プロローグ:アルニカの暁光
「リリー姉様……お願いだから。このままだと退屈で死んじゃいそう」
リアナは長い溜め息をつき、ゴルゴルンドの鉱石並みに重く感じる足を引きずった 。
この休みの日、彼女と姉は丸二時間も作法の実技レッスンに閉じ込められていたのだ 。
しかもこの後には、同じくらい体力を消耗するマハマールガの魔法操作訓練が控えている 。
「リアナ、態度を改めなさい。ディワンカラ家の王女たる者が、不平を漏らすものではありません」 リリーは冷静ながらも毅然とした口調で窘めた 。「私たちは、この国の未来のために備える義務があるのです」
リアナは唇を尖らせた 。「はぁ〜〜。でも、いずれ父様の後を継いで王位に就くのはレイナール兄様でしょう? それに確か……リリー姉様も、もうすぐあっちの王子様にお嫁に——」
サッ!
リアナの言葉がピタリと止まった 。リリーの顔が瞬時に真っ赤に染まる 。予想外の速さで、リリーの手が妹の耳を捉え、ぎゅっと引っ張った 。
もう片方の手には分厚い本を抱え、なぜか恐ろしく感じるほどの満面の笑みを浮かべている 。
「今、何と言いましたか? 可愛いリアナ」 リリーは夜風のように優しく、しかし致命的な声で囁いた 。
「い、痛い! お姉ちゃん! 私が悪かったから! 離して!」 リアナは降参して叫び、腕に抱えていた分厚い本が庭園の芝生の上にドサリと落ちた 。
耳が解放されると、リアナは赤くなった耳をさすりながら不満げにブツブツと呟いた 。
リリーは首を振り、妹の本を拾い上げて差し戻した 。
「ありがとう……」 リアナはへそを曲げながら呟いた 。
しかし、王宮の庭園の静けさは長くは続かなかった 。
「まだ終わってないぞ、レイナール!」
ズドォォン!! バキィィッ!!
激しい衝撃が庭園の地面を揺らした 。宙から一人の少年が吹き飛ばされ、地面に激突して砂煙とひび割れを残した 。
その少年は顔をしかめ、ブロンドの髪についた泥を払いながら、どうにか起き上がった 。
「おいおい、レグタ。騎士候補の力はそんなものか?」
砂煙の向こうから、リリーより二歳年上の金髪の青年が近づいてきた 。
不敵な笑みを浮かべ、倒れたばかりの少年に向かって鉄の訓練用の剣を突きつけている 。
第一王子、レイナール・ヴァルダナである 。
「ずるいよ、レイ兄さん!」 レグタは悔しさに顔を真っ赤にしながら、王子を指さして抗議した 。「いきなり砂を吹き付けて目眩ましするなんて!」
レイナールは笑い、剣を地面に突き刺すと、レグタを立たせるために手を差し伸べた 。
「いいかボーズ、本物の戦場ではあらゆる欺瞞が起こる。敵はいちいち目潰しをする許可なんてくれないぞ」
レグタはその手を取り、体を起こした 。「レイ兄さんは、本物の戦場に行ったことがあるの?」 と、レグタは興味津々で尋ねた 。
レイナールはわざとらしい真面目な顔を作った 。「当然あるさ。去年の軍事キャンプの時、女子テントを覗くという戦場にな」
「この、エロ王子!」
ベシッ! ベシッ!
