5.変身
この世に不思議なんてあるのか?
私が思うに、解明されてないだけでいつか科学的に証明出来る事ばかりだと思う。
幽霊なんていないし、オカルト番組も絶対ヤラセでしょ。占いだとか予言を信じちゃって部屋の南側に花瓶を置くとか。
そういう意味で本当に人間って頭良くなりすぎたなぁって日頃から思ってる。本当みんなバカばっかり。頭良いはずなのに。
「お腹空いてない?」
台詞は聞こえたけど、私は考え込んでて反応はしなかった。
今、さっきまで私が目に前に起こった出来事って何? 分からない。全く分からなかった。
「ねぇ聞こえてる?」
「……あ、すみません!」
「疲れた顔してるわね。家まで送ってあげようか?」
……いやいや、怖すぎる。きっと車でしょ? 途中で『すみません。この道じゃないんですけど』『……』それで山中に捨てられちゃうヤツじゃん。絶対無理。
「い、いえ! 結構です! も、もう帰ってもいいんですか?」
「いいよ。本当にごめんなさいね。さっきも言ったけれど、この事は誰にも言わないでね。はい、約束ね」
そう言うと小指を差し出す。ゆびきりげんまんだ。
最後にやったのいつだっけ。懐かしいな。
小指を彼女に小刻みに震えながら差し出した。なんで震えてるんだ。怖いのか私。
「……」
「はい、さっさと帰った帰った〜」
無言のゆびきりが終わると彼女は私を振り払う態度に変えた。なんか府に落ちないな。でも帰れると思うと安心だ。早く家に帰ってこの事を家族にメールしたい。約束は破る為にある。
「で、では、失礼致しました……」
私はバッグを手に取り、事務所の出入り口のドアで振り返り、一礼したの……だが、振り返るともう誰もいなく、微かな話し声だけが聞こえた。……なんだかもう踏んだり蹴ったりな気分だ。失礼にも程がある。
私は苛立ちと今日の出来事の違和感が残ったまま階段を急ぐ様に降りた。
途中あの冴えない男達の法律事務所を覗こうとも思ったが、やめておいた。なんか負けるらしいし。またこっち見てたら嫌だし。
地上まで降りるとさっきのスナックの入り口が半開きだ。微か見えるピンク色の照明に反射するミラーボールが見えた。……またあのおばちゃんが一日に一度だけのレアなクネクネしているのが見える。
どいつもこいつも嘘ばっかりついて。もう誰を信じたらいいか分からん。信じれるのは自分だけだ。
私の見方は私だけなのだ。もう誰も信じない。その方が気が楽だ。
この世の中は偉い人が沢山いて、物凄く便利な世の中になっている。そう、今となっては一人でも生きていけるのだ。他人と暮らすなんて御免だ。生活の中で脳が一つ増えるって凄く大変そうだし、喧嘩ばかりするだろう。互いに損じゃないか。
あ、そうだ。早く帰ってお酒を飲むんだった。早く酔いたい!
私は急で安易な生涯独身の決意をしながら帰路を急いだ。
♢
微妙に酒が残りながら起きる。スヌーズを繰り返した朝だ。身体を起こし部屋を見渡す。
昨日の自分。片付けくらいしてよ。
最悪な気分だ。もう家を出る時間を過ぎている。直ぐに着替えを済ませ、キッチンに置かれた洗ってない食器を見ながら玄関の扉を閉じた。
急ぎすぎて無理だ。全てが無理。髪だってグチャグチャだ。多分。てか鏡見てない。
まぁこんな感じで急いでいるけれど、私は出勤時間の一時間前には到着してるタイプ。まだ数人しかいないからトイレで色々と変身すればいい。くるくる回りながらきらきら〜っと。
この癖は親のせいだ。集合時間の一時間前には必ず到着していて、相手を待つのだ。そう教えられて育った。理由は相手を待たせるのは失礼だからだそう。
待ち合わせでなくても、それが仕事だったら誰か来る前に掃除をし、仕事相手、国民の為に尽くす時間だと教えられてきた。両親も公務員だから。
物心ついた頃にはその教えは身についていて、幼少期に公園で友達と遊ぶ時はいつも来る前に一人遊びをしていた。おかげで一人遊びは得意だ。あと独り言も。
今思えばおかしな事かもしれない。まぁでも遅いよりはマシなのか? どうでもいい。早く変身したい。トイレも実際行きたいし。ってか一人で飲んで二日酔いはあまり宜しくない。
職場に着くとすぐにトイレに向かった。誰一人いない。かなーり安心する。
鍵を閉め、トイレットペーパーホルダーに鏡を置き、化粧。思ったより髪の毛は乱れていないが、顔のパーツがなんだか変だ。左右上下にズレてる気がする。まぁ元からか。
本当の自分を見てハァと落ち込みながら化粧をする。
でも化粧はわりかし得意な方。絵が得意だから。
こんなのドローソフトで言うリタッチですよ。一から書くわけじゃないんだし。
でも元から失敗してる絵を直すのは難しい。今のこの顔のように。
それにしても昨日は摩訶不思議だった。偶然がどうのこうの言ってたな。きっと変な宗教に違いない。怖い。あの会社に目をつけられたに違いない。これからは帰るルートを変えて帰ろう。
思い出せば思い出すほど気になるが、取り敢えずは仕事に集中しよう。
手を洗い、再び顔の仕上がりチェック。我ながら可愛い。満足。
そして扉の方を向くと先輩が立っていた。
「裕子ちゃん。見た?」
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