『 仙人への道標 』
「ティターンカッチュウカミキリとか、テンセイオニヤンマとか、あんなデカイ虫に向かっていける女子が、どうしてこんなちっこい虫を怖がるかね?」
青い顔をして手伝うという娘三人の気持ちだけ受け取り、夕飯の支度でも手伝ってきたら、と部屋の鍵を預かって送り出し、酔狂は小首を傾げながら掛け軸にかかっている玉飾りのような〔虫除けの護符〕を道具鞄から取り出した。
この護符は『虫除け』となっているが、普通サイズの蛇など小さな生物も寄せ付けないため、これだけでほとんどの虫は窓から逃げて行く。あとは、〔スプリガンの指環〕を装備し、家具を全て小さくして部屋の真ん中にまとめ、逃げようとして窓ではなく部屋の隅へ追い詰められている虫を追い払い、ヤモリをヒョイと捕まえて部屋の外へ解き放つ。
元々清掃は行き届いているので、小さくした家具を元の位置で元の大きさに戻し、〔虫除けの護符〕を適当な所にぶら提げて終了――と思ったが、トイレの問題を思い出して一考し、もう一部屋も同じ様にさっさと片付けてから少し模様替えをした。
「さて、どうすっかなぁ~」
思いの他早く終わったので夕食までどう過そうか思案し……良い事を思いついた。
二部屋に鍵をかけて、建物裏手の駐車場へ。
そこには、まだ特殊車輌後部の格納庫で中量級魔動甲冑の整備を行なっている男衆がいて、
「精が出るね」
道中同じ特殊車両に乗っていた縁で顔見知りになった、中量級魔動甲冑乗りの『デューオ』に声をかけた。
道具鞄から取り出して手に持っていた水筒と酒瓶、それらを両手でそれぞれ掲げてどっちが良いか訊き、迷わず選んだ酒瓶を放る。
「乗るだけじゃなく、自分で整備もするんだな」
酒瓶をキャッチしたデューオは、気が利くじゃねぇか、と嬉しそうに酒瓶の口を開けて一口あおり、くぅ~~っ、と声を上げてから、
「当然だろ。……って、お前さんは知らないんだったな」
そう言ってもう一口あおってから、全部飲むんじゃねぇぞッ! と一緒に整備している若者へ口を閉めた酒瓶を放る。
「機体の構造を知っていればこそ、できる事とできない事が分かる。だからみんな整備から始めるんだ。俺もこいつを預かる前はそうだった」
中量級魔動甲冑を見ながら誇らしげに言うデューオ。
「中量級魔動甲冑って何で動いてるんだ? 魔力じゃないみたいだけど」
道中の会話の中で、彼らはゲームで言う所の『MP』を『魔力』と呼んでいたのでそれに合わせて訊くと、
「さぁな」
「デューオが知らないって事は、みんな知らないのか」
「知ってる奴がいるなら是非ご教授願いたいね」と言ってから「『ブラックボックス』って言って分かるか?」
この場合は、飛行機が墜落した時に回収されるやつではないだろうから……
「絶対開けられないようになってたり、中を調べられないような仕掛けがしてあるってやつ?」
「あぁ。無理やり抉じ開けると、機密保持機構とやらで中の重要な部分が逝っちまうらしい。製造技術は失われていて遺跡が涸れればそれまで。だから国も調査を諦めた。俺達に分かっているのは、どう繋げばちゃんと動くのか、だけだ」
ブラックボックス化されているのは『制御中枢』と『動力炉』で、専門の鍛冶師――通称『甲冑師』がそれらに手足を付け、外装を整えて完成させるらしい。
そして、軽、中、重を問わず、魔動甲冑は燃料の補給を必要とせず、動かすと手首の内側にある小型モニターや操縦席のモニターに表示される活動可能時間が減り、止まると少しずつ回復し、0になると動かなくなって完全に回復するまで使用不可になるとの事。
「ふ~ん。まぁ、何で動いてても良いんだけど……男のロマンが眠っていた遺跡かぁ~」
酔狂の呟きを耳にしたデューオは、一瞬きょとんとしてから声を上げて愉快そうに笑い、
「興味があるなら帝都へ行ってみりゃ良い」
「帝都?」
「あぁ。今、発掘の最前線は『ベダン』だが、そっちは関係者以外立入禁止だ。帝都『アールグリフ』の涸れた遺跡なら、観光の名所になっててかなり深いところまで観れるぜ」
あまり寄り道はしたくないが、行ってみたい気もする。
