↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
con-tract //out  作者: 桐識 陽
4/4

report2:con-tract業務日誌 (下)

  


  report2  con-tract業務日誌 下



 「これが、レタスの力だ!!!」

 目の前に緑色の極太ビームが迫る。

 「ぁぶないっ、ボーーーーイ!!」

 横から俺を突き飛ばす手が光の中に消えていく。

 「アフロォォォォォォォォオオオオッッッ!!!!」

 「ぶわはははっははは、無様だな!! この野菜ジュースのちょっぴり甘い感じの方が好きな、小僧どもぉぉお!!」

 一面砂漠の世界にやけに緑色が強い軍服を着た、尖った髭面のマッチョの中年オヤジが、やけにごっつい緑色の銃を背負って高らかに爆笑している。

 「きっ、気をつけろ、ボーイ」

 「アフロ! 無事だったか……」

 あの野菜の陳列を頼まれた日から一週間が経過した。

 俺はあの日からただの変哲もないシャキシャキするレタスをめぐる騒乱に巻き込まれ、世界中をめぐり、ついに敵地があるサハラ砂漠まで辿り着いたのだ。

 その露呈は、とても四万字でも語りきれぬ修羅場であった。

 そんな過酷な戦いを俺一人で乗り切れはしなかっただろう。

 あの日、俺をこんなくだらない争いに巻き込んだ張本人である男であり、今まで俺を影で支え、そして、ある時は共に肩を並べ共闘してきたハンバーガーが主食みたいな国の諜報機関エージェント、アフロ桐識(たぶん、コードネーム)の協力があったからこそ。

 そんな巨大アフロの色黒男はビームの直撃を受け、自称トレードマークのスーツが焼かれ、今はただの全裸の変態となってしまっている。

 「しっかりしろ、アフロ! 傷は浅いぞ……てーか、よくビームの直撃受けて体無事だな……まぁ、スーツはきちんと消滅してるけど」

 「わ、ワタシのことはいい……のだぁ……そんなことよりも、だ。ボーイ! コイツが、コイツがレタス将軍だ!」

 「コイツが――――!?」

 「そう! 私がレタス将軍だ! 進・カーネル……いや、あえてこう呼ぼう――――ギルバートの息子よ!」

 他の名前はなかったのか、とツッコミたい衝動を何とか抑え、シリアス(?)な空気を大切にするために乗ってやることにした。

 「なんだと? テメェ、なぜ俺の名前を」

 「うん。撫子ちゃんに聞いた」

 「オォイ、待てやぁっッ! なぜ、そこでナチュラルにアイツの名前が出てくる!?」

 「そんなことはどうでも良い」

 「良かねぇっ!! 俺にとっては重要なんだよ。あのポンコツは裏でなにやってんだ」

 「なぜ、私がお前のことをギルバートの息子、と呼ぶかと言うと」

 「そこは、俺が尋ねるところじゃね!? つぅーか、それよりも聞かせろ! お前と撫子の関係は」

 「アレは、私とギルバートが共闘していた頃だった……」

 「聞こえない? 聞こえてませんか? おーい、もしもーしっ!? 頭の中身が御留守なんですか!?」

 「第三次世界大戦の時代だった。一時期、俺と奴は同じ傭兵として共に世界中の戦地を転々していたことがあった」

 おい、このなんか語っている間に攻撃していいか? いいよな、別に。

 「奴と俺が組めば無双状態。だからこそ、俺達は強敵に飢えていた。強さこそが全ての世界にいる身である貴様らにも理解はできるはずだ」

 「…………」

 それは……、と考えさせられずにはいられぬ話題であった。少しばかり考えさせられてしまう

 戦いに身を置く者が心の片隅で考えてしまう欲望の一つであるからだ。

 「そして、俺達は互いにルールを決め、新たな戦地で競い合う……はずだったのだ……だというのに、奴は、奴は、私を侮辱し、あまつさえ、アンフェアな戦いをしかけてきた。始めから、奴は罠を仕掛けていたのだ!!!!」

 レタス将軍は顔を憤怒に歪ませ、怒りの感情を吼える。

 オヤジ……アンタ一体、コイツになにをした――――

 「ギルバートは始めから、私のチ○コよりも自分の○ン○の方がデカイと知っていたのだ!!!!」

 ――――ナニをしたんだ、などと考えた俺が馬鹿だった。

 無言で、左腕を持ち上げ、握っていた白銀のデザートイーグルを通常以上の速度で連射する。

 しかし、ハンドキャノンとさえ例えられる大型自動拳銃の弾丸は奴を取り囲むように展開された薄緑色の壁によって全て阻まれてしまう。くそ、なんでもありか!?

 「アレは第三十四戦目、極東のピンサ〇のことだった……私も不覚だった。アイツがなぜか、ギルバートの奴が道に迷ったとかで、私のプリチーなパンツを下した瞬間を目撃されてしまったのが最後だった!」

 薬莢の排出が止まった。カートリッジが空になったらしい。

 「ウゥオォォォイッッ、誰か対物ライフル(アンマテ)持ってこぉぉぉいッ!! ゼロ距離撃ちで、あの野郎の股間を消し飛ばしてやるからよぉ!!」

 「もってこいって、ボーイ。対物ライフルはここに来る前に戦った白い悪魔的な二足歩行の巨大ロボットを破壊する時に、ボーイが「あの社を敵に回すなっ」とか言いながらデスメタルギタリストなみに振りまわして、弾丸一発も撃たずにで物理的に壊したじゃないかyoo」

 「そーーぉだったぁァァ!!! クソがああああっ!! もっと丁寧に遣っとけばよかったっ。カッとなってやりました。今は反省しているから、なんでもいいから持ってこいよぉおっ!!」

 「奴は私のナニを見て言い放った――――「アレ? オマエの結構スモールなのな。なんか、悪かったなぁ」となぁあ! 私は、私は――――それまで自分の○○○が世界で一番おっきいって信じてたのにっ!」

 「どぅぉおでもイイ!! そんなことより、その暴露話恥ずかしくありませんか!? 自虐ですか? ホントに言わなきゃいけないの、その後悔!?」

 「なんて、なんて悲劇のストーリーなんだ……ボーイ、私はレタス将軍を撃つことを躊躇ってしまう……くっ」

 「いや、“くっ”じゃねぇよ。“くっ、”ってなる要素があった? いや、ないよねッ!! 微塵もないよね!? 私のムスコはミジンコサイズです、って自虐行為を聞かされただけだろ! なに同調してんだよ、アフロ」

 「おいおい、ボーイ。自虐行為って、自慰っぽくてヤラシくね?」

 「なんだカーネルの息子。溜まってるのか? ねぇ、溜まっちゃってるの? うわっ、ヤァラぁすぅいっ。これだから青春真っ盛りは」

 「殺したろか! ウザいんですけどっ、その中学生的なテンション!! もういいから、さっさと、くたばれ! 俺は早くソドムに帰って、ポンコツの髪をボンドで固めてやらなきゃいけねぇんだからよ」

 「ふん、生きがるではないか、カーネルの息子。このレタスバリアも破れん程度の分際で。……それに貴様の相棒は我が渾身の一撃を受けていることを忘れたか?」

 「なんだと?」

 「ぐ、ぬグアアアアアっ!!!」

 「アフロ!?」

 振り返れば全裸のアフロ…いや、エージェント・アフロがもがき苦しんでいるではないか。

 すぐさま駆けより、抱きかかえるて気がついたのだが、若干緑色に発光している気がする。

 「安心しろ、苦しみは13秒程度だ」

 「なんか半端っ!」

 「フゥオオオオオオオオオオ!!!?」

 13秒後、なんか聞いたことがあるような奇声を上げ、目を覆わんばかりの光を放つアフロ  

 不覚にも目を閉じてしまった俺は、腕に抱いていた重さが減っていることに恐怖を覚え、これまで共に死地を渡り歩いた友の名を叫ぶ。

 「アフ――――」


 

