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なんでもするって言ったよね?  作者: 天一神 桜霞
第三章 咲き乱れる悪意
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第三章 エピローグ

 ファーメイと名乗った元魔王軍の幹部は意外にも従順な態度を見せ、新たな指令を遂行するためすぐに姿を消した。

 境遇や元の地位を考えるとどちらも酷いが、どちらかといえばポーラよりもファーメイの方がまだ信頼できそうな感じはした。

 とはいえ、そう思わせておいて俺の指示に抗い、魔王へ報告を行っている可能性だって十分にある。

 魔王にも名が知れるというのは、果たして名誉なのか不名誉なのか。

 どちらにしろ、かの魔王と呼ばれる存在であれば少しは愉しませてくれるだろう。

 それにしても、ファーメイにとっては今後魔王に代わって俺が主君となるわけか。

「ふっ、似合わないな」

 それっぽく彼女の相手をしてみせた先程までの自分を思い出し、我ながら滑稽に思えて笑いが込み上げてきた。

 その姿を見てニヤついた表情を浮かべて近づいてくる魔物を駆逐しながら、俺は再び城壁へ向かっていた。

 もう街にいるのは衛兵やへっぽこ冒険者、もしくは魔物ばかりだ。

 おそらく、他の者は無事に避難できたか、あるいはその辺に転がってる死体がそうなのだろう。

 せいぜい気にするのであれば、この刀を鍛えられる腕のある鍛冶師くらいなものだが、奴もそう簡単に死ぬようなたまではないはずだ。

 状況が落ち着いてから鍛冶屋に出向いてみるくらいで問題ない。

 ひょいひょいと建物の壁を蹴って屋根まで上がると、見慣れた顔がいるのが分かった。

 屋根伝いにすぐにそちらへ向かうと、相手も気づいて暢気に手を振っている。

「おーい、こっちは終わったよー」

 緊張感の欠片も無いとはこのクレスという女のことを差す言葉だと改めて思う。

 しかし、その実力は折り紙付きだ。

「ワイバーンの掃除はできたみたいだな」

「うん。ワイバーンなんて久しぶりに見たけどねー。ランランも頑張ってたよー。覚えたてなのにすごいよねー」

「いえ、大半はクレスさんが退治してくれましたから。私は…」

「まぁ、上手くやれたのならそれでいい」

 先程ファーメイにもしてしまったように慣れた手つきでポンポンと頭を撫でてやると、ランダは分かりやすく表情を変えた。

「ありがとうございます、ジャック様…んふふっ」

 たかがこれだけのことで心底喜ばれてしまうと、こっちも気を良くしてまたしてやってもいいと思わされてしまった結果が今に至る。

「ジャックぅー。わちしも褒めて褒めてー」

「は? なんでだよ?」

「うぅ、冷たいー。差別だー、巨乳格差だー!」

「何だよそれ、うるさいやつだな」

 仕方ないので同じように撫でてやると、意外と素直に嬉しそうな顔を見せていた。

「えへへー、悪くないねー」

「いつもお姉さんぶってる癖に…」

「ん? 何か言った?」

「いいや、何も」

 実年齢は年上とはいえ、見てくれはランダよりも年下に見えるくらいだ。

 撫でられている姿の方がお姉さんぶっているより確かにしっくりくる。

「その様子だとジャック様の方も問題無かったようですね」

「…問題はあったような無かったような」

「どーゆーこと?」

「いや、ともかく今回の首謀者は処分した。あとは残党を狩って終わりだな」

 嘘は言っていないし、一々全部説明するのも面倒だ。

 魔族を手下にしたとか伝えれば、クレスに何を言われるか分かったもんじゃないしな。

「そーだね。それじゃあ、わちしの出番はもう無さそうだから帰って寝ようかなー。ふぁぁ、もう夜明けも近そうだし」

「それなら、まだ井戸水に毒は残ったままだから、教会の奴らに浄化するよう言っておけ」

「えぇー、ジャックが言えばいいじゃーん」

「お前らの街の問題だろ? 俺はそのままでも大して困らん」

「まあそーだけどさー。…はぁ、分かったよ。そっちはやっておく。じゃあねー」

 一応納得した様子のエルフはさっさと帰っていった。

 あの逃げ方は他にも用を押し付けられたら堪らないという意思が働いているように思えた。

「あとは衛兵に任せて私たちも帰りますか?」

「普段ならそれでも良いんだがな。ちょうどいい実験台がいるんだ。お前がどれくらい魔法を扱えるようになったのか見てやろう」

「分かりました」

「まだ魔力は残ってるか? 足りないようなら、魔力ポーションでもパクってこよう」

「大丈夫です、お気遣いありがとうございます」

「それならいい。ワイバーンを倒せたなら今ここにいる冒険者なんかより余程強いはずだろうが、何をどうしたのかまで見てなかったからな」

「ご期待に応えられるよう、頑張ります」

 やる気を見せるランダを連れ立って北の城門付近まで向かうと、彼女を残して一人街の外へ出る。

 少し離れたところまでいき、矢が突き刺さったり燃え続けている魔物の死体の中で死神の笛を吹いた。

 もちろん、魔物を引き寄せる目的で。

 すると、大小の足音が俺の周りに集まってくる。

「あいつの糸は洗脳や支配もできるのか…?」

 奴らを仕切っていたファーメイの手から逃れたことで笛の効力が効いたのだとすれば、その考えもあながち間違いではないだろう。

