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『 傭兵 』

 酔狂達は、周辺の集落からやってきた人々が店を開いている区画から、この町の住民が店を開いている区画へ。


 こちらは、露店も出ているが、移動式の屋台やしっかりとした作りの店舗が多く、食品を中心として日々の生活に必要とされる様々なものが商われている。


 色とりどりの果実、様々な野菜……その中でも現代の日本人である酔狂達、特に狩った獲物を自分で捌いた事がないユフィ、楓、椛にとって衝撃的だったのが、肉屋だ。


 羽をむしられ、毛皮を剥がれ、内臓を抜かれ、豪快に捌かれた大小様々な鳥や獣、その生前の姿が想像できる生々しい肉の塊が、ドンッ、とそのまま店頭の黒ずんだ木の台の上に並べられ、積み重ねられ、あるいは天井から紐で吊り下げられている。


 酔狂と椛はどんな味がするのか興味を持ったが、その少々どころではなく衛生面で心配な光景にユフィと楓は完全に引いていた。


 酔狂ムサシの道具鞄〔道具使いの仕事道具〕内部の亜空間には時間の概念がないため、収納した物はその時点の状態が維持される。


 それ故に、お店の人が美味しいと勧めてくれた肉をいくつか買っていこうと提案すると、ユフィと楓はブンブンと音がしそうなほどの勢いで首を横に振り、酔狂は左右の手をそれぞれ二人に引っ張られて肉屋から次の店へ連行され、椛はどちらかというと酔狂の提案に賛成だったのだが、その様子が楽しそうだったので頼り甲斐のある大きな背中を押して二人に協力した。


 その後、結局肉類と大小様々な川魚は同じ理由で諦め、穀物や野菜や果物、香辛料や調味料などを購入してから調理された食べ物を売っている屋台や露店を巡る。酔狂はお小遣いを使い果たしていたので三人で好きなものを食べるよう勧めたのだが、訊かれてその使い道を話したらユフィが呆れたようにため息をつきつつも買ってくれた。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 それらいわゆるB級グルメがかなり美味しく感じたのは、きっとその場の雰囲気とユフィの優しさのおかげだろう。


「でも、何で食材はダメで料理は良いんだ? それに使われてる肉とかって、たぶんあの辺で売ってたやつだぞ」

『…………』


 気付いていたのかいなかったのか椛は気にせず食べ続けたが、気付いていなかったらしいユフィと楓は、ピシッ、と硬直し、自分達が手にしているものに目を向けて少し泣きそうになり……結局それらは酔狂の腹に収まった。


 乙女達は自分の食べかけを酔狂が口にする事について想う所があったらしく薄っすら頬を染めていたが、酔狂は気にしない。食べ物を捨てるなど論外だ。


 ――それはさておき。


 気になっていたマジックアイテムの扱いだが、このバザールでは一つも発見できなかった。


 『発掘品』と呼ばれる遺跡から出土したというSF的な代物は少なくない数が出回っている。しかし、わざわい除けの効果があるという護符や守りの加護があるという装身具アクセサリーの類は、元の世界リアルにも存在していたような迷信や気休めで、魔力という言葉が使われているにもかかわらず、魔力を込める事で発動したり動力源としていたりといったファンタジー的な品は皆無だった。