 目の眩みが消えた俺の眼前に居たのは、とんでもないキューティクルを放つ“サラサラ”ヘアーの美形男。

 「あ、アフ――――アフロじゃなぁぁぁああああああああああああああああああああああああいっ!!?????」

 

 

 この小説史上最大の変身に俺はツッコミを爆発させてしまう。いや、せざるをえない。

 そこに居たはずのガングロアフログラサンは消え失せ、そこに居たのはマイケルもびっくりの白人サラサラブラックヘアーの男。おまけに輝くほどのキューティクルがむさ苦しい。

 「どうしたボーイ? なにを驚いているんだ……それよりも少し何かがおかしいんだ」

 「少し、じゃない!! 大変なおかしいが起きてるんだよ、アフロ、じゃないっ! サラサラ! どうやったら、こうなる!? 一体何だってんだ!?」

 「そうなのか? 心なしか、体が軽いんだ。まるで生まれ変わった気分だよ、ボーイ」

 「気分とかじゃなねェッ! ガチで転生しとるんだよ! 頭さわれ、頭!」

 「あ、ホントだ。サラサラになってるやんけ!? どうしてくれんねん、これやじゃキャラが薄くなってまうやなかーい!」

 「オイぃい! 言葉使いも変化してきてますよ!?」

 「ふふふふふ……これが我がレタス軍の究極兵器レタスビィィィムの力。この光を浴びた者は全て体の中で……ぇ~と、そう! ああなって、こうなって、ドゥゥンすることで重曹扁平上皮の毛髪が全てサラサラになる。男のアソコの毛もだ! フハハッハハ、あのチリチリがさらさらになることにより、若干のもっさり感で全男どもの○○○がちいさく見えるという算段よ。ヌフフハハハ、おそろしかろ。

 あ、それと同時に体内の老廃物その他もろもろを体外に派出され、健康体に生まれ変わったりするのだ」

 「あ、そういえば一か月以上風呂の入ってなかったから汚れてたっけ」

 説明が下手とかそういうのはほっとくが、もっとマシな名前はなかったのか、究極兵器。

 そして、元アフロ。テメェ、もう俺に近付くな。臭いがうつる。

 というより……

 「これ、別にほっておいてもよかったんじゃないか?」

 世界征服をねらってるなどという情報があったからと気にしていたものの。開発していたのは、なんか変な健康グッズだったのだ。肩の力が抜けてしまうのは当たり前のことだった。

 「いや、カーネルの息子。ここからが、この兵器の恐ろしさなのだ」

 「はぁ?」

 「ヌゴオオォオォォ!?」

 なんだ、とめんどくさいが振り返ると、心なしか体中の老廃物イケメンになったアフロが、さきほどの13秒の苦痛を超えるほどの悲痛な表情になっていた。

 「ど、どうした」

 「ぼ、ボーイ。ま、まずい……まずいのだ。そ、その兵器は、は、破壊しなければ、んらないぃん!?」

 「ふふブふ…あ、鼻水でちゃった。エージェントよ、その身に受けた兵器の恐ろしさを知った様だな」

 「テメェ、一体なにを――――」

 「ボーイ。まずい、マズイのだ」

 「無理するな、力を抜け」

 「い、いや抜いたら、抜いたら……やば~い。そ、そんなことしたら」

 「そんなことしたら?」

 「漏れてしまう」

 「……なんだって?」

 「だ、だから!! 我慢しないと漏れてしまうと言っている!! ケツからウン」

 「黙れ」

 汚い言葉を吐きだしそうだったので、取り合えず“腹を”殴って黙らした。

 さらにもがき苦しむハメになった元アフロは置いといて、改めて馬鹿将軍をジト目で、半ば呆れ気味で睨んでみた。

 「おい……」

 「見てのとおりだ。高密度のレタスビィィムは大量の食物繊維を強制的に摂取させ、強烈な“便意”を発生させる。胃に摂取した食べ物があろうがなかろうが、関係なくだ!」

 「……で、アンタはこれで何がしたい? オヤジに復讐するのか?」

 「それもいい。いいが、まずは全世界のイケメンの巨〇どもをトイレの住人に変え、あとはなんとなくエロい使い方をしつつ、ついでに世界を混乱に陥れてるののよ! あれ、一文字多かったか?」

 「頭痛くなってきた」

 「ボ、ボーイ、私はお腹が痛くなってき、き、ま、まずぃい」

 なんという馬鹿者。

 俺はこんな馬鹿のために、こんなことをさせられたていたのか。

 使い方によれば素晴らしい未来を作れるかもしれないモノを作りながら、達の悪いガキのような使い方。

 こんな人間はたしかに“アレの友人”に違いあるまい。

 たぶん、アレ……うちのオヤジ同様、ほっておいたら間違いなく最悪の害悪になる存在だ。

 「……たしかに、アンタはオヤジの友人らしいな。だからこそ――――」

 「っふん、来るか、カーネルの息子!!」

 「――――少しは真面目に生きろ、良い歳した大人!!!」

 緑色の閃光と、暗い蒼色の陽炎が、サラハの熱をさらに苛烈に燃え上がる。

 世界の命運をかけた戦いがついにクライマックスを迎えようとしていた。

 ……つか、俺の仕事ってなんだっけ?

 そんな思考が精神の横断歩道をわたってきたが、考えると、また頭が痛くなりそうだったので考えることを止めた。



 視点変更 7 



 「やぁ、今日も元気そうだね、撫子」

 「おはようございます、永仕さん。さぁ、こちらへどうぞ」

 夏休み終盤。怠惰に過ごすことを選択した学生が放棄していた宿題(ぎむ)への追い込みを駆けようとするくらいの八月下旬。

 俺、科布(しなぬの) 永仕(エイジ)は次期京清高校生徒会長としての義務……とかではないが夏用の学生服で、友人たちが経営する事務所を尋ねた。

 たまには顔をみせる、という意味合いもあるが一番の理由は、尻尾のように束ねた俺の長い髪をクイクイと引っ張る小さな影がココにきたいと求めたからだ。

 「今日は一人じゃないんだよ。ほら、どうして隠れてるのかな? 明(サヤ)」

 「あ、サヤちゃん。おひさしぶりですね」

 「うん……なでしこおねえちゃん……」

 「サヤ?」

 体は人間でいえば10歳ほどだが、実年齢は俺と同じ200年以上は生きている人狼であり、その身に全ての存在になりうる因子を内包する大神である我が妹は、なぜか俺の足にしがみついて震えている。

 珍しいツヤのある灰色の髪に小柄な体格、くりくりと大きな目に調った顔だちに似合うワンピースの裾まで震えて揺れるぐらいの振動が俺にも伝わってくる。

 明らかに怖がっている。

 何に怖がっているのかはわからないが、これだけは俺にもわかる。

 (明らかに、この事務所が暗い。いや、重い。空気が……)

 元々、明るい方ではなかったが、今は特に闇が満ちている気がする。その真ん中でやけに笑顔が目立つ撫子がいるのもひどく警戒心を掻き立てた。

 俺は湧きあがる不安な気持ちを抑え込み、お茶を淡々と用意する撫子に問いかけた。

 「し、進はどうしたのかな?」

 「進は仕事で出てます。たぶん、そろそろ帰ってくる頃のはずなんですけど」

 「そ、そうかい」

 「お二人ともどうぞ、こちらのソファにおかけください」

 「ありがとう。撫子……その服似あっているね」

 俺はとりあえず、撫子の来ている珍しい服を褒めてみた。

 撫子が今着ているのは黒いパンツスーツ、それに眼鏡をかけて、さながら敏腕の女性秘書。もともとの彼女が持っていた大人びた雰囲気と相まっていて凄く似合うのだが……

 「まるで、その……別人の、ようだ、よ」

 「うふふ、御言葉が上手ですね永仕さんは」

 ……彼女、こんな“うふふ”なんて笑う子だったかな?

