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一鬼夜行  作者: がーすー
11/13

一鬼 その五




「九角丸よ、貴様が私の代わりになればよい」


 九角丸は口を開けたまま、出雲の唐突な提案を、頭の中で何度も反芻する。


「なんだと? 馬鹿かお前は! どこの世に、鬼にそのような戯言を抜かすやつがいる」


 九角丸の返事が思っていたものと違ったのか、出雲は意外そうな表情を見せた。


「そう言うな。いいではないか。貴様は私に負けて、もう己の生に満足したのだろう? ならば、それを与えた私の頼みを聞くのが筋ではないのか?」


「ぬっ。確かにそうは言ったが」


 九角丸は出処のわからない困惑と、怒りが混ざったような複雑な気持ちになって、顔をしかめた。


「なに、心配するな。貴様ほどの力があれば容易いだろうよ。妖共を全てとは言わん。貴様が仕切って、民に迷惑をかけないようにしてくれたならば、それでいい」


 九角丸の目を覗きこむ。


「できぬのか?」


「んぬぬ……ええい、わかった!」


 九角丸はやや投げやりに承諾して、憮然としてため息をつく。

 満面の笑みを浮かべる出雲の顔を見て、もう一度大きなため息をついた。


「断る理由も見つからんし、退屈するより幾分かはましだろう」


「そうか、感謝する。これで、何も思い残すことはない」


 そう言うと、先ほどまでの笑顔が消えて、少し寂しげな表情に変わった。




「後を頼むぞ、九角丸よ」


 出雲は、太刀を顔の前に構えて目を瞑る。


 混濁する意識を集中して、呪力のこもった言葉を唱える。

 太刀がそれに反応するように震えだして、出雲の手から離れる。



 宙に浮いた太刀は、九角丸の額の真上で一度止まって、ゆっくりと切っ先を肌に当てた。


「ああ、さらばだ。出雲」


 太刀は沈むように刃を埋めていき、やがて柄まで見えなくなった。

 その途端にそこから、辺りの淀んだ空気を吹き飛ばすように清涼な突風が起こった。



 太刀の持つ退魔の力が気脈に注がれて、戦の中で生まれた穢れを祓う。

 風が吹き抜けた後には、焼けた地面に苔が生えて、骸からは小さな草木が芽吹いていった。



 蓋をするように戦場を覆っていた黒雲もいつのまにか晴れて、真っ青な空が広がっている。




 出雲は風に押されて、その場に大の字になって倒れていた。



 戦があったのがまるで嘘のような穏やかな景色が広がっている。

 出雲の心も同様に穏やかに静まり、満たされていった。




 残してきた妻子に、小さく一言だけ、すまな

いと謝る。


 そして、静かに目を瞑った――。







 鬼は、千里を林の中へと放り投げた。千里はちょうど草の茂った地面に落ち、傷は負わなかったが足を捻ってしまった。


「大丈夫か、千里!」


 千里は体を起こし、鬼一に答える。


「う、うん。なんとか」


「少し離れてな、すぐ終わる」


 鬼一は千里に向ってにんまりと笑ったあと、再び真剣な顔に戻り、鬼を見据えて話を続けた。


「どこまで言ったけな……。ああ、そうだそうだ」


 鬼一と対峙する鬼は微動だにせず、耳を傾けている。


「だがわしはこの世に甦った。霊刀は魂を浄化し、人魂にした。封印をすり抜け、わしは人として生を受けたのよ。そしてこの体は、鬼の力が裏返ったかのような、強い退魔の力を備えておった」


 それを聞いた鬼は、握った拳を震わせる。


「……なんだと? 馬鹿な! そんな都合の良い話しがあってたまるか!」



 千里は、鬼一の大きな背中に釘付けになる。


(そ、そんな……鬼一が……鬼だったなんて……)




 鬼は激昂した。激しく地面を踏み鳴らし、鼻息を荒くする。


「だってしょうがねぇだろ。わしにも理屈はわからんのだから」


 鬼一は、鬼の様子などまるで気にせず続けた。


「天の気まぐれか、はたまた閻魔の企みかはわからんがな。しかしこの体だけじゃ、とてもじゃないが妖とは渡り合えない。とりあえずは人として生きることにした。悪行はおおかたやり尽くしたからな。ならば善行を重ねて生きてみようかと思ったが、これがなかなか難儀でな」


 腕を組み、昔を懐かしむように鬼一は語り続ける。


「生まれたばかりの時は大人しく親孝行でもしようかと思ったが、魂に染み付いた性分ってのは抜けるもんじゃあねぇらしい。八つになった時には、出奔して賊に身をやつした。子供ながらに腕っぷしだけは強かったから、それほど苦労はしなかったよ」


 鬼一は自嘲気味に笑った。



「なっちまったもんは仕方がねぇ、そう思いながら何年か過ごした。そしてある時、ふと思いたって、自分の体が眠る場所に行ってみた。そしてこの霊刀を見つけたのよ」


 そう言って鬼一は、何気なく腰の刀を抜いた。

 現れたのは見事な刀。


「わしが抜けばこのなまくらは、妖が斬れる霊刀になるんじゃ。まさか刀がわしを選ぶとはな。皮肉なもんじゃ。そうして退魔師のまねごとを始めた。しばらくして、九角丸を名乗る鬼が好き勝手に暴れとると聞いた。その鬼が何者なのかすぐわかったよ」


 鬼は低く唸り、顔を険しくする。


「衆の中で一番下っ端で、臆病者だったおめぇだってな」


 ぎろりと、鬼一の目が鬼を睨んだ。


「戦が起きる前から、人間共に何か吹き込み、こそこそと企んでたのはわかってたんだ。ただ、わしは戦が好きじゃ。わざわざ仕掛けてくるのを逃すなんて、勿体無くての。お前が姿を眩ましたのは承知していたし、頭領の座を狙っていたのもわかっていた。まんまと策に乗ってやったのよ」


 そして鬼一は満面の笑みを浮かべた。


「臆病者のお前でも、好き放題出来ただろうさ。だがお前のせいで、天下に轟く九角丸様の名がよぉ――」


 鬼一は鬼の形相で怒鳴る。


「ただの小悪党に落ちぶれちまったじゃねぇか! この落とし前はきっちりつけてもらうぜ!」





台詞減らんなー。

難しい。

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