聖具召喚
「ルディ、頑張るのよ。 それと絶対休みには帰ってきてね。」
母さんが俺を抱きしめ暫しの別れの挨拶をする。
随分と前から俺が学園に行くことは決まっていたはずだがそう割り切れないらしく涙目だ。
「わかってるよ母さん。 手紙も書くよ。」
「うん、うん! 書い、てね? 」
あちゃー、泣いちゃった。
これじゃあどっちが子供かわからないな。
慰めと出発する意思を込め母さんの頭を撫でる。
「行ってくるよ母さん。 元気でね。 」
「行ってらっしゃい、ルディちゃん。 」
俺は母さんから離れ父さんが待ってる馬車に向かう。
父さんは御者台に座り、俺とヴィオラちゃんを待っていた。
「父さん、お待たせ。」
「母さん泣いてたか? 」
声をかけた俺を見て苦笑い気味に聞いてくる。
どうやら父さんは母さんが泣くことを予測してたらしい。
「それはもう、ワンワンとね。 」
「そうか、帰ってきたら父さんが慰めなくちゃな。 」
大人特有の嫌らしいを笑みを浮かべそう言ってきた。
このエロ親父、こんな子供に下ネタ言うんじゃねえよ。
「程々にね。妹ができることを祈ってるよ。 」
弟は嫌だ。俺の理想の妹育成計画ができないからな。
俺と父さんが下ネタ合戦をしていると、ヴィオラちゃんがやってきた。
どうやらお別れは終わったらしい。
「ルディ‥。 グスグス 」
涙で濡れた顔を隠す様に俺に抱きついてきた。
やはり、まだこの年齢の子供は親から離れるのは寂しいか。
(ちゃんと慰めなさいよ。 これからこの子はあなたが心の支えになるんだから。 )
ほう、それは父さんと同じ意味での慰めかな? 変態め!
(ち、違うわよ! そういうことを考えるあなたが変態でしょうが! )
はいはい、そういう事にしときますよ。
「ヴィオラちゃん、もう行こうか。」
レヴィがまだギャーギャー騒いでいるが無視だ。
背中をトントンと叩き馬車にエスコートする。
ヴィオラちゃんは俺の腕に抱きついて歩いている。
「父さんもう行こう。 そろそろ出ないと野営する事になるよ。」
そうなのだ、ここから学園都市までは4つの都市を経由しないといけない。
でもその都市は夜になると門が閉まってしまう。
下手したら、門の前で野営だ。
俺と父さんは大丈夫だがヴィオラちゃんにはきついだろう。
「そうだな、よし! 乗れ出発するぞ! 」
「入るよヴィオラちゃん。」
そう言って馬車のドアを開ける。
「‥‥うん。」
俺とヴィオラちゃんがすでにアリアが入っていた馬車の中に入り俺がドアを閉めたところで父さんが馬に鞭を打つ。
「は! 行ってくるぞ! ほらルディ! ヴィオラちゃん! お母さんたちに手を振りなさい。」
馬車が徐々にスピードを上げると父さんがそんなことを言った。
「ほら、ヴィオラちゃん手を振ろう。 」
馬車に取り付けられている窓を開け、そう促す。
俺に促されたヴィオラちゃんは何か吹っ切ったのか窓から身を乗り出して勢いよく手を振りだした。
「ママ〜! 私絶対! ルディのお嫁さんになるからね〜! それとパパ〜も元気でね〜!」
俺は反対側の窓から母さんたちに手を振っている時にいきなりの爆弾発言に馬車から落ちそうになってしまった。
「ヴィオラ! ダメだ! その男だけは認めんぞ! パパは認めないぞ! ヴィオラーー!!」
ヴィオラちゃんの爆弾発言を受けベルクさんが暴れ出した。
あ、エルさんに沈められた。
最後は閉まらなくなってしまったが、まあこれはこれでいいだろう。
暫く手を振りつつけた俺たちは母さんたちが見えなくなったところで窓を閉め、席に着いた。
ふー、一時の別れというのも辛いものだなとしみじみと思いながら最初の都市のラングに向かうのだった。
因みに、アリアは馬車に入った時からずっと泣いていてしゃべることも出来ていなかったのだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ガラガラと馬車が音を鳴らし街道をひた進む。
母さんたちと別れてからおよそ3時間が経過した。
