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信濃の修羅〜現代人の俺、存在しないハズの真田の三男坊として転生す〜  作者: ギュネイ山本
第八章【来るなら来やがれ!源四郎対『会津国衆合議連』の段】

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其之十一

――郡山へと至る街道――

春日山からの物資を無事に積み終えた源四郎の一行は、留守を頼綱に任せ次なる標的である郡山を目指して馬を走らせていた。

「まったくぅ、兄様ったら……絶対あとで俺たちもまとめて兄上に怒られるの分かっててやりやがったな……」

馬上で大きく肩を落とし、未だに浮かない顔でぶつぶつと呟く源四郎。

「これこれ源四郎。これから【郡山】の敵陣をぶち抜こうという時に、全軍を率いる将たるお前がそんな腑抜けた顔をしてどうする」

苦笑しながらもビシッと引き締める小十郎の横から、源十郎がひょいと顔を覗かせる。

「そぅだよ兄様ぁ。そんなに落ち込まないでよ。上田に帰ったら、俺も一緒に兄上の説教聞いて頭下げてあげるからさぁ」

「お前なぁ……それ、何の慰めにもなってねぇからな……」

末弟の妙に慣れた気遣いに、源四郎は乾いた笑いを漏らす。

だが、戦場の張り詰めた空気がその弛んだ雰囲気を許さない。遠く、地平の向こうに見え隠れする郡山の城影……

そこに陣取る【会津国衆合議連】の兵どもを叩き潰すため、伊達の牙は静かに、だが確実に研ぎ澄まされていく。

「して源四郎? 郡山の敵陣をどうやって突破するつもりだ?」

馬を並べながら、小十郎が落ち着いた声で問う。

「あ〜、それですが………隊を二つに分けまする」

「ほぅ……」

敵の正面を突くか一気呵成に蹂躙するかという瀬戸際で、あっけらかんと「戦力の分散」を口にする源四郎。

だが、小十郎はそれを聞いて微塵も眉を動かさず、ただ静かに続きを促すのみだった。

理不尽なまでの爆薬の運用と、常識外れの戦術を次々と成功させてきたこの男のやり方。

それを今や小十郎は完全に信頼し、理解している。

無駄な疑念や不要な問答など、もはやこの二人の間には必要なかった。

「隊を分けるっていうと………あ、また俺と兄様とで【特務隊】と共に別行動ってトコ?」

馬を少し進ませて会話に割って入ってきたのは、源十郎だった。

「お? ちょっと見ないうちに、だいぶ察しが良くなったじゃねぇか、源十郎」

「当たり前だよ。さっき道すがら、畑仕事してる百姓捕まえて前田沢城の辺りの地形をしつこく聞いて回ってたじゃん!」

源十郎が指し示す先にあるのは、前田沢城。

【会津国衆合議連(畠山、大内)】が伊達本隊と源四郎たちの挟撃を迎え撃つべく、まさに待ち構えるように陣を構えている絶好の要害であった。

政宗が率いる二本松方面からの本隊と、今まさに進撃する源四郎らを迎え撃つには、これ以上ない拠点である。

「まぁな……。時に源十郎、おめぇ……泳げるだろうな?」

「………へ?」

ニヤリと不敵に笑った源四郎から発せられた、あまりに唐突な『泳ぎの自信』についての問いかけ。

その言葉の裏に隠された、地獄の渡河作戦と泥臭すぎる奇襲の真意を、源十郎はこの時…まだ知る由もなかった。

――その頃――

――二本松付近の街道――

立ち込める硝煙と血の匂いのなか、伊達本隊は二本松城の留守居勢による予想外の激しい逆襲を受け、足止めを余儀なくされていた。

「藤次郎! 兵の皆々に手ひどい怪我は少ねぇが……こりゃあ進軍に思い切り障りがあるぞ!」

「政宗様! 藤五郎が申す通り、ここは一度隊を立て直し、速度を落とされては……!」

藤五郎と左衛門が、疲弊の色が濃くなってきた前線の損耗を鑑みて必死に進言する。

が!

