それぞれの明日
吉村敏彦、斉藤啓二逮捕のニュースは瞬時に全国区に流れた。
身内同士のイザコザから、連続殺人へと発展した事件は世間から当然のごとく突き上げられ、佐久間たちは甘んじて批判を受けた。
「吉村敏彦の動機が分かりました」
日下が取調室からの情報を持って捜査一課に帰ってくる。
「割れたか?どんな動機だ?」
「それが、山川刑事と合同調査で意見が分かれた時、山川刑事にみんなの前で批判を受けたことがキャリアの吉村にはプライドが傷つき堪え難かったそうです」
安藤と山川は呆れてしまった。
「たったそれだけのことで?」
「まだあります。安間京香殺害の件です。なんでも安間圭介の捜査中に妹の京香に惚れた吉村は捜査情報を妹を通じて安間圭介に流す名目で身体を手に入れ蹂躙していたらしいです。子供が出来て、報告を受けた吉村は、安間京香自体の存在がキャリアに傷つくものと判断し、悪友の斉藤啓二と共謀し、これを殺害。佐久間警部の見立て通り、安間京香を拉致し車内で射殺し、山川刑事に罪を着せようと企てたそうです」
山川は怒り心頭だ。
「俺が今から引導を渡して来てやる」
佐久間は、笑いながら山川を止める。
「よせ、山さん。吉村は初めから警察官に適合しなかったんだよ。あれはさすがに救えない。それよりも課長、一つお願いがあるんですが?」
「・・・わかっている。お前のことだ。野本秀人だろう?」
「はい。彼はまだやり直せます。安間圭介や安間京香に関係した人間を一人でも多く救ってあげたいと思います」
「面倒見てやってくれ。片寄くんには私から話そう」
「はい。ありがとうございます」
安藤から、了承を得た佐久間は捜査二課に赴き、片寄に相談。
片寄は腕を組みながら、佐久間の説明を聴くと、その場で田中に声を掛ける。
「おーい、田中。お前が大嫌いな捜査一課の佐久間警部がお前に用があるってよ!」
佐久間が、小声で片寄に話す。
「片寄課長もお人が悪い。あれではビビってしまいますよ」
片寄は豪快に笑う。
「あれくらいがちょうど良いんだ。ウチの課はどうも人を敬ったりしない傾向がある。少し二課の若い奴も鍛えてやってくれ」
「同じ組織として承ります」
佐久間は、振り返り田中の元へ歩いていくと、田中はカタカタと震え身動きが出来ない。
「よう、田中。この間は日下に協力してくれて助かったよ。しっかりチェックしてくれたんだよな?」
田中は大量の汗を書き、申し開きが出来ない。
「その話はまあ良い。それよりも野本秀人に関する捜査を見直すぞ。二課も協力すること。片寄課長の同意は得ている。・・・鍛えてやるから、黙ってついてこい。使えるレベルまで、お前を引き上げてやるよ」
田中は、顔つきを変え、嬉しそうに立ち上がり返事をした。
「はい。今までの無礼お詫びいたします。ついていきます。よろしくお願いいたします!」
「片寄課長、そういう訳で田中をしばらくお預かりします」
片寄は、右手をあげて合図する。
「田中、しっかり励め。佐久間をウチに引っ張るくらい勤めて来いよ?」
「はい、課長!」
四ヶ月後。
佐久間たちの再捜査で、野本秀人の冤罪が証明され、晴れて野本秀人は被告人から外れることが確定した。
「佐久間警部。本当に何てお礼申してよいか。・・・あなたを信じて良かった。おかげで美雪も戻ってくれました」
坂田美雪も照れくさそうに、野本秀人の背後から顔を出す。
「美雪さん、今度こそ旦那さんを信じてあげてください。前にも話しましたが、あなた方は似合いの夫婦だ」
「前にも佐久間警部に相談を?本当かい?」
坂田美雪は動揺するが、佐久間はそれを遮った。
「私と美雪さんだけの話です。いかに野本秀人さんが良い男かを話しました」
野本秀人は照れ笑いしながらも美雪の指をぎゅっと握り締め、そんな光景を微笑ましく眺めた。
(ふぅ。これで本当の意味で事件解決だ。・・・なあ、安間。お前が中心となって生き抜いた証は、どれも色華やかに蘇ったよ。これで、お前も安らかに逝けるよな?・・・後は智子さんのことを頼んだぞ)
捜査一課に戻ると、また新たな事件報告が入っている。
めまぐるしく変化する事件解決に今日も頭を切り替え対応する佐久間であった。
「行くぞ、山さん。小川、芝﨑!」