第九話
午後11時半。
世田谷区氷川神社境内公衆電話前。
実は六輝が警視庁公安部第二機動捜査隊の作戦室に仕込んであった公衆電話のファイルには六輝によるいろいろと『親切』なアフターケアが書いてあった。
作戦行動は闇夜とスケキヨの単独でと限られていたが、人質を発見したあとの『保護』に関しては第二機動捜査隊の力を借りても良い、ということになっていた。
公衆電話といっても様々な世代があるが、今回使われるのはもはや化石のようなものになっている、『赤電話』という代物で、プッシュボタン式ではなく、ダイヤル式で、カードも使えず、コインしか使えない。コインもこの当時のコインしか使えないので、現在のものは使えないため、実質受信のみである。しかし、公衆電話の受信などあまり聞いたことが無い、闇夜たちが思っていたら、0時丁度に闇夜の目の前にある赤電話のベルがなりだした。
ベルが15回鳴ったところで恐る恐る闇夜は受話器を取った。
「おせーよ、受話器を取るのがよー。僕はねえ、気が短いんだよ。ちょっとでも機嫌損ねるとプチッと誰か関係ない人でも殺すよ? ルールその1。ベルは遅くとも10回以内に取ること。ルールその2。僕の指令通り動くこと。僕が見てないと思ってインチキしちゃダメだからね。僕には『見えてる』んだから。その電話の裏に鍵が貼り付けてあるだろう? 言っとくけど鍵は電話の裏に貼り付けてあるとは限らないし、鍵を使うとは限らないからな。その鍵で賽銭箱の奥にある物入れの鍵を開けてごらん。その中身を確認したら、今度は赤羽八幡神社へ行け。そうだな、15分位で行ってくれ。いいな。遅れたら人質の命の保証はないぞ。以上」
六輝からの電話が切れた。
闇夜は素早く賽銭箱の方へ向かった。左足が曲げられない上、狭いところだったので、スケキヨに開けてもらった。物入れの引き出しを開けるとまばゆい光があたりに立ち込め、ものすごいエネルギーが空に向かって解放されるのが感じられた。
「あんや! 男の人が入ってるよ! 左手がない人が!」
「うーん、うーん」
左手のない男は苦しそうにうめいていた。
スケキヨは物入れに閉じ込められていた人を背負って広い場所に出てきた。
「おい、大丈夫か? コードネームは?」
「……仁だ……」
「よし」
闇夜とスケキヨは二人で手早く保存ボックスから仁の手のひらを取り出し、生体のりでちぎれていた手首を縫合した。するとすぐに左手のひらが動き出した。
闇夜はこの憔悴しきっている『仁』を見て、果たしてこの人に、そこまで強いエネルギーがあるのか疑問に思ったが、今はとにかく六輝の指令に従うしかないと思った。
「……あ……闇夜……くん……だったか……気をつけるんだ……あいつはとてつもないことを……考えているぞ……」
仁は息も絶え絶えで言葉を発した。
「分かりました。なんとかやってみます」
闇夜はそう言うとインカムに話しかけた。
「こちら闇夜、こちら闇夜。仁の救出に成功。至急第二機動捜査隊による保護を求めます。これより北区赤羽八幡神社に向かいます。オーヴァー」
「こちら第二機動捜査隊隊長、マリィ・彼方・ブラヴァツキーだ。了解した。これより保護に向かう。アウト。」
「よし、俺たちも行こう」
「うん」
闇夜はスケキヨをサイドカーに乗せ、バイクのエンジンに火を入れフルスロットルで赤羽八幡神社へ向かった。
「闇夜! あれ! 何だ? アレは!」
スケキヨが闇夜をしきりに呼ぶので、闇夜はバイクを停めて、スケキヨが指をさす後方を見た。
そこは先程居た、世田谷の氷川神社の方角だったが、どうも、仁が閉じ込められていた場所から上に光の柱が上空に向かって伸びているようだった。
闇夜はインカムで第二機動捜査隊に語りかけた。
「ブラヴァツキー隊長、聞こえるか? こちら闇夜。現在どういう状態なんですか? 遠くから見て異常な状態ですよ!? ブラヴァツキー隊長、応答せよ、応答せよ!」
「……」
「……」