「痛っ!」 二つの悲鳴が同時に響いた 。レイナールとレグタの頭頂部に、分厚い本が見事にクリーンヒットしたのだ 。
そこには、肩で息をしながら黒いオーラを放つリリーが立っていた 。
「このバカ息子共! 宮殿の庭園の植物を壊すなと、何度言えばわかるのですか?!」
「ごめんなさい、リリー姉さん……」 レグタはズキズキ痛む頭を押さえながら縮こまった 。
レイナールも顔をしかめ、妹の「魔導書」による一撃を受けた頭をさすった 。
「ひどいな、リリー。お前は本当に怒りっぽい。母上そっくりだ」 レイナールは恐れる様子もなく軽口を叩いた 。
「はぁ?! 今何と言いました?!」 リリーは拳を握りしめ、二撃目の構えをとった 。
「いや、何でもない! 何も言ってない!」 レイナールは慌てて両手を挙げ、降伏の意を示した 。
リリーは大きな溜め息をつき、目の前の金髪の二人組のせいで跳ね上がった怒りを静めようとした 。
その後ろで、リアナはもう耐えきれず、小さな笑い声を漏らした 。
しかし、三対の視線が一斉に自分に向いたことに気づき、慌てて自分の口を塞いだ 。
「ごめんなさい……あなたたちのやり取りが本当に面白くて」 リアナは目に笑みを残しながら言った 。彼女はレグタに近づいた 。
「ねえ、レグタ。ここに来るなんて、何かあったの?」
レグタは頭を押さえるのをやめ、眉をひそめてリアナを見た 。「おいおい、リアナ。まさか本当に忘れたのか?」 「今日、何かあったっけ……?」 リアナは顎を叩きながら思い出そうとし、次の瞬間、目を見開いた 。「あ! そうだ! 今日だった!」
リリーは腕を組み、妹とレグタを怪しげに見つめた 。
「ふむ……何を企んでいるのですか? 言っておきますがリアナ、私たちの帝王学のレッスンはまだ終わっていませんよ」
「変な計画なんてないよ! お願い、リリー姉様……ダメ、かな?」 リアナは胸の前で両手を合わせ、分厚い本を挟み込み、できる限り上目遣いで可愛い顔を作った 。
「禁止されているわけでもないのに、なぜそんなに懇願するんだ、リアナ? 行きたいなら行けばいいさ」 レイナールが気楽に口を挟んだ 。
「ちょっと、レイ兄さん! 甘やかさないでください!」 リリーが素早く振り返って抗議した 。
「いいじゃないか、リリー。せっかくの休日だ。子供たちを宮殿の外で遊ばせてやろう」 レイナールは二人を庇った 。
リリーは急に痛んできたこめかみを押さえた 。「兄上は……そう言って子供たちを遊ばせるフリをして、自分はこのボーズと庭園を壊しているじゃないですか。はぁ……わかりました、わかりました。リアナ、その本を渡しなさい」
リアナの顔が一気に明るくなった 。「ありがとう、レイ兄様! ありがとう、リリー姉様! 大好き!」 と嬉しそうに叫んだ 。
リリーに本を渡した後、リアナは二人の兄姉に短いハグをし、すぐに翻ってレグタの袖を引っ張った 。
「おい、レグタ」 二人が遠くへ行く前に、レイナールが呼び止めた 。
レグタは足を止め、第一王子を振り返った 。
レイナールは力強い拳を宙に突き出し、守護騎士としての真剣な眼差しをレグタに向けた 。
「妹をしっかり頼んだぞ。もし髪の毛一本でも傷つけてみろ、俺の奥義を喰らわせるからな」
レグタは不敵に微笑み、高い自信に満ちた目でその視線を受け止めた 。
「そんなことは絶対にさせないよ、レイ兄さん」
「レグタ、早く! 遅れちゃう!」 遠くからリアナが呼ぶ声がした 。
「今行く!」 レグタはすぐにリアナの後を追いかけ、庭園の真ん中にディワンカラ家の兄姉を残して走り去った 。
