教室つながり
と、男性が腕時計を見る。
「お。そろそろ、教室の時間だな」
教室……何かの先生、だろうか。
そうおもいながら、サユリは、手にしていた店の名刺を差し出す。
「これに、電話番号がのっています」
「ああ。ありがとう。俺たち、すぐそこにあるガス会社のショールームでやってる料理教室に行ってて。ここに仏壇屋さんがあるって、こないだおしえてもらったんだ」
「りょ、──料理教室?」
「そう。料理教室って、若い女性が多いだろう? 俺、昔から、料理はダメだけど、洗い物はけっこう好きでね。せっせと鍋とかボウルとか洗ってると、すてき、こんな旦那さんいいなー、って若い子たちにちやほやしてもらえて、愉快なことこの上なくてさー。大好きなんだよ、料理教室!」
男性が、がははと声を立てて笑った。
本当に愉快そうだ。
男の料理教室通いに、そんな楽しみ方があったとは。
サユリは、青年の方に視線を向けた。
ということは、彼も、料理教室の生徒なのだろうか。
それもまた、ふしぎだ。
「おまえは何で、料理教室に来てんだっけ?」
「ああ、えっと。今年の健康診断で、再検査が必要、とか言われて。外食ばっかりで腹も出てたし、このままじゃ早死にするって親にも脅されて、自炊でもするかー、と」
「脅すのはどうかとおもうが。そこで、ダイエットとか、サプリメントとかに走らず、自炊しよう、って思い立ったのがすばらしいな」
「まー、今おもえば、直感ってやつですけど。おかげであなたに出会えて、ほんっと良かった」
青年のことばに、男性がにこにことほほえむ。
サユリは彼にも名刺を渡した。
「それで。とりあえず今日は、般若心経の経本と、線香だけもらって行こうかな。エア仏壇の前で、お経読んで、線香だけでも焚こうかと」
「おお、いいな。線香も、自分がリラックスできる高次の香りを選べよ。といっても、焚いて選ぶわけにいかないから、まあ、それも直感だろうけど」
「ええっと。いちおう、試供品があそこに。お線香は、こっちにありますけど」
前に立って、線香が並んだ棚の前に案内すると、青年はうーん、と唸った。
あごに手をやって、首をひねっている。
「線香ってこのくらいの値段だっけ? 進物とか、もっといいやつがありそうだけど」
サユリは首をかしげた。
お香は別の場所にあるが、線香は見たところ、そこだけだったが。




