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『EMIRI』 ~どんなに素敵な昨日でも~  作者: 亨利(ヘンリー)


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8/8

エピローグ

 翌日の午前中、恵美莉は授業に出席しなかった。みのりが連絡を取ろうとしたが、恵美莉のLINEは既読にならず。電話にも出ない。

(おかしい。恵美莉が経済学を休むなんて。唯一、菅生君と一緒の講座なのに)


「どうしたんだろ。恵美ちゃん、何かあったのかな?」

 みのりの隣に座った春樹が心配そうに訊いた。

「さあ。菅生さんは何か聞いてないんですか?」

「俺が? 俺は知らないよ」

「恵美莉、菅生さんになら連絡してるかなって思ってたのに」

「まだ、そんな仲じゃないし」

「まだ!ってことは、そのうちにそんな仲になる気はあるんですよね?」

「うん、もうその気満々なんだけど、逆に俺のことどう言ってた?」

「そんなこと私に訊きます?」

「そりゃ自分で訊けってか。そうだよな。でも彼氏と別れてすぐなのに、しつこくし過ぎたのかな」

「そんなことは言ってませんでしたよ」

「ホント? じゃ、病気かな? 病院に行ってて電話に出られないのかも」

「それならLINEはできますよ。きっと寝坊ですよ」


 その時、恵美莉は病院・・・ではなく、美容院にいた。鏡に映る自分の顔を見て、昨晩のことをつくづく後悔していた。

(あーあ、「先生、抱いてください」っか。よくそんなこと言っちゃったもんだな。軽い女に思われただろうな。何がクリームブリュレみたいな女よ。バカみたいあたし)


 ( ( ((( Boooon ))) ) )


(あ。またLINEだ)

 恵美莉は、首から巻かれたケープの中でモゾモゾとしている。

「電話かけますか? さっきから鳴ってますよね」

 美容師が気を効かせてくれた。

「いえ、誰からか分かってますから大丈夫です」

「じゃ、仕上げにブローしますね。前髪浮かせますか?」

「おでこ出そっかな」

「はい。じゃ、少し大きく分け目作りましょうか」


 昼休みの学食に向かう大勢の行列に混ざり、春樹はみのりと言葉少なに歩いていた。みのりは、(何か話題、話題)と考えながら。

「菅生さん。恵美莉の誕生日、どうするか聞きました?」

「いや。聞いてないけど。誕生日近いの?」

「え? 今週ですよ」

「教えてもらってない。ていうか、訊かなかった俺が悪い」

「二十歳のバースデーなのに、言ってなかったのか」

「俺には言いたくないのかな?」

「めんど! 違いますよ。恵美莉が遠慮がちな子なだけですよ」

「その日、何か予定入れてるかな?」

「分かりません。多分誘ってくれるの待ってるんじゃないですか?」

「誕生日、教えてくれてないのに?」

「もう、ホントめんどくさいから、誘ってやって下さい。彼女絶対自分からは言わないですから。土曜日です」


 学食に着くと、いつものとおりトレーを手に長い列に並ぶ。

「先週、恵美ちゃんにスペシャルおごってもらってから、もう一週間か。早いな」

「あ、そうかあの日。私がきっかけで知り合ったんですよね」

「そうだけど、それよりずっと前にも声かけたことあったんだ。彼女覚えてないみたいだけど」

「アプローチかけてたってことですか?」

「そこまでではないけど、ノッポの男がいたから」

 二人はAランチをトレーに乗せて、窓際の席に向かった。小峠と佐々木がいつもの席に着いていた。

「川崎さんは?」

 佐々木が訊いた。

「今日休みみたいだ」

 春樹は皆と目を合わせずに答えた。

「何かフラれたみたいな顔してるぞ」

「バカ言うなよ」

 春樹はようやく笑った。


「小峠先輩、私もそんな顔してません?」

「え、全然」

「彼氏と別れちゃったんですよ」

「ああ、先週そう言ってたよな。でも、全っ然そんな顔に見えないぞ」

「でも彼氏募集中です。いい人いたら紹介してくださいよぅ」

 みのりはチラッと佐々木を見た。佐々木はそんなみのりに微笑んだ。

「いい人って、お前紹介できるやついねえよ。佐々木は彼女いるし」

「ええ、残念」

「じゃ、菅生と付き合ったら?」

「私と菅生さん?」

 みのりは隣に座る春樹を見て、目が合った。

「ぇえー! それ違いますよね」

「違うっていうか、さっきまでしてた話何だったの? ってなるよ」

 春樹も戸惑って応えると、

「冗談だよ。でも何の話してたんだよ」

 小峠が興味津々に訊いた。

「恵美莉のことです。菅生さんにも連絡がなくって心配なんですって」

「だから、もっと早く告っておけって言ったのに」

「え? そんな話までしてたんですか?」

「実はLINEで付き合おうって誘ったんだけどな」

「あー。そんな重要なこと、LINEでやったのか」

「なんだよ。別に変じゃないだろ。まだ軽く言ってみただけだよ」

「恵美莉は何て?」


「・・・考えときます・・・」


 皆一瞬固まった。なぜなら、その声は窓際から聞こえたからだった。皆は驚いて振り返ると、窓を背に見慣れない格好の女子が立っていた。


「え! 恵美莉?」


 長かった髪を顎の高さまで切って、明るく染めた恵美莉だった。

「どうしたの川崎さん? それ」

「考え終わったから」

 いつものクセで、右手でその髪をサラリとかき上げて、

「春樹、どう?」

「うん、きれいだ。恵美莉」

「ありがと。今度の土曜日なんだけどさ・・・あっ、あたしの席が盗られてる」

 恵美莉は笑いながら、みのりを押し退けて、春樹の隣に強引に座った。



           おわり

あとがき


 自分を変える決心をした恵美莉に、作者としては女の魅力を感じる。

 ネット社会になって、人は周囲に自分を隠して行動することが容易になっている。その上でリアルな人付き合いでは、建前も大事にする。そんな女性たちに魅力を感じるというのは、曲がったものの見方だろうか。

 主人公にはモデルがいるのだが、彼女の名誉のために一言付け加えておくと、僕は彼女の裏の顔は知らない。だから念のため、次の会話を本作のどこかに入れておきたかったのだけれど、必要だったか、必要なかったか・・・


********************


 昨晩ビストロを出た後、桧垣は正面から恵美莉の両肩を掴んで、

「じゃ。がんばって。僕はクリームブリュレをおいしく食べてくれるところを見ただけで十分だよ」

「本当に帰っちゃうんですか?」

「君は素敵な女性だけど、今はフラれる経験もしておいたほうがいいから」

「そんなこと言ったら、先生のこと・・・(涙)」

「また水曜日には、彼氏ができたって話を聞かせてよ」

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