第64話 酒
「このエビ、ぷりぷりじゃの」
村長さんは上機嫌で、バーベキューを楽しんでいた。
わたしたちも、最初は戸惑っていたが、少しずつ顔がほころんでしまう。
だって、シーフードがとても新鮮で美味しいのだから。
幸せだ。
味付けは、塩だけの簡単なものだけど、やっぱり鮮度が違う。
野菜も取れたなので、とっても甘くて美味しかった。
ここでしょう油があったらな~なんて、思ってしまうのはわたしが日本人である証拠だ。
「懐かしいな。昔、弟子たちと、キャンプしたのを思い出すわ」
「そんな、楽しい思い出ではなかったでしょ」
王様はそう言って突っ込んだ。
少しだけ顔が白い。
「みんなで、修行と称して高山を踏破した後の、バーベキューは最高じゃっただろ」
「ヘトヘトで楽しんでいたのは、師匠だけですよ」
「そうじゃったかの」
「次の日、みんなダウンしているのに、ひとりだけ元気で、手あたり次第ナンパしていたのはどこの誰でしたっけ?」
「最近、耳が遠くての~」
このいつものノリツッコミをわたしは微笑ましくみていた。
本当に仲が良いんだから……。
「両陛下、ジジ様。なにか、お飲み物をお持ちしましょうか?」
執事長さんが気を利かせて、そう聞いてきてくれた。
「そうですね。いつものように、ワインを飲みましょうか?」
「いいですね」
わたしたちは、心躍る。
「おお、そうじゃった。あやうく、忘れるところじゃった。実は、魔大陸の酒を土産に持ってきたのじゃった。よかったら、それを飲まんか?」
「それは珍しいですね。飲んでみたいです!」
わたしたちは即答した。
「ほほ、珍しいものだから、味わって飲むのじゃよ」
そういい、村長さんはひとつの瓶を取りだした。
精巧につくられたそれは、魔大陸の技術の高さをあらわしているのだろう。
少し濁ったそれはなんだかとても懐かしく……。
「えっ、日本酒?」
「なんじゃ、綾ちゃん。知っているのか?」
村長さんは驚く。
「ええと、わたしの世界にも、似たような酒があって……。米から作られた酒なんですが……」
「おお、そうじゃ。そうじゃ。これも、米から作られていると言っておった。魔王が土産に持たせてくれてな」
「へ~、すごい偶然ですね」
たしかに、すごい偶然だ。
前の世界とこの世界は、食物も似ているし、作り方が発見されていてもおかしくはない。
「よし、飲んでみよう。むこうで飲んだが、これは甘くてうまいぞ~」
トクトクと注がれた濁り酒をわたしたちは乾杯する。
ゴクっと飲み込むと、濃厚な酒の味が口の中に広がる。
「おいしいですね。これ」
「じゃろ~。お前らと飲みたくて、わざわざ持って来たんじゃ。感謝しろよ」
ふたりとも、この味に舌鼓を打っている。
わたしは……
「同じです。わたしの世界の酒の味と……」
久しぶりの日本酒に、わたしは故郷の風景を思いだしかけていた。
まだ、数カ月しか経っていない日本の風景。
それが、どうしようもなく、懐かしく……
そして、嬉しかった。
もう会えないと思っていた懐かしい味に会えた。こんなに幸せなことはない。
「そうじゃ、これも土産でな。なんでも、魚料理によく合う調味料らしい」
「えっ、もしかして」
案の定、黒い液体が入った瓶が登場した。
それは、もちろん……
日本の味、「しょう油」だった……




