第33話 もやもやと胸に湧き上がるもの。それを嫉妬と人は言う
そうして、なんだかんだで盛り上がるカラオケの合間。
俺と瑠偉と谷で連れ立ってドリンクバーに来たところで、そう言って谷に声をかけてきた人物――女子がいた。
「あれ? 谷じゃん」
「お?」
「あれ? わかんない? 私だよ倉田」
倉田、と名乗った女子は、ニコニコと愛想よく谷に話しかける。
あの制服――、確か、近くの女子校の……。
「いや、倉田はわかるよ。倉田、東女行ってたんか」
東女――東雲女子高等学校と言うのが、俺が今思っていた女子校のことだ。
東女も有高と並んで女子校の中では名門と言われる学校で、いわゆるお嬢様学校という奴である。
実際、谷に話しかけてきた倉田さんという女子も、肩下くらいのつやつやの黒髪を綺麗に揃えた、いかにもお嬢様然とした明るい爽やか系美人だった。
「えー何? 谷、有高行ったんだ。頭よかったもんね。普段はバカっぽいけど」
「うっせ、まあな」
そう言って楽しげに会話する2人は、どうやら旧知の中のようだ。
……同中とかなんだろうか?
「あ、ごめん友達いたね。えっ、……てかすっごい美少年」
「…………」
俺たちに気付いた倉田さんなる谷の友達がこっちに声をかけてくる。
でもって瑠偉の存在に驚いた倉田さんに、瑠偉が俺の後ろに隠れながらもぺこりと頭を下げた。
「倉田も友達と来てんの? なんだったら俺らの部屋、ちょっと遊びにくる? 男しかおらんけど、そんな変な奴おらんし」
お……、おお……?
俺と瑠偉がなんとなく『このままこの場にいていいんだろうか……? 谷、友達と話し出したし』みたいな空気を醸していると、陽キャの谷がまさかのムーブをし始めた。
男子校の野郎カラオケ部屋に女子を呼ぶ。
そんな、いかにもな高校生のイベント……!
「え? いいの? 有高か……! 確かに話してみたいし……!」
どうやら俺らは、というか俺らの所属高が、彼女のお眼鏡に適ったらしい。
『ちょっと、一緒に来てる友達に聞いてみてまた連絡するね!』と言った後、
数分の後にめでたく男女混合のカラオケルームが出来上がった。
「え!? 何、すっごい美少年がいる!!」
「わ〜〜、お肌ぷるぷる〜〜〜〜!」
瑠偉が、女子たちからの絶大な人気に得るのに、数分の時間もかからなかった……。
「くううっ……! 女子と絡めると期待した俺らがバカだった……!」
「全部真瀬に持ってかれてんじゃねーか……!」
そう言って嘆くクラスメイトたち。
すいませんね……、うちの瑠偉が……。
「ごめんね、あの子たち、可愛い子に目がなくって」
そう言いながら、嘆く男子ズにフォローを入れてくれたのは、先ほど谷と話していた倉田さんだ。
他にも何人か女子を連れて輪に入ってくれたので、その場の空気が少し和らいだものになった。
――やるな、この子。
「キミ、さっき谷と一緒にいた人だよね。名前聞いてもいい?」
「……如月、です」
「如月くんね。私、倉田。さっき横で聞いてたと思うけど」
そう言って隣に座ってきて話しかけてくる倉田さんは、谷と話していた通りカラッとさっぱりした気立のいい子みたいだった。
「谷から聞いたんだけどさ、如月くん、頭いいんでしょ? 有高の中間で4位だったって聞いたんだけど」
…………あいつ。
余計なこと言うなよな……、と思いながら、離れたところで他の女子と楽しそうに会話している谷をじとりと見ると、
「ああ、ごめんね。私が聞いたの。このクラスで頭いい子っているのって」
谷を責めないであげてね、と倉田さんがさりげなくフォローを入れた。
「私もさ、男子だったら有高に入りたかったよ。このへんで一番偏差値高いし、授業の内容も面白いって聞くし」
「俺は……、正直、あんまり気が進まなかったけどな。なんで一度しかない高校生活を男に囲まれて過ごさなきゃいけないんだって思ったし」
「あはは、確かにね」
彼女の話に合わせて調子良く答える俺に、倉田さんがケラケラと楽しそうに笑う。
倉田さんはどうやらガチで勉強好きな子らしく、有高でどんな勉強をしてるのかとか、どこまで授業が進んでいるのかと言うのを積極的に聞きたがった。
「やっぱいいなあ……。うちの学校も悪く無いとは思うけど、女子校だとどうしてもガンガンに成績上げたい! って空気にはならないからね」
この子……。根っからの勉強オタクだ……。
この数分話しただけだが、男女が話しているのに色恋の”い”の字も出てくることなく、ひたすらに勉強の話ばかりしつづける彼女にちょっと感心した。
ところで――。
「……脩」
いつの間にか俺の隣に立っていた瑠偉が、肩をそっと掴んで声をかけてくる。
「飲み物、取ってきてあげるけど何がいい?」
「あ――、ああ、そうだな」
「いいよ。行ってきなよ。私もう十分話聞けたし」
俺が、何の飲み物がいいかと一瞬頭を巡らせる間に、倉田さんがそう言って「自分で飲みたいもの取りに行ったほうがいいんじゃない?」と気を利かせてくれる。
「ああ、ありがと。じゃ、ちょっと取ってくるけど――倉田さんは?」
「私は大丈夫。まだあるから」
と、自分の飲み物が入ったグラスを持ち上げて見せた彼女は、
「こちらこそありがとう。如月くんの話、とってもわかりやすかったし、頭がいいんだなって思って楽しかったよ」
そう言って――小首をことりと傾げて、可愛らしくにっこりと笑って見せた。