「馬鹿を抜かせ、藤五郎! 左衛門!! 俺たちがここで足を緩めれば……今頃先に郡山へと取り付いているはずの源四郎と小十郎が、敵の包囲に孤立して危機に瀕するではないか!」

政宗は一喝して二人の言葉を遮り、愛馬を激しく蹴って速度を落とさぬまま猛進を続ける。

(くっ……! 予想外に時を喰っちまったのは確かだ……。頼む、もってくれよ田村のオヤジ殿! そして……源四郎! 小十郎!!)

田村家の窮地を救うべく急ぐ疾風怒濤の進撃は、一瞬の油断も許されない極限の速度で郡山へと雪崩れ込んでいく。

――話は戻って――

――前田沢城を遠くに見据える里山の裾野――

「でぇ〜……兄様ぁ〜……はぁ、はぁっ……」

「んだよ? もうバテたのか源十郎ぉ??」

「バテるよ! さっきから何回そこの五百川に丸太運んでると思ってんの!? 近くの杣師のおっさんたちにも金払って手伝ってもらってるけどさぁ!!」

小十郎の本隊と分かれ、【特務隊】を率いる源四郎と源十郎は、近隣の山から切り出した膨大な丸太を、城の目と鼻の先を流れる五百川の河川敷へと必死の形相で運搬していた。

「だいたい俺…………そもそも泳げねぇのに、なんで川の傍でこんな力仕事させられてるわけ……」

ゼイゼイと息を乱しながらボソリと零す源十郎。

それを聞いた源四郎は、全く悪びれる様子もなく豪快に笑い飛ばす。

「なに、大丈夫だってんだろ! 万が一足がつって溺れたら、俺がこの手で無理くり引っ張り上げてやるって! ほれ、安心しろ、お前の腰にはちゃーんと命綱くくっといてやるからさ!」

「それ、落ちたら俺が兄様に引きずり回されるだけじゃん……不安しかないよぉ〜……」

絶対絶命の地獄絵図しか浮かばないセリフに、源十郎は半べそをかきながら、それでも丸太を放り出すわけにいかず必死に腕を動かすのだった。

そして、山からの丸太の切り出しと運搬が終わると、河川敷は一気に慌ただしい突貫作業の場へと変わった。

「オメーら! 手を抜くな、隙間なくしっかり結べよぉ!! そこに自分の命を預けるんだからなぁ!! 丸太を一枚隔てた下の川面は、そのまま地獄だと思え!!」

源四郎の気合の入った号令に、特務隊の精鋭たちが野太い返事で応える。

「「「「「了解っ!!」」」」」

河川敷で始まる、手際の良い筏(いかだ)作り。屈強な男たちが縄を巧みに操り、轟音を立てる五百川の流れに耐えうる頑丈な浮き橋ならぬ特製筏を組み上げていく。

その様子を尻目に、まだロープワークや筏の構造に慣れていない源十郎は、川を漕ぐための「櫂(かい)」となる細めの丸太をナタで削りながら、恐怖のあまり全身を震わせ、顔面を真っ青にしていた。

(いよいよ……いよいよホントに、あの激流の川面に丸太ひとつの身で漕ぎ出すのかよぉおおお! しのぉ……! 俺、こんなところで犬死にするかもしれない……怖ぇえよぉお……!)

向羽黒山城で自分の帰りを待っているであろう許嫁・しのの笑顔を必死に脳裏に浮かべ、源十郎は泣き言を飲み込みながら、ガタガタと震える手で櫂を削り続ける。

そんなビビり倒して青ざめている源十郎の様子を、源四郎は少し離れた場所からチラリと見やり、内心で苦笑交じりの共感を覚えていた。

(まぁ、やっぱりビビるよなぁ……。俺だってレンジャー訓練で、朝霞の温水プールや管理された水域でみっちり立ち泳ぎや巻き足を叩き込まれたけどさ。……よりによって、この雪解け水で冷え切った濁流の五百川を目の前にしたら、そりゃ足もすくむか)

源四郎が改めて川面に視線を向ければ、そこにあったのは濁流がうねりを上げて轟音を立てる、文字通り落ちれば一瞬で引きずり込まれてひとたまりもない「地獄の激流」だった。

(……でも、ここで尻込みしてたら作戦がパーだ。奇策、奇襲を用いらねば本隊の到着に間に合わねぇ。……仕方ねぇ! 俺の得意技、【事後報告】で行くか! あとで死ぬほど怒られるだろうが……申し訳ねぇ、政宗様、御屋形様!!)