 とりあえず、言われたようにソファに座るために近ず……ん? なにか足で何かを蹴とばしたよう――――

 「なッ!?」

 「ひやああああああああッ!!?」

 俺が驚き、サヤが絶叫する。

 そこには死体……ではなく、それっぽく地べたに倒れたアルバイン・F・セイクが“あった”。

 “いた”ではなく“あった”と表現してしまうほど、その存在感は薄く、呼吸音が聞こえないと思うほど小さかった。

 「しっかりしろ! なにがあったんだアルバイン!」

 俺はなぜか冬の山にでも行ってきたような格好のアルバインを抱き起こす。とりあえず息はあったことに安堵するが、生気がない。まるで今に涅槃に跳んでいきそうなぐらいである。

 「ぁあ……エイジ? やぁ、い、今帰ってきた…ヨ。あ、これお土産、北極の水」

 「北極!? どんな仕事してきたんだ! というか、北極の水持ってきていいの?」

 「にゃ? ヒィニャアアアアアア!?」

 「サヤ!?」

 まるで可愛い猫のような叫び声に……本当にうちの妹は可愛いな。

 ……おっと、一度落ちつこうか、俺……

 そんな我が妹の叫び声の方へ眼を向けると、驚きのあまりにか、地べたにヘタり込むサヤと、

 「ふふふ、私(わたくし)、おとうさま、私ね、世界を救いましたのよ、ふふ、くふふふぅわ」

 そんな小さなうわ言を、同じく生気のない目を薄く開きながら、ソファにもたれ掛かるローザの姿があった。古い表現をするなら、真っ白になったようである。こっちもか。一体、この一週間で

 「……なにが、あったんだ?」

 戦慄し、自然と頬を汗がつたい。どういうことなのかを、撫子に問おうとしたその時

 


 「オラァァッ! なぁぁでしこぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 ドアを蹴り破って、本作品の主人公が、主人公とも思えぬ般若の形相で入場してきた。


 

 「進!?」

 ボロボロの姿で現れた進は、疲労が強いのか、目の下のクマが凄い。だが、紅の瞳は強い怒りに燃えている。

 「あら、進。おかえりなさい。はい、これ、お水です」

 進は怒りの形相で撫子の元へと突き進む。なぜかSF小説にでも出てきそうなメタルカラーのライフルをぶら下げている。

 そして、彼女の眼前まで近づき、お盆に載せられた透明な水が注ぎ込まれていたコップを無造作に掴んで、飲み干すと、すぐさま盆、ではなく床に叩きつける。

 「そうだ帰ったぞ、撫子。帰ってやったぞ、ざまぁみろ! それじゃあ、まず、始めにテメェにはお仕置きタイムといっちゃおうかっ、アァ!! とりあえずコイツでレタス将軍がつくった兵器を喰らわせて、強制的なスカ〇ロプレイといっちゃおうかよぉ、えぇ!? もちろん、トイレなんぞ使わせねぇ! そのまま地べたに顔擦りつけながら、涎、鼻水、その他もろもろを撒きちらせやぁ!!!」

 あの無駄に配線が多い銃にそんな能力があるのかは知らないが、そんなことをしたら大変なことになる。ヒロインが脱〇なんてことになったら、18禁タグでは済まされない。完全に消去されること間違いなしだ。

 「ヤメロ、進! お前さん、この小説を終わらせる気か!?」

 「知ったことか! 終わらせてやんよぉ! 正直、作者自身も本編もろくにスケジュールどおりにいかないのに短編モノを始めたのは失敗だった、生活に余裕ができてからのほうが良かったな~、とか思ってんだよっ、いいじゃねぇか、その願い、俺が叶えてやるよ! ヒャッハァー! さぁ、覚悟しやがれ、撫子ちゃ~ん。今からテメェは世紀のス…ト…ヒロ…イン……わぁ、グぅ……なんだ、ちくしょ、お?」

 極度の疲労からのハイテンションが一転、急にフラつき、片膝をつく進。

 「……やっと、利きはじめましたか」

 その姿を細く笑んで、冷やかに見下ろす撫子。

 「予測演算では、ティラノサウルスも十秒で眠らせることができる、とか言ってましたけど……うふふ、進には30秒ほどかかってしまいましたか」

 いや、ティラノサウルスって……

 「な、でしこ……テ、めぇ」

 「進。野菜の配送無事終了ですね。この“コード:レタス(やさい)”は私が責任をもって、依頼者様に送り届けておきますので。安心して、“次の仕事”に行ってくださいね?」

 え? 次?

 「さぁ、“みなさん”お願いします」

 突然だった。

 突然、急に事務所の各所からゾロゾロと黒服の男達が出現する。

 「い、今までどこに……」

 いつから潜んでいたんだという疑問の前に黒服たちの一人、代表のような筋肉質な男が、遂に立つこともままならなくなった進に一言告げる。

 「ミスター、シン。ご協力に感謝しつつ――――まぁ、同情しますよ」

 「お、お……れはな…にも、み、とめてねzzzzZZZZZ」

 「お連れしろ」

 そうして進は、宇宙人のような運ばれ方で事務所の外へと“連行”された。その光景を俺とサヤは呆然と見つめることしかできない。

 同じように見送っていた撫子が、気を取り直したように声を上げる。

 「さて……ローザ、アルバインさん?」

 「「ヒィッ!!」」」

 二人とも同じような引きつった声を上げて震えあがる。

 「二人も、次のお仕事ですよ……では、“みなさん”」

 また、黒服たちがゾロゾロと現れ――――

 


 視点変更 7 

 


 突然の登場でスマナイ。短い説明だけで現状を説明してみようと思う。

 「私の名前はレナ・セイク。アルバイン・セイクの妹で、騎士団第7隊副隊長です」

 「ホント、唐突すぎて端からみたら何やってんだろ? とか思うけどさ、それにしても自己紹介短すぎでしょ、レナちゃん」

 そうでしょうか? 短めならこの程度のはずだ。

 小首を傾げた私に、一面草原のように広がる芝生に寝転がり、こちらを面白そうに見ている無精ひげの中年男性、私の上司でもある第7隊隊長ガラハッド・ベイダーが頼んでもいない補足説明をしようとしていた。

 「レナ・セイク。まるでおとぎ話に出てきそうな、赤色まじりのサアサラしたブロンドヘアを、いまどき珍しいポニーテールにしているお姫様のような美少女でありながら、凛として気持ちいいほど真っすぐなクールビューティー。己に厳しく、他人も厳しく、俺には特に厳しい女騎士の鏡。そして……そう、これが彼女の特殊アビリティだ、ともいうべきスレンダーな体つきなのに、巨乳という事実! あぁ、神よ、ガチ、アーメン! ――――って待った、待ってッちょっ!? 落ちついてレナちゃん!? 中年オヤジの冗談だから、ね。そう、マイケルなジョー……なんでもないです、スイマセン。中年なんです、ホント、スンマセン。だから剣をしまって、ね、ね?」

 まったく、剣を納めながらため息を強くつく。

 「……これが隊長とは……まぁ、強いから隊長なのでしょうが。これだから、まだ独身なのでしょうが」

 「ぐっ!? 痛いところをつかないでよ……後ね、俺は強くないし、強いから隊長になったんじゃない

よ。ただ適任だから隊長になったのさ、レナちゃん」

 まただ。いつもの彼の口癖。適任だったから、という彼の言葉には諦めの感情は一切感じられない。ただ覇気のないどこか達観したセリフにイラつきすら感じてしまう。これで、かつては現騎士団総長と騎士団の頂点を争ったという話なのだから不思議な話である。

 「なんか……俺、熱い視線で見つめられてる? おっと、いけねぇな、嬢ちゃん。俺に深入りすれば火傷じゃすまねぇぜ……とか、言ってみたり! ナハ、ナハッハハ」

 こういう人間味のあるオヤジっぽいところが、他の隊長格と違うので、隊員たちにも気に入られている理由なのだろう。その人柄の良さには、私も尊敬の念を抱くが、もうちょっとシャキッとして欲しいところなのだが。

