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私の息子は賢者らしい  作者: 梅丸みかん


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第7話 魔力玉

 そういえば、長老とシュシュがいない……?

 家の探検に夢中になってしまい、すっかり彼らの存在を忘れてしまった。


「それにしても、どうして一緒に家に入らなかったのかしら。……もしかして、ここは私と理玖の家になったから遠慮して……とか?」


 私は再び理玖を抱き上げると、再び玄関へ向かった。


「かぁたん?」

 また、外に出ようとする私を不思議に思ったのか理玖が首を傾げた。


「さっきのおじいさんとシュシュを呼びにいくのよ」

「チュチュ……?」


「そう、シュシュよ」

 そう理玖に説明して、玄関の扉を開けると、長老とシュシュが立って待っていた。


「イオリ様? この家は気に入っていただけましたか?」

 長老が私の顔を見ると穏やかに微笑んだ。


「ええ、とっても。でも、長老も家に入ってください。シュシュも。色々と聞きたいこともあるし」

「おや、いいのですか? この家は持ち主の許可がないと誰も入れないのですよ」


「え? 誰も入れない? 玄関の鍵は解除できたのに?」


「はい、玄関の鍵はあくまでもこの家の主人の承認を得るためのもの。そして、この家の主人に招かれて初めて訪問者は家の中に入ることが許されるのです。つまり、イオリ様か理玖様の承諾が必要だということなんですよ」


 まるで自動の守りの魔法でもかかっているみたいだ。


 思ったよりも高性能な家に私は目を見開いた。

 さすが賢者の家だ。


 この分ならセキュリティ機能だけではなく、他にも見たこともない機能が備え付けられているかもしれない。


 ちょっと楽しみである。


「では、長老、シュシュ。どうぞお入りください」

「どうじょ、おはいりくだちゃい」

 私が長老とシュシュに向かって手で合図を送ると、隣にいた理玖も真似をして、小さな手をちょこんと差し出した。


「賢者様も、この家を気に入ってくださったようで何よりですな」

 長老は目を細め、満足そうにそう言った。

 けれど、その言葉を聞いて、私はふと気づき、慌てて口を開く。


「えっと、長老。理玖のことは“賢者様”じゃなくて、名前で呼んでもらえませんか? 賢者様って呼ばれても、理玖、自分のことだってわからないと思うし」


 これから先のことを考えて、私はそうお願いした。

 このままじゃ、理玖が“賢者様”を自分の名前だと思ってしまう。


「ふむ……そうですな。賢者様はまだ幼い。わかりました。今後はリク様とお呼びいたしましょう。よいかな、シュシュ」


「うん、わかった。リク様だね、おじいちゃん」

「えっと、“様”もいらないわよ? まだ二歳児なんだし」


「いえいえ、それはなりません。たとえ幼くとも賢者様を呼び捨てになど、できませぬ」

 うーん……そこは譲れないらしい。


 まあ、いいか。

 名前で呼んでもらえるだけでも前進だと思うことにしよう。



 中央の小ぶりなソファで長老の話を聞く。


 長老とシュシュが座るとソファが大きく見える。


 私はローテーブルを挟んで二人に向かい合うように腰掛け、膝の上に理玖を座らせた。


「かぁたん……ぼーりゅ」

 理玖はテーブルの上の黒い玉がよっぽど気になるのか、また手を伸ばそうとした。


「あ、そうだ、長老。そこのかごに入っているたくさんの黒い玉は何ですか?」

「おお、これは魔力玉ですぞ」


「魔力玉?」

「そう、この魔力玉は魔導機を動かすために必要なのです」

 魔導機……


 おお、この世界には魔導機というものがあるらしい。

 ちょっとワクワクしてきた。


「じゃあ、この玉、危険はないんですね」

「もちろんです。壊れることも、爆発することもありませんよ」


 私は長老のその言葉で安心した。


「理玖、ボール、大丈夫だって」

 私の言葉を聞いた理玖は膝の上から降りて、黒い球の近くに行き手に取った。


「かぁたん……ぼーりゅ」

 手に持ったボールのような黒い魔力玉を私に見せるように片手で持ち上げた。


「理玖、それはね。魔力玉っていうのよ」

「まよくまま……?」

 理玖が不思議そうに首を傾げる。


 そうよね。

 二歳の子に説明してもわからないわよね。

 長老は理玖が賢者様だっていうけど、こんな小さな子に何がでてくるというのだろうか?


