林恵と山本の家
「着いたぞ、林」
山本の声が聞こえて、あたしは気づく。
気づけばあたしは随分と志穂ちゃんとイチャイチャしていたらしい。彼女、最初は生真面目そうな子だと思ったのに、思ったよりも甘えん坊で親しみやすい子だ。
それでいてあたしと趣味……というか、好みもあうし、意気投合するのも仕方ない。
そう、これは仕方ないんだ……!
「キャラ変わってるぞ、お前」
「う、うっさい!」
「お兄ちゃん、デリカシーなーい」
「本当だよ。ねー、志穂ちゃん」
「ねー、メグちゃん」
キャッキャウフフするあたし達を見ている山本の顔は呆れ顔。
山本は一つため息を吐いて、実家の扉の鍵を開けた。
「行こ、メグちゃん」
「うん」
志穂ちゃんに手を引かれて、あたし達も山本の実家に入っていく。
そう言えば、今日は山本の両親との初めての出会いの日。志穂ちゃんに和まされすっかりと忘れていたが、あたしは少しだけ緊張を覚えていた。
「ねえ志穂ちゃん。お父さんやお母さんは家にいらっしゃるの?」
「え? ああ、多分いないよ」
「そうなの?」
「うん。今日も仕事なの」
そうなんだ。
少し、心配して損した気分だ。
いや、結果的にあたしの中の緊張が持続する形になったんだし、ここで緩んではいけない気がしてきた。
「おい、志穂」
気づけば数ヶ月ぶりの我が家を闊歩し、あたし達の前から姿を消していた山本が、壁越しに顔だけ覗かせた。
志穂ちゃんを呼びつける声は、少し怒っている風だ。
「お前、ちゃんと部屋の掃除してないだろ」
「えー、そんなことないよ?」
「ある。こっち来い」
「あー、だるー」
項垂れながら、志穂ちゃんは山本に連れて行かれた。
あたしはしばらく、知らない顔を見せる山本に狼狽えたが、まもなく志穂ちゃんの後に続いて歩き出す。
山本がいた部屋は、リビングだった。
四十インチ以上の大きいテレビと、L字に置かれた新しいソファ。フローリングも清掃が行き届いているように見える。
……あいつ、こんな綺麗な部屋に物申すのか?
掃除だけは、あいつにやらせることにして良かった。
そうしなかったらあたし、ノイローゼになっていたかもしれない。
「ほら見ろ。タンスの裏。埃が溜まってる」
「そんなところ、普通は大掃除の時しか掃除しないから。日常的に掃除するのお兄ちゃんだけだよー」
「何言ってんだ。AV機器の配線周りにもたくさん埃があるじゃねえか。そもそも、配線の仕方が汚い。もっと綺麗にまとめないと駄目だろ」
「うわー。黙れー」
項垂れる志穂ちゃんと、ガミガミ口うるさい山本。
ああ、これが実家での山本の姿なんだな、と思うと、今見ている光景は酷く新鮮に思えた。
そして同時に思う。
……山本、掃除バカだと思っていたけど、これはただの潔癖症なのではないだろうか。
度を越す潔癖症だ。
あいつ、いつか手袋越しでしか他人と握手出来なくなりそう。
山本は、ポケットからマスクを取り出して装着した。
そう言えばあいつ……いつか、埃っぽい部屋に入れた時にもマスクをしていたっけ。
え、汚れに敏感すぎない……?
「掃除をしようと思う」
「えー? あたし、もっとメグちゃんとお話したい」
「してればいい。俺は勝手に掃除する」
「あ、それならどうぞ、ご自由に」
「うむ」
「行こ、メグちゃん」
微笑む志穂ちゃんに呼びかけられた。
「あ、うん」
そしてあたしは、志穂ちゃんに引かれるまま、玄関の前にあった階段を上がる。
「あたしの部屋、二階なんだ」
「へー。……ねえ、あの人放っておいていいの?」
「あー、いつものことだし大丈夫だよ?」
恐ろしいな。
これが、慣れ、か。
あたしもあいつの奇行には慣れつつあるが、ここまでさっぱりとした態度はまだ取れない。
さすが兄妹。
さすが、家族。
……いいなあ、あいつと家族。
「ここがあたしの部屋です」
「お邪魔します。とっても綺麗だね」
「うん。一階にいる人には、碌に褒めてもらえないけどね」
「あ、そう……」
「うん。ホームドラマ見てて気づいたんだけどさ、お兄ちゃんって小姑みたいだよね」
「あー、ね」
「花嫁修行にはもってこいかもしれないよ」
……確かに。
すみません。
更に投稿頻度が減るかもしれません。
……ゼルダのせいで。
しょうがないじゃないか。
執筆作業と世界を救うの、どっちが大事だと思ってるねん!
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