其之一
――安土出立より六日後――
――日向国沖合――
「うへぇ〜…潮風が生温くて嫌だなぁ。」ゴクゴク
「仕方ねぇだろ、ここ何処だと思ってんだ?西国は日向の海の上だぞ??しかも五月だし。雨降られないだけマシだぞ??」ゴクゴク
洋上を吹く生ぬるい風に悪態を付きながら水を飲む弥五郎と源四郎。
堺でお得意の【ビジネススマイル】をかましてまたも羽毛どてらを売り込み、日向国は美々津の港へ向かう商船に転がり込んだのである。
「で、源四郎様。何故直接薩摩の島津本家ではなく分家の家久公のお膝元へ??」
「ん?あぁ、ちょいと思うところあってな。」
「?」
「(そう、この目で見たい漢がいるんだ…家康、信長公に続く三人目…【島津豊久】がな!!)」
【島津豊久】。
読者諸兄には説明不要の【●●●おいてけ】であるがここで説明しよう。
齢十五にして初陣で首級を挙げまたたく間に島津家家中で頭角を現し、秀吉の命による朝鮮出兵の際は殿を見事努めあげて帰国。
そして関ヶ原にて勇猛なる【捨てがまり】を見せ戦死する。
そんな剛の者、それが【島津豊久】である。
「しっかし佐土原ねぇ…血気に逸る荒くれものばかりだったりして。」
「そらそうだろ?九州は【修羅の巷】だぞ?織田の世にあってその織田には脇目もくれず血で血を洗う殺し合いしてんだ、荒くれの一つ二つ…通り越して千、二千くらいいるだろうさ。」
「洒落にならないですよそれ…」
「お~いお二方ぁ!そろそろ港に着きますぜぇ!」
「「は~い。」」
――日向国、美々津港――
「ほぉ〜!ここも安土同様活気あんなぁ!」
「そうですねぇ!」
港に降り立った二人は瞬く間に喧騒に包まれる。
ここは日向の物流(海運)の玄関口、様々な人と物が行き交っていた。
「で、源四郎様。早速佐土原の城にでも向かうつもりで?」
「おぉ?俺の腹ん中読めるようになって来たか!弥五郎、お前も遂に俺の右腕らし…」
ドンッ!
「ってぇ!?」ドテッ
話の途中で人とぶつかり転ぶ源四郎。
ぶつかった者は謝りもせずに立ち去ろうとする。
「おいテメェら!」
「「あぁん?」」
ぶつかった当人たる…荷役だろうか?荒々しい風貌の二人に吠える源四郎。
「人にぶつかったなら謝れよ!」
「そっちがボサっと歩いとっがじゃろうが。」
「そうじゃ!こんなとこばボケっと歩いとるそっちが悪かぞ!!」
たちまち言い合いになる三者。
「あぁ!?日向のかっぺは謝るって事も出来ねぇスカタンかよ!」
「かっぺ?」
「スカタン?」
「「…だっはっはっは!」」
途端にどっと笑い出す荒くれ共。
「あん?」
「どこの言葉かわかんちが…おはんどっから来たんが?」
あらくれの一人が問う。
「ん?信州信濃は小県だよ!」
「「信濃ぉ?だっはっは!とんだ田舎じゃなか!」」
信濃と聞いて更に笑い出す荒くれ二人。
そんな中、源四郎が静かに言う。
「…おい弥五郎。こいつら 信 濃 を 愚 弄 し た ぞ ? 」
「えぇ源四郎様… し ま し た ね 。」
普段温厚な弥五郎も【故郷】を愚弄されては黙っていない。
「あん?事実じゃ…」
ゴッ!
「ぐへぇ!」
源四郎の容赦ない鉄拳が荒くれの顔面に炸裂する!
「あ!このこぞ…」
シュ!ゴスッ!
「ぎゃ!?」
今度は弥五郎の蹴りがもう一方の荒くれの腹部に刺さる!