「あの……長老、本当に理玖は賢者なんでしょうか?」

 私は不安が込み上げ、思わず長老に尋ねた。


「そうですな。リク様はまだ幼い故、イオリ様が疑問に思うのは仕方がありませぬな。でも、心配なさるな。小人族の子供でも魔法が使えるようになるのは三歳を過てからなのです」


「そう……ですか」

 不安が拭えたわけではなかったけど、私はそう答えるしかなかった。


 コロコロコロ……


 私と長老の話に興味がないのか、理玖は魔力玉を床に転がして遊び始めた。

「リク様、それはおもちゃではありませんよ」

 理玖の様子を黙って見ていたシュシュがお姉さん振ったように窘めた。


「シュシュ、大丈夫でしょう。シュシュはリク様と遊んでおやりなさい」

「うん、リク様、こっちで遊びましょう」

 シュシュは理玖の手を引いて、カーペットがある少し開けた場所に移動した。


 二人を見ているとどうにも違和感を感じる。


 理玖はまだ幼児の体つき。

 でもシュシュは十歳なのに、背丈はほとんど同じだった。



 二人はお互いに一メートルほど離れたところで向かい合い、ボール……黒い球……を転がしあって遊び始めた。


 私はその姿に安心すると長老に気になったことを尋ねる。


「あの、それで、この魔力玉ってどうやって使うのですか?」


「おお、そうですな、丁度いい。この家は長い間、眠っておった。魔力玉の効力もだいぶ減ってきているでしょう。今、この家の魔力玉を交換してみせましょう」

 私は長老の言っている意味がわからなくて首を傾げた。


「まあ、みていてください」

 そんな私に優しく微笑むと、長老はソファの前にあるテーブルの横に跪き、手のひらを床に這わせた。


「おお、ここですな」

 そう言って、床板の一部を剥がすと、床の中から次々と五つの薄い灰色の玉を取り出した。


「ふむ、やはり魔力がかなり減っているようですな」

 長老はテーブルの上の籠から黒い魔力玉を灰色の玉と同じ数だけ、さっき剥がした床の中に入れた。


「これで、この家の魔力はあと百年は持ちますぞ。魔力がすっかり切れてしまうと灯りも点かなくなってしまいますからな」


「えっと、つまり、この家の電気みたいなもの?」

「電気? ああ、異界のエネルギー源のことですかな。そういえば、先代賢者様も口にされたことがありましたな」


「じゃあ、部屋の灯りはどうやってつけるの? スイッチどころか、照明器具も見当たらないんだけど」

 窓から陽は差し込んでいるものの、室内はどこか薄暗い。

 まさか、外が暗くなったらこのまま真っ暗……なんてことはないだろうけれど。


「部屋の灯りは、壁に手を置いて『ルース』と唱えるのですよ。ほかの設備も同様に、魔導機に手を添えて決まりの言葉を唱えれば稼働いたしますぞ。因みに『アパガー』と唱えれば灯りは消えますぞ」


「え? そうなんですか? えっと……ちょっとやってみてもいいですか?」

 私は好奇心に駆られて少しだけ気持ちが高揚した。


「ええ。少し部屋が暗いようですしな。イオリ様、お願いできますかな」

 長老にうながされ、私は立ち上がった。いちばん近くの壁へ歩み寄り、そっと手を置く。


「……ルース」

 小さく唱えた、その瞬間。

 天井全体が、やわらかな光を帯びた。


「す、すごい……天井そのものが照明になってるんだ……」

 思わず呆然と見上げる。

 突然明るくなった部屋に驚いたのか、理玖が不安そうな顔で駆け寄ってきて、私の足にしがみついた。


「かぁたん……」

 私はしゃがんで理玖を抱き上げる。


「大丈夫だよ、理玖。灯りをつけただけだからね」

 天井を指さして教えると、理玖はきょとんとした顔で小さくつぶやいた。


「あかり……?」

 そのまま、ぽかんと口を開けたまま、輝く天井を見上げていた。

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