 考え事もそこそこに、ぞろぞろと魔物が押し寄せる前に引き返して城壁の上まで登り、再びランダと合流する。

「お膳立てはしてやったぞ。好きにやってみろ」

「はい。では、とっておきをお見せいたします」

 そんなことをいう冒険者らをどれだけ見てきて、どれだけ期待を裏切られたことか。

 若干、期待薄な心を拭えないまま彼女の様子を見守る。

「我らに仇なす愚かな者よ。その命を灯して冥界へ還りなさい、ライフバーン!!」

 静かに、そして確かに魔力を練り上げて放った彼女の魔法は初めて聞くものだった。

 魔物一匹に対してそれぞれ一つの黄色い炎が燃え上がり、魔物の群れの命の灯火が最後に輝く姿を見た。

 一つ一つの火はそこまで大きくなかったが、やがて全身を包んだ大きな炎となっていく。

「ほう…」

 眼下に映る衛兵たちも何事かと驚き、感嘆の声を上げている。

「見たことの無い魔法だ。体内から火が出たように見えた――これは俺でも回避は難しいな」

「問題ありません。これは私が考えたオリジナルの魔法ですから」

「なに?」

 難しいと言っておきながら既に対策を考え始めていたところで、さらに驚かされる。

「魔導書で魔法の勉強をしつつ、魔法の扱いについてクレスさんにも相談していたんです。私でもジャック様のように相手を確実に死へ至らしめる魔法を使えないかと」

「なるほど」

 切り裂きジャックを妄信し、その行いをすぐ近くで見てきた彼女ならではの発想だ。

「先程のワイバーンのように火属性に耐性のある魔物もいます。しかし、彼らの耐性は主に身体を覆う鱗や火炎袋によるものだそうなので、それを無視して効果的な位置で発火させる。それがライフバーンです。口や鼻で呼吸する生物なら、体内に発火させて呼吸も阻害できるので、同様に効果が期待できると思います」

 ランダの元来の器用さに好奇心お化けのクレスの知識が合わさった魔法というわけか。

 それにしても――面白い女だ。

 瀕死で倒れていたあの時、身体目的で気まぐれに拾ったのがこうも面白いことに転がるとは…分からないものだ。

「ジャック様のご期待に応えられましたか?」

「あぁ、面白いものを見せてもらった」

 これは後で聞いた話だが、器用なランダは魔法の覚えも早かったらしく、特に火属性の魔法に関しては相性が良かったそうだ。

 その成果が上々であるのは、あの惨事を見れば一目瞭然。

 隣に控える彼女を抱き寄せて整った綺麗な髪を撫でると、彼女もそっと身体を預けた。

「ライフバーンと言ったか。これはさながら、ランタンフェスティバルだな」

「良いですね。美しい響きです」

 醜い死体の燃えカスが残った地面は全く以て美しくは無いが、彼女が気に入ったのならそれでいいだろう。




 日が昇り始める頃には避難命令も解除されて、避難していた住人も恐る恐る戻ってきた。

 俺もパラミやメロイの様子見がてら迎えに行けば、熱い抱擁とキスの雨に遭いそのまま一緒に帰ることになった。

 店の方も気掛かりではあるが、毒のことも踏まえるとすぐに営業再開は難しい。

 それを悟ったパラミは早速今夜にでも…と言って、二人からの礼を受け取ることになった。

 結果的に大したことはしなかったが、これだけ贅沢な思いができれば十二分に見返りは貰ったといえるだろう。

 その一方、徹夜で働き続けた教会の手によって翌日には街の水源は完全に復旧し、元通り井戸の水も使えるようになった。

 幸い、街の損傷も北側以外は軽微で、パラミたちの働く店も無事だったらしい。

 そして、近隣の町に応援へ行っていた衛兵や冒険者たちも続々と帰還し、物資も過度に襲われることが無くなって流通も復旧してきた。

 問題があったとすれば、高い報奨金がかけられていた依頼は全て偽の硬貨でギルドに支払われていたことが分かり、冒険者はろくに対価も得られず無駄骨を折ることになったくらいだ。

 しかも、フェイクの依頼だったらしく、実際は町が襲われてもいなかったという。

 自軍の戦力を分散させたわけでもなく、一点集中でこの街を堕としに来たファーメイの手腕は見事だったといえるだろう。

 まんまと術中に嵌ってしまい、俺やクレスたちがいなければ今頃どうなっていたかわからない。

「それで、話って?」

 あれだけの成果を上げてもひたむきに努力を重ねるランダの横で、クレスに尋ねた。

「そうそう、ちょっと思い出したことがあってねー」

「お前の武勇伝だったら聞く気はないぞ」

「違うよー。ジャックが聞いてきたことでしょーがー」

「ん? 不老不死についての話か」

「そうそう、それそれ。ヤンマヨ山脈って知ってるでしょ? あの辺りにあるアルビン遺跡には賢者の石にまつわる話ってのがあってさー」

「そこに手掛かりがありそうってか」

「まぁ、あるかもねーって話」

「なるほど。まぁ他にあても無いし、行ってみるとするか」

 やっと思い出したと思えば、随分不確かな話だが仕方ない。

 街の様子もだいぶ落ち着いてきたことだし、準備をしたら向かうとしよう。

 さあ、次はどんな面白いことが待っているのか。

 せいぜい、愉しませてくれよ。



 つづく。



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