「「もう一度言ってみろ!」」
声を併せて言う二人。
こうなっては並大抵の者ではもう止められない。
「なんだ喧嘩かぁ?」
「荷役のバカ二人が信濃からの行商人に喧嘩売ったってよ!」
「行商人?日向の荒くれ相手によくやるねぇ。」
「しかも丁稚のガキみてぇだぞ!?」
「【殿様んとこの若君】みたい!」
そんなこんなであっと言う間に黒山の人だかりである。
そう、これが【修羅の巷九州】の日常、民もまた血の気が多い。
「おうおうおう。あっちゅう間に人だかりだなぁ?恥かく前に降参すっか?」
「私もその方がいいと思いますよ?」
涼しい顔をして二人が問う。
が…
「抜かせ行商人風情が!」
「日向の男ば舐めんな!」
頭に血が上りきった荒くれ共にそんな言葉は通じる訳がなかった。
「「はぁ〜ヤレヤレ。」」スッ
ため息交じりに源四郎は足払い、弥五郎は一人の顎を蹴りで刈る。
「ひゃ…」バタッ
「な!?ちょ、ぐぇえええ!」
一人はそのまま脳を揺らされ落ちる。
もう一人はそれを見て泡を食う間に源四郎に足を刈られバランスを崩しかかった所を背中に飛び乗られ的確に頸動脈を絞められる。
「ぐぅうううう!………」ガクッ
そして遂に落ちる。
「ありゃ?もう落ちたぞ??存外根性ねぇな。」
「本当ですね。」
あっけない幕切れに拍子抜けになる二人。
すると…
「やるじゃねぇかガキ共!」
「丁稚にしとくにゃ勿体ねえ!【佐土原の殿様】んトコに仕官しな!」
「日向の荒くれをノシちまうたぁな!」
観衆たちから歓声があがる。
「いやぁあはは…」
「たまにはこういうのも悪い気はしないですね♫」
少しいい気になる二人。
そんな中、二人を遠巻きにみる一人の武家の男があった。
「(やるなあ奴ら…しかし信濃の小県と言ったか?……まさか武田、いや音に聞こえし真田喜兵衛殿の縁者か?まぁいい。武田か真田かは知らぬが今は我が主家大友と事を構えてはおらぬ、捨て置くとするか)。」ザッ
そう言うと男は踵を返しその場を後にする。
この男、名は高橋弥七郎統虎。
後の【西国無双】立花宗茂である。
このしばらく後、源四郎はこの男から【手痛い洗礼】を受けることになるとは今は知る由もなかった…
――所変わって佐土原城下――
「ほぉ〜…さっきの荷役二人みたいなのが跋扈してるかと思ったら。」
「意外と静かですね。」
美々津の港を発ち、どっぷり日も落ちた頃、佐土原に着いた二人。
美々津での一件もあってか「九州は血の気の多い荒くればかりか?」と警戒していたが…存外そんなことはなくあっさり城下に到着、その城下も(安土や堺には劣るが)活気に溢れ治安も良いので拍子抜けする。
「きっと家久公が良き領主なんだろうな。」
「えぇ。島津四兄弟は存外領主としても有能なんでしょうねぇ…っと源次郎様、ひとまず宿をとりましょう。」
「そうだな。…けどその前になんか喰っていかねぇか?」
「そうですね…どうやらこの辺りは海の幸と茄子が名物のようですんでそこらの飯屋にでも入りますか?」
「そうすっか。」
――城下の飯屋――
「いらっしゃい。」
「二人だけど空いてる?」
「はい、そちらへ♫」
「おう。」
店番(お姉さん)に案内され席に着く源四郎と弥五郎。
飯時の為か中々の客入りである。
「この辺りにくるのは初めてなんだけど…なんかおすすめは?」
「でしたら茄子の煮浸しと鯨の塩引きの炙りなんかどうですか?」
