34、再び、王都へ。
それから一週間が経った。
柚の手伝いもあって、どうにかロージアの新しい結納品も完成した。
ジルは、あれからも、2日に一度は顔を覗かせていた。
なんでも、ジルの結納品は、相手が代わったからといって、品物を替える必要はないらしい。ジルいわく、「オレの結納品は、発明品。」なんだそうだ。
だから昨日も、ロージアの様子を伺いに顔を出してきていて、ロージアも完成したと知り、今朝、まだ辺りは暗い中、3人は再び王都を目指して出発していた。
「なあ、ジル。 そのでかい荷物なんだよ。」
「結納品だって。 ってゆーか、笑うなっ! あっ!! ユズちゃんまで、酷いなあ。ちゃっかりオレの台車に、ロージの結納品も乗っけてあげてるのに……。落っことして行くぞっ!」
思わず笑ってしまう。
ジルの結納品は、それぐらい大きかった。
王都まで、ロージアと柚が前を行き。その後ろを、ジルが大きな台車に、大きな荷物を2つ乗せて引いていた。
「ごめんごめん。」
そう、笑いながら謝るロージアと、
「ごめんなさい。 重いよね? 私も台車引くの手伝うね。」
そう、すまなそうに謝る柚。
ジルは、そんな2人に苦笑いをすると、
「大丈夫だよ、ユズちゃん。 本当は見た目ほど重くないんだ。なんてったって、カーボンで出来てるからさ。 でもちょっと、台車があった方がかっこよく見えるだろ?」
ジルのそんな問いに、2人からの返事はなかった。
「えっ? ダメ? ダメかなあ? 」
3人は、そんな他愛もないやり取りをしながら、王都までの長い道のりを歩いていたのだが、王都へ近づくにつれ、なんだかいつもと様子が違うことに、特にロージアとジルが、警戒し出した。
「ロージ。 この道、こんなに人とすれ違ったか?」
「……いや。 誰にも会わないなんてざらだ。」
2人が言うように、今回は、やたらと人とすれ違った。
この道は、ロージアたちの住む森、もしくは、途中で枝分かれした田舎道だった。
普段なら、利用者はほぼ0に等しい道だった。
「すみません。……えっと、何かあったんですか?」
ジルが痺れを切らし、すれ違う商人の男に声を掛けた。
すると、男はきょろきょろと辺りを見回してから、小声で、
「ここだけの話な、この国はもうおしまいだ。あんたらも、これから王都へ行くなら、引き返した方が身のためだ。」
「え゛っ!?」
思わず、そう叫んでしまったジルを、男は睨み付けると窘めた。
「声が大きい。 ――行けば分かることだから言っておくが、王子が連れさらわれた。」
「え゛――っ!!」
「声が大きい。 ――もうわしは行くから。」
男は、そう言い残し、そそくさとロージアたちの前から立ち去ってしまった。
残された3人は、ハトに豆鉄砲を喰らったかのように、その場に立ち尽くしてしまい、しばらく話しかけることさえできなかった。
「なんだって? どうなってる? 兎に角、王都へ急ごう。」
そう言うジルに、ロージアは、
「いや、もう少し情報が必要かも。」
そう言うと、また王都から来たらしい若い男に声を掛けた。
「王都? 王都は今のところ大丈夫だ。なんでも、隣国の姫との婚約を、王子が破棄した腹いせに、隣国が王宮を乗っ取ったらしくって。けれど、隣国は、王都とは流通があるから、王都は無傷なんだ。けど、オレが奉公に出てた店は、しばらく畳んで、ほとぼりが冷めるまで、店の主人たちは田舎へ引き上げるっていうからさあ、オレもこうして、取りあえず田舎に戻るってわけ。そういう店は結構多いよ。君たちも、王都へ向かうなら、一応用心した方がいい。」
若い男は、そう言うと、立ち去って行った。
「話に少し食い違いがあるな。 ……やっぱり王都に行って確かめる必要があるな。」
「そうだな。」
2人がそう話す中、柚の心臓はドクドクと、嫌な鼓動のリズムを刻んでいた。
王子が連れさらわれたとしたら、巫女はどうなったのか?
王宮が乗っ取られたのなら、巫女はどうなったの?
そもそも、巫女は美耶子なの?
考えれば考えるほど、柚の顔から血の気が引いて行った。
そうして、詳しい事情の分からないまま、それぞれの想いを胸に、3人は王都への道のりを急いだ。
≪1章、柚 ――おわり――≫