 「ふー……まぁ、言って聞かせたところで無駄なのはわかってますから良いのですが……さぁ、どうしますか?」

 「ハハ、ハ? え、なにが?」

 「訓練です。私に向かってきて全滅した勇敢な第七隊の戦士たち以外は、隊長だけになっているのですが……」

 芝生の上。まぁ、私の足元には、年下、年上、同年代の甲冑や武装を装備した老若男女が皆一様に苦悶の声を上げて倒れている。数は7。これは第7隊の半分の人数に当たる。

 今現在まで行われた訓練は自習だった。いきなり隊長が「今日は良い天気だから、外で自習にしよう。そうだっ、それがいいっ。さぁ、我が勇敢かつエロい第7隊の諸君。日ごろの訓練と実戦の成果を試したい者は、この健全なエロス満ちる副隊長に戦いを挑もう。それ以外の人々は自由時間と言う名のランニングに行ってみよう! さぁ、開始! 俺、寝るけどね」という戯言とともに、勇敢で真面目な6人と、「グゥウヘエヘヘッ、レナちゃんに触り放題ですぅっ」とただエロイだけの友人女騎士(メス)1匹との乱戦に突入。今、それを全騎沈黙させたところだ。

 唐突過ぎたので、軽傷に済ますことができなかった。特に、丸腰で跳びかかってきたメスに至っては顔面が陥没している、重傷だ。

 「なぜ、こんな自習に?」

 「いやー、レナちゃん。最近ストレス溜まっているみたいだったから」

 「隊長のせいでしょう?」

 「いやいや、最近お兄さん(アルくん)と連絡取ってないからじゃないかな」

 「むぅ」

 兄であるアルバインとは彼が日本に向かった二か月前から連絡を取り合ってない。いや、それ以前から兄は私を避けている節があった。兄の友人を自称するジョージから言わせれば妹離れする年齢、らしいのだが、私には、兄が何か悩みを抱えているように見えていた。

 ……それとも、私は本当に兄に嫌われて―――いや、深く考えるのはよそう。それよりも、今は。

 「……兄は関係ありません。それにそんなにストレスもないです」

 「いやいやいや、その割には喜々としてぶん殴ってたよね」

 「そうでしたか? では、次にいきましょう」

 「え? ネクスト?」

 立ち向かってきた以外の隊員は「いや、勝てないし、意味ないしょっ。まぁ、胸は揉みたいけど」と言ってランニングを開始したエロイ半数はまだ帰ってきてない。つまり……

 「あとは、隊長だけです」

 「うん……まぁ、そう……みたいだね」

 「あとは、隊長だけです」

 「うん。だね」

 「あとは、たい」

 「わかった! わかったから! じゃぁ、俺もいますぐランニングに!」

 「あとは、隊長だけなんです」

 「そんなに戦いたいのかい! 俺はすんごく戦いたくない! どうせ、“アレ”を使う気なんだろう!?」

 「自習なのでしょう? 私の自習はまだ完了していません。隊員たちでは、先月手に入れたアレの試しができませんから」 

 「俺ならいいってのっ!? 差別反対!!」

 「隊長、往生際が……ん、電話?」

 「おおっ! プルッルルッてきてるよ!? 今時の女の子が初期設定の着メロってのもどうかと思うけどね! 出ないと出ないと!」

 「逃げないでくださいね。では……、もしもし、誰ですか?」

 「うわっ、電話帳登録もできてないよ。あ、すいません。だまぅてますぅ」

 隊長はそれでも逃げようとしたので、首根っこを掴んだ状態で、会話する。電波が悪いのかノイズがひどい受話器からは――――

 『――――あ、レナかイ? ボクだよボク』

 ボクボク詐欺か? やけに電波が悪いのか、ノイズがひどい。始めはだれか、判別もできなかった。

 『アルバインだヨ』

 「ッ!? おにいち…っ、に、兄さん!?」

 この妙に語尾が外れた日本語は間違いない、我が兄アルバイン・セイクだ。

 『ウン。ジョーの奴は電話にでないから……どうだい、元気かイ?』

 「うん、げん…、え、ええ、元気です」

 唐突過ぎる。言葉使いが乱れてしまう。

 「いやー、たまに素が出かけるレナちゃん可愛……ブッダっ!?」

 『アレ? 今、なにかぶん殴られた悲鳴が聞こえたようナ?』

 「気のせいです。で、要件はなんですか、兄さん?」

 『イヤ、特にはないんでけド。今、人間の声が聞きたくて』

 「そ、そんな妹の声が聞きたいなんてっ……」

 「いや~、彼、“人間”の声がって――――言ってません、プリチーマイラブ妹タンハァハァって言ったようであります、ハイ!」

 『ハハハ、そっちは賑やかでいいネ。こっちはこっちで賑やかなんだけどサ』

 「たしか、今ソドムでしたね」

 私は言葉の端に少し苦みが混じってしまうことを押さえられない。。

 兄は魔剣の回収を命じられ、現在は極秘任務に従事していると副団長――――お父さんから聞いていた。

 それと同時に、あの“魔女”と一つ屋根の下で、生活していることも――――

 『エ? 違うヨ?』

 え――――違う? なにが?

 『今、ボクはネ』



 『南極にいるんダ』


 

 「……………………エ゛?」

 「……アルくんは、なにを言ってるんだ?」

 私も同意です……

 何があって世界の果てに行かねばならないのか。

 スピーカーから聞こえる兄の声はやけに病的で。

 『今、となりに、いや四方八方にペンギンさんたちがいるんダ~。イヤ~、アハハハッハ。こいつぅ! つっついちゃダメだヨ! あっ、クマさんがいるヨ! レナ好きだったよネ、白クマさん! 写メしようかナ! そうだ、そうしよウ! はっははは、は、は……くぅ~ま~さ~んっ。……ていうか、ボクなにやってんだロ。なんのためにいるんだろカ! ナデシコ!? ねぇ、この仕事は一体ナンナノッ!? ボクはなんなのア~モウヨクワカランバイ! サァッ、クマさんっ、おっとマウントポジションかヨッ! 意気がイイネェッ! ビウグサァアアアッ(効果音)! アレ~、どうしたノ、クマさん? ぐったりしちゃぅテェ~……寝るナ! 死ぬゾ! ボクがナッ!! つ~~~かっ、ボクを一人にしないでくれェエエエエッ!!!!

 もう嫌ダ! オーロラが見えル! あっ、UFOダ。マジかヨッ! ヌハハハァイッ!? ボクは死ぬんダ! アッーーーーもっと色々しちゃえばよかったYO!

 ジョージが言ってたエロイ店に行けばよかっタ! シンが貸してくれるって言ってた18禁のゲームを素直に貸してもらえばよかっタ!! あの時もっと真面目にローザのパンツを脳に焼きつかせるぐらいガン視しとけばよか――――」

 プツ、ツー、ツー、ツーと電子音。

 最悪の着れ方だった。受話器から響き渡っていた兄の叫びのあとにやってきた静寂がやけに寒い。まるで南極の空気が届いたかのようである。

 サー、と風が吹いた。

 やけに渇いた、心に溜めこんだ爆発物が発火するには丁度いい南風。

 「レナ……ちゃん?」

 心の導火線にはもう着火している。その火を煽るのには丁度よかった。

 「に、に、に――――お兄ィィィィちゃァァッァァァん!!!!??」

 再発信のボタンを連打するが、出るのは電波が届かないか、通話ができねぇところに居やがるから連れ戻してコイや、と電子音で告げる機械音のみ。

 「おに、おに、おに、にい、にい、にい、にいちゃ、ちチチチチっ」

 「落ち着くんだ。まずは落ちつてい、状況を」 

 そうだ。隊長の言う通り落ちつくべき。

 騎士たるもの常に冷静であれ。

 そう教えられてきた。だから――――

 ――――だから、とりあえず隊長をそのまま放り投げた

 「なんでだぁぁぁぁぁぁぁあっ!!?」

 140キロは出たと思う。

 その直線上に馬鹿が現れた。

 「ふぅわ~……マジ寝みぃな。あ、またアルの奴からメール来てるよ……最近のは毎度、気持ち悪い内容なんだよな。アドレス変えたはずなんだけど。それになんだよ、白クマって。アイツ今度はどこの極に行かされて――――ッうぉっ、人が飛んできたっ!? つーか、ガラハッド隊長、なにやってんスカ? 一人弾道飛行ですか?」