伊達本隊や総大将への正式な許可など取っている暇はない。非合法スレスレの強行突破。

源四郎は腹をくくると、ニヤリと不敵な笑みを貼り付け、河川敷で作業を手伝ってくれている杣師たちの頭目の元へと大股で歩み寄っていった。

「棟梁ぉ! 少しいいか?」

「へぇ、なんでございましょお武家様?」

杣師たちの頭目が、汗を拭いながら源四郎の呼び声に応えて振り返る。

「すまねぇが……金子を弾む。ここから前田沢の敵陣の脇まで、この川を下るための船頭を出してちゃくれないか?」

その言葉を聞いた瞬間、屈強な杣師たちは一様にギョッと目を見開いた。

「ご冗談を仰せなさるな、お武家様ぁ!」

「筏なんか組みよるからまさかたぁ思っとったが!!」

「見なせぇ、今の五百川の濁流なんて、雪解け水が混じってすぐ下まで轟音を立てて流れてやがるでしょうに! 下手すりゃ筏ごと木端微塵、死にに行くようなモンでさぁ!!」

「そうだ、無理だ無理だ!」

命がいくつあっても足りないとばかりに、男たちは口々に尻込みをして首を振る。

当たり前の反応だった。

だが、次の瞬間…源四郎は不敵に笑い、低く通る声で口にした言葉を聞くや否や、歴戦の山男たちの目の色が変わった。

「なれば、金子(きんす)以外の褒美……そうだな。会津の国衆どもを伊達家が完全に平らげたあかつきには、皆様方をただの山稼ぎの一団にせず【伊達の直参の杣師】、そして軍事・水運を担う【伊達の川並衆】として正式に取り立て、破格の知行と特権を与えましょうぞ!!」

「だ、伊達の【直参の杣師】ぃ……!?」

「そ、それに【川並衆】って……お武家様、あんた、いったい……」

目の前にぶら下げられた破格の、出世と言う名の餌。

【直参】および【川並衆】という言葉に、山男たちは息を呑みつつも、まだ信じられないといった様子で顔を見合わせる。

畳み掛けるように、源四郎は胸を張って自身の身元を明かした。

「あぁ、申し遅れましたな。それがしは伊達家嫡男・政宗様の馬廻りにして、先鋒を任されし……真田源四郎にありまする!」

「「「さ、真田っ……!?」」」

その名を聞いた瞬間、杣師たちの間に激震が走り、一斉に頭を突き合わせてヒソヒソと騒ぎ立てる。

「おい聞いたか!? 真田っていやぁ、あの武田の旧領で恐れられた【武田の謀将】こと真田安房守の倅じゃねぇか!」

「お、じゃあ信濃からその三男坊がわざわざ米沢の、伊達の殿様んところに仕官しに来たってのは、もっぱらの噂じゃなくて本当だったのか!」

「おまけに聞いたぞ! 真田の領地じゃ、その三男坊が持ち込んだ奇妙な作物や商売の仕組みで、貧乏だったはずがガッポリ潤ってやがるってよ!」

「なんでも、西国の鬼ども……あの薩摩の島津とも懇意で、普通の米が育たねぇような痩せた土地でもガンガン育つ【甘くて美味い芋】を山ほど作らせてるとかなんとか……!」

ざわめく山男たちの間で、恐怖や警戒の色はみるみるうちに期待と熱狂へと塗り替わっていく。

(ふふ、噂ってのは尾ひれがついて便利に広がるもんだな……ま、薩摩の芋に関しては一部事実だが)