「買取ってもらうアイテムをただの宝石にしておいて正解でしたね」

「うん」


 ただ、店で扱われていなかったというだけで、ちらほら見かけた冒険者と思しき風体の者達の中には、未覚醒状態だが秘宝級以上の武器や防具を所持している者も。


「取扱いに制限がかかっているのでしょうか?」

「冒険者ギルドや提携している専門店でのみ扱われている、とか?」

『なるほど』


 楓と椛の意見に、声を揃えて同意する酔狂とユフィ。


 それから冒険者ギルドとそれらしい店を探してみたのだがどちらも見付からず、その代わりに見付けたのは、冒険者ギルドがありそうな場所にあった――


「傭兵ギルド?」


 傭兵業を営むクランなら幾つもあったが、《エターナル・スフィア》にはなかった組織だ。


「入ってみますか?」

「え? なんで?」


 ユフィにそう問われた酔狂は、全く意味が分からないと言わんばかりに首を傾げた。


『なんで、って……』

「ここが冒険者ギルドに相当する組織なら、特殊なアイテムや武装について何か分かるかもしれませんよ?」

「それに、こっちでは冒険者が傭兵って呼ばれていて、その傭兵のためのギルドなら、傭兵にとって有用な情報が得られるはずでしょう?」


 酔狂は、なるほど、と理解を示しつつも傭兵ギルドの中に入ろうという気にはならないらしい。そこで、ユフィがその理由を尋ねると、


「俺達は傭兵じゃないからだ」


 そんな答えが返ってきた。それでもう少し詳しい説明を求めると、


「『傭兵ギルド』って言うくらいだから傭兵のための組織なんだろ? 俺達は傭兵じゃないし、傭兵に何かを依頼をする訳でもない。なら、ここは俺達が足を踏み入れるべき場所じゃない」


 それを聞いた乙女三人は顔を見合わせて……


「……入るにしても、こちらの『傭兵』がどういう人達なのか、『傭兵ギルド』がどういう組織なのか、ある程度把握してからのほうが良いかもしれませんね」


 楓と椛はユフィの意見に賛成した。




 ではどうやって調べようか、と乙女達が相談を始めると、酔狂があっけらかんと、訊けば良いだろ、と言い、一行は屋台で手軽に食べられる串焼きを多めに買い込んでから隊商宿の裏手の駐車場へ。


 そこではやはり、特殊車輌後部の格納庫で中量級魔動甲冑ミドルアーマーの整備を行なっている男衆がいて、


「またきたぞ~っ」


 その中の顔見知り、中量級魔動甲冑乗りのデューオに声をかけ、作業の邪魔をする事を詫びつつ串焼きと道具鞄から取り出した数本の瓶入りの酒を手土産に差し出して、傭兵という存在について話を聞かせてもらう。


 それによると、盗賊紛いの連中もいれば、国の信頼を得て警察的な権限を与えられている者達もおり、こうと一言で言えるような存在ではないとの事。


 その話の中で一番意外だったのは、傭兵になるには軍で最低でも二年間の訓練を受けなければならない、という事だった。


 なんでも、対象は一五歳以上、二五歳以下の男女で、およそ二年間、軍の施設で座学を含む訓練を受け、卒業資格を得た者は、そのまま軍に入隊するか傭兵になるかを選択するのだという。


 そして、傭兵には予備役のような側面があり、有事の際には召集されて軍に組み込まれるとの事。既に他者と交わした契約によって行動が制限されているデューオ達のような者は免除されるそうだが、軍には訓練を受けて卒業した者達の名簿があり、ギルドが傭兵達の動向を大まかに把握しているため、無視や正当な理由のない拒否は認められない。


「『召集』で思い出したんだが……今、西がかなりきな臭いらしい」

「召集がかかりそうなほどに、か……」


 デューオは、あぁ、と頷いてから、


「確か、伝説のエルドランドを探していて、大地の裂け目グランクリフの向こうに行きたいみたいな事を言ってただろ?」


 酔狂が、あぁ、と頷くと、デューオは真面目な表情で、


「北側へ行くには、この国の西、グランクリフが最も狭まった場所に架けられた『ラグランド大橋』を渡るしかない」

「へぇ~っ、ちゃんと渡れる場所があるんだな!」

「俺が言わんとしているのはそこじゃねぇ」


 酔狂は、分かってるよ、と言って笑い、チラリと連れの三人に目を向けてから、


「無理はしないし、させるつもりもない。命あっての物種ものだねだからな」


 そうか、と頷いたデューオは、いつまでも休んでいる訳にはいかないからな、と仕事に戻って行った。




 デューオに感謝を告げてその場を後にした一行は、誰もいないようだったので隊商宿の中庭へ。


「先輩の判断は正しかったみたいですね」

「俺の判断?」

「傭兵ギルドに入らなかった事です」


 あれは判断したと言えるのだろうか、と酔狂は首を傾げたものの、楓と椛も揃って褒めてくれるので黙っておく。


「傭兵ギルドにはかかわらないようにしましょう」

『そうですね』

「下手にかかわってギルドに名を知られて登録されてしまったら、何かと面倒そうです」

「あっ、でもそれだと、路銀が心許なくなっても、正規の依頼を受けて報酬を得る、って方法が使えないって事になるけど……」

「路銀の心配ならしなくて良い。綺麗なだけの宝石いしころなら、有り余ってるファンタジー素材を【錬金】で下位変換すれば幾らでも作れるからな」


 椛の心配事が解消したところで、傭兵ギルドにはかかわらない事が決定した。マジックアイテムや特殊な装備の扱いについても、本来の目的はそれを調べる事ではないのだから、と脇に置いておく事に。