「じゃあそれを…弥五郎もそれでいいよな?」
「えぇ、それで♫」
「かしこまりました♪お待ち下さいませ。」スッ
お茶を出し終えそそくさと厨房に戻る店番。
「中々いいな…」
「あら?源四郎様、歳上も好みですか??」
「…ばーか。俺はみお以外眼中にねぇよ、そういう意味じゃねぇ。街とそこに住まう人の気質の話よ、皆生き生きしててさ。」
「それはそうですね…小県を思い出されましたか?」
「…すこし。ほんの少し、な。」
弥五郎に問われ小県、真田の郷を思い出す源四郎。
のどかな里山、澄んだ空気、領民や家族…そしてみおの笑顔。
わずか半月ほど旅をしてこの日向にたどり着いたのだがもう何年も前の気になる源四郎。
と、ここで…
「おまたせしました、どうぞごゆっくり♪」スッ
店番が盆に乗せて飯を運んでくる。
鯨の塩引き(塩漬け)の炙りに、ナスの煮浸し、香の物に味噌汁、麦飯(大盛り)。
どれもこれもきっぷよく盛りがいい。
「おぉ来たな、いただきます!」
「では…頂きます。」
さっそく口をつける二人。
「おっ!この茄子トロトロで美味いぞ♫」
「鯨もいい塩梅に味がついてて…うんうん♫」
二人が日向の味に舌鼓を打っていると…
「しかし【殿様】は次は水俣を攻めると仰せとは!まっこと戦上手な殿様よな!」
「はっきりとは分からんがな…だが今や島津の勢いは止まるところを知らんからな!」
「このまま九州を平らげて安土の織田にでも喧嘩売るつもりなんかのぉ?」
「あ〜【殿様】はともかく、薩摩の【本家】の義弘公ならやりかねんわな!がはは!」
「…」ズズッ
「…」パクパク
他の客のそんな話を尻目に箸を進める源四郎と弥五郎。
「(やはり修羅の巷九州。どこも合戦合戦、また合戦か。)」
食事をしつつそんなことを考える源四郎。
そうここは【修羅の巷】九州。
その戦乱の火種は一見静かに見えるここ佐土原城下にも確実に燻っているのであった。
――翌日――
「で?源四郎様、堺と違って御用商人達には袖にされましたけど?」
「るせぇなぁ!みなまで言うんじゃねぇよ!!全く…しっかしここまで頑なとはなぁ、脇の甘い堺や三河の商人どもとは大違いだな。」
佐土原で宿を取り朝から島津家に渡りをつけるべく御用商人達の下を回っている二人…
が。
『お引き取り願おう。』
とそこかしこで袖にされ現在に至る。
「なんだろうなぁ、こっちじゃ鴨関連の品って珍しくもないのかなぁ?」
「そもそも年中暖かいですからねぇ…冬もどてらなどいらないのでは?」
「あ!それだよ、それ!!なんでもっと早く言わねぇんだ弥五郎!!」
「言われなくても気づきましょうよ源四郎様…」
「となると…他に売りこめるもんなんて【梅干し】しかねぇよな?」
「それだって海に面した【薩摩】に【日向】、元となる【塩】が簡単に手に入りますからねぇ。」
「だよなぁ…あ〜!安土でなんか仕入れとくんだったなぁ!」
「今更言っても始まりませんよぉ〜…」
そんな不毛も不毛なやりとりをしていると…
「おう喧嘩だってよ!」
「え!?何処どこ!?」
「河原だ河原!」
「もしかして【若君】が!?」
「おうよ!なんでも城下で横柄な態度取ってた流れモンに喧嘩売ったとさ!!」
街の人々が【若君】がどうこうと口にしながら近くを流れる石崎川の河原へ向かっていく。
「源四郎様…これは……!?」
ダッ!