レイナールは遠ざかる二人の背中を見つめ、ぽつりと呟いた 。「ところでリリー……あいつら、今何歳だっけ?」 リリーは信じられないという目で兄を見た 。「十四歳ですよ、兄上。待って……まさか私の年齢も忘れたなんて言わないでしょうね?!」
しかし、リリーが横を向いた時には、先ほどまでレイナールがいた場所はすでに空っぽだった 。
第一王子は、妹の怒りが再び爆発する前に、すでにこっそりと距離を取り、一目散に逃げ出していたのだ 。
「このバカ兄貴!!」 リリーは宮殿の回廊に向かって怒りの声を響かせた 。
リアナとレグタは、プラディプタ宮殿の壮麗な回廊を軽快に駆け抜けていた 。
金色の屋根を持つ elok(優美)な建築と純白の柱が調和する中、時折すれ違う宮殿の使用人たちが恭しく一礼する 。
内門に到達する直前、非常に聞き覚えのある声によって二人の足が止まった 。
「リアナ王女殿下? 今の時間は、マハマールガの魔法能力を磨いているはずではございませんか?」
そこには、きちんとした服を着た中年の女性が立っていた 。長年仕えている宮殿の筆頭侍女、リアである 。
リアナは少し顔をしかめ、申し訳なさそうな顔を作った 。「あ、ごめんなさい、リア叔母様。でも今日だけは、魔法のクラスをお休みしなきゃいけないの。とても大事な用事があるの! それじゃあ、行ってきます!」
返事を待たずに、リアナは再びレグタの手を引いて飛び出していった 。
リアは首を横に振りながらも、末の王女の行動を微笑ましく見送った 。
「本当にマハマールガの魔法訓練をしなくていいのか? まだ初心者領域の『真鍮』段階で足踏みしてると聞いたけど」 外門へ向かってのんびり歩きながら、レグタが少しからかうように言った 。
リアナはすぐに腰に手を当て、目を見開いてレグタを睨みつけた 。「言っておくけど、立派なレグタ様、私はもう中級領域の『鉄』段階に突入したんだからね!」
「へえ……それはすごいな」 レグタはわざとらしい感心の表情を浮かべた 。
「むぅ! なんでそんなムカつく顔をするのよ?!」 リアナは怒り出し、レグタの腕を抓った 。「大体、あなた自身はどこの段階まで行ったのよ?!」 レグタは不敵に笑った 。「さあね、俺も忘れちゃった。へへ」 リアナは忌々しげに鼻を鳴らしたが、顔に浮かぶ薄い笑みを隠すことはできなかった 。「この、ミステリアス気取り」
二人が宮殿の門の境界を越えようとしたその時、鋭い風切り音が空気を引き裂いた 。
純粋な光の魔法の織り糸で作られた一筋の矢が、電光石火の速さで彼らに向かって飛んできたのだ!
並外れた反射神経で、レグタは前に踏み出し、リアナを背後に押しやった 。
同時に右手を前に伸ばし、その光の矢が顔に当たる寸前で完璧に掴み取った! セット! 矢はレグタの強い握力の中で激しく震えている 。
「イエス! 言った通りだろ? 姉さんの『ルクサロウ (Luxarow)』にもっと大きなエネルギーを込めてよ! ほら、まだ簡単に捕まえ growthできる!」 レグタは自信満々に笑った 。
門の柱の陰から、一人の若い女性が歩き出てきた 。ブロンドの髪をポニーテールにきれいにまとめている 。
カジュアルな服装だが、胸の銀のエンブレムは、彼女が王国の精鋭軍の一員であることを明確に示していた 。彼女の名はシエラ 。
「『黒曜石』段階に達したばかりのボーズにしては、なかなかの反射神経ね」 シエラは薄い笑みを浮かべて褒めた 。
「オブシディアン段階?!」 リアナは驚いてレグタを振り返った 。「じゃあ……あなた、もう私より二つも上の段階にいるの?!」 レグタは胸を張って誇らしげにした 。「へへ、当然さ! 前にも言っただろ、俺の目標は最終領域の『アダマンタイト』段階に到達することなんだから!」
