林恵と変化がわからない部屋
「そろそろリビングに行こうか」
しばらくお話をした末、志穂ちゃんに言われた。
妹だからわかるのだろうが、多分そろそろ山本の掃除が終わるのだろう。
志穂ちゃんの後に続き、あたしはリビングに向かった。
「おう、丁度終わったところだ」
「そっか。綺麗になったね」
リビングに到着すると、山本はこちらに気づきドヤ顔を見せた。
むふーっとする顔を見ながら、あたしはリビング中を見回した。このリビングに足を踏み入れるのは、この家に到着してすぐから二度目だ。
……まだ二度目しか来たことのない部屋だけど、思ってしまう。
どこが綺麗になったか、わからない。
満足げな山本の顔には既視感を感じる。
あれは、東京の部屋でも掃除後、あいつが時折見せる恍惚とした顔だ。
だけど、その恍惚な顔を見ながらあたしは思っていた。
いや、どこが変わったかわかんねえよ、と。
そういう時に限って、山本はあたしを見るのだ。褒めて褒めて、と。
その様子はさながら、数センチ髪を切り友達と会う女の子。些細な変化すら見逃して欲しくない、エゴの塊であるそんな人と重なるのだ。
「志穂ちゃん、どこが綺麗になったかわかる?」
こういう時の山本は多分褒めておいた方がいい。
そう思って、あたしは隣の志穂ちゃんにそれを尋ねた。今、あたしは完全な戦力外。
ここは、志穂ちゃんを頼らざるを得ない。
「ううん。全然」
「……え」
「いいのいいの。お兄ちゃんはその内自己完結するから。むしろ、あんまり気にしない方がいいよ。どうせ後々になって、あそこの掃除が足りなかったなあ、とか言い出すから。下手に褒めると反感買うよ?」
「なにそれめんどくさ」
山本には聞こえない声で、あたし達は呆れ合う。
家族から山本の話を聞くと、余計に山本という人間の生態に呆れ返るばかりだ。
それにしても志穂ちゃん、山本との付き合い方が上手だな。
この細かく神経質な男の妹を十数年やっていれば、自ずとこうなるとでも言うのだろうか。
「お兄ちゃん、一度お風呂に入ってきたら? 埃っぽいよ?」
「え? ああ、そうするか」
山本はようやくマスクを外し、それをゴミ箱に捨てながら歩き出した。
向かう先は、どうやらお風呂のようだ。
……あれだけ実家に帰るのを嫌がった割に、随分と我が物顔で行動しているな。
あたしは思った。
一応、あたしがここに来たのは、あいつが実家に帰りたくないと駄々をこねたからだ。しかし、今の様子を見ていると、なんだかんだあいつは平常で行動を出来ているようだし、取り越し苦労だったかもしれない。
「なんか、心配して損したかも」
あたしは呟いた。
「え、何が?」
そして、それを志穂ちゃんに聞き返された。
しまった。隣に志穂ちゃんがいるのも忘れて声に出してしまった。
「……あいつ、実家に帰るの嫌がっていたから。それであたし、一応付いてきたんだ」
しかし、誤魔化す必要もないと判断して、あたしは事のあらましを志穂ちゃんに教えた。
さっきまで散々志穂ちゃんと話して、少しだけ警戒心が薄まっていたのかもしれない。
「あー……そっか」
志穂ちゃんは、少し寂しそうな顔をした。
「メグちゃん。あたしとお兄ちゃん、血が繋がってないんだ」
そうして志穂ちゃんは、唐突にカミングアウトをするのだった。
「へー……えっ」
何の気なしに返事をした後、重すぎる話に変な声が出た。
血が、繋がってない?
そう言えば二人は、年の差がそれなりにある兄妹だ。
「あ、ごめん。正確には半分は一緒」
「半分……」
「あたしとお兄ちゃん、お父さんが違うんだ」
志穂ちゃんの顔には、きっと山本が実家に戻りたくないと思っていたのは、それが理由だと書かれていた。
取って付けたような血縁関係!
後付じゃないよ! 嘘だよ!
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