出発した頃が朝方だったので今は昼頃といったところか。
ヴィオラちゃんとアリアは泣き疲れて眠ってしまったらしい。
俺はというとのんびりと進む風景を今まで見ていたのだがもう飽きてきた。
俺もヴィオラちゃんやアリアの様に寝ようかと思い始めていると、突然俺の危険察知が反応した。
1,2,3,‥‥15か、この反応魔物か。
まあいい、退屈していたところだ。 入試前に試したいスキルもあるし、殺るか。
「父さん、俺が行くよ。 」
「わかった、なるべく静かにな。」
父さんも気づいていると思ったのでただ俺が行くと告げる。
「分かってるよ。 騒がせる間も与えないから。 」
そう言ってドアをゆっくりと開け、飛び立ちこれまたゆっくりとドアを閉める。
ドアを閉めた俺は空高く浮かび上がり襲撃者どもの顔を見る。
「なんだあの豚ズラ? オークという奴か、初めて見たな。 まあ関係ないけど。」
(ルディ、あのスキル試すの? )
「ああ、あれ一度も使ったことないだろ?それで入試の前にどんなのか見ておこうと思ってな。」
(まさか入試でスキル全部使うわけじゃないでしょうね? )
「そのまさかだよ、何事にも全力でが俺のモットーなんだ。おっと」
レヴィと話しているうちに馬車に近づこうとした豚ズラを重力操作で地面に縫い付ける。
油断も隙もない。
でもまだ殺さない。実験台は多いほうがいいからな。
「じゃあやるか、【聖具召喚:lv1】」
俺が1000程の魔力を込め聖具召喚のスキルを発動すると全身に白を基調として縁に金をあしらった見るからに聖なる防具一式が装備された。
若干輝いている様にも見える。
それを見た俺は再び心の奥底から湧き出るもの(中二病)を抑えながら、聖具に包まれた拳をグッと握る。
するといつもより力が漲っている気がする。
気のせいか? と思ったが恐らくこれはこの聖具の効果のひとつなのだろう。
ひとしきり鎧を確認した俺は、地面に縫い付けた豚ズラどもの近くに降り立つ。
「この馬車を襲ったのが運が悪かった様だな。まずどれくらい力が上がっているのか見させて貰おうか! 」
そう言って軽く豚ズラの顔を殴りつける。
すると顔が弾け飛んでスプラッタになってしまった。
顔が凹む程度にやったのだがこんなハンバーグみたいになってしまうとは‥‥。
lv.1でこれとはかなり強力だな。
俺の戦術と合いそうなので何よりだ。
もう十分にこの聖具の力は分かった。あとは上がった身体能力に慣れるだけだ。
あと14体の実験台たちで訓練するとしよう。
豚ズラどもにかけていた重力を解き、観測眼を俺の周囲を対象に発動させる。
観測眼を発動させた途端俺の周りにいた豚ズラどもが一斉に襲いかかってくるのが視えた。
全くさっきまで誰がお前たちを拘束してたと思ってんだ。
すこしは考えろ。
(魔物に何を求めてんのよ。 )
血湧き肉躍る戦い。
(戦闘狂ね。 ああ、昔のあなたが懐かしいわ。 )
人は変わるの、おーけー?
(変わりすぎもどうかと思うわ。)
俺はレヴィと話しながら赤い予測線を見て、スルリスルリと交わし続ける。
14体一斉に全方位から必死で攻撃してるが未来が見える俺には効かない。
それを暫く続けた豚ズラどもは息を荒くして俺から一旦離れた。
休憩らしい。
もう終わりにしてやろう。だいたい感覚は掴むことができた。
「ご協力ありがとう、豚ズラくんたち。 疲れただろう、俺が休ませてあげるよ。」
そう言って豚ズラの間を縫う様に高速で動く。
俺が元の位置に戻ったと同時に、豚ズラたちは胸に穴を開け一斉に膝をつき倒れこみ其処ら中を血の海にした。
俺が聖具についた血を拭っていると、体の中に豚ズラ達の魂が流れ込んできた。
その魂は、極上の豚肉の味がする。
これはうまいな、今度からはオークもみたら狩ってみよう。
「魔物退治も終わったことだし、馬車に戻るか。 」
聖具召喚を解き、だいぶ遠くなった馬車を見て空に浮かび上がりそれを追うのだった。
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