シエラが近づいてきて、意地悪な笑みを浮かべた 。「一つ教えてあげるわ、未来のアダマンタイト騎士様。その『ルクサロウ』の魔法の織り糸を早く手から離さないと、手のひらが光魔法の熱放射で焼けるわよ」
「え?」 レグタは瞬きし、視線を下に落とした 。確かに、手の中の魔法の矢から、皮膚を焼くようなエネルギーの火花が放たれ始めていた 。
パニックになったレグタは、赤くなり始めた手を振りながら、その矢をシエラに向かって投げ返した 。
シエラはそれを平然と受け止め、一瞬にしてその魔導兵器は薄れ、空気中の光の粒子となって消え去った 。
「はぁ……」 シエラは静かに溜め息をつき、二人の少年少女を交互に見つめた 。「それで、今日はリアナ王女を連れてどこへ行くつもり、レグタ?」 「冗談だろ? シエラ姉さんまで今日の予定を忘れたの?」 レグタは信じられないというように尋ねた 。
シエラはしばし顎を叩き、それからニカッと笑った 。「まさか、ちゃんと覚えてるわよ」 「嘘だ! 今、必死に考えてただろ!」 レグタはもどかしそうに叫んだ 。
シエラは爽やかに笑った 。「いいから、行きなさい。リアナ王女をしっかり守るのよ」 「当然さ。行こう、リアナ!」 先ほどから二人の言い合いをただ見ていたリアナは、温かく微笑み、シエラに挨拶代わりの軽い会釈をした 。
「おい、金髪ボーズ! 向こうの人たちによろしくな!」 シエラが後ろから叫んだ 。
「了解! 姉さんも金髪だけどね、シエラ姉さん!」 レグタは振り返ることもなく言い返した 。
王宮の外門を抜けると、人々の喧騒がすぐに彼らを迎えた 。
二人はプラディプタ王国の心臓部である「王都アルニカ」へと足を踏み入れた 。
街の通りは非常に活気に満ち、行き交う人々の群れで溢れている 。
通りの左右には頑丈な石造りの店が立ち並び、食欲をそそる焼き物の香りを漂わせる飲食店や、声を張り上げて商品を売る露天商たちが並んでいた 。
ここは繁栄した都市であり、国王アルデン・ヴァルダナの賢明な統治の明らかな証拠であった 。彼の統治下で、プラディプタはベルダンティア大陸全土で最も尊敬される王国の一つへと成長したのだ 。
リアナとレグタは小走りを続け、巨大なクリスタル石の噴水がある、王都の象徴的な中央エリアを通り過ぎた 。
その場所は、魔法のパフォーマンスや肉体的な武術の腕前を披露するストリートアーティストたちで常に賑わっている 。
ここにはミスターラ(Mystara)の美しい光景が体現されていた。人間族、長い耳を持つ優雅なエルフ族、そして動物の特徴を持つシレン(Thiren)族が、何一つ隔たりや紛争を起こすことなく平和に共生していた 。
「こんにちは、リアナ様!」 末の王女の顔を知っている何人かの女の子たちが声をかけた 。リアナは手を振り返し、親しみやすい笑顔で応えた 。
一方、レグタには異なる運命が待っていた 。地元の男の子たちが、彼の背中に向かって布のボールを投げつけて悪戯をしてきたのだ 。
「捕まえたらタダじゃおかないからな!」 レグタはわざと怖そうな顔をして脅した 。
「逃げろー! レグタが暴れ出したぞ!」 子供たちは嬉しそうに笑いながら四方に散っていった 。
いつの間にか、二人は王都の外門に到着していた 。
警戒に当たっていた兵士たちが一瞬身構えたが、先輩騎士の一人が同僚の肩を叩いた 。「気にするな、リアナ様とレグタの坊主だ。辺境の村へ遊びに行くだけさ」 それを聞いて守衛たちは再び力を抜き、二人の若者からの親切な挨拶に応えながら道を開いた 。