まぁなるようになるだろうと考えるのをやめ、それから夕食までの間、中量級魔動甲冑の整備を見学させてもらった。
感謝を込めて持て成させて頂きます、と言われていたので、楽しくドンチャン騒ぐのは良いが、長々と酒盛りに付き合わされるのは勘弁してほしいなぁ、などと思っていたのだが、それは杞憂に終わった。
なんでも、隊商がここのような大きな町に到着すると、その翌日から五日間、市が開かれ、周辺の集落から人々が品物を持ち寄って大変な賑わいになり……
つまり、何が言いたいのかというと、感謝しているという言葉や気持ちに嘘偽りはないが、今日大変な目に合って、これから忙しくなるから、明日に備えてしっかりと休みたい、という事らしい。
そんな訳で、催された豪勢な宴会は大いに盛り上がったが、実に程よい加減で御開きとなった。
そして、部屋に戻った酔狂達は、一晩過ごす部屋をより快適にするため、最後の仕上げに取り掛かる。
何故それを建物裏手の駐車場へ中量級魔動甲冑の整備を見学に行く前にしなかったのかと言うと、理由は二つ。
一つは、いちいちトイレに行きたいから出してとお願いするのが恥ずかしいと言うので、〔厠〕だけではなく、〔四阿〕〔厨〕〔湯殿〕など一通り〔スプリガンの指輪〕で小さくして渡してあったから。
もう一つは、各々が使う寝具はそれぞれが管理しているからだ。
話し合った結果、魔法鞄があるため必要ない家具は全て道具鞄にしまい、一部屋に隣から持ってきたものを加えて三つのベッドを並べ、ユフィ、楓、椛は、その上に酔狂がファンタジー素材で作ったマットレスを敷いた。
この〔雲織布団〕は、横たえられた躰をふんわりと包み込みつつも程よい反発で受け止めるため、ただふかふかの柔らかいベッドより断然躰にかかるストレスが少ない。
そして、部屋の隅、だいたい半畳ほどのスペースに〔厠〕を設置しておけば、寝る前や夜中にトイレへ行きたくなっても安心だ。
〔厠〕はそれだけでも使えるが、〔四阿〕と接続して使えるように、その深い軒下に入るよう作ったため屋根はそれほど高くない。とはいえ、この部屋の天井より低くはない。だが、〔スプリガンの指環〕は本来のサイズより大きくする事はできないが、小さい分にはある程度調節が利く。そして、〔厠〕は小世界を内包する〔壺公の壺〕に用いられている【壺中天の術】を再現して作ったため、入口が狭くなっても中の空間の広さは変わらない。
――何はともあれ。
〔厠〕を設置した後、適当な場所に〔壺公の壺〕を置いて模様替えは完了。
娘三人はそれぞれベッドに腰掛け、酔狂は前に自作したスケートボードのような形の背凭れのない浮かぶ一人用のスツール――〔浮く椅子〕に座り、情報収集の結果報告を始めた。
まずは酔狂からという事になり、中量級魔動甲冑の事やそれが発掘されたという遺跡の事を報告したのだが、女子達はロボットにあまり興味がないらしい。
『グランクリフ』と呼ばれる大地の裂け目の向こうにエルドランドがあるかもしれない、という話は、憶測のレベルなのでするのを控えた。
次は、ユフィの番という事に。
「持ってる金が使えない?」
「はい。私達が《エターナル・スフィア》から使っているお金は、金、銀、銅の硬貨ですけど、ここ『アールグリフ帝国』では『グリフ』という単位の紙幣が使われているそうなんです」
『どうしましょう?』
「明日から市が立つらしいので、店を出して、とりあえず今必要のない手持ちのアイテムを並べてみますか?」
「お店を出すより、イザークさん達に買ってもらったほうがいいかも。あっ、でも、商人のイザークさん達より、お店にきてくれた客さんと値段交渉したほうが高く売れるかな?」
面倒臭ぇ~、と思いはしたが、元の世界でも様々な通貨があったし、アールグリフ帝国というのは《エターナル・スフィア》には存在しなかった国家だ。まぁ、こういう事もあるだろう。
この件について――主に娘三人が――話し合った結果、酔狂が所有する【細工】の素材であるダイヤモンドなど、いわゆるマジックアイテムに加工する前の宝石を買取ってもらえないか明日イザークに訊いてみよう、という事になり、
