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第2話:招待

なんて美しい夢だったのだろう。だが、あの頃にはもう戻れない。

俺たちはみんな二十歳を過ぎ、それぞれ仕事の悩みを抱えている。それでも、こうして毎日顔を合わせられるのだから、それだけでもありがたいと思わなければならない。

溢れ出す思い出に胸を締め付けられ、当時の切なさを抱えたまま、俺は顔を洗いに行った。

寝室から洗面所へ向かい、ドアを開ける。部屋には朝焼けの光が差し込んでいた。蛇口をひねり、冷たい水に両手をかざす。この冷たさだけが、乱れた思考を少しでも落ち着かせてくれた。

あのトンネルのことが、どうしても頭から離れないのだ。

念入りに顔を洗い、柔らかい黄色いタオルで水分を拭き取ると、俺は日本への航空券の価格を調べてみることにした。数字はかなり現実味のないものだった。一人あたり8万ルーブル(約12万円)以上、荷物を含めると10万ルーブル(約15万円)近くになる。

「まあ、チケット代の蓄えはある。この時のために貯めていたんだ。100万ルーブル(約150万円)はある、これで足りるさ」

俺は嬉しそうに呟いた。

今日はとことん楽しんで、ついでに旅行の計画を話し合おうと決め、俺は奴らに電話をかけた。まだ眠気眼の友人たちが、次々と画面に現れる。

「おっす、みんな元気か?」俺は明るく声をかけた。

「今起きたばっかだよ、顔も洗ってないのに朝早くから呼び出しかよ」ニコライが不満げにぼやいた。

「そうそう」アルチョムが同意する。

ミハイルとアレクセイは何も言わず、黙って話を聞いていた。

「お前ら、なんで電話したかっていうとさ。今日、高級レストラン『バンバイ』にお前らを招待するよ」俺は宣言した。

「それ最高じゃん!」友人たちが声を揃えた。

「何時に集まる?」ミハイルが尋ねる。

「一時間後だ」俺が答えると、友人たちは次々とビデオ通話を切っていった。

俺は服を着替え、両親からプレゼントされた55階のマンションの部屋を出て、鍵を閉めた。階段ではなく、エレベーターで降りることにした。

ドアが閉まった途端、スマホが鳴り響いた。着信音がどこか奇妙だった――確かに前にも聞いたことがあるはずだが、一体どこでだろうか?

電話に出ると、ニコライの声が聞こえた。

「ディマ、お前一体どこにいるんだ? もう5分も待ってるぞ」

「今エレベーターで降りてるとこだよ、あと5分で行く。レストランは目の前だろ」俺は答えた。

「そっか」ニコライはそう言うと、どこか神経質そうに付け加えた。「いや、ちょっと心配になっちまって……」

「どうしたんだよ?」俺が聞き返したが、ニコライは何かを隠すように、ぶっきらぼうに遮った。

「いや、なんでもねえ。早くしろよ、待ってるからな」

通話が切れた。1階に着き、エントランスを出て警備員に軽く会釈する。早歩きでレストランに向かうと、友人たちの姿が見えた。

「やっと来たか! もう来ないんじゃないかと思ったぞ」アレクセイが言った。

「そうそう」アルチョムが俺の背中を小突く。

「よし、行こうぜ」ミハイルが合図を出した。

俺たちは美しく、格調高い高級レストランへと足を踏み入れた。

「この店、最高に美味いステーキが出るんだよな」ニコライが言った。

「そうそう、前に同僚とここで飯食ったことあるけど、評判通りだったわ」アルチョムが相槌を打つ。

友人たちをここに招待して本当に良かった。エレベーターでの奇妙な電話のことも、一瞬だけ忘れさせてくれた。

「お前らは席を取っててくれ、俺が注文してくる」俺は言った。「サプライズを用意してやるよ」

友人たちは窓際の席についた。俺はレジへと向かう。

「日本の最高級A5ランク、霜降り飛騨牛のジューシーなステーキを10人前。それと、ビール『ロボトミー』を8本、ノニジュースを5本」

俺ははっきりと注文を伝えた。会計は102,000ルーブル(約16万円)。俺は現金で支払い、みんなのところへ戻った。

「注文したか?」アルチョムが聞いた。

「ああ」俺は誇らしげに答えた。「30分くらい待つってさ」

俺は本題に入ることにした。

「お前ら、集まってもらったのは、日本への旅行……犬鳴トンネル(ヌナキ・トンネル)について話し合うためだ」

友人たちが静まり返った。

「ビザはどうするんだ?」アレクセイが尋ねる。

「俺の親父が2、3日でなんとかしてくれるさ。親父は外務省の領事局長だからな」俺は軽く手を振った。「航空券はもう2月5日の便で買ってある」

「ディマ、すまん」アレクセイが顔を曇らせた。「俺は行けない。出張が入っちまったんだ」

「俺もパスだ」ミハイルがぴしゃりと言った。「嫌な予感がする。お前らの言うそのトンネルの話は、ろくなもんじゃない」

俺は苛立ったが、ニコライとアルチョムが味方してくれた。

「俺たちは絶対に絶対に行くぜ!」

「よし」俺は頷いた。「言葉の心配がないように、日本語の喋れるロシア人を雇った。福岡の空港で出迎えてくれる手筈になってる」

ウェイトレスが、俺たちの膨大な注文の品を運んできた。友人たちは大喜びだった。

「食え、飲め。ニコライにはジュース、他の奴らにはビールだ。お前ら、いつもありがとうな」俺は言った。

やがて、トイレに行きたくなった。

「お前ら、肉を焼いといてくれ。すぐ戻る」俺はそう言って席を立った。

中に入り、用を足して出ようとしたが、個室のドアがびくともしなかった。

「おい、開けてくれ! なんで閉めたんだよ!」

俺はドアノブをガチャガチャと引っ張りながら叫んだ。助けを呼ぼうとスマホを取り出したが、画面にはニコライの連絡先の代わりに、見たこともない奇妙な名前が表示されていた。

『コイチ・ウメヤマ(梅山晃一)』

誰だ、これは?!

俺は発信ボタンを押した。電話はすぐに繋がった――。

だが、受話器の向こうから聞こえてきたのは、耳を聾するほどの静寂と、激しく燃え盛る【炎の音】だけだった。

「っ……!」

俺は恐怖に目を見開いた。気がつくと、俺はトイレに行く手前の通路で、床に倒れ込んでいた。

「ディマ、大丈夫かよ?!」

ニコライが心配そうに俺の顔を覗き込み、大声を出した。

「俺……よくわからない。トイレに行こうとして……」俺はうわ言のように呟いた。

ニコライは周囲を見回し、『清掃中・足元注意』の看板を見つけてため息をついた。

「床が濡れてて滑って頭を打ったんだよ。頭、痛まないか?」

「いや、大丈夫だ」俺は立ち上がりながら答えた。

「気をつけて行ってこいよ。俺たちはステーキを焼きながら待ってるからな」

俺は再び歩き出したが、頭の中にはただ一つの疑問がぐるぐると渦巻いていた。

コイチ・ウメヤマ(梅山晃一)とは、一体誰なのだ?

そして、今の不気味な出来事は、一体何だったのだろうか――。

第2話目を読んでいただき、ありがとうございました!

もし気に入っていただけましたら、評価やブックマークをよろしくお願いします。次回もお楽しみに!

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