「……こちら第二機動捜査隊隊長ブラヴァツキーだ。光の柱がそちらからも見えるか? こちらは全員無事だ。コードネーム『仁』も保護済みだ。ただ、仁がとらわれていた場所から『エネルギーの泉』が湧き出ているようだ。今のところ我々には無害だ。引き続き任務遂行されたし」
「了解」
闇夜は再びスロットルを全開にして、赤羽八幡神社へ向かった。
この時間にしては道路は割りと空いていたので渋滞に捕まることもなかった。普段なら午前0時頃といえども東京は車の往来が激しく、その分だけ交通事故も多く、渋滞も多く感じられるのだが、この日はそのようなストレスは感じられない日だった。
こうして、闇夜たちは余裕を持って赤羽八幡神社にたどり着くことができた。
すぐさま闇夜達は『赤電話』を探し出し、電話の前で待機していた。
するとすぐに電話がかかってきたので一コールで電話を取った。
「ほう。よくできたじゃないか。でもこれは序の口。ゲームで言うところのチュートリアルステージだ。ここからが本番だからな。覚悟しとけよ。さーて、来週のサザエさんは? じゃなくて、さーて、次のお宝の場所は? 手水場の石をどけたらあるぞ。見つけたら、今度は東京ビッグサイトへ行け。東京ビッグサイトの入り口に『赤電話』があるはずだ。首都高を使っていけ。9号深川線にでて有明ジャンクションで下りてビッグサイトにいけ。レインボーブリッジは使うなよ。以上」
六輝は電話を切った。
「なんなんだ? あいつ。ルートを指定してきたぞ? どういうことだ?」
「なんだかわからないけど、ぼくらはあいつの言う通りにしか今は動けないということだとしか言えないよね」
「そうか……」
闇夜は釈然としないままスケキヨと手水場へ向かった。
「この石を動かすのか……なんだか罰当たりなことをやってる気がするなあ……よし、いくぞ、スケキヨ」
「あいよ、せーの!」
闇夜とスケキヨが力を合わせ思いっきり手水場の御影石を横に倒した。
すると、辺り一面水浸しになるとともに、地面に人が埋まっていたのを発見した。
そしてまたもやものすごい光とともに、例の光る龍のような筋が天に昇っていくのが見えた。
「はあ、はあ、はあ……」
その人はどうやら相当息苦しかったようで、息を切らせていた。そして、左手のひらが欠けていた。
「コードネームは?」
闇夜が聞くと、
「『義』だ」
と、その男は答えた。
闇夜は急いで、義の手のひらを保存ボックスから取り出し、生体のりで縫合してあげた。するとものの数十秒で左手が動き出した。
「良かった」
スケキヨが安堵の声を漏らした。
そして闇夜はインカムでマリィに呼びかけた。
「こちら闇夜、こちら闇夜。第二機動捜査隊ブラヴァツキー隊長、応答せよ」
「……こちらブラヴァツキー隊長。オーヴァー」
「コードネーム『義』救出完了。確保されたし。それと、救出の際、手水場の御影石を倒したのでそれももとに戻しておいてほしい。オーヴァー」
「了解。アウト」
マリィとの連絡を終え、次のポイント行こうというときに闇夜は考え事をしていた。
「どうしたの?」
「いや、人質は全部神社などの聖域に捕まってるのかと思ってたが、次は東京ビッグサイトか……ちょっと気になるな」
「それは『念』の量とかが関わってるのかもしれないね。あそこは色々あったから」
「そうか。例の……あれからどんどん膨れ上がって、もっとデカイ会場に移っちまったからな。今では東京ビッグサイトも再開発地区に入ってしまってるからな」
そうして、闇夜たちは再びバイクに火を入れ東京ビッグサイトへ向かった。しばらく走って振り返ると、赤羽八幡神社からも光の柱が上がっていた。
闇夜達は首都高環状線に乗り、9号深川線にでて、有明ジャンクションで高速を下りてすぐにある東京ビッグサイトへと向かった。
闇夜達はエレベーターに乗り、ビッグサイトへの入り口に向かった。するとそこにはひどく場違いな『赤電話』があった。こんなところに赤電話など聞いたことがない。彼らがわざわざ持ってきたのだろうか?