 「ジョージ君……に、逃げろ。あ、荒ぶるブラコンが、く、くる」

 は? なに言ってんですか? とぼんやり口走った馬鹿のこめかみに、飛び膝蹴りを“まずは”は叩き込んだ。

 「ッブギャっ!? ギぃぃァアアッッ、頭が! 脳が! 痛いしびれる憧れがまったくねぇほどやっぱり痛い!! いったいな、とか言ってるうちに……な、なに馬乗りになって右こぶしを振り上げてるのレナ? ぐぶべれぇらぁ!? 」

 「ジョージ! おにいちゃんが! お兄ちゃんは!? にいちゃんはどこなのぉ!!??」 

 「痛い! 何故殴る!! あ、すいませ、やめ、やぎぃあっ!! ラッシュはやめて! やめてください! レナ! レナ様!? レナ代将軍サァマァァアアアアア!!!?」

 「南極なの!? 北極なの!? ナノなの!? もー意味ワカンナイ! どうしたら、どうすればいいです!!?」

 「ま、まずは落ちつ――――」

 「そうだ。あの魔女を殺そう」

 「そこからの自己完結!?」

 「あの魔女……ローザ・E・レーリスです。あの泥棒猫が兄さんをたぶらかして南極にクマの肉を捕りにいかせたに違いないです」

 「ローザちゃんがそんなことするかな? ヒッィっ!? そ、そうかもしれないです、ハイ。だから、グーは、やめて、グーは!」

 「そうと決まればソドムに進軍の準備をしましょう。そうしましょう! ふ、ふふふははは、私のお兄ちゃんをとり戻す聖戦のはじまりです! 第七隊っ、総員特一級事態鎮圧装備で集合! 五分後には出げき――」

 「――――するな」

 突然、父さん――――騎士団副団長の声がしたと思ったら、ガンッ! と後頭部に衝撃が走った。

 頭を殴られた、と理解した時には意識が無くなくなりかけていた。 

 完全に意識が途切れる寸前に聞こえたのは、まるで世界が救われたかのように嬉し泣きする男二人のすすり泣く声と

 「南極か……私もよく行かされたな……血がつながってないというのに、どうしてこうも似るものなのだろうな」

 そんな溜息が混じったセリフを聞いた。

 

 

 視点変更 8


 

 「さぁっ! アフロのエージェトよ、レタスの前にひざまずくがイイ!!」

 「くっ、ここまでか……」

 私はコードネーム、アフロ桐識。黒光りするサロン焼けの肌にレバノンサングラスが良く似合うアフロなナイスガイだ。

 開始そうそうの、クライマックス。この某国某地下基地で、総勢四十名のレタスを模したヘルメットをかぶった武装敵集団に囲まれ、そして眼前には……恐竜を模した巨大二足歩行型兵器。

 「これが……コイツが」

 「そう! これが我らが久しぶりに見つけたP〇のゲームをやっていた時に、ソウダ、マルパクリしようと思いついて開発した最高傑作ッッ! その名も、メタルレタスだ!」

 「ドラゴン―――的な!?」

 「いいや、はぐれなんとかではない、ギア的な奴だ!」

 レタァァァァァァスッッ!! と機械なのに、恐竜みたいな咆哮をあげるメタルレタス。しかし、外見的にレタスらしさがまるでないギャグパートにあるまじき、アレの完全再現だ。せめてレタスギアとかしてくれたらよかったのに。

 マズイ。これはまずい。まだこれはサブストーリー集みたいな話だからギリギリ大丈夫のはずだから、なんとかいけるが(いけるか?)、これがこの地下基地から出れば、まず間違いなくこの作品は滅ぼされる。完膚無きまでに著作権という名の剣にボロボロにされる危険性があるのだ。

 コックピットのハッチが開く。そこから現れたのは半身を機械化した髭がピンとナイスに伸びた中年オヤジがハッチの淵に片足かけて、君臨した。

 「レタス将軍、やはり生きていたのか!」

 「ブワゥハハハ、詰めが甘かったのだよ、貴様らは! この私があの程度で、あと一ミリで折れた肋骨が心臓に届いていた、ホントマジであぶなかった程度で、この私を倒せると思うなよ!」

 「結構、危なかったじゃないか」

 「うん。ホントあぶなかったギャクパートで死人がでるとこだった……まぁ、そんなことはどうでもいいのだ! 見ろ、このメタルレタスを! そして、この主装備である“レタスビィィムmrk2”! 一発で各国の都市を呑みこむほどの威力を持たせることができたこの最高傑作を。別にここまで威力がなくてもよかったけど、やれるところまでやぅちゃお精神で出来たこの巨根……じゃ、なかった。巨砲をッッッ!!!」

 「くっ、こんな巨根……じゃなかった。巨砲が撃たれたら――――」

 世界が終わる。いや、この作品が終わってしまう。

 「だ~が、その前にキサマだ、アフロ! 幾度となく私の野望を阻止してきたキサマらに復讐をしてくれるわ! このレタスビィィムmrk2、こんな至近距離から歩兵に当てる検証をしてみたかったのでのぉぉ」

 向けられる主砲。しかし、動けぬ自分。さっき、足挫いちゃッた……

 「終わりだ!」

 「……わたしは、ここまでのようだよ、“ボーイ”」

 きっと、今は遠い異国の地で、ヒロインに復讐を果たしているであろう、一時的であっても相棒であった青年を想う。短い間であったが、君と駆け抜けたミッションの数々は――――楽しかったよ。

 砲門から緑色の光子が漏れ始め、そして

 「さらばだ、時代遅れのアフロ!」

 放たれた。

 放たれ、天井を突き抜けてきた“なにか”に阻まれ、拡散した。

 墜落(ついらく)、という言葉が似あうほどの衝撃を伴って、この閉鎖区空間に粉塵を立たせたのは、黒い、そして人一人が縮こまれば“箱”。

 中に何が入っているのかすらわからないほど黒い四角い箱が上から落下してきた。

 予想外の事態に、この場の誰もが、箱が紙のように開くことを阻止できない。

 目を離せないでいた、箱の中から黒いコートを羽織った、黒髪、紅眼の青年が立ち上がるまで。

 「……どういう状況だ、アフロ?」

 「ぼ、ボーイ、なぜ?」

 見間違いようもない。なんか暗い雰囲気を纏っているが、彼は進・カーネルだ。なんで、箱の中から?