内心でほくそ笑む源四郎の前で、棟梁をはじめとする杣師たちが一斉に顔を上げ、腹をくくったような野太い笑みを浮かべた。

「おい、どうする野郎ども! この若ぇお武家さまにベッタリ張り付けば、俺たちの一族も末代まで安泰、一生食うに困らねぇデカい山仕事にありつけるぞ!」

「おう! 蘆名の野郎が一晩で消し飛んだのも、この真田の若様が裏でエグい仕掛けをしたからだって噂だ。乗った、ここで伊達について一山当ててやらぁ!」

「よし、決まりだ! おれたちを川並衆とやらに取り立てやがれ、若様ぁ!!」

一瞬にして伊達方に寝返る気満々、むしろ命を賭けてでも功績を挙げてやろうという猛者たちの群れへと変貌を遂げたのだった。

(あ〜あ〜あぁ! 乗せちゃったよ、あのバカ兄様ったら!! ホントにその場の勢いとハッタリで、まわりの人間を【狂気】の釜の底に走らせるのが得意だよなぁ……!)

その様子を少し離れた場所から遠巻きに見つめながら、源十郎は腹の底で盛大なため息を吐き、頭を抱えた。

が、すぐにガタガタと震えていた肩をぴたりと止め、自らの頬を両手で強く叩いて気合いを入れる。

(ええい、ままよ! 俺だって、あの兄様の巻き起こす【狂気】の渦に飛び込んで、ここまで真田の看板背負って生きてきたんじゃねぇか! こうなったら、こんな雪解けの濁流くらい意地でも突破して……生きてこの足で向羽黒山に帰って…待っててくれるしのの胸の谷間に思いっきり顔埋めて泣きついてやるよ!!)

動機はいささか不純で極めて個人的な煩悩にまみれてはいたが、目の前で猛る杣師たちの熱気と、背中を押す源四郎の狂気じみたカリスマ性に感化され、源十郎の中で最後の覚悟がカチリと定まった。

――しばし後――

水飛沫を上げて荒れ狂う五百川の岸辺に、大小さまざまな筏が並べられた。

「皆様がた! 準備はよろしいですな!」

「「「「「おぅっ!!」」」」」

杣師たちの野太い気合の声が、轟音を立てる濁流にかき消されるように響く。

筏の上には、源四郎が持ち込んだ仕掛けの数々。

起爆用、装薬用の火薬類、【竹龍】の基部、そして【真田籠】がしっかりと積み上げられている。

さらに、その周囲には【竹龍】の砲身部分となる青竹の束が幾重にも括り付けられ、水面に曳航されていた。

その中央、人や資材を乗せるための本隊の筏に、源四郎と源十郎に【特務隊】の皆々、そして寝返った杣師の精鋭たちが乗り込む。

「おい、しっかり捕まってろよ源十郎! お前の腰にはちゃんと命綱はくくりつけてあるが………まぁ、しょーじき! 途中で外れたり筏が木端微塵になったら命の保証はしかねるぞ!?」

「今それ言う!? ねぇ、出発の直前の今それ言うか普通! このバカ兄様ぁ!?」

「ははは! さぁさぁ、漢(おとこ)の見せ所だ、行くぞぉーっ!」

「「おーーっ!!」」

「うぎゃああああああああっ!?」

源四郎の号令とともに、荒れ狂う雪解け水へと一気に放たれる特製筏。

激流が一瞬にして船体を呑み込み、前後左右へ猛烈な勢いで跳ね飛ばす。

文字通りの地獄の激流下り…

伊達の命運と真田の狂気を乗せた決死行が、轟音とともに幕を開ける!

「ぁあああああぁあ! 死ぬ! 死ぬ!! 死ぬぅううううっ!!」

「うっせぇぞ源十郎! 叫んでる暇があったら歯を食いしばれ! しっかり俺の胴にしがみついとけ!!」

「んぁあああああ!!」

激流のうねりと凄まじい水飛沫が容赦なく筏を叩きつけ、巨大な岩肌すれすれをまるで木の葉のようにもてあそぶ。

あらかじめ覚悟を決めていたはずの源十郎だったが、あまりの凄まじさに頭は真っ白になり、涙と鼻水をまき散らしながら絶叫の連続。対する源四郎も、荒れ狂う衝撃のなかで必死に筏のロープと弟の体を掴み、怒鳴り声を上げて気合でバランスを取ろうとする!

