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なんでもするって言ったよね?  作者: 天一神 桜霞
第三章 咲き乱れる悪意
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③ 女は街の中で戦ってる

 クレスの店で話を付けてから街の中を見て回りたいというランダの要望に沿ってあちこち散策していると、次第に日も沈み始めてやがては夜になる。

 久しぶりの銭湯で汗を流し、いつもにも増して綺麗に見える湯上り姿のランダを連れ立って行きつけの酒場へ行くことにした。

 当初は別の店へ行こうと考えていたのだが、他の女の匂いをかぎ取ったのか、ランダが行きつけの店へ行ってみたいというので仕方ない。

 絶対にあの女に揶揄われるだろうし、他の客や店員からも良い印象を受けないのは分かり切っていたから嫌だったのだが、遅かれ早かれ行くことにはなるだろうという予感もしていた。

であれば、それが今日であっても些細なことであると考えた結果がこれだ。

「あ、いらっしゃいませ。いつもの席、空いてますよ」

「あぁ、悪いが今日は椅子を一つ増やしてくれるか?」

「あ、はい。お連れ様ですか?」

 確か、メロイという名前で働いている人一倍胸の大きい女給は、俺が顎で指した先にいるランダを確認すると一瞬凍り付いたような笑顔を見せた気がする。

「なぜ女連れ…?」

「あ? 何か言ったか?」

「いえいえ、何も言ってませんよ~。すぐに椅子は用意しますから、奥へどうぞ~」

 もっとじっくり胸の谷間でも凝視してやろうと思っていたのに、彼女は踵を返して他の客の応対へ行ってしまった。

「今、嫌な圧を感じたんですけど…気のせいでしょうか?」

「お前が気にすることじゃない、行くぞ」

 普段通り何食わぬ顔で歩いていく俺の後に続いてランダも店の中へ入っていく。

 すると、やはりというべきか店員以外の女が――しかも、彼女たち以上の上玉が転がり込んできたので悪目立ちしないはずがない。

 既に酒盛りをしている男たちの餓えた目が俺の後ろに注目しているのが分かる。

 しかも、それだけに留まらず口々に欲望のまま下品な言葉を発し始めたので、ランダもこの場に連れてこられたことをさぞ後悔していることだろう。

「あら、お客さん久しぶりね。それに…珍しいお供まで連れて」

 ああ知っていたとも。

 この場の誰もが俺たちの敵なのだ。

 他の客から一番見えづらいカウンター席の隅にランダを座らせると、カウンターの中から店主の女が冷やかすような目で笑っていた。

「お冷はいるが、冷やかしはいらないぞ」

「あら、残念ね。せっかく面白そうな話が聞けそうだったのに」

「そういうのは間に合ってる。さっき散々クレスにやられたからな」

「ん~、まあそういうことなら、ほどほどにしておきましょうか」

 彼女の表情からにやけている様子が抜けてないあたり、その言葉も怪しいものだ。

「ご注文を伺う前に自己紹介しておきましょうか。私はパラミ。この店の店主で、彼とは…そうねぇ…、仲良くさせてもらってるわ」

 関係性を示す言葉に悩んだかと思えば、意味深な言い方をするものだから、当然ランダもそのように受け取ってしまう。

「…そう、なんですね。私はジャック様の従者です。以後お見知りおきを」

 従者と言いながら俺の腕に絡んで身を寄せてきたランダも、相手に意味深なアピールをし返して対抗しているのかもしれない。

「ふふっ、かわいい子を見つけてきたわね。でも、呼び方には気をつけさせた方が良いんじゃなぁい?」

「あぁ、そういえばその辺りは注意してなかったか」

 客観的に見れば迂闊だと言いたいのであろうパラミは大人の余裕を振りまいて微笑んでいる。

「…あっ、すみませんジャッ…じゃなくて、えぇと…ご、ご主人様……」

 理解の早いランダも彼女の言い分を察し、すぐに謝罪と共に訂正した。

「まあ話はゆっくり聞くとして、ご注文はどうします?」

「いつも通り適当に頼む」

「じゃあ、私もそれで」

「はぁい、かしこまりました」

 さすが、この街一番とも評される美人店主だ。

 こんな風俗まがいの酒場に美少女を連れて来ても、文句を言うどころかすんなり受け入れて歓迎している。

「でも、従者の女の子も和服なのね。私はてっきり…」

 パラミの目線の先には先程店先であった明るい黄緑色の髪をした女給がいた。

 彼女は丈の短いスカートや胸元が大胆に空いた洋服をいやらしく着こなしている。

「俺が和服なのに連れが洋服なのも変じゃないか?」

「んー、それもそうねぇ」

「えへへ…。この服、ご主人様に買って頂いたんです」

 甚く気に入っている様子の彼女を尻目に、彼女を連れ出したときの私服が見るに堪えないセンスだったことを思い出し、自分好みの服を買い与えたのは間違いではなかったと改めて感じる。

