第63話 バーベキュー
わたしたちが帰ると、砂浜にバーベキューの準備はできていた。
「お待ちしておりました。両陛下。こちらが夕食です」
「ありがとう。とても美味しそうですね」
わたしは、豪華な食材に目が奪われる。
大きなエビ、イカ、貝などなど。
シーフードバーベキューに心躍る。
「おーい、いたか~」
どこかで声がする。
それも聞いたことがある声が。
「おーいたいた。まったく、師匠のわしをないがしろにして、美人とバカンスとは、破門じゃ、破門」
やっぱりか……。
王様に、こんなパワハラ発言するなんてひとりしかいない。
「よ、来ちゃった」
音符マークがついたかのような、弾んだ声。
御年200歳を超える老人とは思えなかった。
「し、師匠……」
「村長さん」
王様の魔術の師匠であり、イースト村の村長、ジジさんがそこにいた。
「やあ、綾ちゃん。相変わらずかわいいね」
いつの間にか、下の名前で呼ばれることになったわたし。
さすがは自称ボーイフレンド。
ちゃらい。ちゃらすぎる。
「久しぶりに、王宮に遊びに行ったのに、ふたりともバカンス中だったので、追いかけて来たんじゃ」
「……」
王様は渋い顔をしている。
「おお、バーベキューか。美味しそうじゃ。わしも食べてよいか?」
ガツガツ来る。
ここまで、図々しいとは……
「コック長よ。わしの皿も用意してくれよ」
「はい、ただいま」
そして、こんなにちゃらいのに、地位と権力を持っているので、余計にたちが悪い。
イザとなったら、最高裁のトップとして違憲判決を出すと騒ぐだろう。
魔大陸戦争の英雄でもあり、みんなの人気まで高い。
そんなこんなで村長さんを、ここから追い出すのは不可能だろう。
わたしも、少しは覚悟しなくてはいけない。
なんらかの覚悟を……
「それで、師匠。どうして、ここへ」
王様は邪険な口調でそう問いかける。
「そう、邪険にするな。土産だって持って来たんだから」
長年の付き合いのせいかすぐにばれる。
変な所が鋭いのは、年の功だろうか。
「「土産?」」
わたしたちは声をそろえて、同じ単語をつぶやいた。
「そうじゃ。ちょっと、私用で魔大陸に観光に行って来たんじゃ」
「な……」
王様は、唖然とした顔になる。
「安心しろ。真面目な用事じゃよ。魔大陸戦争の慰霊祭に、魔王から招待されてな。赤オニたちと、一緒に参加してきたんだ」
「どうして、そんな大事なことを言わないんですか」
王様は顔をピクピクしている。
「だって、招待されたのは、わしだけじゃし。ちゃんと、アグリ国国王代理と名乗ってきておいたよ」
「……」
王様は呆れてなにも言えない状態だ。
暴走老人、ここに極まれり。
「魔王も、新婚の王を招待するのが、はばかられたと言っていたよ。今度、ふたりで、遊びに来てくれと言っていたわい。お、エビが焼けたぞ。食べよう、食べよう」
勝手にご飯を食べ始める村長さん。
わたしたちは、顔を見合わせて、大きなため息をついた。
そして、苦笑いした。
「わたしたちも食べましょう、陛下」
「そうですね」
賑やかな夕食がはじまった。