『赤電話』が闇夜の目に入ってすぐに鳴り出したので7コール目で漸く取ることができた。
「危なかったな。ちゃんと指示通りのルートを通ってきたようだな。次のお宝はな、『ノコギリ』だ。『ノコギリ』を探せ。見つけたら今度は練馬大鳥神社に行け。首都高湾岸線を使って大井で下りて、目黒通りの方角を目指せ。いいな」
六輝からの電話がそこで切れた。
「ノコギリ? ノコギリってなんだ?」
「うーん、なにかなあ? なんかそんなのあったような……あ! あれだあれ!」
スケキヨは取り憑かれたかのように闇夜をおいて走っていってしまった。
「おーい、スケキヨー! まってくれー。」
闇夜は杖を突きながら必死にスケキヨを追いかけた。そして階段を下りて行ったところにデカいノコギリのオブジェがあるのを見つけ、そこにはスケキヨと、鎖で右手をつながれた若い女の人がいるのを発見した。
その人は左手のひらが無く、丁度手が届かない場所に手錠の鍵が貼り付けてあった。
闇夜はその手錠の鍵を剥がし、手錠を外してあげた。
すると前の二人と同じく、まばゆい光とともに上空に光の柱が立った。
「コードネームは?」
「『礼』です」
闇夜が確認し、保存ボックスから『礼』の手のひらを取り出し、生体のりで縫合してあげると数十秒で左手がうごきだした。
闇夜は『礼』に聞いた。
「さっきから同じようなことが起こっているのだがどういうことなんですかね?」
「分からない。何か大きなことの前触れなのかもしれない。私達、仁義礼智信のちからが解放される前段階なのかもしれない。闇夜くん、気をつけて!」
「ありがとうございます」
そして闇夜はインカムに向かって話しかけた。
「第二機動捜査隊ブラヴァツキー隊長、聞こえますか? こちら闇夜。只今『礼』の救出を完了した。至急保護されたし。オーヴァー」
「こちらブラヴァツキー。場所はどこだ?」
「東京ビッグサイトのノコギリのオブジェのところです」
「了解した。引き続き警戒されたし。アウト」
闇夜はバイクのところまで戻って、夜が深まっていくのに光の柱のせいで却って明るくなっていくのに違和感を感じていた。
「妙だな」
「何が?」
「人通りが増えちゃいねえか?」
「そういえば……」
「この光には人に走光性……つまり光に寄っていく性質を促す何かがあるというのか? まるで虫が蛍光灯に集まるみたいに」
「そうなのかもね。それに今度はやけにルートを細かく指定しているのも気がかりだよね」
「オレたちは利用されてる……なんてことはないかな?」
「分からない。でもカードは向こうが持ってる以上は言うことを聞くしかしょうがないよ」
「それもそうだな。よし、いくか」
闇夜はバイクのエンジンをかけると、六輝の言う通りのルートを使って走っていった。
湾岸方面から練馬の山の手方面まで行くには結構な時間がかかる。いくら闇夜たちのバイクが時速200キロまで出るとしても入り組んだ東京の道路でそこまでの速度を出すことは不可能に近い。
しかし、不可能を可能にする、というのが闇夜のモットーである。都内で200キロを出すというかなりの無茶をやってのけたわけだ。
しかし、ここで登場するのが警察である。それも、人間の警察ではなくてロボットの警察である。人間の警察なら話せばわかってもらえるが、ロボットの警察はいちいちIDの照会やら七面倒臭いことを一から十までやらないと離してもらえないわけである。
話してわからなければ、単純明快なことであるが、ここは暴力に訴えるしかないわけだ。
「ソコノバイク、スピード150キロ超過ダ。タダチニテイシャシナサイ」