「それでいいですか?」
ユフィに問われ、それまでちゃんと話を聞いているような顔だけはしていた酔狂は、右手で拳を作ってから、ビシッ、と親指を立てて言った。
「いいよ」
「…………。先輩、本当に私達の話、ちゃんと聞いてましたか?」
「…………」
――それはさておき。
その次は、楓と椛の番。
「【能力】と【技術】の統合?」
『はい』
「私が【捕縛術】を使ったのを見ていた魔術士の方が話しかけて下さって」
「私の格好を見て同業者だろうと思った施術士の方が声をかけて下さって、話を聞く事ができたんですけど……」
真人族専用の法術系【技能】は、能力【魔術】と【聖法】の二つに大別され、最初はその二つしか取得できない。
【魔術】のほうを例に挙げると、これを取得すると攻撃系、付与系、行動阻害系スキルの初級を修得できるようになる。そして、熟練度や修得したスキル、その使用回数によって、能力【砲撃術】【付与術】【捕縛術】が新たに取得できるようになり――
【砲撃術】を取得すると、攻撃系を上級まで修得できるようになる。
【付与術】を取得すると、属性付与、状態変化系、状態異常系スキルを上級まで修得できるようになる。
【捕縛術】を取得すると、行動阻害系スキルを上級まで修得できるようになる。
更に〔秘伝極意書〕でしか取得できない、俗に『特級』とも呼ばれる【魔法】などもあるが、これ以上の詳しい説明は割愛するとして――
「このまま【大魔導師】や【賢者】を目指すなら統合してしまったほうがいい、というアドバイスを頂いて、半信半疑ながら試しにやってみると、できてしまったんです」
【魔術】と【捕縛術】が統合されて能力【魔導】となり、【砲撃術】と【付与術】は取得していなかったにもかかわらず、行動阻害系だけではなく攻撃系、付与系までが、上級スキルまで修得する事が可能になり、新たに【魔導士】という称号まで得たとの事。
椛のほうも、【聖法】と【治癒術】が統合されて能力【奇蹟】となり、【破邪法】と【護身法】は取得していなかったにもかかわらず、回復系だけではなく浄化系、防御系までが、上級スキルまで修得する事が可能になり、新たに【守護聖】という称号まで得たとの事。
「統合するメリットは、まず別々に熟練度を上げる必要がなくなります」
「それと、統合する事で性能が向上し、そうする事によって得られる新たな称号による補正が……」
姉妹の説明は続いていたが、酔狂はふと思いついてメニューを開いた。
ヴェロスの町には魔物除けの結界こそあるが、都市結界のように〔ティンクトラ〕に干渉して【ステータス】と【技能】を封印する効果はないため、問題なく視界にAR表示されたメニューを操作して……
「おっ、できた」
《エターナル・スフィア》では不可能だった。だが、できると思ってやってみると確かにできてしまい、能力【太刀】【槍】【弓】【銃】【投極】【騎乗】が統合されて【六芸】になり、【武士の鑑】という称号を得た。
古い漢数字の『陸』ではないところにちょっと引っ掛かったが、まぁいい。
酔狂はその結果にご満悦だったが、
「まさかムサシ殿、【太刀】【槍】【弓】【銃】【騎乗】【投極】を統合してしまったんじゃ……」
今は酔狂だろ、と思いつつ、うん、と頷くと、
「これにはメリットだけではなく、一部の技能にはデメリットもあるんです」
「えッ!?」
先に言ってよぉ~、と思ったが、話を聞かず、姉妹が説明する前にやってしまった自分が悪い。
自業自得だと諦めてから、一応そのデメリットについて訊くと、
「一度統合してしまうと、もう二度と元には戻せないんです」
統合する事で【太刀の達人】や【投極の達人】といった一度獲得した称号が失われる事はないが、例えば、【大剣】【長剣】【小剣】【太刀】など、全ての刀剣系の能力を統合すると、能力【刀剣術】と称号【剣聖】を得られるそうなのだが、ムサシは【太刀】を他のものと統合してしまったため、永遠にその二つを得る機会を失ってしまった事になる。