弥五郎に言われる前に河原に向かい駆け出す源四郎。
「(いる!この先に!いる…【島津豊久】がッッッ!)」
歴史オタクとして爛々と目を輝かせ河原へと走る源四郎。
その先で出会う男と後に血みどろの殴り合いをするとも知らずに
――石崎川河川敷――
「おぅおぅ【島津の若君】様よぉー…」
「謝んなら今のうちだぜぇ?」
「こっちゃあ主家ものぉなった流れモンよ!」
「…」ポリポリ
流れ者三人に囲まれた子ども、歳の頃は源四郎と同じくらいだろうか?が凄んでくる流れ者達の声もどこ吹く風、ポリポリと頭を掻いている。
「ちょっ!通して通して!」
「源四郎様、早いですって!」
そんな様子を知ってか知らずか、群衆をかき分け最前列に躍り出る源四郎と弥五郎。
「やっちまぇ【若様】ぁ!」
「どうせ相手は元伊東の手勢だぁ!遠慮なくブッチめちまえ!」
「ソイツら態度デカくて腹たってんの!【若様】やっちゃってー!」
よってたかっての大歓声。
それだけこの【若様】が慕われ、そして…強い証拠であろう。
「つえーんだろうな、アイツ。」
「でしょうね、源四郎様…」
源四郎と弥五郎も最前列に駆けつけて事の次第を見守る。
「…〜〜〜はぁ。おはんら、もぅ一度聞くど?こん佐土原で最近狼藉ば働いちょる流れモンがいるちうが…おはんら、あくまでシラきるがか?」
薩摩弁で【若様】が尋ねる。
「あぁ?知らねぇってんだ!」
「どっか別の人間と間違えてんじゃねぇか!」
「ったく、佐土原の連中は人の見分けもつかんか!」
やはりというかシラを切る流れ者ども。
それに対し…
「何言ってやがる!」
「飯屋で代金踏み倒してたじゃねぇか!!」
「道行く女を手籠めにしようとしてた癖に!」
わーわーと観衆から目撃証言が挙がる挙がる。
「け!質が悪すぎんだろ伊東とやらの輩も」
「武士崩れなんてどこもそんなもんですよ、源四郎様」
源四郎と弥五郎が観衆に同調していたまさにその時だった。
ドッ!
【若君】が飛びながら見事に前蹴りを流れ者の顔面に炸裂させる!
「がっ!?」ドシャ
「な!?コイツ!」
「何のつもりだぁ!」
もろに顔面に一撃くらい一人が倒れ込む。
そして残りの二人は【若君】に問うも…
「うちの民が嘘いう理由がなか!ちうわけでおはんら…叩きのめしたっど!」
ドヤ顔して答える【若君】。
「うわぁ直情的だなぁ…民を信じ切ってるのはいいけども。」
「みお様絡みの時の源四郎様も人のこと言えないと思いますけど?」
「あ゛?」
「ナンデモアリマセン」
そんなやりとりを二人がしている間に…
「生意気なガキじゃあ!」
「返り討ちにしてやる!!」
正面切って殴りかかる流れ者ども。
しかし…相手が悪すぎる。
「うらぁ!」ビュッ
躊躇なく【若君】が河原の大きめの石をなんの躊躇いもなく一人の目に向かって投げる!
ゴッ!
「ぎゃあああおあ!」
それは的確に一人の流れ者の左目に命中。
出血してるのを見るに下手したら目は潰れたであろう。
「ひっ!?な、なんだてめぇ!たかが喧嘩で目ぇ潰しにくるかよ!?」
狼狽えながら残った一人が言う。
が…
「たかが喧嘩?違うぞ、こいは戦ぞ?おいが前においと戦おうっち輩がおる!そいを迎え討つんじゃ…そいはもう戦じゃあ!そんで…戦に手心や手加減なんてなか!!」
【若君】が言い放つ。
「いいぞ【若君】ぃ!もっと言ってやれ、やってやれ!」
「やっぱ【若君】はこうでないとなぁ!」
「かっこいいよぉ【若君】ぃ!」
そこに観衆が声援を送る。
みんな【若君】を慕っているのだろう。
それを尻目に…
「おう弥五郎!アイツ随分血迷ったこと言ってんぞ!?アイツの頭ん中には【調略】とか【和睦】って言葉ねぇのかな??」
源四郎が言葉とは裏腹に目を輝かせて弥五郎に問う。
それもそのハズ、前世では歴史オタクの源四郎に言わせれば【若君】…恐らく【島津豊久】が自分の想像していた通りの漢なのだから。
「源四郎様…言葉と表情一致してませんよ?」
そんな源四郎にドン引き気味に返す弥五郎。
そうこうするまに…
「だりゃあ!!」シュシュ
ゴスッ!バキッ!
