第42話 脩、大好き
結局。
その後も――、プラネタリウムの演目が始まると、俺にぴっとりとくっつきながらすやすやと寝息を立て出した瑠偉に尊みと可愛さしか感じなくて、演目にまったく集中できなかった俺です……。はい……。
想像してみてください。
俺の肩に頬を寄せて来て、気持ちよさそうな寝顔で寝息を立てる姿を……。
こいつも、今日のことでちょっとは緊張したりしたのかな? とか。
色々プランを考えたりして寝れなかったのかな? とか。
そんなことを考えちゃったりするとさ、可愛いやつだなと思うわけです。はい。
「ん……」
とか寝言をいいながら、もぞもそと身をすり寄せられたりしたらさ。
こっちは寝てる暇もないし、プラネタリウムに集中する余裕もない。
◇
「……瑠偉。瑠偉」
「んんぅ……」
そんなこんなで、あっという間にプラネタリウムも終わり。
爆睡している瑠偉を揺さぶり起こそうとすると、『まだ起きたくない……』と言わんばかりにぎゅうっと抱きつかれる。
…………うん。
可愛い。可愛いよ。可愛いけどそろそろ起きませんか?
プラネタリウムの職員さんも困らせちゃうし。
そう思いながら俺が根気強く瑠偉を起こすと、ようやく瑠偉が覚醒し出す。
目を覚まして、ぽやぁ……、として。
それから、自分が寝ていたことを自覚して『はっ!』とすると、急に恥ずかしくなったのか再び俺の肩に顔を埋めて、
「寝……寝ちゃったの……、見た……?」
と聞いて来た。
――はい。
バッチリ見てました。
可愛かったですよ……。
しかし、そんな思いは口には出さずに「……まあ、とりあえず出よう。プラネタリウムの人に迷惑かけるし」と言って退室を促して誤魔化したけど。
「うっ……、外、まだ明るい……!」
「7月だしな」
真っ暗だったプラネタリウムから出てくると、外はまだ燦々と照り輝いていた。
眩しい……! と言って目を細める瑠偉に、手でひさしを作ってやる。
「不覚だよう……。楽しみにしてたのに……」
「また行けばいいだろ。近くにあるんだし」
さりげなく、手は繋いだまま。
寝てしまったことでプラネタリウムの演目を全く見れなかったことを悔しがる瑠偉を慰める。
「ほんと? また一緒に来てくれる?」
「……そりゃあ。お前が来たいって言うなら」
俺がそう答えると、瑠偉が一瞬ぱっと嬉しそうな顔を見せる。
が――。
「……でも。せっかくだから今日、脩とプラネタリウムでいちゃいちゃしたかったのにな……」
と、しょんぼりされた。
えっ……?
なにそれ。かわぁ……!
ちょっ、顔が緩みそうになるからやめてくれませんかね。
突然そういうこと言うの。
「……男同士でいちゃいちゃするとか、ないだろ」
「でも、今は女の子の格好してるし」
うん、まあそうなんですけどね。
ていうか、実際に女の子なのも知ってるんですけどね……。
「で? 今日はこれで、寮に帰るでいいのか?」
「うん。でもこの格好で帰っちゃうとみんなをびっくりさせちゃうから、着替えてから帰っていい?」
俺が、内心のむず痒さを隠しながら瑠偉に『もう帰るか?』と尋ねると、瑠偉から帰る前に着替えたいと告げられた。
……まあ、そらそうだわな。
男子寮に、こんな『いかにも女子です!』みたいな格好のやつが入って行ったらまず騒ぎになるわ……。
というか、瑠偉にそういう自覚があったことに少しの驚きを覚えつつ、
「ああ。じゃあどっかで着替えて帰るか」
と答えた。
◇
「はあ。ただいまー!」
「おかえり」
もはや、お決まりとなったこのやりとり。
瑠偉が先に部屋に入って「ただいま」と言い、後から入った俺が「おかえり」と言う。
そんなちょっとしたやりとりさえ、なんだか大切なものに思えて、心が安らぐ。
「あ、あのね。脩。ちょっとだけ。ちょっとだけ待っててくれる?」
「ん? おう」
そう言うと瑠偉は、たたたっ、と軽快な音を立てながら廊下に走っていく。
それから、しばらくして後ろ手に何かを隠して戻って来たかと思うと、『ぱちっ』と音を立てて部屋の電気を消し。
「は……ハッピーバースデー、トゥー、ユー……」
と歌って、蝋燭を立てた小さなホールのショートケーキを前に出した。
…………ん?
「俺の誕生日?」
「う……うん」
俺が尋ねると、瑠偉がこくりと頷く。
確かに。
よくよく思い起こすと、今日だわ。俺の誕生日。
「……完全に忘れてた……」
「そうだろうなと思って。だったらもう、サプライズにしようって」
サプライズ大成功、と言って、えへっと笑う瑠偉に、不覚にもきゅんとした。
こいつ――。
それで今日『お礼』とか言って、わざわざ女の子の格好までしてデートみたいなことして来たのか。
「プレゼントは……、今日、お小遣い使いすぎちゃって、これしかないんだけど……」
そう言って瑠偉が俺に差し出して来た小さな紙。
『なんでも脩の言うことを聞くチケット』と書かれた横に、下手くそなイラストと可愛らしい字で『脩大好き!』と書いてあるのが見えて、なぜかちょっと泣きそうになった。
察しのいい方々ならここで、
『プレゼントがない代わりに……、僕をプレゼントであげるよ……』
とか言った瑠偉が、なぜか胸のリボンを外すと服が脱げて裸になって、
『脩……、優しくしてね……』
な〜んて俺の妄想が始まるのを予想しただろう。したかもしれない。いや、したハズだ。
しかし。
「はい、脩。あ〜ん」
「あ〜ん……」
今日の俺はそんなゲスな俺じゃありません。
ちゃんと、ヨコシマな妄想に流されず、瑠偉が『脩に食べさせてあげてもいい?』とにっこにこでお願いするのを受け入れ、大人しくもぐもぐと用意してくれたケーキを食べておりますよ……。
「あ、脩。生クリームついてるよ」
取ってあげるね、と言って、俺の頬に手を伸ばした瑠偉が、ナチュラルに手に取った生クリームをペロリと舐めて。
「……甘いね」
と言ってにっこりと笑う。
「……お前なあ……」
「え? 何? 直接舐めて取ったほうがよかった?」
――お前が俺のほっぺたから直接舐めとったら、それはもうほとんどキスです。
そんなことを、胸の内で叫びつつ。
今日も、これからも。
瑠偉とのルームメイト生活は続くのだった。