アルニカの城壁の境界を出ると、緑豊かで肥沃なベルダンティアの大自然が目を奪った 。
遥か彼方に、魔獣に引かれてゆっくりと進む荷馬車が見えた 。
「リアナ、乗るぞ!」 レグタはすぐに走る速度を上げ、荷馬車の後部に器用に飛び乗った 。
リアナも後を追おうと、馬車の後ろを必死に走ったが、飛び乗るには距離が遠すぎた 。「レグタ、届かない!」
「これに掴まれ!」 レグタは素早くマハマールガの光魔法を詠唱した 。
彼の手のひらから、純粋なエネルギーの織り糸が一本の光のロープとなって優しく放たれ、リアナの手首に安全に巻き付いた 。
レグタの力強い引き寄せの一撃により、リアナの体は宙に浮き、荷馬車の上でレグタの胸の中に滑らかに着地した 。
「ありがとう」 リアナはドレスと乱れた髪を整えながら言った 。
「問題ないさ」 レグタは微笑んで返した 。
二人は前方の御者に気づかれないよう、大きな木箱の山の陰にすぐに身を潜めた 。
緩やかに揺れる道中、二人は並んで座って風を感じながら、草原で低級の薬草を集める駆け出しの冒険者たちや、ベルダンティアの青い空を自由に飛ぶ魔導鳥の群れを眺めて過ごした 。
「レグタ、見て! もうすぐ着くよ」 リアナは前方の木製の防壁に囲まれた集落を指さしながら囁いた 。「飛び降りる準備をして!」
フッ!
交差点の近くで馬車が減速した瞬間、二人は同時に飛び降りた 。
リアナは着陸の勢いで少しバランスを崩しかけたが、レグタの素早い手が彼女の腰をしっかりと支え、すぐに体勢を戻した 。
二人は「スヌル村」として知られる辺境の村の門へと歩みを進めた 。
見張り台の上では、彼らに気づいた衛兵が、怪しむどころか陽気に手を振ってくれた 。
門の前では、村長のアリさんが満面の笑みで待っていた 。「早く入りなさい、お前たち! メインイベントを逃すんじゃないぞ!」 「もちろんです、おじさん!」 二人は息を合わせて答え、歩みを速めた 。
村という位置づけではあるが、スヌルは豊かな地域だった 。家々は頑丈な木造建築で整然と並び、中間層の豊かな生活を反映していた 。
彼らの足は、やがてその村で最も大きく、最も目立つ建物の前で止まった 。
レグタの家であり、古い孤児院である 。そして今日は、その場所にとって非常に特別な日だった 。
「おい、バカレグタ! 早くしろよ! 遅すぎるぞ!」 孤児院の庭から甲高い叫び声が飛んできた 。
そこには、ディルンという名前の金髪の男の子が待ちきれない様子で立っていた 。
リアナはその様子を見て爽やかに笑った 。一方、レグタは鼻を鳴らし 、「せっかちな金髪ボーズめ」 と呟いた。
レグタは迷わず近づき、仕返しとしてディルンの頭を脇の下に抱え込んで締め上げた 。
その間にリアナは孤児院のホールへと足を踏み入れ、すぐに中にいた小さな子供たちの歓声に迎えられた 。
「みんな、こんにちは! クララはどこ?」 リアナは見回しながら尋ねた 。
台所の方から、リアナより少し年下の金髪の少女が現れた 。「リアナ様!」 クララは嬉しそうに駆け寄った 。
リアナは温かく微笑み、少し腰を落とした 。「クララ、この孤児院の中では、私のことを『様』で呼ばないでって何度も言ったでしょう」 「そう言われましても、王族の方に対して不作法にするなんて、私たちにはやはり不可能です」 クララは純粋な笑顔で答えた 。
その小さな少女は外のドアの方へ歩いていき、地面でまだ取っ組み合いをしている二人の少年を睨みつけた 。