 そういえば、さっき知らない周波数から、聞いたことのない少女の声が入ってきて「もうすぐ、援軍が行きますから……箱詰めで、うふふ」と言っていたが、これのことだったのか。

 「ブハハハッハアアッ!! ひさしぶりだな、カーネルの息子ォッ」

 「…………なんてもん、作ってんだ」

 「視たかぁッァン!! これが我らが思考の……」

 「ヌゥッンッ!!!」

 レタス将軍が誇らしげに語ろうとした、その瞬間、進はなにも無かったはずの背中から身の丈に迫るほどの黒い大剣を抜き放つと、そのまま、メタルレタスを“両断”した。

 「べべらっちょぉぉぉぉおおおおおおおっとぉおおッッ!!!?? まだ語ってるさい」

 「黙れ」

 さらに振りかぶり、地下基地の地面に、怒りを押し殺した平坦すぎる声のままに剣を叩き付けた。

 凄まじい剣風、人外の膂力が地下のみならず、基地丸ごと、たしか全長6キロぐらいある基地を横断するように破壊の津波が巻き起こる。

 「ひいぃいっ!」

 「おたすけっ!?」

 「おっちぬぅ!!」

 危険を知らせる赤いランプがすべて起動し、脱出を促すアラームがけたたましくなりまくり、一心不乱の逃げ惑うザコキャラたちが規律と統率をもって逃げていく。

 「ふぅ……おい、アフロ。ここから日本に戻るにはどうすればいい」

 「ぼ、ボーイ? なんかいつも以上に荒ぶって……」

 「くぅそぉおお! またか! また貴様らに邪魔されるのか!」

 なんと、まだ生きていたのか。破壊に巻き込まれたのか、上半身と下半身が綺麗に分かれている。それでもまだ生きているのだから科学の力は素晴らしい。

 「まだだ! まだ終わらんぞ小僧ども! 我が野望は終わらん。今度は半身だけではなく、全身を改造して……」

 「――――手間ぁ、はぶいてやるよ」 

 「はへぇ?」

 進は真横に倒れていたメタルレタスの主砲を根元から、腕力だけで引き抜くと、落ちていた下半身めがけ全力で垂直に叩き“つけた”。

 「てっ、ズゥエエエゥ!!? わ、私の下半身がぁああああああ!!」

 「巨根になりたかったんだろ? デカイの取り “つけて”やったぞ」

 「“つけて”って、完全めり込むどころか、完全破壊じゃない!? 巨根の前に下半身が見るも無残に完全破壊だよ! 付ける部分なくった、これじゃぁ、ただの巨根じゃない!? ただペ〇スのパーツだけじゃないのぉぉ!? でっか過ぎて誰も受け入れてくれないよ! これマグナムどころか、レールガンじゃない!」

 「黙れ」

 「ぎょもッ!!?」

 ついに上半身だけになったレタス将軍の顔面を踏みつけ、黙らせた。

 ひどい。たしかにギャグパートだけど。これはひどい。レタス将軍生きてるけど、下半身ただの巨根になっちゃうし……

 なんとも言えない空気が流れる地下基地……いや、もう進の一撃で、空が見えちゃってるから、地下基地でもない。

 そんな風に気だるげに上を見上げていると、ヘリが一機滞空しているのが見えた。この距離でもプロペラ音がほぼ聞こえないのは、我が国の最新鋭のステルスヘリか!

 そこから拡声器を通した大きな声が飛んでくる。

 「ミスター、シン! ミッションコンプリート、さすがで…」

 「ぬぅガァラァッ!!」

 進は迷わずヘリにめがけ上半身だけにレタス将軍を投擲した。

 「なんでっ!?」

 私のツッコミが響いた頃にはもう、ズドォンッ! と基底部に異物が挿入されたヘリは狂ったように体を振り回し、くるくると下降していき……ドォォンッ、となった。

 「ど、ドォンしたぞ、ボーイ。……あれ、人が乗って……」

 「安心しろ、ギャグパートだ。人は死なん……それよりも、アフロ。ソドムはどっちだ? 急いでもどらねぇと」 

 「急ぐ? なにか大変なことが起きているのか? なら、わたしも」

 「いや、いい。これは俺一人で形をつける。もうギャクパート(あそび)は終わりだ」

 彼の使命でも背負っているような雰囲気に、息を呑む。

 しかし、やけに私怨が目立つ雰囲気である。

 「ボーイ、君は一体なにをするつもりだ……」

 そんな重たいモノを体中から放つ彼は破壊されたメタルレタスの上に乗り、帰るべき方向を見定めて下にいたが、私が問うと振り返り、青筋浮かべた顔の目を爛爛と見開き、悪意にねじ曲がった口から宣言する。

 「撫子(ヒロイン)、ブッ倒しにいくんだよ」

 「ちょっ、主人公ォォッッ!?」

 


 視点変更 9


 

 「撫子さん、もう勘弁してくだせえっ!!」

 「あら、ハジさん。一体なんのことですか?」

 夏休み最終日。とりあえず、なんか気になってcon-tractに来てみたら、ソドムの情報屋がマジ半泣きで仁王立ちしている撫子の足元にすがりついていた。

 そのハジの正体を知る自分、科布 永仕としてはなんとも言えない気分になった。

 「仕事ですよぉっ。アッシの方に来ていた仕事の情報を全部もっていぅたでしょうぅ!? このままじゃ、商売上がったりどころが、おまんま食いっぱぐれちまいやす!」

 「うふふふ、そんな大げさな。ハジさんには、まだまだツテがあるじゃないですか。それに……まだ、“アレ”があるでしょう?」

 うふふ、となんとも影が濃い笑顔が怖い。そんな撫子に、ハジが震えた。

 「あ、“アレ”? い、一体なんのこと、や、や~ら~」

 「口笛吹いてもダメですよ。私……知ってますよ。ハジさんが、秘かに南からき――――」

 「わー! わわー!! なんのことでやんすか~! しりませんよ! なんにも裏輸入なんてしてませにょ! あっ! 永君こんにちわ! アッシ、つまようじがあったので帰りますから! なんにもやましいことしてませんからね! じゃぁ、失礼しましたから!」

 「うふふ、ちょろいですね……あ、永仕さん。こんにちわ。……どうしたんですか? 頭痛そうにして?」

 「いや……なんでもない。ホント、なんでもないから」

 用事が、つまようじになったバカと入れ替えるようにして店内に入る。内窓に変わりはない。ただ、人がいない。どうしよう、なんか居ずらい。いや、もう帰りたい。

 「お茶、いま入れますね」

 誘導されるままに、事務所のソファに腰掛ける。撫子は奥の台所に行く。とりあえず、呼びとめずに、本題だけ聞いてみよう。

 「いや、おかまいなく。それより――――撫子? みんな、は?」

 「皆? そうですね、もうそろそろ帰ってくる計算なんですけど……」

 「けいさ――――いや、もういい。それよりも、撫子? 一つ、言いたいことがあるんだけど、いいかな?」

 「そんな畏まらないでください。永仕さんは私の家族みたいなものなんですから。ほんと、もうこの事務所に勤めてもらいたいくらい……」

 「それは勘弁してくれ……まだ死にたくない」

 「なにか小声でいいました? 聞き取れなかったんですけど?」

 「なにも言ってないよ、ホントダヨ。それで、さ。撫子。事務所の皆をそろそろ自由にしてやらないか?」

 「うふふ、まるで私が無理やり働かせているみたいですね」

 おぼんに、グラスと冷やされた麦茶が入れられた容器乗せ、注いで手渡してくれる撫子。見た目、来ているパンツスーツと、何故かつけてる眼鏡が強調され、やり手の秘書のようである――――と前回は思ったが、今は美しい死神に見える。

 いや、今日は言おう。前は雰囲気に圧倒されて、逃げるようにサヤと静かに帰ったが、言わねばならないことがある。

 「そこまで言うつもりはないけど、休養も必要だろう? いくら活動時間が計算できたとしても精神面の問題もある。下の者を持つ人間はそこを考慮しなくちゃいけないよ。それは解るだろう? だから、もう休みを上げたほうが……」

 「はい。それは解ってます」

 あれ? 案外、素直?