「皆様がた! これより先、一番の瀬が落ち合う最大の難所でさぁ! ここを抜ければ前田沢城の真下だ、しっかり捕まっておくんなせぇ!」

杣師の老練な船頭が血走った目で叫ぶ。

「「「「「応っ!!」」」」」

死地を越えてきた特務隊員たちと、源四郎の顔に「ここで死んでなるものか!」とばかりに凄まじい闘志が宿る。

「いやぁあああああぁあああ! 助けてしのぉおおおおおおおおおおお!!」

対する源十郎は、もはや武士の面目など一片たりとも残っておらず、魂の抜けたような虚ろな目で宙を仰ぎ、許嫁の名を叫びながら必死に兄の背中にしがみつくことしかできなかった。

怒号と水飛沫が入り交じる中、筏は容赦なく牙を剥く白波の峡谷へと飛び込んでいき…

――四半刻ほど後――

常軌を逸した激流と絶叫の連続をどうにか耐え抜き、文字通りの地獄巡りを経た一行は、奇跡的にも誰一人欠けることなく物資の大きな損耗さえゼロのまま、前田沢城の北側へと回り込んだ河川敷に辿り着く。

「若様ぁ! 流石の荒業でしたが、どうにか着きやしたぜ! それでは我々杣師の衆は、この河川敷の茂みに身を伏せて撤収の合図を待ちます故!」

「おぅ、頼む! ……おい、いつまで草むらで腑抜けてんだ源十郎!! 気絶してる暇があったら立て!!お前、まさか恐怖でションベン漏らしてんじゃねぇだろうな!?」

「………………ふぇ!?」

源四郎にガツンと額を叩かれ、源十郎は白目を剥いた状態からハタと現実へ引き戻される。

「…………………っしゃあ!! 見ろよこの前田沢城の裏手を! こっから先は俺の【眼】の出番だってんだ!!」

さっきまでの半べそが嘘のように、立ち上がった源十郎は気負い立った笑みを浮かべて気合を入れ直す。

「…………………さっきまで白目剥いて伸びてた分際で、よく言うぜ」

呆れ果てた顔を向けつつも、源四郎は手を休めず、着実に敵陣の裏を突くための物資の積み下ろしと火薬のセッティングに勤しむのだった。

――かかる後――

宵闇が奥州の地をを飲み込み、前田沢城の周囲が静寂と暗闇に包まれた頃。

「このあぜ道からなら直線で八十間……『竹龍』の直射で狙うには、射程ギリギリってところか? 源十郎」

「うん……風向きもこっちに向いてる。けど、物見の話だと、こちら側の空堀沿いに敵の主要な陣屋が建ってんでしょ? そこさえ奴らの目の前で焼き払って混乱させれば……!」

「あぁ、あとは俺が数名の精鋭を率いて空堀をひょいと越え、郭内に忍び込んで【焙烙玉】でボカン!……だ!! おい、おめぇら、夜戦だ、源十郎に撃たれねぇようにモールス信号用の龕灯は絶対忘れるなよ!」

「「「「了解っ!!」」」」

低く気合の入った返事が夜の闇に吸い込まれる。

日没を待って、完全に行動を開始した特務隊。

あぜ道に突貫で構築された【砲迫陣地】では、源十郎が冷徹な狙撃手の目つきに切り替わり、敵陣の木造家屋を焼き尽くすための【焼夷弾頭】を「竹龍」へと丹念に装填していく。

一方その頃、源四郎は闇に溶け込むように気配を消し、敵の死角となる空堀の斜面をスルスルと登るべく、前進を開始する。

敵の目を欺く奇襲による混乱、圧倒的な火炎による分断、そして重要拠点の徹底的な破壊。

それは数々の修羅場をくぐり抜けてきた源四郎からすれば、現代の軍事作戦そのもの。

【正確な火力支援を受けて行う、敵中枢施設の爆破工作(サボタージュ)】に他ならなかった!!