 それから話は次なる目的地の事になり、


「やっぱり、真っ直ぐラグランド大橋を目指すんですか?」


 ユフィにそう尋ねられた酔狂は、それで良いと思ったが、


「〝急がば回れ〟と言います。その前に、この国の帝都を含む城郭都市を巡ってみるというのはどうでしょう?」

「この町には小さな教会しかなかったけど、大きな都市にはきっとアルトス教団の神殿とか聖堂とかがあると思う。そこで聖地について訊いてみるのはどうかな?」


 楓と椛の意見を聞くと、そうしたほうが良いような気もする。


 それからも幾つか意見が出て、酔狂は黙って耳を傾けていたが……


(そう言えば、これも一応占いだよな)


 ふと【六具神通】の一つ、【宿命通】を試してみる気になり、おもむろに仕込み杖アデプトスタッフを地面に真っ直ぐ立てて、そっと手を離した。


 杖は妙に安定してしばらく真っ直ぐ立ち続けたが、やがてゆっくりと傾き倒れて音を立てる。杖が指し示すその方角は――


「北西、か……」

「そんな適当は方法で決めるんですか?」


 一生懸命考えて意見を出した娘さん達が不服に思うのも分かるが、


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「どういう事ですか?」

「俺は今、何も考えずに杖から手を離した。だから、本当にたまたまそっちに倒れただけかもしれないし、上げに上げた【ステータス】で補正された俺の感覚が自覚していないだけで何かを感じ取っていて、皆の意見を聴いた上で無意識に進むべき方向を判断してそっちに倒れるよう力を込めたのかもしれない」


 それを聞いた乙女達は顔を見合わせて、


「後者であって欲しいと切に願います」


 こうして、目的地は未定ながら、向かう方角だけは定まった。




 思ったが吉日。


 酔狂達は、その日の内にヴェロスの町から旅立った。


 出立しゅったつの前には隊商キャラバンの皆に別れを告げ、その際、どちらへ向かうのかとイザークに問われたので北西とだけ答えると、その方向には帝都があり、自分達もあと一つ大きな町を回った後には帝都の本店に戻る、だから一緒に行かないかと誘ってくれたのだが、隊商が出発するのは五日後の早朝。更にその後もう一つの町でも、到着した日の翌日から五日間滞在し、その上移動時間が加わるとなると、その気持ちは嬉しかったが、流石にそれまで待つ気にはなれなかった。


 ――何はともあれ。


 この国の名は、帝都と同じ名前の『アールグリフ』。


 かつて、この地方には、都市それ自体が政治的に独立し一個の国家を形成する、いわゆる都市国家が複数存在していた。


 それがある日、当時まだ城郭都市のていをなしていなかった遺跡の町アールグリフが、その一帯を治めていた国からの独立と建国を宣言し、地下の遺跡で発見され、以降続々と発掘された兵器、サイズで大きく三つに分けられる魔動甲冑アーマーを用い、他の都市国家を武力で侵略し、あるいはそれを背景にした調略によって従属させ…………ついには大陸中央部のおよそ半分、グランクリフの南側の広大な領域を版図に納めた。


 現在、各城郭都市を結ぶ街道が整備され、全てのモンスターが駆逐されるには至っていないが、機操騎士団と傭兵達によって街道付近の安全がある程度保障された事で、人と物と金と情報の流れが加速し、アールグリフ帝国は今なお繁栄し続けている。


 そして、今きな臭いと言われている帝国の西には、急速な発展を続けている一つの大きな町があった。


 その名は『ベダン』。


 かつて、徹底抗戦の末アールグリフに攻め滅ぼされたという過去を持つ城郭都市『ゼグラード』に程近い、独立と建国を宣言した当時の帝都と同じ、発掘の最前線である遺跡の町。

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