ながら、スターシスは優しい目で微笑んだ。
支給された金額は、五十万円。
それは決して多いとは言えない。
けれども、それは魔王にとって、初めて“人類から信じてもらえた証”だった。
「よぉし! ワシ、このお金で屋台を作るぞ! 世界一のポーション屋台じゃ!」
アマリエは拳を掲げて叫んだ。
窓から入った風が彼女のボロいスーツをはためかせる。
その姿は、かつての魔王のように──いえ、それ以上に、頼もしく見えた。
『この五十万円は、未来への扉ニャ。“魔力”じゃない、“信頼”で動く時代の第一歩ニャ』
そして二人は、初めての“信用”を胸に、歩き出した。
アスヒラクフーズ。
目指すは、……社名通りの、明日を開く屋台。
それが、魔族と人間がともに笑える未来への、一滴目のポーションになるのだ。




