始まりの町ロイデ〜三年前ぶりの宴〜
サーの手が止まり、修整された魔力回路が出来ました。最後にサーと私で交互に魔力を通して動作確認をして完成です。
そこまで行うと私は意識を失ってしまいました。思いのほか疲れていたようで、ホッとして気が緩んでしまったようです。
気が付くと優しい香りのする枕を抱えて布団に丸くなっていました。サーの匂いが染み込んだベットに横になりながら辺りを見渡します。
変わらないサーの寝室…………綺麗に整頓されたとても落ち着く場所です。体を起こしてベットに腰掛けると、枕元に私の部屋着が綺麗に畳んでありました。
この家でよく着ていたお気に入りの緑の部屋着…………やはりサーは気がききますね。法衣を脱いで着替えます。
この部屋着を着るとあの頃の賑やかな夜が懐かしいです。毎夜リビングに集まって飲み明かした日々が昨日のように思い出せます。
くぅ~
お腹がなっています。夜遅いですが少し何か食べましょう。サーがいませんからきっと美味しいものを作ってくれてるに違いありません。
寝室を出て廊下を歩くとリビングから話し声がしています、ひょこっと顔を出すと、
「おっ、相変わらずのべっぴんさんじゃねぇか」
私の腰回りほどもある太い二の腕を持つ大柄な男性が、いち早く私の気配に気が付いて声をかけてきます。
かなり敏感な方でも気が付かない程に気配を消しているのですが、この国でもトップクラスの剣士には通じませんね。
「双重剛剣のルワードさんに褒められて嬉しいですわ」
他者なら両手で扱うほどの大剣を軽々と二本扱うサーナ最強の冒険者の一人。私にとってはお酒好きの近所のお兄さんですが。
ゆっくりとリビングに入り、食卓のいつもの場所に座ると真正面の席から私を覗き込みながら話しかけてくる男性。
「まったく、帰ってきたんだったら腐れエルフのとこより先に、俺ちゃんの所に来てくれても良いんだぜ」
ぱっと見は、何処にでもいるような平凡な方が構ってほしそうな顔つきで甘えてきます。
「盗賊軍師のアーリと呼ばれる盗賊界のトップの方の所なんてか弱いアリスちゃんが行けるわけないじゃないですか」
彼の智謀と技術の前ではどんな難題も尻尾を巻いて逃げると言われるほどの切れ者なんですけど…………
彼の方がはるかに年上なのですが……………袖を引っ張ってくる可愛い弟にしか見えません。
アーリとじゃれているとキッチンからお料理を運びながら声をかけられました。
「研鑽を積んでいるな」
禿げた頭にヒラヒラと裾の長い道着。少しの隙もない立ち居振る舞いでこちらを見つめる老人。
言葉が少なくとも私のしてきた事をきちんと理解してくれていることが感じられます。
「拳魔と謳われたギャイル直伝ですから、師に恥じぬよう日々鍛錬を積んでいますわ」
竜と殴り合える唯一の人物と噂されるほどの達人ですが、普段は無口だけど優しいおじいちゃんなんですよね。
彼は料理をテーブルに置くとアーリの隣に腰掛けます。正面にアーリ、左右にギャイルとルワード。
「君の好きな甘辛い味付けばかりで彩りがイマイチだが味は保証しよう」
私の木彫りの可愛いジョッキになみなみとエールを注ぎ、私の隣の席に座るサー。
それぞれのジョッキを掲げて、皆で立ち上がるとルワードが掛け声をあげます。
「久々の再会を祝して」
『ザーヴァス!!』
全員の声が揃い杯を交わし合います。
皆の喉が鳴り、一気に飲み干されたエールをまた皆で注ぎ合います。
「皆、忙しいのではなくて?」
この町ロイデは彼ら『鋼の魂』が創り上げた冒険者の為の町です。神の掌という遺跡が溢れる場所で冒険者の育成とサポートを目的として開拓されました。
私は開拓二年目の時、開拓地で四人と共に魔獣を狩り畑を耕して人々が移り住んでくるのを共に喜び合いました。
毎日ヘトヘトの中ここに集まり、騒いで過ごし明日への活力に変える。濃い二年間を過ごした仲間たちです。
今は町として認知され、冒険者を志す者の聖地とまで言われる場所となりました。当然彼らは町の顔として毎日忙しくしているはずです。
ルワードはロイデ冒険者ギルドの長、アーリは盗賊ギルドの顔役、ギャイルは育成機関の筆頭指導官として、他の町にいても名が聞こえてくるほどです。
「何硬いこと言ってるんだ、アリスが来ているならここで飲むしかないだろう」
ルワードが、さも当然のように言うと
「当たり前じゃん」
とアーリがうんうんと頷き
「たまには良かろう」
柔和な好々爺の表情でギャイルも肯定しています。
「皆、アリスのことを心配していたんだ。今日くらいは部下たちが何とかしてくれるよ」
サーが耳元で教えてくれます。
「俺たちの事なんぞどうでもいいんだ。アリスの話を聞かせろよ」
ルワードがジョッキに注ぐのがめんどくさくなり恒例の樽から直接飲みに切り替えながら身を乗り出します。
「愛の神官の美貌は思い出すことができぬほど神々しい、なんて噂がここにまで届いているぞ。どうやってるんだ、教えろよ」
そのルワードを押しのけて、アーリがキラキラした目で擦り寄ってきます。かわいいですね~。
「急かすんじゃない、夜はまだ長いんじゃ。のんびりまいろう」
ギャイルが私に小さなグラスに注がれた酒精の強い水酒を渡しながら二人を諌めます。
「モテモテだなアリス。まぁ僕も君のことが好きなのだがな」
サーまでこんな事を言って…………顔が赤くなり心が満たされていきます。この喜びを今は眠っているけれど、アンにも味あわせてあげますね。
本当に帰ってきて良かったですわ。