そして瞬く間に、源四郎が率いる特務隊員たちが闇夜に紛れて前田沢城の空堀に取り付き、【砲迫陣地】へ向けて合図のモールスを放つ!

「よし、『火力支援、開始』の合図だ。……りょーかいだぜ、兄様! 者共、【竹龍】一から三番、装填よし! 弾種は【焼夷弾】……放てぇーーっ!!」

源十郎の冴え渡る号令のもと、暗闇のあぜ道に据えられた真田自慢の竹筒砲が牙を剥く。

ゴォオオオォオオーーーンッ!!

ドォオオオオオオオオオオオオオオオーーーンッ!!

会津の静寂を切り裂いて轟いた【竹龍】の連続咆哮は、城を囲む軍勢のどんな鬨の声よりもデカく、重々しく、そして雄々しく闇夜に鳴り響く!

狙いたがわず正確無比に放たれた焼夷弾頭が、敵陣のあちこちに陣取る茅葺き屋根の陣屋へと突き刺さり、一瞬にして猛烈な炎を爆発的に燃え広がらせた。

「な、なんだぁ……!? て、敵襲ぅ――っ!!」

「ば、馬鹿な! 伊達の主力はまだ二本松の兵どもを相手に手こすっているはずでは……!?」

頭上から降ってきた突然の業火に、郭内からは阿鼻叫喚の悲鳴と、パニックに陥った兵たちの混乱の怒号が瞬く間に湧き上がっていった。

――同刻――

――前田沢城を望む街道――

「片倉様ぁ!! 前田沢の郭内より火の手が上がりました! 夜空を焦がすほどの猛火にございます!」

「…………ふっ、やったか、源四郎め!! 者ども、勝鬨を上げぇ!!」

「「「「「ぉおおおおおおおおおおおおお――っ!!」」」」」

小十郎の鋭い号令の下、待ち構えていた伊達の精鋭たちが一斉に凄まじい鬨の声を夜空へ突き上げる。

「全軍、なだれ込め! 城から逃げ惑う敵を容赦なく二本松の方角へ追い立てるのだ! 政宗様の本隊と合流し、一網打尽の挟み撃ちにするぞ!!」

「「「「「「おっしゃあああああ!!」」」」」」

士気は完全に天を突いていた。

二重の鬨の声を轟かせながら、小十郎の本隊は怒涛の勢いで前田沢城下へと雪崩れ込んでいく。

(さて……あの源四郎め、今頃は郭内にて暴れ回っておる頃か。事が済んだらうまく抜け出せよ……。まぁ、あやつと【特務隊】の図太さと武勇を鑑みれば無用な心配であるか)

腹の底で一応の苦笑交じりの労いを挟みつつも、小十郎の瞳に迷いは微塵もない。

それは、あの特務隊が持つ圧倒的な危険度と、源四郎という男の底知れぬしぶとさを誰よりも深く理解しているからに他ならなかった。

――前田沢城、郭内――

「て、敵はどこじゃあ……!?」

「五百川のほうから矢継ぎ早に【筒】が火を吹いて飛んできやがる! 早く川岸に兵を差し向けろ!」

「馬鹿を申せ! 城壁の向こうより、まずは足元の火を消し、蔵から武具を運び出すのが先だ!!」

文字通りの「火の車」と化した郭内は、どこから何が襲ってきたのかも分からず、右往左往する敵兵たちの怒号と悲鳴で完全に麻痺していた。

その混乱の真っただ中………

スッ……。

「……っ」

「かはっ……」

音もなく背後へ忍び寄り、逃げ惑う敵兵の首筋を冷徹にかき切る源四郎。

スッ……。

「……」

「ぐふっ」

スッ……。

「……」

「あっ……」

スッ……。

「……」

「げふっ」

源四郎に続く特務隊の精鋭たちもまた、暗殺者のような無音の足取りと寸分の狂いもない刃さばきで、混乱に乗じた敵兵を次々と沈めていく。

(はっ!敵はすっかり俺たちの仕掛けた砲火に泡をくってやがるな。……なれば、ここからが本番だ!)