このようにほざいてくる掃除機型ロボットがいっぺんに十機くらいに取り囲まれ、一定時間ないに停車しないと、前に回って小型地雷を仕掛けられたり、捕縛用トリモチを射出されたりするのである。
「ちくしょう、マリィさん、オレをエクセプション(例外)に登録してくれればいいものを……これだから縦割り行政は……」
「そんなこと言ってられないでしょ? 来るよ!」
そこで闇夜は速度を緩めずオートクルーズモードに切り替えて、スケキヨのサポートも得て、ショットガンで一掃するのであった。
「スケキヨ! もっと霊力を送ってくれ! こいつら結構カタい。魔弾の威力を上げないと致命傷が与えられねえ」
「わ、わかったよ!」
スケキヨは体中に呪いの負担の証拠である紫色に輝くヒビ状の文様をつけ、呪文の詠唱のサイクルを早めた。そうすると、闇夜の持っているショットガンが大口径のものとなり、威力が増した。
闇夜はひたすらショットガンを撃ちまくり、追いかけてくる交通機動ロボットを残らず駆逐した。
一段落ついて、闇夜はオートクルーズモードを解いて、フルスロットルで練馬大鳥神社を目指した。
闇夜は息切れをしているスケキヨに声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「はあ、はあ、大丈夫だよ、はあ、はあ。この前の伝七親分にもらった呪い瘴気キャパシターも持ってきたし」
「そうか。余り無理するなよ」
「ううん。無理、するよ」
「え?」
「僕、無理するから。だって闇夜が無理してるんだもの。相棒のぼくだって無理しなきゃ釣り合わないじゃないか。ぼくらは一蓮托生だよ」
「スケキヨ……わかったよ。好きにしてくれ。無理しようとオレは止めね―。でも助けてほしいときはいつでも言え。それが相棒ってもんだろ? それができないんだったらやっぱり無理するな」
「わかってるよ」
そしてしばらくお互い沈黙の時間が過ぎ、練馬大鳥神社に到着した。
「ここか……よし、いこうぜ」
「うん」
闇夜が境内に入った頃に丁度『赤電話』が鳴りだしたので、5コール目で取ることができた。
「だいぶなれてきたようだな。交通機動隊ロボットの洗礼はいかがだったかな? お次はね、社務所におみくじの自動販売機があるだろ? そこで一つおみくじを買え。そこに答えがある。それが終わったら、葛飾柴又帝釈天に行け」
「おい!」
「あぁ?」
「てめぇ、いい加減にしろよ? 何がゲームだ! オレたちに何かやらせてるんじゃないだろうな?」
「またそれか。お前の遠吠えには飽き飽きしてるんだよ。お前には選択肢は2つしかねーんだよ。このゲームに乗っかって人質を助けるか、それか人質の命を諦めてこのゲームを降りるか。どちらかしかねーんだよ。僕がお前に何をやらせようと、カードはこっちが持ってるんだ。いくらお前が遠吠えしようがお前に手の内を明かす気はないね。わかったら早く言われた通りやれ。嫌なら人質の命はない。以上だ。切るぞ」
「…………クソッ!!」
六輝の一方的な言い分に闇夜は言い返せずに、受話器を乱暴にかけることしかできなかった。
仕方なく闇夜は言われた通り社務所に備え付けてあるおみくじの自動販売機でおみくじを買った。
そのおみくじは厚紙に薄い和紙が巻かれたもので、厚紙にはICチップのようなものが埋め込まれていた。それを巻いていた薄紙には本殿の見取り図が書かれており、そこに赤い印がしてあった。その場所に行くと、そこだけ何故か新しくなっており、扉のようなものがあった。その扉の右に厚紙を当ててみるとその扉が開いた。