「へぇ…。それなら、まだ私にもチャンスはありそうね」

「チャンスって…、欲しい服でもあるのか?」

「ううん、何でもない」

「ふーん、“なんでも”…ねぇ」

 彼女が小さく呟いた言葉も耳に入っていたが、元娼婦の思わせぶりな女の言葉を真に受けるほど俺は間抜けではなかった。



 しばらくして、料理が目の前に出された。

 酒の肴になるようなものはもちろんだが、ああ見えて意外と家庭的な料理まで作って出しているのがパラミやこの店の意外なところだ。

 ランダも店の味は気に入ったようで、次々に口へ運んでいた。

「ふぅ…。しかし、今日は少し客が少ないんじゃないか?」

「…やっぱり、分かる?」

 先程の仕返しに適当なことを言ってみただけだが、パラミは少し表情を曇らせていた。

「この間ボヤいていた膿がまだ悪さしてるとか、そんなとこか?」

 ランダを拾った経緯の中にその膿の存在があるが、あの仕打ちを受けた上でまだそんなことをしているのであれば、余程の精神力を持った女ということになるが、そんな風には見えなかった覚えがある。

「いいえ、そっちは…誰かさんが街を去ってからというもの、パタリと噂が止んだわ。今は隣町で魔物の襲撃があったとかなんとかで冒険者や衛兵が駆り出されちゃって…そのせいかしら」

