第11話 お部屋の中からルームメイトの可愛い喘ぎ声が聞こえてきます……
――自分の部屋に戻った時。
部屋の中から喘ぎ声が聞こえてきたら、人は一体何を思うのだろうか。
「んっ……、あ……っ……」
どうも、こんにちは。
如月脩です。
僕は今、室内から聞こえてくる可愛い喘ぎ声に、ドアを開けるべきか否かを、ずっと迷っています……。
「っあ……っ、はぁ…………っ……。ん……っ」
おわかりいただけるだろうか?
まあわかるよね。
はい。この声は瑠偉の声ですね。
だって、俺たちの寮部屋の中から聞こえてくるわけですしね。
……でもって。
「あっ、あ」
……これはあれかな?
やっぱり開けちゃいけないやつかな?
そうだよな。寮生活といえど、プライベートは守らなきゃいけないもんな。
とはいえ、相部屋の寮でなにやっとんねんというツッコミはあるけど。
「し……、しゅう……ぅ」
あ、呼ばれた。
呼ばれたってことは俺、行ったほうがいいんですかね?
俺、呼ばれてるもんね……、うん。
とか言って。
そうは思えど、中の状況がわからなすぎて、ドアを開ける勇気が出ない。
これで本当に男同士だったら、『……うん。寮生活だって溜まるもんは溜まるもんな。俺、ちょっと時間潰してくるな』って思って、男らしい気遣いをしてから部屋に戻るけど。
こんな女子っぽい可愛い喘ぎ声が廊下まで聞こえるか否かの状況になっていては、心配すぎて立ち去ることもできないよね……。
故に俺は、こうして室内から漏れ出る瑠偉の喘ぎ声を聴きながら、どうすることもできず立ち尽くしているのである。
決して、変態などではないのである――決して。
いやあ……、でもなあ……。
これな? 俺が先に気付いたからよかったものの。
俺が気付く前に通りがかりの他の部屋の男子とかにうっかり聞いちゃったら、絶対中でヤってるって思われるぞ?
それこそ、こないだの女子連れ込み事件みたいな。
まあ、俺たちの部屋は角部屋だからそうそう他の部屋の生徒が前を通り過ぎることはないのだけれど。
そして多分、ドアのど真ん前まで来ないと聞こえないから、そんなに心配することもないかもなのだけれども。
それでも、この先何があるかなんてわからないし、いい加減なところで切り上げさせて、びしっと注意すべきだなとは思う。
……よし。うん。
俺は立ち尽くしていた自分の部屋のドアの前から少し離れて、離れた場所から――スリッパの音が鳴り響くように、あえてべしべしと音を立てながら自分の部屋に向かう。
……これで室内にいる瑠偉にも、誰かが歩いてきたとはわかるだろ。
さらに、自分の部屋に入る前にわざとポケットの中で鍵をちゃらちゃらと鳴らして、他の部屋の生徒ではなく、俺が戻ってきたのだと瑠偉に示してみせる。
この部屋の鍵はICタッチ式になっているのだが、俺は鍵を無くすのが嫌なのでケースに入れてキーホルダーをつけているのである。
いや〜、音の鳴るもの持っててよかった〜。
そう思いながら、そろそろいいかと思いながらがちゃりと自室の部屋のドアを開ける。
『あっ、しゅう……』
そうして、俺がドアを開くと。
そこには上下白いレースの可愛らしいえっちな下着を身につけた瑠偉が、涙目になりながら気持ちよさそうにえっちなことをしている瞬間でした――なんてことはなく。
「しゅう……っ、おかえり……」
俺がそこで目にしたのは、自分のベッドの上で、普通に部屋着で四つん這いになって足を開きながら、なぜか中腰で震えている瑠偉の姿だった。
「……何やってんだお前?」
ぷるぷると、頑張って足をふるわせている姿は、まるで生まれたての子鹿のようだ。
「開脚……、しようと思ったら、全然できなくて……」
……なるほど。
どうやらこれは、立った状態から自重で開脚しようと試みた結果らしい。
その結果、股関節が固すぎて全然開かなかった、と。
そうして俺は、その様子を見てピンときた。
……あの喘ぎ声。
えっちなことしてたんじゃなくて、ストレッチしてたんだなあ……。
俺が部屋に入ってきても全く動じる様子もなく、黙々と前屈したり体側を伸ばそうとしているのを見て気付いた。
そして、前屈したり体側を伸ばしながら、「んっ、あ……」と声を漏らしているのを目の当たりにして。
……こいつ。
ストレッチしてる時の顔。えっ……ろいなあ……。
筋を伸ばしているのが痛いのか気持ちいいのか痛気持ちいいのか、伸ばしながら眉根を顰めて何かを堪えているような瑠偉の表情が妙にやらしい。
頑張っている割には身体固いの可愛いし、痛気持ちいいに堪えてる顔エロいし、漏れ出る吐息はえっちだし。
このまましばらくじっと眺めているのも天国かと思ったが、廊下で誰が聞いているのかわからない状況だということをハッと思い出した俺は、すかさず瑠偉を窘めた。
「お前、ストレッチはいいけど少し声のトーン落とせ。廊下まで漏れてる」
「え……?」
俺の言葉に、瑠偉がぴたりと動きを止めて見せる。
「お前が前に言ったみたいに、この学校にも変なやつがいないとも限らないんだから。……俺が近くいる内は、お前のこと守ってやるけど」
用心するに越したことないだろ、と言うと、瑠偉が「うん……」と言って素直に頷いた。
うんうん。
素直でよろしい。
角部屋だからそうそう聞こえないだろうという事実はありつつも、それでも心配は心配だし、自覚がないのが一番よくないので注意すべきことはちゃんと注意する。
大人! 俺、大人です!
自分の聖人君子ぶりに自分で感動します。
「それにしても。なんでまた急にストレッチなんてはじめたんだよ」
今までそんなこと、気にするようなそぶりもなかったのに。
「……だって脩、今日話してたじゃん……」
「今日?」
瑠偉からそう言われるが、言われた方はさっぱり記憶にない。
ストレッチちゃんとした方が良さそうだぞーなんて話、今日俺したっけ?
すると、ストレッチを諦めたのかベッドに突っ伏したままむくれたような表情を見せた瑠偉が、唇を尖らせながら言葉を続けてきた。
「四十八手……」
………………しじゅうはって?