中には神社の本殿とは思えないような、まるで研究所のような近代的設備が整っており、そこにあるベッドに左手のない女性が寝転がっていた。
闇夜達はすぐにそのベッドのある部屋の扉を開け、その女性のところへ駆け寄った。
するといつものごとく光の柱が天に向かって立ち昇った。
「コードネームは?」
「『智』だ」
その女性は答えたので、闇夜は保存ボックスから『智』の手のひらを取り、生体のりで左手を縫合してあげた。
そして闇夜はインカムで第二機動捜査隊を呼んだ。
「第二機動捜査隊、ブラヴァツキー隊長、応答願います。こちら闇夜。只今コードネーム『智』を救出完了。至急練馬大鳥神社まで保護をお願いします。オーヴァー」
「こちらブラヴァツキー。了解した」
「マリィさん」
「なんだ? 闇夜くん」
「我々は何か別の目的で利用されている可能性があります」
「分かった。警戒を怠らぬよう、十分注意しよう」
「いや、そのとてつもない大きな災厄と言うか……とにかくもう既に出し抜かれている可能性があるんですよ。どうしたら良いものなのか……」
「しかし、向こうが主導権を握っている以上、言う通りにせざるを得まい」
「やはりそうですか……わかりました。アウト」
闇夜はしきりに考え込んでいた。
「考え込んでたってしょうがないよ。今できることをしようよ」
スケキヨが闇夜を出来る限り鼓舞した。
「そうか……でもなんか引っかかるんだよなあ……まあいいか。次は柴又帝釈天か。またえらくメジャーなところだな。よし行ってみるか」
東京の西から東への横断なのでこれもやはり時間がかかると思えた。
ところがここでアクシデントが発生した。
先程は交通機動隊ロボット。今度の相手は暴走族であった。
暴走族の問題と言うのは地域の問題ではなく、乗り物がなくならない限りなくならないものである。ガソリンエンジン車の時代だろうと、電気自動車の時代だろうと、水素エンジン車の時代だろうと、そこにスピードとスリルがある限り人間を永久に魅了して止まないのである。
闇夜が絡まれた暴走族というのははっきり言って、人間の心を持っていないような状態であった。大方六輝にでも操られた空っぽの人たちである。
闇夜はこのような手口を一番嫌ってた。なんの罪もない人を利用して、術で弄して自分の兵とし、そのくせ自分は安全圏にいるという……汚いやり口だ。例の釘バット男などが典型的な例だろう。
闇夜は彼らの乗っているバイクの車種を見て、無免許でも乗れる時速50キロまでしかでない水素バイクだということはわかったが、最高速200キロ出る闇夜のバイクと互角に渡り合えるところを見ると、スピードリミッターを外した違法改造車だと推測できた。
その暴走族の集団は釘バット、鉄パイプ、チェーン、木刀など、思い思いの武装をしていた。しかし、闇夜としては彼らに致命的なダメージを与えたくなかったので、杖型スタンスティクや肉弾で応戦しようとしていた。
「スケキヨ、運転代わってくれ!」
「あいよ!」
オートクルーズでは対応しきれない蛇行運転などはスケキヨに一任して、闇夜は攻撃に徹した。
「クソッ、六輝の馬鹿野郎め、こんなに罪のない人を巻き込みやがって……とりゃーー!」
闇夜のスタンスティックがフルフェイスのヘルメットをかぶった暴走族の顎に直撃する。暴走族は一気に昏倒し、バイクから落ちてゴロゴロと転がっていく。
かといって、暴走族側がなにもしないかというとそうでもなく、闇夜のスタンスティックにチェーンを絡めて引っ張る者もいる。そんな時は逆に闇夜がそれを引っ張り、ヘルメット越しに掌底突きを食らわすのである。
そんな攻防を繰り返し、何とか近づいてくる暴走族を一掃した頃に、一行は柴又帝釈天に到着した。