 「それに、今までのハードな仕事はもうする必要はないですから」

 必要? なんのことだ、と聞こうとしたら

 「「ナデシコッ!!」」

 バァンと、ドアが叩き壊す様に強く開かれたので聞く機会をなくした。

 「あら、おかえりなさい。アルバインさん、ローザ」

 「おかえり、では、ありませんわ! いい加減にもううんざり! 私たちはストラキさせていただきます!」

 「ボクも……もう、疲れたから……もう真っ白な世界はもうイヤなんダ。あ、これお土産の南極の水」

 怒り狂うローザは目の下に真っ黒なクマを作り、唾を飛ばしながら上司である撫子に叫ぶ。

 疲れ果て、白い雪原のように真っ白になったアルバインは、光が灯らない死んだ魚のような目をしている。

 今度は何をさせられたんだ、と思いながらに同情していると撫子は、なぜかよいしょっ、と可愛く気合いの一声を上げて、進のデスクの奥から大き目のアタッシュケースを取り出した。

 それを二人の前まで持っていくと簡単に留め金を外して、開いて見せる。

 その中は、詰まっていた。

 一瞬、目を疑うほどの札束が、ぎっしりと。

 「「「なぁッ!?」」」

 「今回のローザとアルバインさんの報酬ですね」

 「「「ハァアァッ!?」」」

 俺を含めた、撫子以外の全員が絶句する。いや、絶句しないとおかしい。札束が一つ100万でまとめられているとしたら、ひの、ふの、みの……いや、数えるのを止めよう。なんか、頭がおかしくなりそうだ。

 「大変なお仕事をお疲れ様でした二人とも、ローザに関しては夏休み中に済まさないといけなかったからギリギリでしたけど」

 「そ、こ、え? あ? あーした」

 「ローザ、しっかりしロ。こういう時は、呼吸を止めて冷静になるんダ」

 「いや、君が冷静になれアルバイン。息止めちゃ、だめじゃないかな……撫子、きちんと説明してあげなくちゃいけないよ」

 「はい。わかってます。まずはローザ。これだけあれば借金はすべて返済できるんじゃないですか?」

 「え? いや、えぇとぉ、これだけあれば、まぁ……って、まさか撫子っ!?」

 直視するのも難しい大金と撫子のセリフから、ローザたちは彼女の真意に辿り着く。

 「はい。強引過ぎたとは思いますけどね。私だけじゃ、これだけの額は稼げませんから。でも華の女子高校生が着るモノ、食べるモノを捨てて、節約貯蓄生活なんて、悲しいじゃないですか……私が調べられた範囲で考えても、これだけの金額があれば、余裕で手元に残るお金だけで十分高校三年間は過ごせますよ」

 「撫子……」

 ローザが感動したように崩れ落ちる。

 「アルバインさんも、どこかの国の復興事業に寄付金としてかなりの額を毎年投資してますよね? 足しにはなるはず」

 「エ? そ、そうだネ。これだけあれば……」

 「あと、前々から欲しがっていたシステムキッチンと最新の料理器具一式と、冷蔵庫を買い替えておきました。アルバインさんには皆の仕事の中で一番精神的に辛いお仕事を任せてしまったので、これくらいでは足りないと思いますが……」

 「ナデシコ……いや、十分だ、十分報われたヨ」

 アルバインが跪いて、撫子に頭を垂れる。騎士が王に忠誠を誓う絵ずらに視えなくもない。

 「進には、この前に破れてしまったコートの代りに、新品のコートを買ってあげたかったんです。とりあえず、ハジさんに頼んで、背負った物を光学迷彩で不可視にするインビシブルバックと同じ技術を編み込んだ高性能な一級品の作成依頼をしておきました。たぶん、12月の始めぐらいに届く予定になってます」

 俺はどこか感動していた。やり方はひどかったとは言え、彼女なりに彼らのことを思ってのことだったのだろう。

 ああ、よかった。

 なんとなく、みな、彼女に感動の涙を


 

 「ハイっ、それじゃあ次のお仕事を初めていきましょうっ」



 流すはずだったのに、カチリと空間が一瞬空間が固まったせいで、誰も涙を流せない。

 否、血の涙なら溢れだしそうになってはいるが。

 一番初めに固定化が溶けたローザが壊れモノに触れるかのように尋ねてみる。

 「あの……撫子? 私(わたくし)、明日から学校……」

 「何言ってるんですか、ローザ? あと、15時間あるじゃないですか?」

 「じゅうごッ!? ぐ…あぁ」

 現在丁度、8月31日の正午ピッタリ。つまり、日付けを跨いで働ける……という撫子理論にローザは崩れ落ちた。

 「あの……ナデシコ? ボク、あたらしいキッチンを見たいし、使いたいんだけド?」

 「大丈夫ですよ、アルバインさん。キッチンは逃げも隠れもしませんから、どうぞお仕事に」

 「そん……な」

 同じく心挫かれポーズになる騎士。

 そんな二人を頬笑みながら見下ろす撫子。血も涙もないとはきっとこのことなんだろうなとなんとなく思ってしまう絵ずらに俺は目を逸らした。

 お仕事モードの撫子に、誰も勝つことはできないのだろうか?

 現在、主戦力である二人は、感動と絶望のアメとムチで立ち上がれないほどのショックを受けてしまってもうダメだ。

 もう救いはないのか……

 ――――いや、まだ奴が。

 彼がいるではないか!



 「撫子くぅォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」



 ドアを蹴り開け、現れてくれたのは進・カーネル。

 そのまま彼は間髪いれずに撫子を押さえつけるために、鋭い加速を持って真っすぐに襲い掛かる。

 もうギャグパートにあるまじき戦闘空間は

 「はい、ドーン」

 語尾に星でもつきそうなほど可愛い一声とともに放たれた、撫子の進にも負けず劣らずの抜き撃ち(クイックドロウ)が終わらせた。

 彼女の手にあるのは、どこかSFを連想させる小型の拳銃。そこから放たれた“緑色の光線”が進に直撃する。

 驚いた進が方向を狂わせ、事務所のフロアに突っ込んだ。

 「こ、こりゃ……ぐぅおおお!? 腹が、く、くそ……マジでクソおおおおおおおがぐううっ!!」

 過小評価だ。進は舐めていたのだ。己の能力に慢心し、非力な撫子を真っすぐに抑えつけられると、思っていたのだろう。そんなこと、彼女自身が一番知っているというのに、だ。

 「残念でしたね、進? そう来るって思っていましたけど……ホントにそう来るとは……うふ、うふふふふふっ、もぉう、進のお馬鹿さん」

 敗者を勝者は見下すように笑う。なんか、逆だ。いつもと、逆過ぎる。

 「その銃は……ま、まさか」

 「はい。レタス将軍の銃ですよ。とりあえず、依頼人であるハンバーガーが主食みたいな国に頼んで、小型化していただいたんです。やっぱり、時代は常にスマートを求めますからね。まぁ、髪がサラサラになる機能は取り除いて、腹痛のみを起こす様に改造はされていますが」

 「どうやったら、そんな改造できんだぁぁぁっ、ぐぅ、ぬぅのぉうっ」

 悶える進。

 いかに正体不明協力無比な力をもつ進といえど、便意には勝てない。

 「うふふふ……ぁあ、可笑しい」

 正面突破、難攻不落な主人公をこんな風に倒す敵、いや、ヒロインがこれまでにいただろうか?