「ぐぇ!?」
「ギャッ!」
【若君】が腰に携えた木刀でいとも簡単に流れ者達を打ち据える。
「おぅ、直にうちの手のモンがくっど?お縄んなりたくなかばさっさと去れ!」
「ちぃいいい!覚えてろ!」ダッ
「ただじゃ済まさんぞ小童!」ダッ
「痛え、いてぇよぉ…」ダッ
お決まりの捨て台詞を吐き脱兎のごとく逃げ去る流れ者ども。
そして再び歓声が挙がる。
「やっぱり【若君】は強かっ!」
「こいなら島津は安泰じゃあ!」
「かっこ良かったど!」
「【若君】ぃ〜!」
野太い声も黄色い声援も全て【若君】に投げかけられる。
そうして一人また一人と観衆が去る中…
「いやはや凄い人気ですねぇ〜…あれ源四郎様?」
「…」ザッザッザッ
弥五郎が語りかけるもその間に無言で【若君】に歩み寄る源四郎。
「おう。」
「…あぁ?誰じゃおはんは??」
「俺は…信濃から来た源四郎っつーんだ。オメェ、名は?」
「はぁ?信濃??あんな山また山のド田舎から来たっちか?もの好きじゃのぉ。」
「…あ?………まぁいいや、聞かなかった事にしといてやるから名ぁ名乗れって。」
またしても信濃を愚弄されるもグッと堪える源四郎。
なにせ相手は(おそらく)分家とは言え【島津の嫡男】である。
「は!信州のモンはしつこいのぉ〜…おいは佐土原がヌシ、島津家久が子……【島津又七郎】じゃ!」
「!!(やっぱりコイツが…後の【島津豊久】)」
目の前に自身の兄にして憧れの【真田源次郎信繁】と並ぶ憧れの武将(後の)、【島津豊久】がいる。
源四郎、完全に舞い上がっている。
「?なんじゃ変な目で人んこと見よって…気持ち悪か奴じゃ。腹も減ったし他に用がないんならおいは帰っど!」ザッザ
そう言い残してそそくさと河原を立ち去る又七郎。
「あ!おい…」
「源四郎様!今日のところは!島津家の者がやってきますし…」
追いついた弥五郎が言う。先ほど又七郎が言ったとおり島津家の手のものがやってくるのが見えた。
「…そうだな。だがな弥五郎、俺はきめたぞ?」ザッ
「何をですか?…どーせろくでもないことでしょうが。」ザッ
踵を返し河原を後にして歩きながら源四郎が弥五郎に言う。
「あいつを…あの【若君】を足がかりに【島津本家】へ切り込んでやる♫」ニヤリ
「…は?」
下卑た笑いを浮かべる源四郎。
そうして…翌日から源四郎の又七郎付きまといが始まる。
――翌日――
「これはこれは♫また会いましたな【若君】!」
「あぁん?」
――また翌日――
「おはようございます【若君】♫今日もいい天気ですなぁ!」
「またおはんか…」
――さらに翌日――
「あ〜【若君】♫今日もお日柄がよく!」
「…」
――そして四日目――
「どぉもぉ〜【若君】♪」
「(こういう時の源四郎さま、ホントにいい根性してるよなぁ〜)。」
又七郎へのつきまといも今日で四日、現代日本ならとっくに逮捕モノである。
そんな源四郎のすっぽんバリのしつこさに弥五郎が胸中でやや辟易していると又七郎が口を開く。
「〜〜〜ぁあああ鬱陶しかっ!おはん、なんが目的か!?父上への御目通りが目的いうなら無駄じゃっど!」
「あっ!いやはや【若君】、決してそういう訳では…」
「そうですよ【若君】!我らのような丁稚が家久公に御目通りなどと…」
又七郎に腹の底を読まれ何とか取り繕う二人。
そこへ…
「あら!源四郎ちゃんに弥五郎さん♫あ!それに【若君】♫」
買い出しか何かの帰りだろうか、先日立ち寄った飯屋の店番(お姉さん)と遭遇する。
「あっ♫お姉さん♪」デレッ
「これはどうも。」
「おぅ。」
三者三様の挨拶をする。
ちなみにこの店番(お姉さん)、何だかんだ(今の基準で言うと)【ナイスバディ】であり「みお以外は眼中にない」と宣った源四郎も最近では鼻の下を伸ばすようになっていた。
「二人とも、【若君】への売り込みですか?」