しかし、到着したときには既に電話が鳴っていたので慌ててバイクを降り、電話に駆け寄って受話器を取った。
「時間切れです! と言いたいところだが、10コール目だからセーフとしましょう。最後のお宝です! あなたのバイクのサイドカーの裏っかわに鍵がついてます。それで鐘撞堂を開けてください。そうしたら今度は世田谷の氷川神社の戻ってください」
「世田谷の氷川神社に戻る? どうして?」
「だから! おめーは言われた通りのことやってりゃいいんだよこのカスがぁ!」
六輝が強い念波を送ってきたので闇夜は激しい頭痛を感じた。
「いいか? 湾岸側を通っていくんだぞ?」
闇夜はサイドカーの下を手で探ると鍵がついているのを見つけた。それを剥がし、鐘撞堂の一階にある部屋の鍵を開けると、左手のない女性を発見した。
するとまたもや光の柱が天に向かって立ち昇っていった。
「コードネーム『信』の方ですね」
「はい」
闇夜は急いで保存ボックスに入ってた残りの一つの手のひらである『信』の手を生体のりで縫合してあげた。
そして闇夜はインカムで第二機動捜査隊隊長のマリィを呼び保護を求めた。
「これで全員を救出したわけだが、光の柱が5つ立って何も起こっていない。そして、まるでエネルギーを抜かれてしまったかのように憔悴しきった仁義礼智信の5人……一体どういうことなのだろうか?」
「また世田谷の氷川神社に行けばわかるんじゃないかな?」
「まあそれはそうなのだが、なにか猛烈に嫌な予感がするんだよな」
「ともかく行ってみよう」
「ああ、そうだな」
闇夜はバイクのエンジンをかけ、世田谷の氷川神社へと向かった。
道に出てみると、この真夜中に、かなりの人がさまよっている。
まるで光に吸い寄せられるように。
この人々は歩道も車道も関係なく彷徨っているので、非常に危ない。
彷徨っている人々は皆まるで意思をともなっていないかのようだった。
闇夜達は蛇行運転を繰り返し、車道の歩行者をとにかくよけて、場合によっては歩道を走ったりと奔走していった。
そして何とか世田谷の氷川神社に無事到着し、『赤電話』の前まで来ると電話のベルが鳴った。
闇夜はすぐに受話器を取った。
「はははははははは!!!!! 残念でしたーーー!!!! ごくろうさまでしたああああ!!!! ほんと、君たちはよくやってくれたよ。君たちのお陰で術式は完成したよ。」
闇夜がふと空を見上げると闇夜が今まで解放してきた五本の光の柱が五芒星を描き始めた。そして中心の一地点にエネルギーが集中していた。
「おい! これは一体どういうことだ!? 裕子はどうなるんだ!?」
「いちいち裕子裕子ってうるせえなあ、彼氏でもねえのに。まあお前もスケキヨも重要人物には違いないからな。東京タワーに来い。そこで面白いもの見せてやる。急げよ」
ツー。ツー、ツー。
「おい! 重要人物ってどういうことだ!? おい! てめえ!」
「よしなよ、あんや。聞こえたよ。東京タワーに行けばいいんでしょ? 行ってみようよ」
「……わかった……よし、行こう。でもその前にマリィさんとおやっさんに連絡しとこう」
闇夜はインカムに話しかけた。
「第二機動捜査隊ブラヴァツキー隊長、聞こえるか? 応答せよ。こちら月島闇夜」
「……こ……ら……ツキ―長……夜……ジジジジジ」
「こちら闇夜、こちら闇夜、応答せよ……だめだ、無線がイカれてる。あの光の柱で電波障害が起こってるみたいだ」
「他の人が心配だけどとりあえずぼくらはタワーに行ってみよう!」
「そうだな」
闇夜とスケキヨはカスタムバイクを駆って東京タワーへと繰り出した。