◆ケース⑤:のっぺらぼう◆
ある日――。
暗い夜道を歩いていると、街灯の下で、
顔を両手で覆ってシクシクと泣いている女性がいた。
私「どうしたんですか?」
と声をかけると
女性「…うぅ…私…顔がないの…」
振り向いた女性の顔には、目も鼻も口もなにもありません。
私「つまり…後頭部?」
女性「そうじゃないのよ!!」
私「つまり…忘れた?」
女性「どこに?!?!」
私「つまり…」
女性「いいから驚いて?!?!」
私「『驚いて』? なるほど…『ドッキリ』?」
女性「そういうことでもないのよ?!?!
なにかの企画みたいに言わないでちょうだい!!!」
女性「はぁ…はぁ…。
もう…あなたといると…こっちが疲れるわ…。
私、帰る…。」
女性はとぼとぼと帰っていった。
私「???」
小首を傾げて見送ると、
ちょっとお腹が空いたので、
近くにあった蕎麦屋さんへ寄った。
私「注文、お願いします。」
男「あいよ~」
厨房から男性の小気味いい声が聞こえきた。
メニューをじーっと眺める。
男「注文、どうぞ。」
水の入ったコップをテーブルに置き、
男性が真横に来て注文を取ろうしている気配。
私「ええと…
天ぷらそば一つ。」
メニューを見ながら言う。
男「あいよ。ちょっと待ってな。」
男性は再び厨房へ。
暇そうに店内を見回してから、
コップを手に持ち、水を飲む。
店内には私以外の客はいない。
暇なんで店主?の男性に話しかける。
私「そういえばさっき、
そこの夜道で泣いてる女性がいて、
顔がこう…ぺらっとなにもついてなかったんですよ~。
不思議ですよね~。」
男「へぇ…。
お客さん…それって、こんな顔でしたか?」
男性が厨房から出てきて、
俯いた顔を上げると、
その顔には、目も鼻も口もなにもありません。
私「そう、それそれ♪
すごーい、お兄さん、その再現度!!!」
男「いや、『再現度』?!?!」
私「これならモノマネ大会、出れますって♪」
男「参加させようとしないで?!?!」
私「優勝、狙っていきましょう!!」
サムズアップする。
男「聞いてますかね?!お客さん!!!」
私「あ…お腹空いてたんだった。
それより、蕎麦まだですか?」
男「それより?!?!
この状況よりも蕎麦の方が気になるってことある?!?!」




