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第6話 ブドウ畑

 あたたかな光で、目が覚めた。


 時計を見ると、昼前の時刻をさしていた。

 今日から本格的にブドウ畑の手入れを始めるはずだった。


 ――寝坊してしまった。こんなに熟睡したのは何年ぶりだろう。


 昨日は、リーゼさんに屋敷の器具の使い方を教わって、試してみた。


 旅のために着ていた服を洗い、魔法石を使った乾燥機で乾かした。

 旅の汚れがひとまず落ちて、さっぱり眠れた。


 もちろん、風呂にもつかり、たまった疲れを癒すことができたのだった。


 だから、寝心地がよく、昼まで寝てしまった。


 不思議に思ったのは、この世界に、元いた世界と同じようなものがあることだった。


 例えば、この時計、十二時間で針が一回りする。

 ほかにも、見た目がそっくりな乾燥機に、湯沸し器。


 特に気になったのは、紙だった。


 昨日、市場で見つけたペンと紙。ペンは魔法石で字が書けるのだが、紙は、元いた世界の紙に似ていた。

 品質はよくなかったが、それでも字を書くには問題ないほどだった。


 ――日常品は、元いた世界に近いものが多い。元々、この世界で発明されたものなのか、それとも、僕のような異世界人が召喚されてもたらしたものなのか。


 そんなことを考えていると、ブドウ畑を思い出し、僕は布団をはねのけて、起き上がった。


   ◇


 顔を洗って、昨日買ったパンをかじると、僕はペンと紙をもって、ブドウ畑へ向かった。


 日はとうに高く上っていた。


 ブドウ畑は相変わらず、その広さに気後れするが、それと同時に、実家のブドウ畑を思い出し、懐かしく思う。


 まずは、ブドウ畑の状況を細かく知る必要があった。


 紙に畑の図面を描いた。

 畝を描き、そこに一本ごとに木が植えられている箇所に印をつけていく。それから、一本ずつ見て歩いて、細かい状態を書き込んでいくつもりだ。つたない絵しか描けないが、描ければスケッチもするつもりでいた。


 元気な木は、〇。


 少し弱っているものは、△。


 手遅れか、というものには、✕。


 そうして見て回ると、それぞれに、祖父に教えてもらっていた時のことが思い出される。


「ここは、カビに侵され始めているな。早めに切り取ったほうがいいだろう」


 〇が多かったし、✕は見られなかった。


 ――よく手入れがされているよ。ヴィリーさん!


 一本の木の前にくると、思わず手が止まってしまった。

 その古木は、ほかの木とはまるで違った。


 幹は、ごつごつと太く、ねじれて、人の腕ほどもある。樹皮は幾筋にも裂け、苔さえ生していた。


 この畑で一番の古木だった。しかも重症。ため息をつき、紙には、「幹にカビ」と書き、続けて、「クールタージュ」と記載した。


 「クールタージュ」は、ブドウの木の幹の大手術を意味する。

 実家にも古木はあり、祖父や父が行う「クールタージュ」を何度も見ている。

 うまくいけば、何十年も生き続け、毎年最高においしい実を実らせる。


 ――でも失敗すれば……


 ヴィリーさんの顔が浮かんだ。

 丁寧な剪定の数を見れば、ヴィリーさんが、どれほどこの古木を大事にしていたかがわかる。


 ――僕ができることを精一杯するよ。


 もうひとつ、気づいたことがあった。

 それは、このブドウ畑には白系のブドウの木しかないのではないかということ。


 どれも、これも、葉の切れ込みや、つるの伸び方を見るかぎり、赤ワインになるような品種は、見当たらなかった。

 赤系なら、ほんのりとした赤紫色やピンク色の新芽が吹き、白系なら黄緑色になるはず。


 ――新芽がでるころにはわかるだろう……


 それに、品種ごとにまとめられているように植えられてあった。


 ヴィリーさんのこのブドウ畑のこだわりが感じられる。


 ――おいしいワインが作りたかったんだね。ヴィリーさん!


 僕は、ペンを紙の上に置き、ふう、と息をついた。


「さてと。――どれから、手をつけようか」

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