32、望まれない訪問者。
ロージアの結納品が出来上がった。
昨日、ロージアの家に顔を出したジルも、予定通り今日中には出来上がりそうだと言っていたから、明日の朝、また早起きで王都へと向かう。
そう言う予定だった。
しかし、それは予期せぬ訪問者によって、大幅に変更されることになる。
「あれ? お嬢さん。ここはロージアの家で、な違いはないだろうか?」
外で作業に没頭していた柚が、そう問われて顔をあげると、目の前に、薄いブルーの髪をした青年が立っていた。
青年の出立は、白のシルクで出来た、何かの装束。
精鍛な顔立ちに、凛とした佇まいは、柚から見ても、家柄の良さの窺える青年だった。
「はい。 そうですが。」
誰だろう? 柚がそう思いながら答えると、
「ロージアはいますか? いるようでしたら、彼に用事があるのだが。」
「ちょっと待ってってください。」
柚はそう言うと、青年を残し、家へ戻ると、すぐにロージアを連れて出てきた。
「ユリア。」
顔を出すなり、ロージアは青年を確認すると、彼の名を呼んだ。
「ロージア、ちょっと話がある。……あなたにとっては、あまり良い話では、無いのだが。」
ユリアと呼ばれた青年は、そう言いながらちらりと柚を見た。
「ああ、じゃあここへ。」
ロージアは、ユリアをそとのテーブルに通すと、
「ユズは家へ戻っていて。」
そう言って、柚を家へ戻した。
2人は向かい合って、テーブルに着くと、ユリアは、
「さっきの子は?」
それに、ロージアは、一瞬身をビクッとさせたが、
「気にしないでくれ。 彼女は、旅の途中だ。 ―――それより、話って? 」
――うん。――
ユリアは、そう濁したが、ロージアの顔を、すまなそうに見ると、覚悟を決め。
「こないだの結納の儀でな、 ちょっとしたアクシデントがあった。」
「アクシデント?」
――ああ。――
ユリアは、周りをきょろきょろと確認してから、
「ここからは、まだ内密な話だ。――他言無用で頼む。」
それにロージアが、コクンと頷くのを確認すると、
「結納の儀の最中に、伝説の泉に、空から、伝説の巫女が落ちて来たんだ。」
言葉の替りに、ロージアの眉根が寄せられた。
「王子は、巫女と結納の儀を済ませ、巫女との結婚が決まった。
隣国の姫との、婚約は解消された。」
「それって、大丈夫なのか?」
今度は、ユリアが目を伏せると、
「――まあな。うちの国は大きいから、受諾金で手を打ってある。」
「そうかあ。 で、その巫女って、異世界人なのか?」
ロージアは、ユズの友人だろうか? そう思いながら尋ねた。
ユリアは、間を置くと、
「……おそらく。 巫女は、たぶん巫女の装束を身に纏っていた。 少し、船乗りの衣服に似ていただろうか? 黒い長い髪と、長い睫。大人びた美人で、スレンダーなスタイルなのが印象的だった。
残念ながら、胸は小さかったか? ロージアが家に置いている子ぐらい大きければ、王子も更に満足だっただろうが。」
「おいっ!!」
まじめな顔をして真剣にそんなことをいうユリアに、ロージアは、まじめすぎるのもあれだな。と、思った。
「で、ここからが本題だ。」
顔色一つ変えずに、坦々と話を続けるユリアに、ロージアは、なんだかな、と、思う。
「結婚相手が変わったのだ。 しかも、新しいお相手は伝説の巫女だ。申し訳ないが、結納品の内容も変わる。―――すまないが、ロージア、急ピッチで新しく作り直してもらいたい。」
「そう言うことかあ。」
「ああ、すまない。 どこまでできていた?」
そう言って、確認してくるユリアは、まるで怒られた犬のようなしょげ方だと、ロージアは思った。
それに、
「どこまでって、……出来上がったさ。 明日、届けに行く予定だった。」
それを聞いたユリアは、益々申し訳なさそうな顔をして、
「ああ、本当にすまない。 ……ただ、ロージアの作品は、出来上がっているのなら引き取らせてもらう。王子はロージアを贔屓にしているから、そうしろと、王子からの言いつけだ。」
「好きにしたらいいよ。 ……まあ、オレは物好きな王子のおかげで助かってるから。
で? 新しい結納品の納品期限は?」
ロージアのその問いに、ユリアは、更に申し訳なさそうに、
「一週間。」
「はあ?」
ロージアは、一度家の中へ戻ると、木箱に収められたボツになった結納品を抱えて再びユリアの前にやって来た。
「確認するだろ?」
「ああ。」
当然のように問う、ロージアに、ユリアも頷いた。
ぴたりと合わさった木箱の蓋を開けると、その中には、下絵だけでも美しいと、柚の絶賛した装飾の剣が、ユリアの纏う装束のように、白いシルクの布の上に、収まっていた。
その装飾は、目を見張るほどの美しさで、この国の特産の果実や品物などが、繊細に彫り込まれ、シルバーとゴールド色を上品にあしらってあった。
剣自体も、とても鋼には見えない、美しいシルバー色に輝いていた。
ゴクリと、ユリアは唾を飲み込んだ。
「すばらしいです、ロージア。」
「そうか? まあ、ボツだけどな。」
ロージアのすばらしい突っ込みは、ユリアに100のダメージを与えた。
「この後ジルのところだろ? ジルはやさしいから、どんなにユリアが酷いことを言っても、きっと泊めてくれると思うが、万が一、怒って追い出されたら、ここまで戻ってくれば、家は狭いが、泊まらせてやる。」
「あ、……ありがとう。」
そう言うと、ユリアは、力無く、ロージアの家を後にした。




