最終話 月がきれいですね④
わたしがこの世界に帰還してから、3日目の夜。
今、わたしは、王様にプロポーズされた湖のほとりにいた。
わたしのことをみんなは温かく出迎えてくれた。
宰相さん、リリイさん、師団長さんなどなど。
もう会えないと思っていたひとたちに、わたしは再会した。
2日間の祝宴の後に、わたしたちは村長さんに会いにいくこととなった。
本来は、王族の夜の外出は、いけないことらしいけれど。わたしたちは、わがままを言って、夜の間に出発した。
ここに一緒に来るために……。
「もう、1年経つでんすね」
「わたしの世界で、まだ1日しか経っていませんけどね」
わたしたちは、湖に反射する大きな月を見ていた。
「月がきれいですね」
わたしのほうから、彼にそう問いかける。
「はい」
もうふたりの気持ちはわかっていた。バルベの塔で、彼はわたしのために祈っていてくれたらしい。
「カツラギさん」
彼は緊張した声でそう言った。
「はい」
「わたしはあなたのことが好きです」
ついにわたしたちは、素直になった。
「知っています」
わたしたちは笑いだした。
「だから、正式に結婚してください」
わたしが、わたしたちが、求めていた言葉だった。
わたしは答える代わりに、彼と唇を重ねる。
「幸せにしてくださいね」
顔を離した後、わたしはそう言った。
ふたりで、月を見ながら抱き合っていた。
「本当に月がきれいですね」
「王様、実はですね」
わたしはその言葉の真実を明かす。
「なんですか」
「“月がきれいですね”っていう言葉は、わたしたちの世界では別の意味になるんですよ」
「どういう意味ですか」
「“愛しています”」
彼の顔が真っ赤になった。
「それに対して、“死んでもいいわ”と答えるのが定番なんですけど、今回は別の言葉にしますね」
わたしたちは見つめ合う。
「ずっと前から、月はきれいでした」
わたしたちは永遠の愛を誓った。