「ふぅん…大変だな」

「あらら、まるで他人事ね」

「あぁ、実際他人事だからな」

「もう酷いんだから」

「店としては売上が上がらなくて困るんだろうが、俺としてはそれよりもこうしてお前を独占できている時間が少しでも長い方が良い」

 話が途中で中断してしまうことも少なくなるからな。

「…もう、珍しくそんな嬉しいこと言ってくれちゃって。こんなかわいい子も連れてるのに、私のこと――」

「そうれす、私のことも忘れないれくらはい」

 急にしがみついてきたのはランダだった。

 整った顔立ちについている目はとろんとして、血色も随分と良くなって赤らんでいる。

「お前…酔ってるな」

 彼女の手元を見ると、半分ほど減ったジョッキが目に留まる。

「これ、まだ一杯目だよな?」

「えぇ、そうだけど…? 彼女、こんなにお酒に弱かったの?」

「みたいだな。普段は飲んでなかったから初めて知ったが…」

「ごしゅじんしゃまぁ……ぐぅぐぅ…」

 そっと腰に手を回して抱き返してやれば、安心しきった様子を見せてすぐに寝息を立て始めた。

「無防備な子ね。それとも、あなたがいるから…かしら?」

「どうだかな。まあ、今後気を付けさせるとして、今は寝かせといてやろう」

「ふふっ、見せつけちゃって…」

 彼女の手からジョッキを取り上げてテーブルに戻した。

「さて、俺たちがわざわざこの街に来たのには理由がいくつかあってな。一つはクレスとの要件だったんだが、もう一つは…」

「ふふっ、言わなくてもわかるわよ。私が恋しくなってきたから帰ってきたんでしょう? でも、ごめんなさい。今夜は先客がいて…」

「そうか、相変わらず引く手数多だな」

「あら、本当にそうだったの?」

「まあ、当たらずしも遠からず。お前に用があったのは本当だ」

「んぅ~、なんだかちょっと気に障るけど、何かしら」

 そう言いながらちょっと嬉しそうに見えるのは俺の気のせいか。

「できれば内密な場で話した方が良かったんだが、まあ今日の客足も考えれば別にいいだろう。ちょっと奇怪な目で見られるくらいだからな」

「奇怪な目、ねぇ…。確かにあなたにとっては今更な気もしなくはないわ」

「ふぅ、まあそれはいいとして…今、不老不死や賢者の石についての情報を追ってるんだ。ちょっと馬鹿げた話だろう?」

「へえぇ…、それは確かに…奇怪な目で見られてもおかしくない話ね」

 てっきりクレス以上に小馬鹿にした視線を向けられるかと思ったが、意外と真面目な様子だった。

「何か知っているのか?」

「んー、眉唾物の話というか噂程度ね。でも、本当にそんなチカラが手に入るのなら、私もご相伴に預かりたいわ。ねぇ、ジャック?」

 先程ランダに釘を刺したように基本他人の目がある場ではその名を呼ばない彼女が口にするときは特別な意味がある時だ。

「そうだな…。協力してくれるのはもちろんとして、あとは俺の反感を買わないのであれば、その未来もあり得るだろう」

「んふふっ、夢のある話だわ。もちろん、早いことに変わりはないけど」

「いつだったか、早い男は嫌われるって言わなかったか?」

「それは夜の話でしょう? 仕事は早い方が好きよ」

 欲に塗れた話になった途端、目の色が変わって本性ともいえる女の部分が現れた。

 店でこの姿を見せることは滅多にないはずだが、それだけ彼女の興味を引く内容だったということだろう。

「それで、私にその話をしたってことは…こうやって情報を集めて欲しいってことでしょう?」

 カウンター越しに身を乗り出した彼女は他の客からは見えないように片側だけ着物をはだけて片乳を晒した。

 相変わらずの存在感を誇る彼女の乳房はランダやポーラをも凌駕する。

「物分かりのいい女は嫌いじゃないぞ」

「ふふっ。今日は相手をしてあげられないから、今のうちにちょっとだけ触ってもいいわよ」

 お互いに小さくほくそ笑むと、遠慮なく手を伸ばして柔らかな果実を揉みしだいた。

 本来、この店の制度を利用してもこの行為に及ぶためにはかなりの額を積む必要があるはずだが、俺にはそれさえも必要ない。

 それがまた優越感を煽り、ついつい手にチカラが入ってしまう。

「あんっ…。その様子だと彼女とはまだ…?」

「いや、しっかり教え込んでいるさ」

「そう、あなたも隅に置けないわね」

 どこか嬉しそうなパラミが身を引くと、人知れず行われていた愉しみも終わりを迎え、何事も無かったかのように時が戻った。

「俺の話は今のことだけだ。そっちは何かあるか?」

「いいえ、特には無いわね。さっきも言ったようにちょっと客足が悪いけど、その理由もわかってるし…一時的なものでしょう」

「そうか。なら、今日はお暇するか。ランダのこともあるしな」

「そうね。また懲りずに来て、彼女も一緒でいいから」

「…あいつらの仕事の邪魔になりそうだし、それはどうだろうな」

 男どもに媚びを売る女給たちを横目で見ながら答えた。

「気にすることないわ。あの子たちもそんなことで客を取られてしまうようなら、他の娼婦に取られてお仕舞いよ」

「ふーん。これはこれで大変な戦いがあるんだな」

「そうよ。街の外で男が戦ってる裏で、女は街の中で戦ってるんだから」

 元娼婦から成り上がった女店主の言い分にはそれなりの重みを感じた。



