ラストチャンス
「こういうものをここで眠らせたまま、すぐに古くなるものばかりを目の色変えて追っかけてる世の中っていうのも、情けないとおもうけど。でも、これからアセンションしようっていう人間には、ちょっとした宝探し気分が味わえるのも、たしかだな」
「宝探し……たしかに」
青年が、黒檀の仏壇をそっと撫でて笑う。
「仏壇は、国産と中国産が混在してるし。こう、プラスチックと漆器なんかが、並べて売られてたりして。値札はその価値ほどには差がないから、ぱっと見じゃ、若いやつらにはちがいがわからないかも。まあ、信頼できる店を選ぶのも、満足できる商品を選ぶのも、自分の直感を信じるのみだけどな」
「信頼、できる店……」
自分のようなど素人が店番をしている店というのはどうなのか、とサユリは内心、冷や汗をかいた。
「ここはいい店だ。いい商品が、良心的すぎるくらいの値段で、ごろごろしてる。今ならまだ、いくらでも宝が掘り出せる」
「あ、ありがとうございます……」
「でも、まさに、早い者勝ちだな。次にもし仕入れるとしたら、もう、品質の良くない外国産か、超高価な国産品かの、二択になるんだろうから。どのくらい職人が残っているのかはわからないけど、何もかも安いものでいい、という選択の結果が、職人の手から生まれる高次の波動ってものをこの国から消し去ってしまったんだ。ほんと、惜しい。──だから、今ここにあるのは、誰にでも開かれた最速アセンションのラストチャンス、ってことだな」
ラストチャンス、という男性のことばを聞いた瞬間、青年が黒檀の仏壇を指さした。
「これ、ください!」
「……いや、ください、って言われても」
「こういうのって、どうやって買うんだろ。現金で一括払い? ローンもあり? ああでも、自分で持って帰るわけにいかないから、配達してもらって払うとか?」
「…………さー?」
本当に、サユリには何とも答えようがない。
というか、この場で払われても、心底困る。
配達とか、飾られている仏具とか、込みの値段なのかどうかもさっぱりだ。
サユリに言えることは、たったひとつ。
「すみません。──祖父に言ってもらえれば、あの、できるかぎりお安く、気に入った形で、お届けできると、おもいますけど」
「………………」
青年が、くしゃりとうしろ髪を掻いた。
「まあ、お嬢ちゃんしかいないんじゃ、仕方ないか。でも、店が開いてただけ良かったな。ちゃんと、気に入ったのが見つけられたわけだし。……ところで、店主はいつ戻るの?」
「ええっと。今週の、土曜日までだったから……日曜日にはいます」
「日曜日! ちょどいい。月曜には俺もルクセンブルクに戻るけど、日曜ならつき合える」
「あ、でも、今度の日曜日は休みだった。──いえ、あの、インターフォンを鳴らしてもらえれば、家にいるとおもいますけど。というか、ぜったい、いるように言っておきますから!」
そのくらいのことは、サユリも責任を持てる。
男性が、やんわりとほほえんだ。
「そうか。助かるよ。いちおう、電話を入れて来ようか。店の番号、おしえておいてくれる?」
「ばっ、番号!」
わたわたとあたりを見回してから、そういえば、どこかで店の名刺を見た、とおもいだす。
少々お待ちください、と断わって、サユリは名刺を探しに行った。