「まぁそんなとこ♫」
「ですね。」
「…。」
「まぁ商魂逞しい♫私も見習わなきゃ、じゃあまた今度。いつでもお待ちしてますんでウチのお店にも是非!」タッ
「はーい♫」
「えぇ、ではまた。」
「…。」
そう言うと小走りで去る店番。
「いやぁ何だかんだ九州も美人多いなぁ♪」
「ほらやっぱり…」
以前言ったみお以外眼中にないとは裏腹な反応を弥五郎にツッコまれる源四郎。
「けど結局みおが一番だよ♪なんたってお互いに好きおうとる♫」
「あ〜あ、また始まったよ…」
そうして結局始まる源四郎のみお自慢に肩を落とす弥五郎。
と、ここで又七郎が口を開く。
「なんじゃ?おはん、郷里に女でんおるんか?」
「えぇ【若君】♫みおと言いましてそれはそれは…」
「はっ!それでいて移り気な奴じゃの!ともなれば…」
源四郎の言葉を遮り続ける又七郎。
そしてそのまま…禁句とも言えるひと言を言ってしまう。
「好きおうとるといったおはんの女もまた尻軽なんじゃろぉのぉ、似たもん同士なのが目に浮かぶわ。」
「!!!!あぁ!!」サー
又七郎の言葉を聞き一瞬で血の気が引く弥五郎。
そうして源四郎の方へ目をやると…
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………あ゛?」ワナワナ
小刻みに肩を震わせる源四郎。
そう、又七郎は図らずとも【虎の尾を踏んだ】のである。
それも想像を絶する猛虎の尾を!!!!!
「おぉ?聞こえんかったか?だったら…」
ゴッ!
「ぐべぇ!?」
又七郎の声を遮り源四郎の鉄拳が又七郎の左頬に突き刺さる。
それも完全なテレファンフック、所謂【ぶっ殺すパンチ】だ。
構えも打ち込み方もへったくれもない、純粋な殺意だけを乗せた一撃。
だがそれ故に当たればその威力はとんでもない。
「かっ…はっ!?」
「(ややややや…やっちまったよぉおおおおおおお!)」
たたらを踏んでよろめく又七郎。
そして白目を向く勢いで内心慌てふためく弥五郎。
そこに…静かに源四郎が言う。
「謝れ。」
「…あぁ!?」
「みおのいる小県に向かって謝れ。」
「(あんた小県がどっちの方向か分かってんのぉ!?)」
源四郎を【怒気】を込めて睨む又七郎、そしてその言うことに内心突っ込む弥五郎…
が!源四郎は尚も止まらなかった!!
ドッ!
「がふっ!?」
「聞こえなかったか?とっとと謝れ。」
又七郎の腹部に源四郎の前蹴りが入る。
これは流石に自衛隊仕込みの前蹴りではあるが…
「…おはん、死にたいよぉだのぉ!!!!!」
「…それはこっちの台詞だ。」
「ちょちょちょちょ…源四郎様ぁ!!!」
流石にやられっぱなしは頭に来たのか又七郎が叫び、また弥五郎は狼狽えだす。
そうこうするうちに…
「なんだなんだ?また【若君】が喧嘩か?」
「あれ?今度の相手は最近ここらで見かける行商人の丁稚じゃねぇか?」
「おぉい坊主!何があったか知らねぇが【若君】に喧嘩売んのはやめときなぁ!ケガじゃすまねぇど!」
わらわらと人集りができ始める。
「ちっ!毎度毎度鬱陶しか奴らじゃ…おい!」
「あ?」
「こないだん河原ばいくど!」ザッ
「…ふん。」ザッ
そう言って河原に向かう又七郎に続く源四郎。
「………もぅやだぁあああああああ!助けてぇ昌幸様!源三郎様ぁ!みお様ああああああ!」ザッ
そんな最早止められない喧嘩、いや【戦】に決してしまった二人を追う弥五郎の叫びが日向の空に轟くのであった。
はい皆様お待ちかね!
幼き日の【●●●おいてけ】こと島津豊久(今は又七郎)登場であります!
さて禁句を口走り源四郎の逆鱗に触れてしまった又七郎、そしてそんな又七郎からの喧嘩、いや【戦】を買ってしまった源四郎。
果たして無事に済む訳ない二人の激突の行方や如何に!?
次回を刮目して待て!




