2:小隊軍曹は振り回される①
チップ・ザンダーズは兵士という物を鋳型にはめて出来上がったような人間だ。
新兵として古兵にどやされながら戦場を駆けまわり。古兵となっては新兵を蹴飛ばし下士官に怒鳴られながら生き残り、軍曹となってからは兵を纏めて生き残るために頭を使った。
今では魔導騎兵の操縦適性があったために、再び一兵士に戻って戦う……はずだった。
※ ※ ※ ※ ※
昨日は最悪の日だった。
小隊任務としてよくある山賊退治で小隊長も次席士官も戦死し、隊内で一番上に当たる自分が部隊を纏めざるを得なかったからだ。
今日来る予定の新品少尉も一緒に連れて行けば、まだ何とかなったかもしれない。
最悪、魔導騎兵という盾と囮が一つ増えるだけでも変わることは在るのだから。
点呼の声が響き渡る。
昨日の戦いの後でも課業を止める気はチップにはなかった。
残った兵達の事を考えると本当は休ませてやりたかったが、直属の上司は棺桶ごと蒸し焼きにされた。
そうなれば中隊長もしくは別の士官の指示を仰ぐべきだが、ここは部隊の駐屯地ではなく山賊の被害を訴えていた村だ。
負け戦である以上、兵が村人に情けない姿を見せるわけにもいかない上に下手に規律を緩めれば士気が下がる可能性がある。
その辺りが自分の限界だなとチップは実感している。
念のため援軍の要請を持たせて昨日伝令を行かせた。
ついでに初陣を終えて使えなくなった新兵も同乗させた。
昨日の地獄の後だ。それくらいの情けはまかり通ってもいいだろう。
点呼が終わる。これから課業に入ろうとしたところで遠くから音が響き、大地が揺れるのを感じた。
新品の魔導騎兵が新品少尉と共にやって来たのだ。
整列する兵士を見定めるようにツヴァイ・シュバインヘルトは歩き回り、そして向き直る。
正直、学者か役人の方が似合いそうな男だった。
そんな男が自分達を見据え、やがて口を開いた。
「たった今、着任したツヴァイ・シュバインヘルト少尉だ。昨日は良く生き残ってくれた。雄々しくも戦死なされた小隊長殿の任務は小官が引き継ぐ。安心しろ、悪いようにはしない」
少し見え見えの演技だが、士官として問題ないと軍曹は判定した。
将校として責任を取るという仕事をしてくれるなら、最低ライン。後は兵達が従う何かを持ってくれればいい。
「私はそういう事をする仕事で給料をもらっているからな。君達は軍曹の指示した作業に戻れ。追って命令を下すが……昨日より楽なのは確かだ。解散。軍曹は残れ!」
兵が去り、残るのは少尉と軍曹。
「合格点は貰えるかな?」
笑いながら新品少尉が問うと。
「だめですねシュバインヘルト少尉殿。兵士には威厳をもって接してください」
軍曹は士官学校の助教のように振舞った。
「勘弁してくれ」
ツヴァイが両手を挙げて降参の意を示した。
「まだ着任したばかりだ」
その割には慣れた振る舞いだなと軍曹は考えていた。
少なくとも実戦経験をこなしたような落ち着きがある。
「では、改めて状況を説明してくれ。軍曹。どのようにして負けるに至った」
ツヴァイが報告を促す。
「はい。分かりました」
上司の品評会はまだまだこれからだが軍曹も優先事項を間違えない。
「魔術師です。収束した魔法を打ち込まれて小隊長殿が戦死しました」
「収束指向術式か、うちで働いてほしいものだな」
軍曹の報告に少尉が目を丸くした。
この時代において魔術は著しく発展した。
魔術師も例外ではなく、魔法は魔術という名で術式と学問が研究されるに至り、様々な魔法陣が生まれた。
収束指向術式は近年においてやっと体系化された術式で立体的に魔法陣を描くことで放った魔法力を一点に集中させる方法で、視界内に爆発をもたらす火球魔法もこの術式を通すと魔導騎兵の装甲すら撃ち抜く。
故に魔術師は未だ神秘の領域を保ち、魔導騎兵にとっても脅威となる存在であった。
「魔術師の実力は評価いたしますが、忠誠心に欠けるかと思います」
チップは渋面を隠さない。
「忠誠心の欠如は問題だね……他の士官も魔術師にやられたという事かい?」
「はい、その通りです」
「他に戦死者は?」
ツヴァイの言葉に下士官は少しだけ呼吸を整えた。
「兵、下士官含め五名。魔導騎兵が一人、残りは歩兵です」
報告を受け、士官は頷いた。
「そんな状況で良く生き残ってくれた。おかげで他の兵が死なずに済んだ。感謝する」
新品少尉は少しだけ上司の仕事をした。
「ありがたくあります」
故にチップも兵隊言葉で返した。
少なくとも士官学校の授業が全てと思っている無能ではなさそうだ。
ならば次があっても……生き残れるかもしれない。
気が向きました。
次は下士官視点での物語を書いてます。
続きますので温かい目で見守ってくださると助かります。