「おい! あんたたち二人とも! 早く中に入りなさい!」 「は、はい!」 レグタとディルンは瞬時にホールドを解き、怒ると地下のモンスターよりも恐ろしいクララの指示に、突然従順になって怯えだした 。
孤児院のホールは、非常にクリエイティブな祝宴の空間へと変貌を遂げていた 。
壁は魔導の葉で作られたリボンの紐で飾られ、中央には古代文字で「71」の数字の装飾が掲げられていた 。この孤児院が半世紀以上にわたって強固に立ち続けてきたという象徴である 。
長いテーブルの上には、様々なケーキやクッキーの料理、そして子供たちが最も楽しみにしている、新鮮な純粋な牛乳が入った大きな水瓶が整然と並べられていた 。
「じゃあ、あとはあの人たちの到着を待つだけだね?」 レグタは服を整えながら尋ねた 。
「もうすぐ街から戻るはずだよ」 テーブルの近くに立っていたディルンが答えた 。
「来た! 門の前にいるよ!」 先ほどから窓の外を覗いていた小さな子供の一人が叫んだ 。
レグタも外を覗いた 。確かに、三人の女性——二人は黒髪、一人は金髪——が、生活必需品が入った大きな袋を抱えて孤児院の庭に入ってくるところだった 。
彼らは愛する孤児院の育ての親たち:ラナ先生、マリ先生、そしてアリス先生である 。
レグタは安堵の息を漏らし、先ほどの移動ルートが街の通りで彼女たちと鉢合わせにならなかったことに感謝した 。
「よし、みんな! それぞれの位置に付け!」 レグタは囁き声で指揮を執った 。
「あのバカ、リーダーぶってかっこつけやがって」 ディルンは不満げに小さく愚痴った 。
「うるさい、ディルン! 早く位置に戻れ!」 レグタは鋭く囁き返した 。
孤児院の子供たちは全員、計画していた隠れ場所にすぐに身を隠した 。
レグタ、リアナ、ディルン、そしてクララは正面のメインドアのすぐ後ろに立ち、期待に胸を膨らませて息をひそめた 。
ギィィ……
ドアが開き、育ての親たちの足が敷居を越えた瞬間……
「「「お誕生日おめでとう!!!」」」
その轟音のような声が孤児院の部屋全体を満たした 。子供たちの爆発的な喜びの前に、三人の育ての親はハッと息を呑んだ 。
厳格さで有名なマリ先生は、持っていた荷物を落としそうになったが、その驚きの表情は一瞬にして心からの純粋な感動の笑みへと変わった 。
「まあ……みんな、本当にありがとう」 そこにいる育ての親の中で最も年長である金髪の女性、アリス先生が、幸福に声を震わせながら言った 。
ラナ先生はドアの方をいたずらっぽく目を細めて見た 。
「当ててみましょうか……この大きなサプライズは、きっとレグタの悪戯っ子な頭とリアナ様が計画したものでしょう?」 「そして間違いなく、それを実行するためにクララとディルンが苦労して手伝ったのね」 マリ先生が荷物を置きながら付け加えた 。
「本当にその通りです、先生。でも、ここにいる皆さんの協力と出席がなければ、このイベントはこれほど魅力的なものにはならなかったでしょう」 アリス先生が賢明に言葉を挟んだ 。「我が子たちよ、改めてありがとうと言わせてください。さあ、何を待っているのです? 料理を楽しみましょう!」
その号令を聞くやいなや、孤児院の子供たちは砂糖を見つけたアリの群れのように一斉に食卓へと押し寄せた 。
マリ先生とラナ先生は列を整えるためにすぐに忙しく動き回り、ディルンとクララは牛乳を配ろうと手伝った 。
一方、入り口の近くの隅では、アリス先生、レグタ、そしてリアナだけが静かに立ち、その温かい光景を顔に笑みを浮かべて見つめていた 。
しかし、アリス先生の顔から次第に笑みが消え、深く、そして古い秘密に満ちた眼差しへと変わっていった 。
