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その後僕が柏木へ話しかけることも、反対に柏木が僕へ話しかけることもなく、静かなまま時が去っていった。
そしてその沈黙を破ったのは、あの声だった。
『えー校内放送、校内放送。とうとう二人になってしまいましたー。とても残念で仕方がありません。
では今回の問題は僕から出題しますー。どちらがこの教室に出るかを決めてください。話し合って決めるのもよし、暴力で解決するのもよし、方法は問いません。詳細は紙をご覧ください。では。っハハハハハ』
(あぁ、そうか。結果的にはどちらか一方しかこの教室から出られないんだ。)
そしてゆっくりと自らの机へ向かい、紙を取る。内容は端正な字で短くまとまっていた。
その1 教室に残ろうと思うなら下の解答欄に直筆で名前を記入すること。
その2 他の人間が記入することは死を意味する。
解答欄
___________
僕は生き残りたい気持ちと生き残らせたい気持ちの狭間で揺れていた。しかしそんな僕を柏木は冷たく突き離した
「私は絶対にこの教室から出るよ。たとえ赤松くんがこの教室に残ることになっても。」
「そうだね。でも無理みたい。僕も僕でこの教室から出ないといけないみたいだから。」
「んーそっか。」
そう言うと柏木は席へ座りこちらの様子を伺っているように見えた。何をすることもなく、ただただ無言で。
共に宣戦布告してしまった以上、円満解決はおそらく難しいだろう。しかし僕は曲がりなりにも男で柏木は女の子らしい女の子であった。つまり暴力という手段を用いれば僕の圧勝は目に見えていた。しかし今の僕はその手段を選ぶ気にはなれなかった。それは道徳心だとか倫理感とかではなく、純粋にただこの柏木という人を完膚なきまでに言葉によって屈服させたい、そういう気持ちだった。
そして僕は自ら進んで先手を打った。今までの経験から自分から動かなければ何も生まれず、始まらないということはもう痛いほど知っていたからであった。
「諦めた方がいいと思うよ、柏木。僕は暴力で解決なんかしたくないんだよ、この状況下での君の勝率は無いに等しいんじゃないのかな?」
"脅し„それは、戦いの中の最も狡猾で醜い上等手段である。
「構わないよ。殴りたければ殴ればいい。勝率が無いなら待てばいい。私は幾ら暴力を振るわれたとしても絶対に自分の名前を書かない。」
速攻で一刀両断されてしまった。
その目は真っ直ぐでとても強い意志が感じられた。だけどなんかやっぱり少し、柏木じゃない柏木のような気がした。いやこれは関係のないことか。
しかし実際、強い意志を崩すことはなかなかの大仕事である。並の人間じゃこんな苦行はできないだろう。
だけど今の僕ならできる。出てくるには少し、いや圧倒的に早かったが仕方ない。もちろんその手段は暴力。
なぜなら、論じたところで意味をなさないのなら、実力行使をするしか道はないのだ。
僕はゆっくりと柏木の方へ向かい、お腹へめがけて思い切り拳を振り下ろした。
当然、殴られた柏木は「っぐ!、痛っ。」と言って、席からは痛みの影響を受け丸くなって転げ落ちていた。
僕はそんな様子を見向きをせずに続けて頭を蹴った。またも苦しむ声が聞こえた。
僕はその姿を見ても、聞いても、暴力を止めることはなかった。
暴力が正義でないなら、正義のヒーローは暴力を用いちゃダメだよね。




