35/35
ブランコ
夏の夜、ブランコに乗った。
自宅アパートから徒歩二分ほどの小さな公園。ブランコは二脚ある。
ブランコに座ると星が見える。
ブランコをこぐと星が良く見える。
星に混じって空を飛ぶ飛行機の点滅が赤く遠くに瞬いている。
僕の左のブランコには誰もいない。
この公園には僕しかいない。
住宅街にあるブランコを僕は自分のペースでゆったりとこぐ。
大人の僕の身体をブランコは余裕を持って受け止めるが、僕の手には子供の頃よりはるかに大きな体重がかかっている。
一生懸命こぐことは出来ない。明日も仕事がある。怪我をしたら大変だ。
「ちょっとブランコをこいでくる。サキもくるか?」
夕飯を食べたあと妻に言った。怪訝な顔をして「なんで?」と言った妻はついてこなかった。
ブランコをこぐと夜空に星と僕の足が映る。
小説家先生なら、空に落ちていく――とか書くのかな? いやそれじゃ駄文だろう。
せめて――夜空に落ちる。いやこれでも一緒か。
僕はブランコを降りて、家に帰る。