「リアナ様……少しだけ、御手を拝借してもよろしいですか?」 アリス先生は優しく尋ねた 。
リアナは瞬きし、その突然の頼みに少し困惑した 。しかし、彼女は右の手のひらを差し出した 。「ええ、もちろんです、先生」
アリス先生はリアナの手のひらに触れた 。皺の寄り始めた彼女の指先が王女の手相をなぞり、その目はまるで時間の帳を透かし見て、普通の人間には見えない何かを見つめているかのように、突如として遠くへ向けられた 。
しばらくして、彼女は静かな溜め息とともに手を離した 。
リアナは手を引っ込め、古い育ての親が一体何をしていたのか自問自答しながら、眉をひそめて自分の手のひらを見つめた 。
「レグタ……お前も同じようにしてくれるかい?」 アリス先生は向き直って尋ねた 。
「え? あ、はい、もちろんです、先生」 レグタはしどろもどろに答えた 。リアナと同様に、彼も前に手を差し出しながら困惑が脳裏をよぎった 。
しかし今回の、アリス先生の反応は完全に異なっていた 。
指先がレグタの肌に触れた瞬間、老女の体が突如として硬直したのだ 。
その顔つきは劇的に変化し、深い焦燥と大きな不安に満ちたものとなった 。
こめかみには冷や汗の粒が浮かび始め、呼吸は短く乱れ、まるで非常に熱く危険なものに触れたかのように、素早く手を引き込めた 。
「アリス先生……? 大丈夫ですか?」 レグタはその劇的な変化を見て、心からの心配のトーンで尋ねた 。
アリス先生はすぐに自分を取り戻し、青白い唇に温かい笑みを無理に浮かべた 。
「心配いらないよ、お前。今日は私たち全員にとって非常に特別な日だ 。この幸せな雰囲気を壊したくはないからね 。さあ、ケーキがなくなる前にみんなのところへ行きなさい!」
彼らの年齢の若さと、まだ移ろいやすい感情のせいもあり、レグタとリアナの脳裏にあった不安はすぐに霧散した 。
二人はその奇妙さをすぐに忘れ、再び明るい顔に戻ると、笑いと冗談を楽しむために孤児院の子供たちの群れへとすぐに走っていった 。
アリス先生はその場に立ち尽くし、ホールの中心で今まさに弾けるように笑っている二人の若者の背中を見つめていた 。
誰も彼女の目の動揺を聞くことも見ることもできない静かな部屋の隅で、アリス先生は心の奥底で静かに呟いた 。
『リアナ様……レグタ……今の私には、まだお前たちにそれを告げることはできない』 彼女の胸は深く痛んだ 。
『しかし、先ほどの魂の幻視から一つだけ確かなことは……お前たちの元に、間もなく何かが訪れるということだ 。
それはいまだかつて想像もつかなかったような、非常に巨大で、黒く、恐ろしい何かだ』
アリス先生はローブの陰で拳を握りしめ、体に走る恐怖の震えを隠した 。
『本当に心配で、恐ろしい……お前たち二人は、私にとって自分の子供であり、この孤児院の家族の一部なのだから 。
けれど、これからミスターラの世界を襲う運命の嵐がどんなものであれ、神々への私の願いはただ一つ……』
老女の目は、レグタとリアナの明るい笑顔を見つめながら涙で潤んだ 。
『私はただ、お前たちが立派な騎士へと成長していく姿を見続けたいだけなのだ 。
だから……お願いだから、何が起きても、私より先には絶対に死なないでおくれ……』
アリス先生は長い溜め息をつき、苦い笑みを浮かべてホールの天井を見上げた 。
「はぁ……結局のところ、私はただの我が儘な老いぼれ婆さんだね」
プロローグ:アルニカの暁光 ——完——
これはプロローグです、どうですか?私の日本語があまり上手くなくてすみません