源四郎は闇に溶け込むように身を低くし、冷徹な光を湛えた瞳で周囲を見渡す。

そして、背後に控える特務隊員たちへ向けて、手際よく手信号(ハンドサイン)をスパッと繰り出した。

――【各自、前進。武具・火薬庫を発見し次第、容赦なく焙烙玉を放て】。

阿鼻叫喚の混乱を突く死の影が、敵の本丸の心臓部へと確実に迫っていく。

そしてしばし後…

ドォオオオオオオオオオオオオオンッ!!

暗闇を切り裂く地響きのような轟音とともに、郭内の一角から天を突く巨大な火柱が吹き上がった。

火薬庫が爆発した爆風と熱波が郭内を吹き抜け、兵たちの悲鳴はもはや言葉にさえならぬ絶叫へと変わる。

直後、闇の中から影のように滑り込んできた手勢の特務隊員が、源四郎の前で素早く指を動かした。

【火薬庫、爆破完了】。

素早く刻まれた手信号(ハンドサイン)を目で確認した源四郎は、不敵な笑みを口元に浮かべると、即座に返す。

【了解、これより離脱開始】。

互いに言葉を発することなく、手信号のみで完璧に意志を通じ合わせる真田の特務隊。

火薬庫の誘爆により城内の混乱が頂点に達したこの一瞬こそが、彼らにとって最大の脱出好機であった。

源四郎を先頭に、特務隊の面々は炎の影と煙の充満する空堀の暗がりへと滑るように姿を消していく。

敵の拠点を完全に無力化し、防衛陣形を粉砕するサボタージュ任務は完了した。

戦いはいよいよ、二本松から急ぎ来る政宗本隊と、城下に迫る小十郎本隊による総仕上げ………

次なる殺戮のフェーズへと移行していく!

――五百川の河川敷――

砲迫陣地の撤収作業を手早く終えた源十郎は、闇に包まれた川べりで、焦燥を募らせる杣師(そまし)たちとなだめ合いながら、源四郎たち突入班からの合図を待っていた。

「おい、弟君! 若様からのその……『もーるす信号』なるものは、まだかぃ!?」

「城から逃げ出してきた畠山や大内の手勢になだれ込まれたら、あっという間に見つかっちまうぞ!?」

「そうは言ってもさぁ! こればかりは兄様たちの合図を待つしかないんだから……ん!? 来た! 光った!!」

身の安全を早く確保したい杣師たちにせっつかれ、押し問答を繰り広げていた源十郎の目が、遠く前田沢城の方角で規則正しく明滅する小さな光を捉えた。

暗闇を刺す幾度かの点滅。源十郎は脳内で瞬時にそのコードを解読する。

「【離脱準備にかかれ】……了解だ、兄様!」

伝達を確認した源十郎は、すぐさま振り返って大声を張り上げた。

「棟梁! イカダの支度だぁ!!」

「おぅよ、おいさぁ!!」

棟梁の活気の良い掛け声とともに、控えていた杣師たちが一斉に動き出す。

解体した【竹龍】やその弾薬を素早く積み込み、再び五百川の川面に漆黒のイカダが滑り出した。

水流に乗って静かに下流へと流されていくイカダの上で、源十郎は前田沢城の炎上する天守と、城下に広がる喧噪を見つめる。

(さて、兄様は『下流の橋まで再度下り、そこで伊達本隊と合流して撤退する敵を殲滅する』って言っていたけれど……政宗様の本隊は、果たしてそこに間に合うかな……!?)

川底を蹴る櫂(かい)の音とともに、真田の特務隊と伊達の本隊が交錯する、最終盤の『刑場』へと舟は進んでいく――!

久々の更新となり申し訳ありません!

さて、前田沢攻城戦は次回クライマックス!

刮目して待て!

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