酔狂は、それを聞いて、ほっ、と胸を撫で下ろした。その説明を聞いた後であっても間違いなくやっていたので、今回は後悔せずにすんだ。しかし、これからは気を付けようと肝に銘ずる。
「技能の統合は、太い幹だけを残し、無限に広がっている可能性という枝葉を切り落とす行為なんですね」
ユフィは神妙な表情で言い、姉妹はそれに真剣な表情で頷いているが、酔狂には表現が詩的過ぎてよく分からなかった。
ひとまず【技能】の統合は脇に置いといて、情報収集の結果報告を続け、その後は今後の方針を話し合う。
そして、先立つものを用意しなければ始まらない、という結論に達し、明日はまずイザークと交渉する事に。そして、成否を問わず、その後は市を見て回る事になった。
専属護衛団三番隊の隊長ジャネロが秘宝級の革鎧を未覚醒のまま装備している事もある。どのような品物が、そして、どの程度の等級のものが、どのように扱われているのかを調べておいたほうが良いだろう。
話がまとまったところで本日は解散――とはならず、ひとまず脇に置いといた【技能】の統合について一緒に検証しましょう、という事に。
そろそろ日課の夜稽古を始めたいところだが、まぁ、もう少し良いだろう。
(そういえば、《エターナル・スフィア》時代、みんなでよくこんな事したっけなぁ……)
ミアが姉妹と真剣かつ楽しそうに話しているのを見て、〈セブンブレイド〉の仲間達と共に万屋〈七宝〉の居間で過したひと時の事を思い出した。
自分はあまり興味がないので、そういう時は乞われて楽器を手にし、BGMを奏でながら今の彼女達のように意見を交換する仲間達を眺めていたものだ。
「あの、ムサシ殿」
らしくもなくしんみりしていた酔狂は、楓の呼びかけで我に返り、ん? と聞き返す。
「武術系の六つの能力を統合したんですよね? もしよろしければ、どのような結果になったか教えて頂けますか?」
楓と椛も【侍】。同じ能力を取得しているから気になるのだろう。
「いいよ」
軽く答えて閉じたメニューをまたAR表示させ、【六芸】について調べてみる。
元々動作補正のあるスキルはほとんど修得していないため、統合する事によって得られるものは称号ぐらいだろうと思っていた――が、
「へぇ~っ」
思わず声を漏らすと、興味を引かれたらしい姉妹が、ずいっ、と身を寄せてきた。
ムサシが修得している【属性刀】は【太刀】系のスキル。【槍】には【属性槍】という同じ性能のスキルが存在し、そちらは修得していなかったのだが、【六芸】に統合した事で、スキル名は【属性刀】のまま、スキルLvもⅩ――神髄のまま、【槍】と【弓】でも使えるようになっていた。
それを修得していない二人にはあまり関係のない事だが、どう変化し何を得られるのかと共にその事を伝えると、楓は、少し考えてから【六芸】と【武士の鑑】を獲得する事を選び、椛は、より【弓】の性能を伸ばせる技能や称号があるかもしれないからと保留した。
一方で、ユフィも能力を統合する事にしたらしい。
精霊族には、霊体化して物理攻撃を完全に無効化する【精霊化】という専用の特殊能力があり、例えば、火のサラマンダーの【精霊化】なら、火霊化する事によって物理攻撃を完全に無効化すると同時に自らの攻撃に【火】属性が付与され、更に火系統の攻撃法術を受けると吸収し回復する。
だが、唯一、識のエルフだけは【精霊化】が使えない。その反面、全属性の【精霊術】を修得する事ができる。
そのエルフであるエウフェミアは、【転生】を繰り返す効率厨なやり方で、全属性の全【精霊術】系スキルを修得した後、一転してじっくりとスキルLvを上げて行き、その全てをカンストさせていた。
その全属性の【精霊術】を統合すると、能力は【神秘】に変化し、称号【森羅万象の祝愛授受者】を得たとの事。
「なんだそりゃ」
「精霊と親しみ、精霊に愛される者、みたいな意味らしいです」
要するに、今まで以上に精霊の助けを得られるようになったらしい。
それから、姉妹は幾つか【技術】の統合にも挑戦してみたようだが、その結果、性能や効果は間違いなく向上する。だがその反面、修得者自身の感覚的な制御が必要になるため、慣れるまでは元よりも使い勝手が悪いと感じるかもしれないとの事。