 食事を終えて少し多めに代金を払うと、「今度はちゃんと時間作るから」と耳元で囁かれ、彼女の営む酒場『フェキュリス』を後にした。

 ランダは酔い潰れて寝てしまったままなので、仕方なく背負って宿へ向かうことになった。

 少々面倒に思う一方で、暢気に眠りこける彼女の温もりを感じながら暗がりの街を歩いていく。

 冒険者や衛兵がある程度駆り出されたという話を聞いたからか、尚更人気が少ない夜の街はそんな俺たちを気にする者も少なかった。

 しばらくして宿に辿り着いて部屋に入ると、背負っていたランダをそっとベッドに寝かせる。

「すぅ…すぅ…」

 未だ起きる気配も無いので、ついでに服も脱がせてやるとしよう。

 とはいえ、するするっと帯を解けば、あとははだけさせて手足を抜く程度のものだ。

 しかし、これだけ酒に弱くて無防備すぎる姿を晒しているとなれば不用心にもほどがある。

 パラミは俺がいるから安心してるのではないかとも言っていたが、やはり少し警戒する必要性を身体に教え込んだ方が良いだろう。

「んっ…んぅ…」

 毎日のように触って手に馴染んできた膨らみを揉んでも、やはり彼女は起きる様子が無い。

 彼女を守る最後の砦である白銀の鎧さえも、上からスジをなぞるように触っていけば、砦の中を薄っすらと晒しだす。

「んぅ…んぅ…んっ、んぁ…」

 最後の鎧を簡単に取っ払ってしまえば、彼女はこれ以上ないほど無防備であり、相手の侵入を容易に許してしまう。

 その危機感を覚える暇も無く先遣隊の侵入を許すと、砦は内部から崩壊し決壊した水が次第に溢れ出す。

 功績を上げた先遣隊が一度砦から帰還すると、お互いの功績を称えるように先遣隊同士が手を繋いだ。

 そして、先遣隊と入れ替わるように現れた本隊は静かに、そして着実に進軍していく。

 崩壊した砦は本隊を迎え撃つどころか優しく迎え入れてしまい、結果本隊が砦の中枢部まで一気に貫くことになった。

「んぁっ…ぁぁっ…」

 どうしてかは自分でもよくわからないが、普段と同じことをしているだけなのに、今日はやけに興奮している。

 寝ている相手にしているからか、あるいはパラミのせいで余計に溜まってしまったからだろうか。

 どちらにしろ、悪戯半分で始めたことでももう引けない状態まで来てしまった。

 ならば、ヤることは一つ。

「ぁ…ぁっ…んっ、んぁっ…ぁ…」

 寝ている状態であっても、ランダには満足するまで俺に付き合ってもらうとしよう。

 結局こうなるのだから、多少高い代金を払ってでもいつもよりいい宿にしておいたのは正解だったといえるだろう。

 とはいえ、サンドウジでは『ベルベット・ロータス』という高級な宿に居ついてしまったため、ベッドや内装の質も見劣りしてしまうのは致し方ない。

 今頃、ポーラたちがどうしているかなど気にも留めず、眠ったまま小さく喘ぎ声を漏らすランダに意識が向いていた。

 次第に激しく求めてしまうと、静かな夜にベッドの軋む音が響いて隣の部屋にまで響いてしまっているのではないかと一瞬脳裏を過ぎったが、迫り来る絶頂の前ではその程度のことが抑止力になるはずも無く、彼女と深く繋がったまま果てることとなった。

「ふぅ…」

「むにゃ…ジャックさま…?」

 一仕事終えたところで俺も眠りにつこうかと思った矢先、ようやくランダが目を開いた。

「んぅ~、ジャックさまぁ…もっとぉ…」

 半分寝ぼけているようで、もう半分は酔いが残っているようにも見受けられたが、つまりは正常な判断ができてはいない状態だ。

 それでも、俺を俺として認識し、離れたり突き飛ばすどころか抱き締めてくるのだからそう悪い気はしない。

「んっ、ちゅぅ…ジャックさまぁ…もっとぉ…ジャックさまが…ほしいですぅ……」

 珍しく彼女とのキスが少々酒臭いものではあったが、彼女もその気なら続けてやろう。

 ランダの身体を抱き締め返すと、彼女は耳元で優しく囁いた。

「んふっ…ジャックさまぁ…だぁいすき…」



「ジャック様にご迷惑をおかけして…申し訳ありませんでした」

 翌日、日が高く昇った頃にゆっくりと目覚めると、一緒に寝ていたランダから昨日の謝罪を受けた。

「別に怒ってはいないから顔を上げろ。それなりにいい思いもできたことだしな」

「はい…」

 酔っている間の記憶はあるタイプのようだが、寝ている間の記憶まであるわけではない。

 断片的な記憶を繋げた時に自分のしでかしてしまった醜態を察したようだ。

 とはいえ、昨夜の情事はいつも以上に良かったし、お詫びも兼ねて今日も起きてからしゃぶって挟んでと奉仕してくれるのだから別段それ以上追及する気など無かった。

「もう言わなくてもわかってるだろうが、酒に弱いなら無理して飲まなくていいし、飲酒量も考えることだ」

「はい、そうします…」

「あぁ、それならいい。もうこの話は終わりだ」

 頭の低い彼女の頭を撫でてやり、改めて許しを与えた。

「それより、今日からクレスのとこで魔法をしっかりと覚えてこい」

「はい、…今度こそジャック様の期待に応えてみせます」

「あぁ、期待しているぞ」

 汚名返上とばかりに息巻く彼女の姿は頼もしいものだった。


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