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第２０話　波乱

　月は輝いていた。月光は池に反射し、ふたりをあたたかく包んでいる。

「そこまでだ。おふたりさん」

　平凡だけど、まがまがしい声が後ろから響いてきた。決闘中に聞いたあの禍々しい声だった。

「あなたは誰？」

わたしはおそるおそる後ろを向く。そこには、フードをかぶった小柄な男がいた。

「Need　not to know.」

　とても流ちょうな英語だった。王様や村長さんが話していた和製英語みたいな発音とも違う。

「悪いが、あなたにはここで消えてもらう」

　フードの男はそう無感動な言葉を放つ。

「どうして？」

「それがこの世界の流れだから」

　意味が分からない答えだった。どうしてわたし。異世界に突然呼び出され、見知らぬ男に命を狙われて、死んでしまう。そんなのはやだ。どうしてわたしがそんなことになってしまうの。

「いや」

　わたしの言葉に王様は反応した。

　彼のあたたかいぬくもりが、わたしの手に伝わってくる。手を握ってくれている。

「あなたをここで失うわけにはいかない」

　王様はわたしに小声でそういってくれた。

「この痴れ者め。彼女がアグリ国王であるわたしの婚約者と知っての言葉か？」

「いや、しらない」

「いまなら見逃してやるぞ」

「それはできない」

　男のの返答に、王様は魔術で返した。さきほども放たれた無数の凍てつく氷の矢が男を襲う。

「ふん、たわいもない」

　男は手を前に振りかざすと、彼の前に暗闇が出現した。矢はすべてその暗闇に包まれて、消えた。

「うそ」

　わたしは絶望に染まる。村長さんを打ち破った魔法がまるで赤子の手をひねるように。

「王の力とはそんなもんなのか？」

　男が指を動かすと、すさまじい衝撃波が発生し王様に襲いかかる。王様は魔法で作り出した氷の壁でそれを防ごうとするも、壁は簡単に崩れ去った。王様の体が宙を舞う。勢いよく地面に吹き飛ばされた。

「さて、続きをしようか。カツラギさん」

　フードの男は少しずつ近づいてくる。わたしは恐怖と絶望にうちひしがれる。体が動かない。

「大丈夫かい、マイハニー」

　聞きなれた声を聞いた。わたしの後ろには村長さんがいた。

「わしのガールフレンドと弟子に危害を加えようとするとはいい度胸じゃの」

　村長さんの後ろにはいくつもの火の玉がうごめいていた。その動きはさきほどの決闘のときよりも早かった。

「ちっ、やっかいな奴が」

　フードの男にいら立ちがみられた。

　男は技を放つよりも先に村長さんは動いていた。

「消えていなくなれ」

　不死鳥はフードの男に向かっていった。男は両手を使って、大きな闇を作り出す。間一髪で逃れたようだ。

＜がああああ＞とすごい音をたてて、闇と不死鳥はぶつかり合っている。

「誰が一発しか放てないと言ったんじゃ」

　村長さんは冷たく言い放つ。防御することで、精一杯の男に向かって、2匹目の不死鳥が出現した。2匹目の不死鳥は闇を突き破り、大爆発した。