 「ちぐしょう……こ、こんな、ば、馬鹿なっ。は、早くト、トト、トイレに」

 「ダメですよ」

 ピシャリとお腹の痛さに苦悶うつ進に向かって、なんてこと言ってんだ、ヒロイン。

 「そ、そこをどけ、な、なでしこ」

 「まずは、お仕事の報告でしょう、社長?」

 さらに一発、ゼロ距離で緑色の光線を打ち込む。

 「グガガアアアアッ!!? ヤバイ! デル! マズイ、これやばマジデヤバぃ」

 「あらあら、大変そうですね~? うふ、ふふうふう……これじゃ、報告は無理ですか? なら、とりあえず……わかってますよね?」

 「な、なんを」

 「トイレを使わせて“ください”、撫子“ちゃん”」

 「…………」

 「トイレを使わせて“ください”、撫子“ちゃん”。はい、復唱」

 鬼だ、ここにヒロインという名の鬼がおる。

 撫子“ちゃん”なんて呼ぶ進を見たくない。進にしてもこれ以上ない苦痛のはずだ。キャラじゃない。

 だから、彼は残る最後の精神力で反逆の姿勢を崩せない。

 「……いやだ」

 「はい、ドーン」

 迷わず、引き金を引く撫子。さらに、引く。もう一度、引く、もっと、引く。もっともっと、さらにおまけに引きまくり、も一度おまけにドンドンドン! ――――ダメだ、もう視ていられない……

 とても楽しそうに拷問する撫子に、ローザとアルバインが、声を無くしてその光景に震えあがり、互いに抱きしめ合う。そういう俺も、なんとなく止めるための一歩を踏みこめない。

 そうこうしてる数秒感の内に、進はぐったりして、地面に這いつくばりピクピクするだけになった。

 「ぐ……が」

 「あ、ほらほら気を失っちゃダメですよ? 漏れちゃいますよ~? お風呂をしている時間はないんですから……すぐ、次のちょっとハードなお仕事なんですから」

 「……撫子? もうハードな仕事はないんじゃ……」

 正気の目をしていない撫子に、俺は勇気を出して聞いてみる。たしか、さっき、もうそんな仕事は無いって言ってたような気がしたんだけど。

 「そうでした。いや……そうだったんですけど、やっぱりもう少し……頑張っていただければ、もっと会社を大きくできるかもしれないんですよ」

 「いや……別にそこまで……しなくっても」

 「永仕さん……会社が大きくなれば、人材も増え、事業円滑率の向上は当然のこと、もっと大きな大金と人間が動かせ…動くようになります。私は別に皆さんに会社のために死ねと言っているわけではないんです。これは社会全体のために、そして、わた……皆さんのためになることなんです」

 もっともなことを言ってる撫子。ただし、説得力が無い。口ぐちから漏れる本音の数々と、光を宿さぬ我欲に満ち満ちた瞳が全を台無しにしている。

 彼女も始めは、本心から皆のためにと会社を手伝っていたはずだ。それがふとしたきっかけで、己の欲望を認識し、それを原動力に動き続けた最中に触れる社会的な金銭運用の大きさ、人を動かし回す征服感、地位向上の甘い蜜に徐々に毒されていってしまったのだろう。

 それにより、いつもの撫子をノーマルモードの撫子とするなら、これはお仕事モードの撫子とでも言い分けてもよいくらいの別人格を作り出してしまったのだっ! と、思う。

 そんなお仕事モード撫子は、這いつくばる進の背中に足掛け、発狂したかのように高らかに笑い始める。

 「うふふ、うふ、うっははあはあっ!! あそこもどこらもそこらも皆可笑しいっ! お仕事が、こんなに楽しいなんて知らなかったです。人とお金と世界が自分の手足のように動くカ、ン、カ、クッ!!

 もはや、どこぞの諜報機関も私の動き一つでどうとでもできる様になりましたし、アンダーな組織にも根を張ることはすでに済みました! 表の方は、もう完全に大きなコネの形成は完了ッ……、あとはもう……ふひ、ひひひひっ、さぁ、進! 皆さん! ここからcon-tractを大きくしていきましょうっ! 事業拡大、人材補強、その他etc……全て成して裏の仕事もこなせる大企業に拡大、日本に本拠地を置いて、そう……世界が見渡せるようなビル建造して、最上階のテラスでワイン片手に、私は褒められながら頭をいっぱいナデナデしてもらうのです――――あふゃふぁふぁふぁふぁふぁっッ!!」

 「――――ごめん。組長直伝、秘技“記憶堕とし”」

 「ッぎにゃっ!?」

 彼女のキャラが崩壊する様が視ていられず、ハイテンションな彼女の裏に静かに回って、首筋に浸透する魔力を込めた一撃を軽く叩き入れた。

 「きゅぅ……」

 バタン、と意識を失ってフロアに倒れた撫子。世界を牛耳ろうとした悪魔が消えた部屋に訪れた静寂と唐突な終わりを見せた撫子無双タイムが終わったことに目を見張る全員の視線が痛かったので、簡単な補足説明をしてみる。

 「音芽組組長直伝の、直接打撃型精神感応系魔術だ。これでたぶん一週間分くらいの記憶が意識とともに曖昧になる技でね。安心してくれ、被害者にダメージは残らない……たぶん、もう大丈夫だ」

 「ほ、褒めるんじゃなかった……嫌な予感はして、してたん、たんだ……」

 「もういいから、トイレに行けよ、進。あと、お前さん間違ってるから。たまにじゃなく、定期的に良く出来たら褒めてあげたほうが良かったんだ」 

 「わ、わか、た…ぐぅおおっ、ヤバい、もう限界だぁ……」

 ヨロヨロと立ち上がり、トイレのある奥へと消えていく進。

 あれはもう、今回はもう登場しないな……

 その背を見送っていたら、背後からなにか熱い視線を感じた。

 振り向くと――――ローザとアルバインが跪いて、頭(こうべ)を垂れている。

 「「おぉ、神よ……」」

 「いや、確かに狼(おおかみ)だけどね……」

 こうして、今年の夏休みは静かに幕を閉じた。

 


 視点変更 10



 「ふむぅ?」

 寝ぼけ眼で、九重 撫子を写しだす洗面台の前に立ち、歯を磨きつつ、ある疑問に首を傾げる。

 (なんか夏休みの記憶がない……? いや、憶えてるけど霞みがかかってみたいで……)

 二学期の始業式に合わせ、少し早目の寝起き頭ではどうすることもできまい。

 昨日は意識を失っていたらしい。進たちが言うには仕事のし過ぎだという。

 私が目覚めたのは、丁度日付が変わる瞬間。

 目を開けると、なぜか荒縄と鎖で体を素巻きにされ、進たちに主武装を突き付けられていた。

 彼らは、私の記憶が無いのを知ると、ホッとしたように顔を緩め、私が過労で倒れたことを“強く言い聞かせてきて”、これからは仕事を休むことと、仕事の話が着ても、社長である進に必ず(これも強く言われた)話を通すこと、と念をつけて言われた。

 なんとなく、皆から殺気を感じたが……意識がぼんやりしていることと、実際疲れていたので。

 「……まぁ、いいか」

 と結論付けてしまったので、不満はない。

 ただ、記憶の曖昧さだけは怖いので、こんど病院に行こ……

 プルルル

 「あ、電話」

 私は口を濯ぐと、受話器にパタパタと近づく。

 電話の音にニ階から誰かが下りてくる気配はない。昨日の皆は私以上に疲れているようだったので、もしかしたら一日中寝ているかもしれないな。

 受話器をとり、一拍間をおいて、いつもどおりの対応から始める。

 「大変おまたせ致しました。こちら特殊人材派遣会社con-tract(コントラクト)、九重 撫子がお受けいたします」

 「oh! you look full ob vim, Ms.nadeshiko!」

 「え?」

 英語だった。とても流暢かつ、フランクな口調でいて友好的な親しみやすいそんな口調。

 続けざまに、倒れたと聞いて、電話をかけてしまった、そっちはもう朝か、まだ日本語は完璧でなくてね! とマシンガトークが飛び出してきそうだった。

 「あっ……」

 思い出してきた。

 そうだ。そうだった。

 いや、まだ曖昧な部分はあるが、この八月の仕事で培った経験は体に染み込んでいるらしい。

 自然と口から、“うふふ”と声が漏れた。 

 「お久しぶりです、合衆国副大統領……」

 頑張らなくっちゃ。

 まだ、con-tract(この会社)は始まったばかり、なのだから。

 ――――うふふふふふ




                           report2 END?

 

 



 

 おはようございます、桐識 陽です。


 今回は、完全なるギャグなお話になります。本編と絡んでいる部分も多々あります。しかし、作中に出てきた世界中のどこからでも核がうてそうな起動兵器や、腹痛を誘発する兵器は既存の技術ではない完全なるフィクションです。御気になさらないでいただけたら、とても光栄です。いえ、ゆるしてください、スイマセン。


 今回はここで締めさせていただきます。

 ここまで読んでくださった方々に感謝を。

 

                       桐識 陽より



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。