「おそらくですが、これは私達が【体内霊力制御】や【体外霊気操作】を修得していたからこそできた事だと思われます」
「そうじゃないと、感覚的な制御なんてできるはずないから」
それは、つまり――
「修行のしがいがある、って事だな!」
酔狂はニヤリと笑う。
そして、少し前に、これからは気を付けよう、と肝に銘じた事を忘れて技能の統合を進めた結果、それは起こってしまった。
「んなっ、――なんじゃこりゃあああぁッッッ!?」
「せ、先輩ッ!?」
『どうしたんですかッ!?』
酔狂は、娘三人には見えないAR表示されたメニューを凝視しており、しばらくの間いくら呼びかけてもワナワナ震えるばかりで反応しなかったが、やがてガックリ項垂れるとメニューを操作してそれを可視化し、三人に見せた。
そこに表示されている内容は――
能力【六具神通】・技術【天眼通】
その説明欄にはこうある。
仙人の能力の一つ。全てを見極め、全てを見通す。
『…………』
ムサシが【侍】である事に強いこだわりを持ち、仙人のようだと言われるたびに顔を顰めていたのを知っているだけに、三人は咄嗟にかける言葉が見付からなかった。
それは、【暗視】【遠視】【遮光】【看破】【浄眼】【洞察眼】などの他に、特殊スキル【千里眼】を含めた全ての能力【瞳術】系のスキルを統合した結果。何故か【技術】だけではなく【能力】までが統合されて新しい【技術】に変化し、より上位の【能力】が発現した、という事らしいのだが……
「これって、ミアが俺の事、仙人仙人言ってたからじゃ……」
酔狂がゆっくりと俯けていた顔を上げ、恨みがましい目を今はユフィに向ける。
「わ、私のせいですか……ッ!?」
ユフィはおろおろした挙句、姉妹に目で助けを求めた。
すると、顔を見合わせた楓と椛は、非常に言い辛そうにしつつも、
「えぇ~と、そのぉ~……【気功】を極めていたり、〔呪符〕を使えたり」
「〔仙丹〕を作れる【錬丹術師】だったりするからかなぁ~って……」
それを聞いた酔狂は愕然とし……ガクッと項垂れた。
誰かが悪い訳ではない。もし悪い誰かがいるとすれば、それは自分だ。
酔狂はユフィにあらぬ疑いをかけた事を謝り、
「なんか、どんどん【侍】から遠ざかって行くなぁ~……」
はぁ~~っ、と重いため息をついて、
(……まぁいいか)
今は『【侍】のムサシ』ではなく『【錬丹術師】の酔狂』だから、と言い聞かせて気にしない事にする。そして、俯けていた顔を上げると、
「――ふむっ!?」
ユフィに頭を抱えるように抱き寄せられ、ぎゅっ、と抱き締められた。
期せずして意外に着痩せするユフィの胸の谷間に顔を埋める事になり、その柔らかな弾力と、温かさと、いい匂いに癒されて、ほっ、と躰力の力が抜ける。それから、ぽんぽんっ、とその背中をタップすると、
「――ごっ、ごめんなさいッ!」
バッ、と勢いよく離れたユフィはエルフ耳の先まで真っ赤になっていて、両手の人差し指の先をつんつん突き合わせながら、
「先輩が落ち込んでるところなんて、見た事なかったから……」
胸が、きゅんっ、となって気付いたら抱き締めていたのだそうだ。
「謝る必要なんてないぞ。うんっ、元気出た!」
感謝の気持ちを素直に伝えると、真っ赤になって俯くユフィ。
『――あっ!?』
頬を朱に染めてもじもじしていた姉妹が揃って声を上げ、
「日本にもいたよっ、――仙人ッ! 源義経に秘伝を授けたッ!」
「鬼一法眼?」
そうッ! といい笑顔で頷く椛。確か兵学者や天狗とも言われていたはずだ。
「それに、確か武術を極めていく内に仙人の領域に至った武人の事を『剣仙』と呼ぶんですッ! ただの仙人ではなく『剣仙』ッ!」
どうですかッ!? といい笑顔で訊いてくる楓。
落ち込んでいたらみんなで慰めようとしてくれる。本当にいい娘達だなぁ~っ、としみじみ思った。そして、同時にこうも思う。
「剣仙、か…………悪くない」
酔狂はニヤリと笑い、賢明な乙女達は、ちょろッ、と思っても口にはしなかった。




