69.黒猫! じゃ、ない……?
「お嬢様! どちらへ行かれます!?」
微かに聞こえてきた声の方に走っていく。庭の方から? 多分だけど、そんな気がする。ダナが後ろから慌ててついてきて、騎士達もついてくる。ダナは途中で遅れだしたがさすがに騎士達は遅れる事もなくついてきていた。
「お嬢様! 危険ですから! 止まってください! エル様がいらっしゃらない時に外はっ……」
って言われてもねぇ。すまぬ。今は止まれないです。誰にも助けを求める声が聞こえないのならば私しか助ける事が出来ないかもしれないもん。
庭は綺麗に整えられているが、明らかに人の手によって整えられているのが分かる綺麗さだ。植え込みの木は角ばっていたり丸まっていたりと整えられ、ばさばさなっていたり乱れているところがほぼない。
館の方がぼろぼろなのにね。庭師がきちんと仕事をしている、という事なんだろうね。
微かに聞こえてくる声、私はパタパタと走っていく。どこ、どこから聞こえる? 声に引っ張られるように広い庭を走っていく。
「この辺り……」
庭の端の方だ。簡易神殿のさらに北側か? 敷地の境目に飾りのついた高い鉄柵があり、ところどころに木が植えられていてその中の木の根元にある花壇辺り。
人じゃない……?
……誰? 痛いよ……
やっぱり声が聞こえる。痛いと訴える声に私は護衛騎士の制止の声も聞かずに花壇に近づくと植えてある花をかき分けた。
そこにいたのは小さな子猫のような生き物だった。黒い子猫。
「大丈夫!? 今助けるね!」
あちこち怪我しているのかぼろぼろの状態だった。抱っこしようとしたら護衛騎士が魔獣!!! と声を上げた。
……魔獣じゃないっ!
「お嬢様! 離れて!」
「だめ!」
だって魔獣じゃないって言ってるもの! この子!
「ディアっ!」
そこにエルがすたっと現れた。いや、今どこから来た? 姿なんて見えなかったけど? ……とにかく今はそれはいい。
「エル! この子助けたいの!」
「コチカ……? いや、違うか……なんだ?」
エルが倒れている子を覗き込んで頭を捻っている。とにかく助けたいので私はそっと子猫を抱き上げた。
「助けるから! 大丈夫だからちょっと抱っこさせてね……」
……助けてくれる?……
「うん。安心して。大丈夫だよ」
エルがひざ掛け位の毛布を出してくれてそれにそっと子猫を包んで抱っこした。いや、子猫ではないんだけども。猫よりも耳が大きくて額に黒い宝石みたいなのがあって尻尾が太い。どう見ても猫ではない。
「魔獣……? いや、見た事もない種族だが……?」
「魔獣じゃないって」
「うん?」
「…………とにかく今は手当てしないと」
この子が自分で言っていた、なんて言っても信じてくれるかどうか。まぁエルなら信じてくれそうではあるけれど。とにかく今はこの子を静かに休ませてあげたい。
どこを怪我しているのだろう? 骨折とかだったらどうしよう? この世界に動物病院なんてある?
……治って……元気になって……あちこち血を流してぼろぼろになった小さな体がむごすぎる。
誰が……こんな事を……きっと黒いから魔獣! ってなったのかも。騎士達も警戒したもんね……。
……ありがとー……
微かにまた声が聞こえてきた。エルには聞こえていない? ちらっとエルを見るとなんだ? と促してくるので首を振った。
「ダナ! クッションを用意して」
館に戻る途中にダナがいたので頼んでクッションを用意してもらう。抱っこしたままサロンに運んで床に置かれたクッションにそうっと子猫を乗せた。小さな体。
「見せてみろ」
エルが子猫の体をそっと触ってみる。
「……………………怪我、ないぞ」
ぼそりとエルが呟いて私を見た。え? でもさっきは血が出てたところもあったし。え?
「ちょっと離れていてくれ」
エルが一緒についてきていた護衛騎士とダナに向かって言うと使用人達が心配そうにしながらもそっと距離を取り、そしてエルが魔法陣を放った。また音遮断らしい。
「……ディア? 怪我が治るように、なんて思ったか?」
「思いました……」
私かーーーー!!!!! 女神様の加護か!? そうか! いや! もう……ホントさ……。
エルと二人で顔を合わせてまた溜息を吐きだした。
「あのさ……なんで問題なく一日を過ごせないんだ?」
「私の所為じゃないよっ! だってこの子が助けてって言うから!」
「黒だぞ? 魔獣かもしれないだろう!」
「魔獣じゃない! って言ってたもん!」
「誰が!?」
「この子がっ!」
あ? とエルが固まった。
「コレが助けてって言った? 魔獣じゃないって言った?」
「……うん。言ったの。誰にも聞こえてないみたいだったけど」
「僕は女神様の眷属だからご加護を貰っている人にしか声は聞こえないよー? 助けてくれてありがとー」
くわっと小さな黒猫もどきが欠伸をしながら、手で顔をくしくししながらそう言った。
……可愛い……じゃなくて。
「エル……なんて言ったか聞こえた?」
「……………………いや?」
エルが怪訝な顔で私を見ていた。明らかにまた面倒ごとか? と訝しんでいる顔だ。
「ねぇ、僕に名前付けてくれないかなー?」
「名前?」
名前、何がいいだろうね? 黒い子だから……。
「ちょ、……ディア、ま……」
「安直だけど、ノア、とかはどう?」
「ノア! 僕ノアー!」
エルが待てという前に名づけを終わってしまった。え? だめだった? エルがまた頭を抱えていた。




