序章
話をリアルにするために、スロットの(少しマニアックな)話がよく出てきてます。やったことがない人には、全く意味が解らないかもしれませんが、そうじゃない場面もありますので、よかったら読んでみて下さい。
スロット好きで詳しい人には是非読んでもらいたいです。そして少しでも共感していただければ、嬉しい限りです。
車の数もまばらになり、立ち並ぶ店の灯りもほとんどが消えた頃、国道を荒々しく進んでいく一台の車があった。一昔前はよく見かけた国産のスポーツクーペ、馬力はそれほど無いがエンジンはよく回る。必要以上にアクセルを踏み込み制限速度をはるかに超えるスピードで、その車はこんな時間でも賑わいを見せるゲームセンター『ALウエイブ』の駐車場に入っていった。もう日付が変わろうとしていたが駐車場はほとんど埋まっていた。店に入ってすぐ左の階段を昇るとたくさんのスロットマシンが並んでいる。パチンコ屋が閉店になるとこの店にはパチンコ屋で満足できなかった者や、勝利の余韻に浸る者たちでスロットコーナーは埋め尽くされる。
「あれ、竹田君」
『ナイツ』という台に座り百円を入れたところで背後から声を掛けられた。この店で顔を合わす知人は限られている。しかも時計の針は既に23時を回っている、普通の人なら眠りにつく時間だ。
「おう、大吾お前いつもいるな。どうせスロット帰りだろ、勝ったか?」
彼らのあいさつはいつもこのようにスロットの勝ち負けが中心となる。
「やられたけどさぁ、最後に熱い盛り返しで2000枚くらい出て助かったって。」
「2000枚でマイナスなのか、お前、相変わらずつぎ込むな。」
「違うって、設定が良さ気だったもんで、つい投資がかさんじゃってさぁ」
話しながら大吾は竹田の隣に座り『アラジンA』というスロット台に百円を入れた。
「どうせお前のことだから『金太郎』でやられたんだろ?」
「違う違う、今日イベントだったもんで、旋風チャンだって。」
「『(旋風の)用心棒』?お前あんな台にそんなつぎ込んだのか?」
「最初にさ、低確で旋風チャン入ったもんでヤメれんくなって、初当たりも悪くなかったし。」
「よくある負けパターンだな。」
「まぁでも、最後に連チャンしたんでホントに設定は良かったかもしれんけどね。」
こんな一般人が聞いても理解できないようなことを彼らはダラダラと話し込んでいた。話が一息ついた時、竹田の台から派手な音が鳴り、慣れた手つきでストップボタンを押すと月の形をした絵柄が斜めに揃った。
「竹田君早いが、もう来た?」
「ゲーセンだとヒキがいいからな。ま、でもノーマルだからすぐ呑まれるだろ。」
竹田はそう言いながらも台の下皿に出していた小銭を財布にしまいポケットに入れた。3百円を使ったところだった。軽快なサウンドが竹田の台から流れ出し、テンポ良く竹田はボタンを押していく。最近の台は以前に比べサウンド、フラッシュなどの演出が格段によくなっている。ボーナスが終わり、音楽が鳴り止むと竹田は立ち上がって自販機に向かった。
「はいよ。」
竹田は2本買ったコーヒーの一つを大吾に渡し、台に座って自らもコーヒーを飲みながら再びスロットを始めた。
「サンキュー、何ぃ竹田君今日勝ったの?」
大吾はもらったコーヒーを開けながら少し笑みを浮かべた。
「チョロ勝ちだって、最初『百景』で軽快に2連して、やめようかなっと思ったけど時間あったもんで『キンパル』やって、少し増えたかな。」
「軽快だなぁ、竹田君は。で、2万勝ちぐらい?」
「そうだな、1万9千勝ちだな。」
話をしている間に大吾の台もかかり、音楽が鳴り始めた。竹田は先程のボーナスの後は一度もかからず、クレジットを使い切ったところで、
「ダメだな、今日はもう帰るかな。」
と、コンタクトが乾くのか、深い瞬きをしながら立ち上がった。それを見て大吾は少しあわてながら、
「ちょっとまった、メシ食いに行こうよ。」
今日負けている大吾はもちろん竹田におごってもらう気である。大吾は竹田より二つ年下だが、こういうところは案外図々しい。竹田は大吾のそういう図々しさを知っているが、むしろこういった大吾の遠慮の無いところが好きであった。
「そっか、じゃあ牛丼でも食べに行くか?」
竹田は笑いながら言った。普通とは違い、彼らスロットをやる仲間内では、勝った人が負けた人にごはんをおごるという暗黙のルールのようなものがある。だからこの場合も竹田は当然のことのように、ごはんを食べに行こうと言ったのである。
「オオォー」
竹田が大吾に言葉を返すのと同時に、大吾の台から音が鳴り台の各所が派手に光り始めた。アラジンチャンスというATに入ったのである。
「アラチャン入っとんじゃねーか。まぁ、帰りだな。メシは一人で行ってくれ。」
1度ATに入ると2、30分続くこともある。竹田は少しあきれながらタバコの火を消し帰ろうとした。
「すぐ終わるって、ちょっと待っといてよ。」
大吾はすがりつくように言ったが、竹田はもう歩き出し、
「ゲーセンだと長く続くもんだろ?じゃあな。」
と、言いながら手を振った。大吾は少しすねた表情をしていた。
「わかったよ。竹田君、明日バイト入っとったよね?俺も確か入っとるから。」
「ああ。」
と、竹田は返事をし、階段を降り『ALウエイブ』を後にした。時刻はすでに0時を過ぎ、通りに車はほとんど走っておらず、竹田は暗い道を飛ばして家路についた。




