交わりの地タナトシェル〜癒しの対価〜
わたくしの目の前には、茹でた葉野菜の上にお団子型、長い丸型、長四角の三種類に型どられた肉団子が乗せられています。
三種類とも綺麗な焼き目と艷やかな照りをまとっており私の喉が自然となってしまいます。
皿の脇にはいつものマヨソースと刻んだ色とりどりの何かが混ざったマヨソースが分けて添えてあります。
これが今回のコースのメインですね。ふかふかの丸パンと優しい香りの野菜スープが一緒に運ばれて来ました。
麗しい肉団子のどれから食べたら良いでしょうか? でも分かります、テリマヨサンドではなく少しずつ食べて丸パンも少しずつ食べていくのが良いような気がします。
まずは、慣れ親しんだ丸い肉団子からマヨソースをたっぷりつけていただきます。
なんでしょう、お会いしてまだ数日ですのに長年連れ添ったような安心感。マヨソースが甘辛い味に馴染み、お口が幸せです。
丸パンとの相性も抜群で、愛しの旦那様です。
ソフィアさんとアレンさんがわたくしの食事風景をみていらっしゃるのは分かります。これ以上乱れてはいけないのは分かりますが、もう手は止まりません。
旦那様には悪いと思いつつも、美味しいもの大好き世界代表のわたくし愛の神官アリスは、お出しいただいたものを頂く義務があります。
長い丸型の肉団子にフォークを刺します。んっ? 身が締まっています、持ち上げると見た目よりずっしりです。
キュピーン! 天啓です、これは緑のつぶつぶが入っているマヨソースをタップリつける必要があります。
お口に入れるとしっかりとしたお肉の食感とマヨソースに混ざった刻んだお野菜の酢漬けのシャキッとした食感に驚き、さらに濃い味付けをお酢でさっぱりさせている見事な味に二重の驚きです。
止まりません、パンと肉団子を交互にお口に運ぶ手が止まりません。旦那様とは異なり重厚さと爽やかさをまとった……………そう、はるか東の地の伝統舞踊のような深さと軽やかさが私を魅了します。
禁断の舞踊…………わたくし今どんなお顔で食事をしているのかしら…………そうです、まだ終わりではないのです。
ドキドキしながら長四角の肉団子にフォークを差し入れます。
ふわりと軽く刺さり早速驚かされましたがマヨソースをつけて口に運ぶとさらに衝撃的でした。
軽いふわふわとしたそぼろの様な食感の中に恐ろしく味わい深く強い食感のあるお肉が潜んでいて噛む度に複雑な味がはじけるのです。
これは、普段あまり食べない内臓系のお肉を使っていますね。食感や臭みがあるので好みが分かれる食材です。
上手く処理をして味わいを残しつつ食べやすく料理されています。
噛むほどに部位の違う内臓の力強い味と、それを包み込む柔らかなそぼろとマヨソース…………絶妙で統合され、完全に計算され尽くされた味わい。
無心に頬張り、幸せを噛み締めます。
もう、わたくしどれだけ愛されているのでしょう……………全てを食べ終え余韻に浸りながらもソフィアさんに近づいていきます。
お二人は笑顔出迎えてくれます。
お二人の手を握り精一杯のお礼をいたします。
「ごちそうさまでした、あなた方の愛を受け取りました。お父様の癒やしをさせていただきます」
お二人の手の温もりと、先ほどの料理に込められた愛を糧にわたくしに許されたもう一つの御力を解放します。
『愛の対価』
私は愛の代弁者様の書斎にたどり着きます。
そこには一冊の本が用意されていました、その本を読み解き魔力回路を形成し魔術を行使します。
愛の代弁者様の微笑みを最後に元のお店に戻ります。
「神官様。お顔の色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
心配してくれるソフィアさんを制止して、奥の階段を指差します。
そこには寝間着姿の男性が元気に降りてくる姿。
お二人は驚き男性に駆け寄ります。
その隙に、わたくしは店を抜け出し路地裏でうずくまりゲホッと血の塊を吐き出します。
予想通りオアンドルマンの解毒は難しく、さらに衰弱されていたお父様の御身体を癒すまでの魔術は私には早かったようです。
『愛の対価』は、私に向けられた愛を呼び水に神の代弁者様がお使いになられるありとあらゆる魔術を閲覧する私の能力です。
『嬌声詠唱』は他者との熱い愛を対価に直接愛の神様の御力を顕現させますが、『愛の対価』は術を行使するのはあくまで私。分不相応な術にはこのような代償が生じます。
大丈夫です、美味しい物を食べて少し休めば回復します。
わたくしなどどうでも良いのです。傷ついた子羊を救えるのであれば、このくらいの痛みなど問題ありません。
あの娘を救えなかった…………そう、だから救える命をただ救う。
わたくしは浄化の魔術をチョーカーの魔力回路で発動し立ち上がります。
私はアリス。
愛の神様に全てを捧げたものです。




