第20話「いざゆかん、信用金庫!」
信用金庫──それは、大手銀行と違い、地域に根ざした融資を行う小規模金融機関である。
……が、そんな知識はアマリエにあるはずもなかった。
「な、なんか……この建物、ちっちゃいのう。でも大丈夫なんじゃろか……?」
『大手銀行は“数字”を見て判断する。でも、信金は“人”を見てくれることがあるニャ』
「……ワシ、“人”としてもダメな気がするんじゃが……」
ボロボロのスーツ、靴下に穴、鞄はゴミ捨て場から拾った汚いポーチ。
受付の女性が思わず二度見するほどの姿だった。
そんなアマリエに対応したのは、まだ若い男性職員だった。
名札には「中野タカフミ」と書かれている。
「……本日はどういったご相談で?」
「ワシ、アマリエ・ヴァル=グリム! アスヒラクフーズ株式会社の社長じゃ!」
中野は一瞬まばたきした後、表情を整え、丁寧に促した。
「社長さん、ですね。ではこちらへどうぞ」
アマリエは、ポーション販売を通じて世界を癒したいという想い、
魔族も人類も、普通に暮らせる未来を作りたいという理念を、かたこと交じりの熱弁で語った。
ヴォルフガングはその横で静かに座っていたが、時おりアマリエの頭の中にテレパシーで補足を送る。
『“営業利益”ってのは、儲けから材料費と人件費を引いた残りのことニャ』
「なるほど! ワシの“魔力”から“食費”と“寝坊分”を引いたのが、“一日の成果”じゃな!」
『……だいたい違うニャ』
中野は、時に困惑しながらも、懸命にメモを取り続けた。
やがて彼は、机の上の書類に手を伸ばす。
「アマリエさん。もしよければ、こちらをご覧ください。創業支援金の申し込みフォームです。小規模ですが、条件さえ整えば……可能性はあります」
「ほ、ほんとうか!? ワシにも、お金を貸してくれる人間がおるのかのう……?」
「アマリエさんの“熱意”がある限り、書類の中の“数字”も、きっと生きてきます」
アマリエはその言葉に、小さく頷いた。
「ありがとう……人間さん。ワシ、がんばって、社長やるけぇの……!」